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9. 名詞・名詞句

 9.1 名詞の分類
 9.2 NのN
 9.3 位置を示すNのN
 9.4 時を示すNのN
 9.5 割合を示す名詞
 9.6 N+接辞
 9.7 Nのこと
 9.8 NというN
 9.9 並列助詞
 9.10 名詞をつなぐ接続詞
 9.11 同格


 9.1 名詞の分類
9.1.1 代名詞   9.1.2 数詞   9.1.3 形式名詞   9.1.4 固有名詞   9.1.5 普通名詞   9.1.6 動作性の名詞  
 9.3 位置を示すNのN
9.3.1 Nの[所]   9.3.2 Nのトコロ
 9.4 時を示すNのN
9.4.1 Nの[時]   9.4.2 前に来る名詞の制限   9.4.3 述語の制限   9.4.4 場所と時
 9.6 N+接辞
9.6.1 N中(ちゅう)だ/の   9.6.2 N中(ちゅう/じゅう)   9.6.3 Nごと   9.6.4 Nおき   9.6.5 Nぶり   9.6.6 その他  [以前・以後]  [以来・以降]  [前・後]

補説§9
 §9.1 基本的名詞のリスト(二千語の範囲内)


これまで基本述語型の三種類の述語、名詞述語・形容詞・動詞について見てきました。そしてそれらの述語と関係する「名詞+助詞」、つまり補語のいろいろな種類を見てきました。ここで、名詞自体について少し考えてみましょう。それから、その名詞の拡張について考えます。

名詞にはいろいろな種類があります。それらは、単に意味的に違うというだけではなく、使い方も違うところがあります。それをまず考えてみます。「代名詞」「数詞」「形式名詞」をとりあげた後、「普通名詞」をさらに分類してみます。

また、補語の名詞の部分には、単一の名詞だけではなく、さまざまな「名詞句」が入ります。名詞句というのは、いくつかの単語が結び付きあって一つのまとまりになり、文の中で名詞と同じ役割を果たすもののことです。
その構造には二種類あります。 です。

名詞の「並列」には、「本とノート」のように「並列助詞」で結ばれるものと、「本およびノート」のように「接続詞」で結ばれるものがあります。

「修飾」のほうは、名詞文のところで取り上げた「NのN」という形がその例の一つです。それを含め、名詞が名詞を修飾するいくつかの形を取り上げます。 名詞を形容詞が修飾した形、「高い木・元気な人」も全体として名詞句になります。形容詞や連体詞が名詞を修飾する形は、少し後の「10.修飾語」で取り上げます。
修飾される名詞の中には、その名詞の本来の実質的意味が希薄になって機能的な要素に近くなっている「形式名詞」もあります。その主なものは「14.形式名詞」で扱いますが、ここでもいくつか取り上げることにします。そのほかに、名詞に「接辞」がついた名詞句についてもここでかんたんに触れておきます。

では、まず名詞そのものについて見てみましょう。


9.1 名詞の分類

名詞の下位分類を考えます。まず、名詞とは別に分けられることもある代名詞から見てみます。


9.1.1 代名詞

英語の文法では名詞と代名詞を分けますが、日本語ではそうするべきかどう か議論のあるところです。この本では、名詞の中の下位分類の一つとします。 文法的には名詞と非常に近いものだからです。
名詞は、 の [    ] の位置に入れることができ、それがまた、名詞を文法的に定義する基準になるわけですが、代名詞もこの条件に当てはまります。文の成分として補語になるという点で名詞と変わりがないのですから、単語の文法上の分類である品詞分類で特に分ける必要はないということになります。で、名詞の中に含めます。(英語などでは、格変化その他で名詞と違う性質をもっているので、名詞とは別にします。)
  
代名詞はさらに「人称代名詞」「指示代名詞」の二つに分けられます。

人称代名詞  わたし、わたくし、おれ、あたし、あなた、かれ・・・ 
指示代名詞  これ、そこ、そいつ、あちら、こっち・・・ 

指示代名詞は、代名詞の一部として他と分けるよりも、「指示語」として一つのグループとして考えた方が、その特徴がはっきりします。(→「15. 指示語」)

