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「1.日本語構文の概観」へ 庭三郎の現代日本語文法概説:補説§1

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[補説§1]

 §1.1 『基礎日本語文法』  §1.2 『現代日本語文法』  §1.3 『日本語文法ハンドブック』  §1.4 『日本語のシンタクスと意味』  §1.5 『日本語の文法(上)』『(下)』  §1.6 『日本語の文法』(高橋太郎)  §1.7 『文法の時間』(村田美穂子編)  §1.8 『日本語運用文法 −文法は表現する−』(阪田雪子編著)  §1.9 『日本語文法』(岩淵匡編著)  §1.10 『日本語類義表現使い分け辞典』(泉原省二)  『概説』を書くに当たって参考にした文法書・論文、その後出版された文法書などを 紹介します。

§1.1 益岡・田窪『基礎日本語文法−改訂版−』

 小さな本ですが、市販されている文法書で構成のしっかりしたものとしてはほとんど 唯一と言っていいものでした。本文225ページで、他に練習問題、索引があります。 文献は各章末尾にあります。(初版本では練習問題・文献はなし。)  ̄弉・田窪『基礎日本語文法−改訂版−』1991 くろしお出版 225ページ   全34章 各章平均7ページ弱    頁  頁数  第吃堯―論:文の組み立て 1-5   5  第局堯仝譟      7-72  65    1章 品詞と語の構造 8- 4 8章 副詞 41- 8 2章 動詞 12- 9 9章 助詞 49- 6 3章 形容詞 21- 4 10章 連体詞 55- 2 4章 判定詞 25- 4 11章 接続詞 57- 3 5章 助動詞 29- 4 12章 感動詞 60- 2 6章 名詞 33- 5 13章 接辞 62- 7 7章 指示詞 38- 3 14章 補説 69-72 3 第敬堯|永 73-179 106 1章 補足語   74- 10 2章 注意すべき構文   84- 10        (存在・所有、授受、感情、対称性、比較、変化) 3章 述語の修飾語  94- 7 4章 ヴォイス   101- 7 5章 テンスとアスペクト 108- 9 6章 ムード(11節) 117- 18 7章 疑問と否定の表現 135- 10 8章 提題と取り立て(9節) 145- 12 9章 名詞句の構造  157- 7 10章 指示   164- 6 11章 省略、繰り返し、語順転換、縮約 170- 5 12章 分化文と未分化文 175- 3 13章 慣用句 178-179 2 第孤堯(J 181-214 33 1章 補足節 182- 6 2章 副詞節(10節) 188- 12 3章 連体節 200- 6 4章 並列節 206- 5 5章 従属節の従属度 211-214 4 第紘堯〃標譴斑暴差   215-225 10 1章 敬語表現の文法 216- 6 2章 ことばの男女差 222-225 4  語論が65ページ(30%)、単文が105(45%強)、複文が33(15%)、敬語などが10(5%) という配分です。  語論(品詞論)から始めるのは伝統的な文法書の書き方ですが、その割合が適当か どうかは「文法」をどう考えるかによります。昔の国文法の概説書はほとんどが品詞論 で、最後に少し「文論」があるというのが一般的でした。  第敬遙仮呂痢崔躇佞垢戮構文」というのは、体系的な文法としては好ましくないま とめ方でしょう。しかし、それではどうするかというと難しいです。  複文が少ないと感じます。あとの寺村と比較して。  この本に対する細かい不満はいろいろありますが、とにかく、現在の日本語文法研究 の中で、文法記述として取り上げるべきことのほとんどがこの本の中に含まれていると 思います。
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§1.2 『現代日本語文法』