日本語の人称代名詞は数が多いのが特徴の一つです。聞き手との関係によって、また話題の人物との関係によって選択されます。また、相手や自分を指す代名詞をあえて使わないという選択もあります。これは敬語や「待遇表現」の問題です。(→「29. 敬語」)

「私・あなた・彼」などの「人称」という概念は、日本語でも「やりもらい動詞(4.4.2) 」や「ムード」のいくつかにかかわってきます。
「私」が「一人称」、「あなた」が「二人称」、「彼」などが「三人称」です。ただし、「あなた」を指すのに「田中さんは・・」とか「先生は」というような言い方もあるので、単に人称代名詞の使い方の問題ではなく、「話し手・聞き手」をどう表すかという問題になります。
日本語の人称代名詞の特徴の一つとして、連体修飾を受けるということがあります。


9.1.2 数詞

数詞というのは、その名のとおり、数を表す名詞です。二種類あります。  Aは無限に続きます。Bの「11」以上はAで代用します。
 ここで「ひゃくじゅういち」のようなものをすべて一つの単語とすると、語数が無限にあることになってしまいます。「ひゃく」「じゅう」「いち」をそれぞれ一語とし、「ひゃくじゅういち」は複合語とするわけですが、そうすると、今度は「はっぴゃく」のように音変化のある場合を説明しなければなりません。この本では名詞の「形態論」は取り扱いません。この点は形態論の本を見てください。
なお、数詞に などを含める本もありますが、aは「数」そのものではなく、ものを数える時に使う「数量詞」と考えます。「とお」より上は数詞を代用します。

bのほうを「序数詞」と呼んで、「いち、に・・・」の「基数詞」と並べること がありますが、これは英語の「one/first 」の対立をそのまま日本語に持ちこんだだけでしょう。「−ばん」は他の「−つ、冊、秒、キロ、度」などと同じく、数詞に付いて数量詞を形作る接辞にすぎません。 この「数量詞」は文法的に特徴のあるものなので、別に取り上げることにします。(→「13.数量表現」)


9.1.3 形式名詞

形式名詞とは、名詞が形式化したもの、という意味です。「形式化」とは、ある品詞がその意味的・文法的性質(の一部)を失って、ある構文を形作るための機能を持つようになることです。
どれを形式名詞と認めるかは説によってかなり違うようです。文法的には重要な役割を持つもので、この本では「14.形式名詞」として特に取り上げて、主なものの用法を説明します。その中で「NのN」という形をとる「場所」と「時間」の表現については、この後の「NのN」の所で取り扱います。


9.1.4 固有名詞

ふつうの名詞との文法的な違いは特になく、意味的な違いによって分けられるものです。英語などでは、冠詞との関係や、常に大文字で書き始めるという規則などがあるために、何が固有名詞なのかということを論じる必要があるのでしょうが、ここでは特に取り上げなくてもいいでしょう。


9.1.5 普通名詞

さて、名詞の中から以上述べてきたものを取り去った残りが、ふつうに名詞と言われるもの、「普通名詞」です。
普通名詞の分類としては、まず「物質名詞・抽象名詞」という分け方をすることがあります。これは、英語などで「数えられるもの」と「数えられないもの」を区別するための「数」という範疇が、冠詞や動詞に関して必要なことに関係した区別でしょう。日本語では、下の「もの」の中の下位分類となります。
それに対して、日本語では次のような分類が文法に関係してきます。(この 分類は代名詞や固有名詞にも関わるので、その例もあげておきます。)

ひと  わたし、田中さん、学生、店員、人、だれ 
もの  本、草、雨、動き、悲しさ、存在、これ、もの、何 
ところ  教室、東京、空、第一章、上、あそこ、ところ、どこ 
むき  東、右、後ろ、あちら、こっち、どちら、どっち 
とき  今、明日、1999年、2時、3時間、とき、いつ 
こと  事実、ニュース、計画、失敗、売り切れ、やり直し 