 文法の全体的な見通しの一つの例として、くろしおから出版される予定の大きな 記述文法の予定目次を紹介します。1冊約300ページとすれば、全2000ページを超え る文法記述となります。 (この「総目次」は「第4巻 モダリティ」の最後にのせられていたものです) 現代日本語文法総目次 (予定) 第1巻  はじめに −「現代日本語文法」の立場と構成−  第1部 総論  文法とは何か 文の基本構造 文法カテゴリ− 文の成分  第2部 形態論  形態論の概論 品詞 活用 複合と派生  総索引 第2巻  第3部 格と構文  格と構文の概観 さまざまな格 名詞をつなぐ助詞            補助動詞構文 さまざまな構文 あり方の副詞  第4部 ヴォイス  ヴォイスの概観 受身 使役 ヴォイスと構文 第3巻  第5部 アスペクト  アスペクトの概観 スル形とシテイル形 そのほかの形式             アスペクトに関わる副詞的成分 アスペクトから見た動詞の分類  第6部 テンス  テンスの概観 主文末における非過去形・過去形 従属節内での           非過去形・過去形 テンスに関わる副詞的成分  第7部 肯否  肯否の概観 否定の形式 否定の機能 否定の周辺 第4巻  第8部 モダリティ  モダリティの概観 表現類型のモダリティ 評価のモダリティ             認識のモダリティ 説明のモダリティ 伝達のモダリティ 第5巻  第9部 とりたて  とりたての概観 並列を表すとりたて助詞 対比を表すとりたて        助詞 限定を表すとりたて助詞 意外さを表すとりたて助詞 評価を表す        とりたて助詞 ぼかしを表すとりたて助詞 疑問語・数量語のとりたて  第10部 主題  主題の概観 「は」とその周辺 「は」と「が」の使い分け          そのほかの主題の表現 第6巻  第11部 複文  複文の概観 補足節 名詞修飾節 条件節 時間節 目的節 様態節          等位節・並列節 第7巻  第12部 談話  談話の概観 指示 接続表現 応答表現 語順 談話における文法カ          テゴリーの機能 談話の類型  第13部 待遇表現  待遇表現の概観 敬語 丁寧さ 待遇的意味の現れ方 待遇表現          の運用 ◇「複文」が第6巻の1冊だけで、全体から見て少し量が少ないかな、と思いますが、  それ以外は十分な分量です。07年6月現在、第4巻の「モダリティ」しか出版され  ていません。どんどん続けて出してくれるとうれしいのですが。 ◇その後は順調に出て、09年11月現在、以下の6冊が出ていることになります。      現代日本語文法2 第3部 格と構文  第4部 ヴォイス      2009.11    現代日本語文法3 第5部 アスペクト 第6部 テンス 第7部 肯否 2007.11    現代日本語文法4 第8部 モダリティ               2003.11    現代日本語文法5 第9部 とりたて  第10部 主題        2009.6    現代日本語文法6 第11部 複文                  2008.6    現代日本語文法7 第12部 談話    第13部 待遇表現        「3 アスペクト」の紹介は、「補説§24」の§24.6に少し書きました。  「4 モダリティ」の紹介は、「補説§30」の§30.1に少し書きました。  「6 複文」の紹介は、「補説§45」の§45.3に少し書きました。 「2 格と構文 ヴォイス」の目次を下に書いておきます。 『現代日本語文法2 第3章格と構文 第4章ヴォイス』2009 くろしお出版  第3部 格と構文   第1章 格と構文の概観           3    第1節 格            3    第2節 文型            12         文型とは 動詞の文型 形容詞の文型    第3節 自動詞・他動詞            22   第2章 さまざまな格 29    第1節 主体を表す格 29    第2節 対象を表す格 39    第3節 相手を表す格 46    第4節 場所を表す格 51    第5節 着点を表す格 56    第6節 起点を表す格 63    第7節 経過域を表す格 68    第8節 手段を表す格 71    第9節 起因・根拠を表す格 79    第10節 時を表す格 85    第11節 そのほかの格 89   限界・領域・目的・様態・役割・割合・対応・内容   第3章 名詞をつなぐ助詞 107    第1節 連体助詞 107    第2節 並列助詞 112   第4章 補助動詞構文 121    第1節 補助動詞構文とは 121    第2節 「てある」 122    第3節 「てあげる」「てくれる」「てもらう」 126    第4節 「てくる」「ていく」 130    第5節 「てしまう」 133    第6節 「てみる」 137    第7節 「てみせる」 139    第8節 「ておく」 140   第5章 さまざまな構文 143    第1節 さまざまな構文とは 143    第2節 難易構文 144    第3節 比較・程度構文 151    第4節 認識動詞構文 161    第5節 変化構文 164    第6節 所在構文 172    第7節 付帯状況構文 175    第8節 数量構文 180   第6章 あり方の副詞的成分 191    第1節 あり方の副詞的成分とは 191    第2節 様態を表す副詞的成分 192    第3節 結果を表す副詞的成分 195    第4節 程度を表す副詞的成分 197    第5節 量を表す副詞的成分 203  第4部 ヴォイス   第1章 ヴォイスの概観 207    第1節 ヴォイスとは 207    第2節 ヴォイスの分類 209   第2章 受身 213    第1節 受身とは 213    第2節 受身文のタイプ 215    第3節 直接受け身文 218    第4節 間接受身文 236    第5節 持ち主の受身文 242    第6節 使役受身文 245    第7節 受身に関連する表現 252   第3章 使役 257    第1節 使役とは 257    第2節 使役文のタイプ 261    第3節 被使役者の表し方 270    第4節 使役と他動詞 273   第4章 ヴォイスと関連する構文 277    第1節 可能構文 277    第2節 自発構文 283    第3節 相互構文 288    第4節 再帰構文 295 ▽「さまざまな構文」というのは、それぞれ位置づけを考えられないものでしょうか。  「構文の体系」というものは、できないのでしょうか。(もちろん、我が「概説」も  かなりいいかげんなものですが。) 主要目次へ

§1.3『日本語文法ハンドブック』

(正確には「初級を教える人のための〜」)  「初級」と「中上級」の2冊で、あわせて1000ページという日本語教育のための 文法書で、まさに待ち望んでいた本です。この本が10年前にあったら、私は『概説』 を書こうなどとは思わなかっただろうと思います。  細かいコメントを書き出すと長くなります。目次だけを紹介しておきます。  (下に少しずつ内容紹介を書き始めました。) 初級編(2000) page 第吃 02 §1 指示詞・疑問詞(コソアド) 16 §2 格助詞 28 §3 名詞と名詞を結ぶ助詞−並列助詞と「の」− 34 §4 存在・所有を表す表現 40 §5 時間を表す表現(1)−テンス・完了− 54 §6 時間を表す表現(2)−アスペクト− 72 §7 変化を表す表現 80 §8 可能を表す表現 90 §9 引用 96 §10 自動詞と他動詞 106 §11 授受の表現−あげる・くれる・もらう− 116 §12 〜ていく・〜てくる 122 §13 話し手の気持ちを表す表現(1)−判断− 136 §14 話し手の気持ちを表す表現(2)−意志・願望− 146 §15 話し手の気持ちを表す表現(3)−命令・依頼・勧誘− 156 §16 話し手の気持ちを表す表現(4)−義務・勧め・許可・禁止など− 164 §17 話し手の気持ちを表す表現(5)−終助詞− 170 §18 比較 176 §19 埋め込み表現 こと・の・か・かどうか 182 §20 名詞修飾 内の関係・外の関係 190 §21 複文と接続詞(1)−「〜て」・付帯状況・並列などの表現− ナイデ・ズニ・ナガラ・タママ・タリ・シ・ソレニ 200 §22 複文と接続詞(2)−時間− トキ・テ・テカラ・アトデ・マエニ・マデニ・アイダニ・ウチニ・ソシテ・ソレカラ 210 §23 複文と接続詞(3)−理由・目的− カラ・ノデ・タメニ・ニ・ノニ・ヨウニ・ダカラ・ソレデ・ソノタメニ 220 §24 複文と接続詞(4)−条件− と・ば・たら・なら・スルト・ソレナラ・ソレデハ・デハ 230 §25 複文と接続詞(5)−逆接− テモ・ノニ・ケレドモ・ガ・ソレナノニ・シカシ・トコロガ 240 §26 とりたて助詞 も・だけ・しか〜ない・ばかり 254 §27 「は」と「が」 270 §28 関連付け 280 §29 疑問文の種類と文末形式 292 §30 立場を表す表現−ヴォイス(受身・使役・使役受身)− 304 §31 その他の構文 ハ−ガ構文、強調構文、〜のは・・からだ、〜やすい 314 §32 敬語 324 §33 文体 330 §34 語順・省略 第局 340 §35 品詞 動詞・名詞・形容詞・副詞・接続詞・助詞・         その他(数量詞・連体詞・コソアド・感動詞) 349 §36 活用 356 §37 名詞(文) 364 §38 動詞 371 §39 形容詞 378 §40 副詞 386 §41 数量詞 396 §42 接辞 〜らしい・っぽい・中(チュウ・ジュウ)・方(カタ)・A+さ・〜マル・メル (以上のほかに、1〜2ページの「コラム」がいくつかあります。) 中上級(2001) 02 §1 指示詞 14 §2 格助詞(1)−対象− 22 §3 格助詞(2)−手段、原因、根拠、情報源− 30 §4 格助詞(3)−状況− 44 §5 格助詞(4)−その他の形式と一般的な特徴− 56 §6 並列助詞 68 §7 時間を表す表現(1)−テンス− 82 §8 時間を表す表現(2)−アスペクト− 102 §9 立場を表す表現(1)−直接受身文・「YはXがV」型構文・相互文− 116 §10 立場を表す表現(2)−間接的な影響を表す表現− 126 §11 立場を表す表現(3)−使役文・使役受身文など− 144 §12 自動詞と他動詞 160 §13 授受の表現 174 §14 可能と難易の表現 188 §15 引用表現 198 §16 比較の表現 206 §17 話し手の気持ちを表す表現(1)−判断− 220 §18 話し手の気持ちを表す表現(2)−義務・勧め・許可・禁止など− 232 §19 話し手の気持ちを表す表現(3)−意志− 242 §20 話し手の気持ちを表す表現(4)−感嘆・詠嘆、感情の強調など− 252 §21 話し手の気持ちを表す表現(5)−疑い、確認− 272 §22 話し手の気持ちを表す表現(6)−終助詞− 282 §23 関連付け 300 §24 否定と疑問の表現 314 §25 「は」と「が」 330 §26 とりたて(1)−主題・対比− 340 §27 とりたて(2)−限定、付け加え、数量の見積もり− 358 §28 とりたて(3)−評価− 384 §29 名詞修飾表現 398 §30 複文(1)−条件− 412 §31 複文(2)−理由・目的− 424 §32 複文(3)−逆接・対比− 438 §33 複文(4)−「〜て」・ 付帯状況・相関関係− 450 §34 複文(5)−時間− 462 §35 接続詞 482 §36 待遇表現 496 §37 話しことばにかかわる表現形式 502 §38 文体 510 §39 省略 514 §40 名詞・代名詞 526 §41 接辞 546 §42 漢語 558 §43 文法と音声の関係 (以上のほかに、1〜2ページの「コラム」がいくつかあります。) ▽少しずつ内容紹介をします。  この本の最初の章は、「§1.指示詞・疑問詞(コソアド)」ですが、これら をそれぞれ一つの品詞とするのがいいかどうかは疑問です。  下に引用するように、「コソアド」としてまとめようという考えのようですが、 それも無理があります。  「§1.指示詞・疑問詞(コソアド)」p.2では、    話の現場にあるものを指すときなどに、その名前の代わりに使われるのが   指示詞です。指示詞にはコソアで始まる規則的な体系があります。一方、指   すものがわからないときには疑問詞を使います。疑問詞は基本的にはドで始   まります。これらは意味的にも形式的にも一つの体系を作っているので、品   詞と無関係にコソアドとして一括して扱うのが一般的です。 と述べていますが、これは少し乱暴です。「疑問詞」には「なに」や「いつ」な どがあり、これらはどう考えても「コソアド」ではありません。  わたしも、日本語教育では品詞をうるさく言う必要はまったくないと思います が、いちおうの分類にせよ、ある程度すじの通ったものでなければならないと思 います。  「指示詞・疑問詞」や「コソアド」は、品詞ではなく、名詞・連体詞・副詞な どいくつかの品詞にまたがった、ある種の機能を持った語のグループと考えたほ うがいいと思うので、「概説」本文では「指示語・疑問語」としました。  ついでに、後のほうの「品詞」のところを。
◇品詞について
 「§35.品詞」p.340に「日本語教育で一般に使われている品詞」として、   動詞  名詞  イ形容詞  ナ形容詞  副詞  接続詞  助詞 をあげています。そして、   語としても限られている<感動詞>と<連体詞>という品詞名はあまり使わ   れず、(略) としています。ここまでは異論がありませんが、それに続けて次のように述べて いますが、これはよくないと思います。   (略)<助動詞>は普通、動詞の活用として扱われます。 これはおそらく、「た」「ない」「れる・られる」などを頭においていたのだろ うと思いますが、「助動詞」には、「ようだ」「らしい」「そうだ」(様子・伝聞) などもあるので、これらを「活用」とするのは無理です。
◇格助詞
 次は、「§2.格助詞」から。  日本語には「が、を、に、へ、と、から、より、まで、で」という九つの格助 詞があります。このうち、「が」と「を」(および「に」と「と」の一部)は述 語の意味によってさまざまな役割で使われます。(中略)  一方、その他の格助詞は、動詞によって意味が変わるというよりも、前に来る 名詞によって意味が変わるという性質を持っています。「〜で人形を作る」と言 っても「〜」に「教室」が来るのと「紙」が来るのと「一人」が来るのとでは「 で」の意味は違っています。  日本語教育では、「が」と「を」(および「に」と「と」)は動詞と組み合わ せて文型の中で扱い、その他は意味を中心に考えます。                           (p.16)   ▽このへんの導入部分は、難しい問題をさらっと述べていて、うまいなあと    思います。「が」「を」は「文型」という枠の中で、構文に密着した要素    と考えられます。その他の格は、「意味的」なものです。    なお、日本人用の学校文法では「の」が格助詞に入れられていますが、     ここでは動詞と名詞(+格助詞)の関係として「格」をとらえているので、    名詞と名詞の関係を表す「の」は格助詞としません。    次は、「名詞+格助詞」が「必須」の成分かどうかという問題です。
1.文型で用いられる格
  (1) 父は結婚記念日にレストランで母に指輪を贈りました。  (例文、解説を少し省略)  動詞文には様々な格が含まれます。このような格の中には必ず必要であるもの と出来事に対し状況的な説明を補足的に加えるものとがあります。  必ず必要な格とは(1)の「父が」「母に」「指輪を」のようなものです。(1)で 「父は」を言わないで「母に指輪を贈りました。」と言ったのでは、だれが贈っ たのかそれだけではわかりません。同様に「母に」や「指輪を」も出来事を成り 立たせるために必ず必要です。このような(1)のガ格・ヲ格・ニ格は項や必須成分 などと呼ばれます。                            (p.17)   ▽「必須成分」あるいは「必須補語」という言い方がよくされます。「項」    というのは、言語学の理論的な文法で使われます。    ただ、実際に「必須」か、あるいはその反対概念である「随意(補語)」で    あるかの判断はかなり難しいもので、『ハンドブック』も次のように書い    ています。  どのような基準で「必ず必要である」とするかは議論の分かれるところです。 英文法でなじみのある主語や直接目的語、間接目的語にほぼ相当する日本語のガ 格、ヲ格、ニ格が(動詞によりますが)必須のものである点は異論がないでしょう。 しかし、「〜に入る」のニ格や「〜から出る」のカラ格は到着点やでどころを 表しているという点で次の2で述べる「意味に重点が置かれる格」に近い性質を 持っており、「必ず必要である」という意味は主語や目的語(ここでいう対象)を 表すガ・ヲ・ニなどの格とは必ずしも同じではありません。さらに「買う」は 「〜が〜を買う」ですが、動詞が意味的に必要とするのであれば買うためには必ず 値段が必要ですから「(値段)で」も「必ず必要な」格であると主張する立場もあ ります。  ここでは日本語教育で文型として取り上げられるものに限って「必ず必要であ る」格として取り上げました。                            (p.19) ▽ちょっと脱線しますが、「必ず必要」というのは、表現としてどうでしょうか。  「馬から落馬」風の表現に感じてしまうのは、私の感覚が古いのでしょうか。  さて、次は「意味」に重点がある格です。  
2.意味に重点が置かれる格
 ▽例文と初めの方の解説は省略します。次のカッコの中は原文です。  (注意したい似た意味の表現のところで、「=に2」は「に」の2の用法と意味が同 じで置き換えも可能なことを、「△から2」は、「から」の2の用法と一部置き換え可 能なことを、「×に1」は「に」の1の用法と似ているが置き換え不可能なことを表し ます。また「* 」は中上級編の項目を示します。)       意味     前に来る名詞      例         似た表現  を 1通過する場所  場所       橋を渡る・公園を走る    △で1    2経過する時間*  期間       夏休みをハワイで過ごす    3離れる対象   場所・乗り物   港を離れる・バスを降りる  △から1    4動作の方向*   方向・〜の方   下を向く・彼の方を見る  に 1存在場所    場所       図書館に新聞がある     ×で1    2到着点     場所・〜のところ イタリアに行く       △まで                       私のところに来てください      3受け手     人        妹に本をあげる     4変化結果    状態       信号が赤に変わる    5移動の方向   場所・〜の方   大阪に向かう・私の方に来る    6出どころ    人        父に本をもらう・先生に聞く △から1    7時間      時間       5時に起きる      8割合の分母*   期間・量     3日に1度・50人に1人  へ 1到着点     場所       京都へ5時に着く      =に2    2方向      場所・〜の方   大阪へ向かう・私の方へ来る  で 1場所      場所       図書館で勉強する      ×に1    2材料      材料       紙で人形を作る       △から2    3手段・道具   道具       パソコンで書類を作る       4原因・理由   出来事      大雪で電車が止まる    5範囲      期間       1日で仕事を終える    6まとまり    量        一人で夕食を食べる    7内容*      内容(〜のこと) 進学のことで先生に相談する   と 1共同動作の相手 人        田中さんと映画を見に行った    2異同の対象   人・物      本物と似ている・実物と異なる  から 1起点    場所・時間・人  家から駅まで歩く・家から出る △を3                     朝から晩まで働く                     その話は田中さんから聞いた  △に6     2材料     材料      ワインはぶどうから作られる  △で2     3変化前状態  状態      信号が赤から青に変わる     4判断の根拠*  判断材料    調査結果から考えると…     5遠因*     出来事     火の不始末から火事になる   △で4  より 比較の対象           大阪は名古屋より大きい  まで 着点      場所・時間    家から学校まで歩く     △に2                      朝から晩まで働く                                (p.20-21) (つづく)   主要目次へ