これらを見て、すぐに思い当たったことと思いますが、これらは動詞などの 補語を考える時に、 というような形で、その動詞型に入る名詞の、おおよその意味分類を表す時に 使ったものです。

この分類は、分類の基準がいくつかありえ、境界は厳密には決められないも のですが、おおよその分類としては有効なもので、ことばの使い方、つまり文 法に大きく影響します。
例えば、「ひと」をもう少し広げて「動物」とすると、存在の「ある/い る」の使い分けに関係します。
 また、「水泳する」のは人だけで、「?犬が水泳する」というのは少し奇妙です。動物の場合は「泳ぐ」になります。
「ところ」の名詞は、 の[ ]内に入りますが、その他の名詞、例えば[ひと]の名詞は入らないので、 のように言わなければなりません。これは「5.3.2 Nのトコロ」でもういちど考えます。


9.1.6 動作性の名詞

 上に述べた普通名詞の中で、「動作性」を持つ名詞は文法的に特徴のあるものです。動作性を持つ名詞は、次の二種類に分けられます。
一つは、前にとりあげた「する動詞」を作る名詞です。(→ 4.4.4)      一般の名詞と違うところがいくつかあります。まず、複文で扱う「目的」の表現「V−に行く、来る、帰る」の動詞の所に入れることができます。もちろん、人の意志的動作を表すものに限りますが。  「−中」をつけて、全体として名詞述語になり、その動作が進行していること、またはある状態であることを表せます。(→ 9.6.1)  名詞句の中で補語をとることができます。  「文法を」という補語は、当然あとに動詞が来なければなりませんが、ここでは「勉強」という名詞が補語を受けています。

 もう一つの動作性の名詞は、動詞の中立形がそのまま名詞として使われるものの一部です。動詞の中立形による名詞とは次のようなものです。「連用形転成名詞」ということもあります。  これらは、すでに名詞として固定している感じがしますが、次のようなものはまだ多少動詞性を感じると言えるでしょう。


9.2 NのN

以上で名詞そのものの話を一応終り、次にさまざまな名詞句の問題に入ります。まず、名詞が名詞を修飾する形になっている名詞句を見ていきます。

名詞文のところで、「NのN」がさまざまな意味になる例を並べましたが、その構造は考えませんでした。ここでは、それを少し考えてみます。「NのN」の前のNをA、後のNをB、つまり「AのB」と呼ぶことにします。

まず第一は、ふつうの、「Aの」が後の「B」を修飾するものです。 「AのB」というと、上にも述べたように「AがBを修飾している」と言って説明は終わりになってしまうことが多いのですが、もう少し考えてみましょう。

まず、「修飾」ということの意味です。「修飾」とは何でしょうか。
例えば、本がたくさんある場合に、 と言って、一冊の本を示すことができます。このように、あるものを他のもの から区別して特定するために「机の上の」という「修飾語」が使われることが あります。「限定」あるいは「特定」の働きということができます。
次に、本は一冊しかないのですが、 という時は、「私の」本であるという、本の「属性」が問題になっています。 ここで言いたいことは、「この本は私のだ、だからさわるな」というようなこ とでしょう。ここでは、他のものから区別するためというより、それ自体が持 っている属性を言いたいための修飾語だ、と言うことができます。

もう一度繰り返すと、例1の「机の上の本」は、何冊かの本の中からある本を特定するために、「机の上の」という修飾語を加えて「本」という言葉が表す範囲をせばめています。それに対して例2の「私の本」は、今ここにある、この「本」が「私の(もの)」という属性を持っていることを特につけたしています。