§1.4『日本語のシンタクスと意味』

この本は、言うまでもなく、日本語の実用的なシンタクス(文法)として最高の本です。   寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味機櫚掘戮ろしお出版 1982,1984,1991  著者の死によって『日本語のシンタクスと意味』は未完となってしまいましたが、単 文編の構成はだいたい示されています。  寺村は当初、全4巻の予定であると書いています。単文編2巻、複文編2巻の予定だ ったのでしょうか。(あるいは、単文編3巻、複文編1巻という可能性もある?)  遺著である『掘戮諒埆玄圓△箸きで、編集者の仁田義雄は、単文編3巻、複文編2 巻になるはずだった、と書いています。実際には第3巻でも単文が終わっていません。 副詞は当然ある程度長く記述されるはずですし、ムードのかなりの部分や終助詞も残さ れています。意志・命令などのムードはどこでどう扱う予定だったのでしょうか。  それにしても、初めから複文を全体の半分(かりに単文編が4巻になったとしても3 分の1にはなります)とする予定であったということは驚きです。 『日本語のシンタクスと意味機1982   313ページ   序章                       11−35   25  第一部 単文    第1章 文の基本的構成              39−75   37   第2章 コトの類型                79−201  123    はじめに      動的事象の描写      感情表現      存在の表現      性状規定      判断措定      コトを含むコト      一項述語とゼロ項述語      副次補語      複合述語の問題−述語の中への格の埋没      表層における助詞の再調整      残る問題   第3章 態−格の移動と述語の形態との相関     205−321  117       ヴォイス一般と日本語の態(ヴォイス)の体系      受動態      可能態      自発態      使役態      動詞の自他      まとめ 『日本語のシンタクスと意味供1984   303ページ(付録を除く)   第4章 活用                   11−62   52      はじめに      構文要素としての活用      活用の形態的体系      各活用形の用法とムード(展望)   第5章 確言の文                 65−216  152      確言のムード      時間と無関係な確言的陳述      陳述の時制−テンス      動的事象の諸相−アスペクト      従属節のテンス、アスペクト   第6章 概言の文と説明の文−二次的ムードの助動詞 219−311 93      二次的ムードの助動詞      概言のムード      説明のムード   付録 'タ’の意味と機能              313-358 45 『日本語のシンタクスと意味掘1991   292ぺーシ゛ 第7章 取り立て−係りと結びのムード      3−189  187       取り立て総説      各論   第8章 構文要素の結合と拡大−連用と連体   193−292  100       序      要素の並立的結合      要素の主従的結合      呼応        添加 品詞論は第1章で多少論じられますが、そこにはそれぞれの記述はほとんどありません。  第2章の補語の型、第3章のヴォイス、第5章のテンス・アスペクトが大きく取り扱 われるのはわかりますが、第7章の取り立て助詞がいちばん詳しく記述されているのは 意外です。これはおそらく当初からの予定ではなく、80年代と90年代で記述の詳し さが違ってきたということでしょう。言い換えれば、90年代に『機戞忰供戮鮟颪い としたら、もっと長いものになっていただろう、ということです。  第8章は未完です。陳述・評価・注釈の副詞などが扱われる予定でしたが、それらは またある程度のページ数を必要としたでしょう。  この本については、またいつか、もっと長く書いてみるつもりです。 「まえがきへの補説」に少し書きました。→こちらのB.です。  そして、「4.動詞文」の補説に、文型表があります。→こちら

§1.5 『日本語の文法(上)』『日本語の文法(下)』

 次の本は、寺村が国研の「日本語教育指導参考書」シリーズの一冊として文法の解説書を 依頼され、執筆したものです。 『(上)』は単文編で、『(下)』は複文編です。どちらも、基本的なことをを一通り扱っています。 上が約100ページ、下が約200ページです。  下は、『シンタクスと意味』の複文編がついに書かれなかったことを考えると、非常に貴重な 一冊となりました。 私の考えでは、いまだにこの本を越えるような複文の文法書は出ていないと思います。   『日本語の文法(上)』1978(日本語教育指導参考書4)国立国語研究所  「1.はじめに 日本語のきまりと仕組み」  1 page  「2.文の構成要素とその種類分け」 15  「3.「こと」の類型 述語の種類とその補語との結びつき」 23  「4.「主語」「主格」「主題」」   49  「5.述語の活用」 61  「6.テンス・アスペクト」      72  「7.態(ヴォイス)格と動詞の形との相関」 85  「8.心的態度(ムード)の表現」 97  「9.おわりに」     102  ページ数の制限と、おそらくは寺村自身の研究の不十分さということもあった のかもしれませんが、ムードの取り扱いがもの足りません。 『日本語の文法(下)』(日本語教育指導参考書5)国立国語研究所  「10. 複文の類型」 1  「11. 並列的接続」     21  「12. 理由・原因」 40  「13. 時の特定」      50  「14. 条件の表現」     65  「15. 連体修飾 その1」 80  「16. 連体修飾 その2」     91  「17. 連体修飾 その3」 106  「18. 被修飾名詞の形式化」   120   「19. 文の名詞化および引用」  134(-149)  寺村がくわしく研究した連体修飾が大きく取り扱われています。  日本語教育の初中級で扱われるような複文の文型で、この本にないものとしては「目的」 をあらわす文型(タメニ・ノニ・ヨウニ)、それに「程度」(ホド・グライ)、「比較」 (ホウガ・ヨリ)などです。  しかし、そういうことはあえて言えば、というだけであって、とにかく、すばらしい 本です。

§1.6 『日本語の文法』(高橋太郎)