修飾ということの具体的な内容は、少なくとも上で述べた二つのこと、「限 定」または「特定」の働きと、「属性説明」の働きが考えられます。
次に、「修飾」ということでは同じだとも言えるのですが、「Aの」が後の 「B」に対して「BはAだ」という意味関係を持っているものを見てみます。 これは「同格」と呼ばれることがあります。例えば、最初の例で「大学生=息子」と考えるからです。しかし、「大学生」は一人の人間を指しているのではなく、「息子」の属性を表しているだけです。この二つのことばは同じ対象を指しているのではありません。ですから、「同格」というのには賛成できません。
同格というのは、 のような場合ならいいかもしれません。この場合の「その大学生」はある個体 を指し示していて、それは「息子」で表されているものと同じだからです。

 次の「首都」の例はまだいいかもしれません。確かに「日本の首都=東京」ですから。しかし、この「AのB」の形が、同格を表すために使われるとは言えません。「Aの」が「B」を修飾している形と考えます。

また、この「の」は「助動詞」の「だ」の「連体形」だ、と言われることも あります。意味的にはそうも言えますが、いちおうここでは助詞としておきま す。(この本では「だ」を助動詞とはしていません。)「大学生である息子」とも言えるということは、直接この「の」が「だ」の変化形だという証明にはなりません。

名詞を二つ並べた形の同格については、「9.11 同格」を見てください。

「AのB」のBが動作を意味する、あるいは暗示するような名詞の場合は、 Aがその補語となるような意味関係になります。 以上は「が」と「を」の場合で、「が・を」は削除されて、「の」だけにな ります。その他の格助詞の場合は、 の形にはならず、意味の近い他の格助詞が「の」の前に来ます。また、「信頼 感」のように「を信頼する」が「への信頼感」になる場合もあります。

時や所を示す「に」の場合は、「の」だけになります。 さらに、ある動詞をはっきり連想させる名詞でも、似たことが起こります。


9.3 位置を示すNのN

「NのN」の中でも、ふつうのものとはちょっと違った性質のものがありま す。後の名詞が位置を示す場合です。


9.3.1 Nの[所]

初級の存在文のところで、次のような表現がよく出されます。 これらは、教育上特に難しいものではありませんが、前に名詞文のところで述べた「NのN」の多くの例とは少し性質が違うので、その点を考えてみます。例えば「私の本」という場合は、「本」を「私の」が「限定」し「修飾」している、ということが素直に受け取れますが、「机の横」と言った場合は、意味的に「机」が「横」を修飾している、とは言いがたいからです。 「本」という名詞は、それだけで独立して一つの意味を表し、例えば などのように使うことができます。
一方「横」は、「机の横」のように、ふつう何か他の名詞との関係で使われ ることばです。 などの場合でも、「(この部屋の)上(の部屋)は」という意味で、やはり関 係を表す言葉で、独立したものではありません。あるいは、 という場合も、「(二つの箱の)上の(ほうの)箱」ということで、独立した 名詞とは言えません。
ですから、ふつうの という例を考えると、「机の横」は「机」を基準にして、ある場所を示す役を していると言えます。
この場合は、それぞれ独立した二つの名詞(例えば「私」と「本」)の関係ではなく、ある名詞に付いて「場所を示す名詞句を構成する」という機能を、「横」あるいは「の横」が持っているのだ、と考えられます。(ここで、この「の横(に)」に当たるものが英語では「besides」という一つの前置詞で表される、だから・・・・というのは正しい論証の仕方ではありませんが、ついそう言いたくなるところです)

上の例では「に」が使われていますが、もちろん他の助詞も使われます。 「Nの[所]」全体が名詞を修飾することもできます。「〜にある」という 意味になります。 「あいだ」は二つの名詞(AとBの間)か複数のものを表わす名詞を必要と する点で、他のものとは違います。

9.3.2 Nのトコロ

以上の名詞は[所]という性質、いわば空間性をもってある特定の場所を指 示する名詞でしたが、その空間性を他の名詞に与えるためだけに使われる名詞 があります。「ところ」という名詞です。