高橋太郎他(言語学研究会)の文法書を紹介します。 文法を(日本人に)教えるためのテキストですが、文法書としての体系をしっかり持っています。 品詞論を重視し、特に動詞の扱いが大きいのが特徴です。 高橋の専門分野である動詞のテンス・アスペクトなどがくわしく、細かい観察が非常に 優れています。  複文は全体の10%以下で、扱いは小さいです。  高橋太郎他『日本語の文法』ひつじ書房 2005   ページ 第1章 文法とは何か 1 第2章 文のくみたて 7 第3章 名詞(1) 名詞とは 25 第4章 名詞(2) 格 33 第5章 名詞(3) 特殊な名詞 51 第6章 動詞(1) 動詞とは 59 第7章 動詞(2) ヴォイス 71 第8章 動詞(3) テンスとアスペクト 79 第9章 動詞(4) いろいろなカテゴリーの動詞 97 第10章 動詞(5) 動詞が文の述語でなくなるとき 123 第11章 形容詞 137 第12章 副詞 151 第13章 陳述副詞 157 第14章 接続詞 163 第15章 感動詞 173 第16章 補助的な品詞 181 第17章 品詞 189 第18章 文の部分のとりたて 199 第19章 文と陳述−述語の形式− 215 第20章 終助辞 237 第21章 あわせ文(複合文)(1) 重文と複文 251 第22章 あわせ文(複合文)(2) 条件節、ふたまた述語文 263 第23章 文法的なカテゴリーと文法的なてつづき 275(-285) ▽初めの2ページを引用して、私の反論を書いてみます。  こういう基本的な問題をきちんと書いてくれると、それに対する自分の反応を振り返 ることで、自分がどう考えているのかがわかります。 高橋太郎『日本語の文法』から    われわれは、いろいろなできごとやありさま、また、きもちやかんがえをことば   によって、ひとにつたえる。ことばは、時間のながれにそってつらなる音声のまと   まりでできているのだが、この音声のつながりは、文と単語という2種類の基本的   な単位によってくぎられている。                                (p.1) ▽この部分は、基本的に賛成。  (初めの文はすべてひらがな!)   問題1 つぎの絵は、どちらも、ふたつにわけられないのに、文はふたつにわけら     れる理由をかんがえてみよ。       (絵は省略)        (絵は省略)        イヌがはしる。      ボールはまるい。      ものの側面:イヌ     ものの側面:ボール      運動の側面:ハシル    性質の側面:マルイ    できごと、ありさまなど(現実)・・・・・・・・・・・・・・・・・・文であらわす。    もの、運動、性質、ようすなど(現実の断片)・・・・・・単語であらわす。                                (p.1) ▽ここには、いろいろと(無意識の)ごまかしがあると思う。  犬の絵と、「犬が走る」という文は、そもそも対応していない。それを、さも対応し たものであるかのように比べるのは、ごまかしである。  まず、犬の絵は「犬が走る(あるいは「走っている」)」ところを表した絵ではな い。犬が後ろ脚をあげて静止している絵である。それを「走る(走っている)」と見る のは、一つの約束事にすぎない。  「犬が走る」に対応する現実は、走り始めから走り終わるまでの一続きの運動か、そ の中のある短い時間の動きか、である。どちらにせよ、絵に表せるような瞬間からすれ ば(絵は瞬間しか表せない)、無限の部分から成り立っている。それを一枚の絵で示す のは、絵画表現の約束事を我々が受け入れているにすぎない。絵には時間は存在しない。  以上のことは、一つの約束事として目をつぶるとしても、次に問題となるのは、なぜ 「犬の絵」と、「犬が走る」という「文」とを対応させるのか、という点である。対応 させるべき「ことば」(言語表現)は、「走る犬(走っている犬)」であってもいいは ずである。そして、「走る犬」も「ふたつにわけられる」。  ここで、叙述と連体(nexus と junction?)の違いとは何かについて悩むべきなのだ ろう。上の(問題1)は、その根本的な問題を回避している。  連体に対する叙述とは、いわゆる「陳述」の力がある、ということなのだろう。文と しての「言い切り」のムードがあるということ。        現実のできごとやありさまはひとまとまりのものであるが、人間の言語では、そ   の現実からもの、運動、性質などの側面をひっぱりだして単語であらわし、その単   語をくみあわせて文にしてあらわすのである。つまり、ひとつのまとまりである現   実のできごとやありさまを、分析と総合の過程をとおしてあらわすのである。                                (p.1-2) ▽「犬が走る」という現実に対するわれわれの認識は、確かにその全体をひとまとまり のものとして認めるという面もあるかもしれないが、その中で、動かぬ風景の中から動 く犬を取り出し、また、動きを動きとして認識している。つまり、認識の段階ですでに 多くの分析が行われているのである。  上の引用部分は、現実は分析されていないような書き方をしているが、そうではある まい。    文と単語というふたつの単位が分化しているおかげで、わたしたちはいろんな現   実をあらわしわけることができる。つまり、文と単語の分化によって、言語は有限   の単語によって無限にちかいさまざまの現実をあらわしわけることができるのであ   る。もし、このことがなかったら、さまざまな現実のできごとやありさまのかずだ   け、記号が必要になるはずである。            はしる   とぶ   なく   ・・・・・・       いぬ       さる       きじ        :        :     2×2=4、10×10=100、100×100=10000、etc.                              (p.2) ▽しかし、これは正しくない。  二つの要素の組み合わせによって、現実の多様性に見合うような多数の言語形式を生 み出すだけなら、複合語を作ればいいだけである。            はしる   とぶ   なく   ・・・・・・       いぬ  イヌハシリ   イヌトヒ゛   イヌナキ        さる   サルハシリ       きじ   キシ゛ハシリ        :        :  このような方式でも、「100×100=10000」やそれ以上の数の単語(記号)をかんたん に作ることができる。  言語の、あるいは文の「無限性」とは上の表のようなことではない。               文は、単語をくみあわせてくみたてられることによって、場面からの独立が可能   になる。1語だけの文では、めのまえにないできごとやありさまをのべることがで   きないが、2語の文になると、それが可能になる。      バス!   きた!    バスがきた。    このことによって、言語は、過去のことでも未来のことでも、また、確かなこと   でも不確かなことでも、あらわすことができるようになった。そのため、そういう   ことをあらわしわけることが必要になった。つまり、文の、場面からの独立は、あ   らためて、文のあらわすことがらが現実とどうかかわるかをあらわす手段を、文に   要求したのである。                              (p.2) ▽これも正しくない。  「場面からの独立」ということの意味が問題となる。  単に、「その場、そのとき」を離れるというだけなら、    (部屋に入ってきた人が、部屋にいた人に)    「来た?」    「うん、来た。」 ということは可能であり、この「来た」は過去のことである。  「バスが来た」は、文脈を離れても意味を持ちえるが、それは上の「場面からの独立」 ということとは違うだろう。「バスが来た」が、次の日に別の場所で言っても、同じ事 実(そのバスが、その場所に来たこと)をあらわすことができる、ということだろう。  それならば、文脈があれば「来た」だけでも、その場でなく、そのときでない事柄を あらわすことができるのである。  これは省略文であり、いわゆる「1語文」ではないが、上の引用では「1語だけの文」 とあり、術語としての特別の意味は持たされていない。  文脈なしでも、述語文が「言葉通りの意味」を持つということは、また別の問題である。

§1.7 『文法の時間』(村田美穂子編)

最近出た文法書を紹介します。これも記述文法書ではなく、文法を教えるためのテキストです。 『文法の時間』村田美穂子編  至文堂 2005   (執筆者:村田美穂子・光信仁美・佐藤雄一・梅林博人・佐藤尚子) 第一部 しくみを学ぶ 村田 第1回 単語から文へ 光信 第2回 動詞 禪豬繊 光信 第3回 動詞◆禺鑪燹 光信 第4回 動詞<動詞と格> 光信 第5回 動詞ぁ礇凜イス> 光信 第6回 動詞ァ礇謄鵐后Ε▲好撻ト> 光信 第7回 形容詞 禺鑪燹 佐藤雄 第8回 形容詞◆稙団А 佐藤雄 第9回 補助的な用言 光信 第10回 助詞 村田 第11回 名詞 禺汰> 村田 第12回 名詞◆齋措位昌譴判狢僚詞> 村田 第13回 名詞と助詞 秣衞棔Ψ現詞> 村田 第14回 名詞と助詞◆稾昌譴粒福 村田 第15回 副詞 梅林 第二部 はたらきを学ぶ 第16回 品詞の枠を越えて 佐藤尚 第17回 こ・そ・あ 梅林 第18回 「だ」「です」「である」・「のだ」「のである」 村田 第19回 連用形の三つのはたらき 村田 第20回 節 秉沼粟瓠 村田・佐藤雄 第21回 節◆秬瓠κ検κ絃蓮 村田・佐藤雄 第22回 「過去・現在・未来」と完了 村田・佐藤尚 第23回 疑問と肯定・否定・逆接 村田 第24回 モダリティ 梅林 第25回 待遇表現 秣嵯匹噺譲> 光信・佐藤尚 第26回 待遇表現◆祺厳叩η枸検 佐藤尚 第27回 文法研究と日本語教育 梅林・佐藤尚 参考(庫仝Φ羯法丙監M此法´◆屬蓮廚函屬」の研究史(村田)  資料 屮皀瀬螢謄」は何をあらわすか ◆屮皀瀬螢謄」と形式名詞(佐藤尚) 対照表 悗澆鵑覆瞭本語 初級機Ν供 ◆Situational Functional Japanese』(佐藤尚) 「コラム」40項目 細かく見ていくと、いろいろと面白そうなテキストです。いわゆる「言語学研究会」(奥田 靖雄を中心としたグループ)の考え方にたっています。 「第27回」および付録の「対照表」を見てもわかるように、日本語教育のことを意識した文 法書のようです。