「行く・立つ・置く・運ぶ」などの動詞は「[所]へ/に」という補語を必 要としますが、[所]名詞でない名詞とこれらの動詞を使いたい場合があります。その場合には、「Nのところ」という形を使います。例文を見てください。 「私」や「旗」は、人が来たり立ったりする場所にはなりえないので、「〜 のところ」という形にしなければなりません。ただし、 の場合は、「のところ」は必要ではありません。「旗」は「トンボが止まる」 場所になりうるからです。
「階段」の例では、「のところ」をつけるかどうかで意味合いが変わってき ます。「階段のところ」というと、例えば長い廊下の途中の階段に上がる所、 を示すことができます。(→「14.3 ところ」)



9.4 時を示すNのN

9.4.1 Nの[時]

時間の表現についても、場所の名詞句と同じようなことが言えます。 これらも、「Aの」に修飾される名詞というよりは、「AのB」の形で時を 示す表現を作り出すものです。その中でも特に「〜の時」が基本的な時間の表 現です。
前に「4.15 時を表す助詞」で例にしたような時の名詞なら、 のように、はっきりとある時間の点・長さを表すことができますが、「食事」 のような名詞は、「食事に」としてもその時間を示せません。

「食事」や「仕事」は時の名詞ではありませんが、それが表わす事柄は時間の流れの中である位置を占め、その初めと終りがはっきりしていますから、上の「〜の時」のような表現をつけることで、その時間を表すことができます。 「休み」のような名詞は、もともとは時の名詞ではありませんが、それ自体がある時間の長さを示すことばですから「に」をつけただけで、 のように言うことができます。 「Aの時」以外の「Aの前/後/途中」などの表現は、Aという名詞が示す 時間を基準にして、ある時間を示します。

後ろにつく助詞は、時間の一点を示す「に」ですが、「あと」と「途中」は なぜか「で」をつけるのがふつうです。

「途中」は道の途中、つまり空間的な意味が基本にあるので、「場所のデ」 の影響があるのでしょうか。ある時点からある時点まで、時間の中を移動する 途中の一点で、という意味合いで「で」が使われるのでしょうか。 次の例は空間的な意味の場合です。 後の例の「に」は、もちろん場所の「に」です。
「あと」は「に」をつける場合もあります。 特に多いのは、「順序を後にする」という意味合いの時の「に」です。 ほとんど「あとで」と変わらない感じですが、最後の例などは「所に残す」 の影響があるようです。「終了の後」は時間的な「後」なのですが。
これらの名詞は、前に来る名詞と後に来る述語に対する制限があります。それを次に見ます。


9.4.2 前に来る名詞の制限

まず、前に来る名詞Aに対して。Aが長さを持った名詞でないと、「あいだ」や「途中」はつけられません。 「食事」はある長さの間続きますから「あいだ・最中」などがつき、またそ の初めの点・終わりの点があるので、「前・後」などがつけられます。それに 対して、下の例の「開始」はある瞬間のことですから、「あいだ・うち」など はつけられません。

逆に、「開始」は「瞬間」をつけられますが、「食事」はつけられません。 「発表」のような名詞は、どちらも言えます。瞬間的な場合と、ある長さを 持った場合のどちらも考えられるからです。 「うち」はちょっと特別で、「休みのうちに」とは言いますが、「×食事の うちに」とは言いにくく、はっきり時間を示すことばが必要なようです。 後の例のように、「一回の」のような限定することばをつけるとよくなるよ うです。
「うち」と「あいだ」は時間の長さを表す名詞が前に来ることができます。 これは単に「3時間」と言っても同じですが、「あいだ」をつけたほうが、 その長さを強調しています。 という言い方もできます。
「〜間+うちに」は「〜で」と近くなります。 前に(→ 4.6.5)「期間+に」は、その後に来る表現が限定されることを述べましたが、「期間+あいだに」や「期間+うちに」は数量の表現とも使えます。


9.4.3 述語の制限

次に、後ろに来る述語の時間性に対する制限を見てみます。「前」や「時」などは、「に」をつけると、あとに長さを持った述語は来られません。これは「4.15 時を表す助詞」で述べたことと同じです。 「は」にするとよくなります。 「限定・対比」の意味が加わるからでしょうか。

「あいだ」は長さを示すので、「に」をつけなければ「長さ」のある述語と 使えますが、「に」をつけると、その中のある一点を指すことになるので、使 えません。 次の例で「長い小説を読む」には長い時間がかかりますが、「読んだ」となると、その終わりの点を「あいだに」の「に」が示します。

9.4.4 場所と時

前に来る名詞が単なる「物」か、あるいは何らかの動作を示すような、つま り時間の中に位置付けられる名詞かで、その名詞句の意味が変わってきます。 例えば、「机の前に」と言えば場所しか示しませんが、「ご飯の前に」には二 つの可能性があります。

9.5 割合を示すNのN

 「NのN」の形で割合を示す名詞があります。この表現で特徴的なことは、「AのB」でも「BのA」でも言えることです。  他に、「ほとんど、一部、3分の1、1割、5%」などもこの形になります。


9.6 N+接辞

名詞に接辞(接尾辞)がついて名詞句となるものがいろいろあります。文法的に問題になるものとして、時間・量・頻度の表現があります。  みな名詞句ですから、 などの形になります。


9.6.1 N中(ちゅう)だ/の

 動きを表すような意味の名詞について、その動きが継続しているか、その動きの結果としての状態にあることを表します。ちょうど、複合述語の中のアスペクトを表す「V−ている」に似ています。

9.6.2 N中(ちゅう/じゅう)

a 時間の名詞について、その時間の長さの間を示します。発音が「ちゅう」 となるか、「じゅう」となるかが学習者には難しい問題になります。  「あさ・ひる」はなぜか言えません。「よるじゅう」も「ひとばんじゅう」と言うのがふつうでしょうか。  「ちゅう」は「そのあいだ」で、それ以外の時間との対比を感じます。  その後に「に」をつけるかどうかで、ちょうど「あいだ」と同じように、その時間の長さ全体を指すか、あるいはその長さの中の一点を指すかが違います。

「じゅう」は「その時間いっぱい」という意味合いがあります。「に」をつけると、「のうちに」と近い意味になります。   b 場所の名詞について、その範囲全体を示します。発音は「じゅう」です。


9.6.3 Nごと

  名詞は時間・距離などと、集団のようなあるまとまりを表す名詞が来ます。その一つのまとまりのそれぞれに、述語で示されることが起こります。動詞を受ける場合は「複文」としてまたとりあげます。


9.6.4 Nおき

 二つの物事があいだにそれだけの時間・距離を置いて離れていることを表し ます。その物事が存在する時・場所が、長さ、大きさを持ったひとまとまりかどうかで、「Nごと」との違いが出ます。  オリンピックは3年おきか、4年おきかということが話題になります。「開催される期間」は4年おきに来ますが、「開催年」は3年おきです。「うるう年」は、後者と同じです。ただし、この語感は人によって多少違うようです。


9.6.5 Nぶり

 長い時間の後に、あることが起こります。

9.6.6 その他

 時間の表現に使われる接辞をいくつかかんたんに紹介しておきます。

[以前・以後]

 「以前」は単独で副詞としても使われますが、他の語の後につけられる用法もよく使われます。 「以後」も同様で、副詞としての用法と接辞としての用法があります。  文脈を受けて、「それ以前・それ以後」という言い方もあります。

[以来・以降]

 「以来」は過去から現在までのことだけを表し、将来のことは表せない点が、他のものと大きく違います。  「以降」は副詞としては使えません。接辞用法のみです。     

[前・後]

 「まえ」は「Nの前に」の形をすでにとりあげましたが、名詞に直接ついた形も使われます。  「今から2時間前」と「2時の少し前」の違いです。  「後」は「あと」と「ご」と「のち」の三つの読み方があるので、学習者にはやっかいです。 「のち」は少し硬い言い方です。