§1.8 『日本語運用文法 −文法は表現する−』

 日本人に文法を教えるためのテキストです。 『日本語運用文法 −文法は表現する−』阪田雪子編著 新屋映子 守屋三千代著  2003 第1課 イントロダクション 第2課 文の構造 第3課 品詞と語形 第4課 主題 第5課 名詞文 第6課 形容詞文 第7課 動詞文 第8課 分裂文 第9課 ルとテとタ 第10課 スルとナル 第11課 可能 第12課 ラレルとサセル 第13課 授受 第14課 否定 第15課 文末の形式 第16課 連用と連体 第17課 視点 第18課 配慮表現−1 第19課 配慮表現−2 第20課 日本語らしさ 執筆担当 阪田 「日本語教育の視点から」、第20課 新屋 第2、3、4、5、6、7、8、12、14、15、16課 守屋 第1、9、10、11、13、17、18、19課 日本語教育の観点を重視しています。なぜか分裂文が大きな扱いを受けています。  複文が扱われていないのは残念です。

§1.9 『日本語文法』岩淵匡編著 

これも同じような文法のテキストです。 『日本語文法』岩淵匡編著 白帝社 2000 第1章 序説  第2章 文の構造と種類 第3章 格 第4章 連用修飾 第5章 連体修飾 第6章 活用 第7章 ヴォイス 第8章 テンス・アスペクト 第9章 モダリティ 第10章 「は」・主題・とりたて 3章以降、「第1節 現代語の格」「第2節 古典語の格」という形で、現代語と 古典語を対にして述べていくのが大きな特徴です。これが「日本語の文法」の正統的 な書き方だとは思うのですが、執筆者の側の問題として、同じような問題意識で書け るかどうか、何を述べようとするのか、が難しいと思われます。また、読者がこのよ うなテキストに何を求めているのか、も問題です。しかし、貴重な一冊です。 執筆者  第1章 岩淵  第2章 松木正恵  第3章 森野崇 守屋三千代  第4章 森野崇 守屋三千代  第5章 松木 森野  第6章 蒲谷宏 森野  第7章 蒲谷 森野  第8章 蒲谷 森野  第9章 松木 森野  第10章 森野