9.7 Nのこと

言語行為、心理関係の動詞・形容詞の中で、「Nのこと」という名詞句をと るものがあります。 「のこと」は「それに関するいろいろなこと」ぐらいの心持ちでしょうが、 使わないとちょっと不自然な感じがする場合、必ず使わなければならない名詞 と動詞の組み合わせがあります。 また、次のような例もあります。  「家を」だと、家そのものの中を物理的に検査する感じで、「家のことを」だと、書類を見て、持ち主とか広さとか築何年とかを知ることのようです。つまり、「家に関すること」です。 はどちらでも同じですが、「りんご」にすると違ってきます。 けれども、「りんごのこと」と言えないわけではありません。 これはおそらく「好きだ」の意味の違いによるのでしょう。「(人を)愛する」という精神的な意味と、感情的な「好き嫌い」との違いです。

もう一つ、違った文型で使われる「Nのこと」があります。 「NとはNのことだ」の形で、定義・説明に使われる文型です。  

9.8 NというN

この形がよく話題として取り上げられるのは、次のような場合です。 1のほうは、話し手は「山田さん」を知っているが、2の場合は初めて会った 場合だ、という違いがある、というのです。
上の例ではそうなのですが、次の例では話し手はそれをよく知っていて、反 対に聞き手のほうが知らないだろう、と考えて「という」を使っています。 結局、「という」は前の名詞を後の名詞の名称として導入する働きを持って いる、ということになります。わざわざ名前を「導入」(新しく持ち出す)と いうことが、文脈によって「知らない」ことを暗示します。同じ でも、話し手が知らない場合は「知っていたら、どんな人か教えてください」 という意味になりますし、話し手が知っている場合は「あなたも知っていると 話が早いんだが、」という意味合いになることもあります。

では、「という」の前の名詞が、明らかに誰でも知っているような名詞の場 合に、わざわざ「という」を付ける理由は何でしょうか。 これらは、「東京は」「この地球は」「コンピューターは」としても、はっき りした意味の違いは感じられません。これらの例は、「という」の前の名詞を 聞き手に強く印象づけるためにちょっと間を持たせているような用法だ、とで も言うしかないでしょう。ただし、これを「強調」として説明してしまうのは 感心しません。

「AというB」のBは、Aがどんな種類の名詞かを示す働きがあります。 のAに「アンドラ・アルゴン・アネモネ・アブサン」を入れると、Bはそれぞ れ「国・元素・花・お酒」(またはそれに類する名詞)になります。また、 の場合は、「大統領」か「都市」かで違ってきます。このように「という」の 後の名詞は、前の名詞の枠を示します。

このような名詞の分類の最も大きなものが、「もの・こと・ところ」などで す。とくに「もの」は広く、抽象名詞も「もの」です。 「ところ」の前に来る名詞はわかりやすいでしょう。場所を表わす名詞です。 しかし、「日本というところは」というより「日本という国は」のほうがいい でしょうから、正確な使い分けはなかなか難しいようです。

「こと」は述語、あるいは文相当の内容の場合に使われます。ですから、こ れは「複文」になります。これらの「こと」は複文の「名詞節・連体節」の所 でまた取り上げます。 「もの」と「こと」の使い分けは少々複雑です。例えば、「病気」は「もの」 ですが、「病気だ」は「こと」です。  両方使える場合もあります。  上の「失敗」は一般的な意味合いで、下のほうは個別的な、実際にあったことという意味を感じます。この「こと」は「経験」に近いでしょう。しかし、「経験」自体は「もの」です。(「失敗という経験」「経験というもの」)

「Nというの」はその言葉の意味の分類というより、その言葉そのものを示 します。 この形は「定義」の文型としても使われます。 「という」が文相当(「節」)のものを受ける場合については、上でもちょっと触れましたが、複文のところでまた扱うことになります。(→「56.連体節」)
くだけた話しことばでは、「〜って(いう)」の形が使われます。