§1.10 『日本語類義表現使い分け辞典』

大きな本が出ました。「大きな」というのは形でなく、仕事量としてです。  本文が1100ページあまり。1ページが39字×40行ほどで、細かい字でぎっしり詰まった感じです。  とりあえず、大まかな紹介として目次の一部を写します。  (「目次」の次の「見出し一覧」を参考にして文型の例を入れました) 泉原省二『日本類義表現使い分け辞典』研究社 2007                                   ページ  第1章 主題   1.1 主題/提題  〜は・〜が                    2   1.2 主題/テーマ  〜について・〜に関して            67   1.3 主題/例示  〜といい〜といい・〜といわず〜といわず 73   1.4 主題/立場  〜にすれば・〜とすれば 113   1.5 主題/展開  〜といえば・〜というと 134   1.6 主題/対比  〜に対して・〜にひきかえ 140   1.7 主題/累加  〜だけでなく・〜はもちろん 149  第2章 時の表現   2.1 時の表現/基準時未実現  〜まえに・〜までに・〜まで 161   2.2 時の表現/基準時直前   〜にあたって・〜に際して 183   2.3 時の表現/基準時同時間帯 〜ながら・〜つつ  189   2.4 時の表現/時間範囲    〜あいだに・〜うちに 205   2.5 時の表現/基準時瞬間   〜とたん・〜やいなや 218   2.6 時の表現/基準時直前直後 〜たところだ・〜たばかりだ/                   −るところだ・−るばかりだ   227   2.7 時の表現/基準時以前既実現  〜たあと・〜てから 247   2.8 時の表現/基準時以前既実現/経験と習慣 258              〜たことがある・〜ている・〜たものだ   2.9 時の表現/基準時以前既実現/モーダス表現 〜ている・〜てある 268  第3章 順接確定条件 3.1 順接確定条件/原因と理由  〜から・〜ので        295 〜ものだから・〜のだから     304   3.2 順接確定条件/原因と理由/モーダス表現           322                   〜ために・〜せいで・〜ばかりに     3.3 順接確定条件/根拠  〜からみて・〜からして        341   3.4 順接確定条件/手段  〜を通して・〜を通じて        362   3.5 順接確定条件/基準  〜に基づいて・〜をもとに       369   3.6 順接確定条件/目的  〜ために・〜ように         378              〜んがために・〜べく/〜んがための・〜べき 387               〜には・〜のに             393   3.7 順接確定条件/前提条件  〜からには・〜以上は・〜上は   412  第4章 順接仮定条件  〜なら・〜たら・〜ば・〜と         424   4.1 順接仮定条件/仮定条件                   427 4.2 順接仮定条件/反実仮想                   451   4.3 順接仮定条件/一般条件                    470   4.4 順接仮定条件/確定条件                  487   4.5 順接仮定条件/基準  〜にしては・〜にしても         502  第5章 逆接条件        5.1 逆接条件/逆接確定条件  〜が・〜けど           508 5.2 逆接条件/逆接確定条件  〜のに・〜くせに         520   5.3 逆接条件/逆接確定条件  〜とはいえ・〜からとはいえ     531   5.4 逆接条件/逆接仮定条件  〜ても・〜たところで        541                   〜にしても・〜としても      551   5.5 逆接条件/逆接確定条件  〜ても〜ても・〜にしても〜にしても 554  第6章 変化の表現                           6.1 変化の表現/A→B  〜になる・〜となる/−くなる 568                 〜にする・〜とする/−くする 575   6.2 変化の表現/変数   〜次第だ・〜による 601   6.3 変化の表現/比例変化  〜ば〜ほど・〜ば〜だけ 617   6.4 変化の表現/不変化  〜たまま・〜たきり 636  第7章 比較・比喩・比例                        7.1 比較・比喩・比例/比較と程度 645                 〜くらい〜はない・〜ほど〜はない   7.2 比較・比喩・比例/比喩            〜んばかりだ・〜そうなほどだ/〜そうなくらいだ 659   7.3 比較・比喩・比例/比例/原因  〜だけに・〜だけあって 666      第8章 極限                              8.1 極限/状態     〜至り・〜極み 674   8.2 極限/原因と結果  あまりの〜・〜のあまり 687   8.3 極限/類推     〜さえ・〜でも 695  第9章 授受動詞と敬語                      711  第10章 モダリティの表現       10.1 モダリティの表現/禁止と義務            〜てはならない・〜てはいけない・〜てはだめだ  790   10.2 モダリティの表現/命令  〜なさい・〜のだ 809   10.3 モダリティの表現/依頼  〜てください・〜てくださいますか 825   10.4 モダリティの表現/助言と勧誘 〜てはどうか・〜ばどうか 845   10.5 モダリティの表現/意志と希望 〜つもりだ・〜(よ)うと思う 857   10.6 モダリティの表現/状況判断  〜ようだ・〜みたいだ 915   10.7 モダリティの表現/確認   〜ね・〜のだね 987   10.8 モダリティの表現/判断放棄と断言  〜か・〜のか 1028   10.9 モダリティの表現/伝聞   〜ということだ・〜とのことだ 1107  キーワード 1118 索引                                1166 上の目次の中の「モーダス表現」ということばの説明が巻末の「キーワード」の中に あります。そこを引用します。 『日本語類義表現使い分け辞典』「キーワード」から モーダス要素  日本語では、モダリティが文末に現れるので、対話の「話者交替」や、文の切れ目を 明確にして便利であるが、逆に文が長くなると、文末にたどりつくのに時間がかかり、 聞き手は「話し手が何を言おうとしているか」いつまでも判断できないという欠点があ る。  このため日本語では、文末のモダリティや、話し手の「気持ち/感情/心理/気分」 といったものを聞き手に予知させる要素が、文の前半に、あたかも信号のように提示さ れることが多い。  次の太字部分は、前もって(  )の中の話し手の気持ちを発信しながら、下線部分 と呼応している。   (例文省略 「太字部分」のみ:引用者)    ぜひ  せめて  どうせ  なるほど  珍しく  当然/もちろん    幸いにも  (〜のは)幸いだった      また次の太字部分は、文末と呼応しなかったり、文末に来ていたりするが、前後の文 と共鳴しながら、話し手の気持ちを表している。(「太字部分」を[ ]で囲む:引用者)   [せっかく]来たんだ、もう少し見てみようよ。(無駄にしたくない気持ち)   電話して家に行っ[たところが]留守だった。(意外)   弟の[せいで]、父に叱られてしまった。(恨み)   知っていれば行った[のに]、どうして言ってくれなかったの。   友だちの忠告を聞かなかっ[たばかりに]、失敗してしまった。(後悔)   金もないし友達も来ないし、今日は寝[ているばかりだ]。(あきらめ)   ミツバチは毎日、おいしい蜂蜜を運んでき[てくれる]。(感謝)  いくつかの文を重ねていく場合、これらもまた、話題全体に反映された話し手の気持 ちといったものを、聞き手に知らせようとする信号のような役割を果たしている。  こうした話し手の気持ちや、話し手の気持ちを表す語や語群を、本書では、<モーダ ス要素>と呼んでいる。                               (p.1132) ▽「類義表現使い分け辞典」ということなので、全体の体系は気にしなくていいの でしょうが、どうしても全体が見えにくいという印象を受けます。  「目次」の次の「見出し一覧」(つまり「詳細目次」です)を見ていくと、いろ いろ予想外の文型の位置づけ方に気がつきます。  まず主題の「は」と「が」に始まり、次が時の表現で、複文の時を表す節の解説 が続きますが、2.8 から突然アスペクトの話になります。「「〜ている/〜た/− る」の使い方」「「〜ている」の使い方」「〜ている/てある」の比較が、時の節 の後になります。こちらが時の節の使い分けの基本になるものなのですが。  次に、広い意味での「条件」で、まず「原因と理由」、「根拠」があって、「手 段」があります。「手段」の中に、「「〜で」の使い方」というのがあり、「場所 ・時間・道具・範囲」などの例が出てきます。この辺はまったく自由な構成になっ ています。  そして「基準」「目的」と続きます。「目的」が「条件」の中に入れられている のも興味深いです。この「目的」の中に「「〜に」の使い方」があり、その次には 「場所+に・で・を」という項目があります。  それから、狭い意味での「条件」、ナラ・タラ・バ・トがあり、逆接条件が続く のは自然です。  次は、「変化」です。「になる・となる」はいいとして、「ことになる・ことに する」「〜たことにする」などもこの「変化」の中にあります。  「〜てくる・〜ていく」が「変化」に入れられているのは、うなずけます。  6.3「比例変化」は「〜ば〜ほど・〜ば〜だけ」の違いから始まりますが、その中 に「〜つつある・〜ているところだ」があり、さらには「「〜ている」の使い方」 という解説があります。「〜ている」の解説は「2.8 時の表現」のところにも当然 あるのですが、ここではまた別の観点から(?)解説が加えられています。  その後は「比較・比喩・比例」「極限」と続き、「授受動詞」と「敬語」がなぜ かいっしょになっています。  「モダリティ」は一つにまとまっているので見通しやすくなっています。  さらに細かく見ていくと、いろいろ独特の位置づけが見つかりそうです。
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