9.9 並列助詞

名詞を同列に並べる時に使う助詞を並列助詞といいます。その、名詞が並ん だ形全体が、文の中で一つの名詞と同じように働きます。それを「名詞句」と 言います。例えば、「AとB」は「名詞+並列助詞+名詞」で、全体が一つの 名詞のようになり、その後に「が・を・に・の」などの格助詞や「は・も」が つきます。 「AとBが〜」は「Aが〜」と「Bが〜」を合わせた意味になります。 ただし、「AとBの〜」の場合はちょっと複雑です。 これは、補語の「Nと」の話の中に出た問題と性質の近いものです。 この構造には、さらにもう一つの可能性があります。 つまり「[太郎と二郎]の娘」なのか、「[太郎]と[二郎の娘]」なのか、 という違いです。これらのあいまいさは、ふつう文脈で明らかになっているは ずです。そうでないと、誤解が起こるかもしれません。

初めからずいぶん面倒な話になってしまいました。基本的な例文を出しまし ょう。並列助詞の中で、よく使われるのは「と・や・か」の三つでしょう。 初めの例は並列助詞を使わない例です。ただ並べ上げ、読点「、」を打って います。これは「AとB(とC・・・・)」と近い意味になります。上の例では、 「2百万人以上」はこの4都市だけです。

「AとB」は「AとBと」の形もありますが、ふつうは後ろの「と」は省か れます。三つ以上並べあげてもかまいません。次の「や」との違いは、基本的 に省略をしないですべて並べる、という点です。上の例では、「東京と横浜」 以外はそうでない、ということになります。ですから、たくさんある場合は、 次の「や」を使います。

「や」はいくつかのものの中から例をあげる、という意味合いがあります。 上の例で言えば、「百万人台」の都市は他にもあるのですが、その中の代表と して「札幌・神戸」が出されています。後ろに「など」が来ることが多いのも 特徴です。ただし、人の場合には「など」は使わない方がいいようです。 「など」がもっている、それらを軽く、低く見るという意味合いが出てしま うからです。
読点を打つだけの場合も、後に「など」をつけると、この「や」の意味に近 くなります。つまり、それ以外にもあるということになります。 「か」はそれらの中の一つが以下のことに該当する、という意味です。「AかBか(が)」の形にもなりますが、助詞がつく場合は後ろの「か」はない方がふつうです。
選択の意味になるので、そのような場合によく使われます。 最後の例の場合は後ろの「か」があったほうが自然です。
並列助詞にはこの他に「とか・に・やら・なり」がありますが、使用頻度は 低くなります。
「とか」は「や」に近く、他にもそのようなものがある中で、いくつかのも のを例としてあげる、という意味合いです。 「に」は一つ一つ数え上げる感じがあります。 二つのものが対になるものを言う場合もあります。上の「おせんに・・・・」は その意味合いもあります。 「やら」は他にもあることと、全体の数が多い感じがあります。人には使いにくいでしょう。 「なり」はいくつか例を示し、その中の一つ、という意味です。 以上の並列助詞のうちのいくつかは、述語を受けて「複文」を作ることがあ ります。それについては、「56.その他の複文」を見て下さい。


9.10 名詞をつなぐ接続詞

一般の接続詞は文と文をつなぐものですから、この本ではいちばん後ろで扱 うことになりますが、ここで取り上げる接続詞は、名詞と名詞を並列的につな ぐものです。
それでは、上に述べた並列助詞とどう違うのか、という疑問が出 ます。その違いは、接続詞はそれだけで独立した言葉とみなされるが、助詞は そうではなくて、他の言葉に付属する語である、という点です。しかし、その 働きという点では明らかによく似たものです。
ある文法書では並列助詞のこと を「並列接続助詞」(これに対するのは従属接続助詞)と言っていますが、い い分類のしかただと思います。
    東京および横浜
      東京ならびに横浜
    東京あるいは横浜
      東京または横浜
みな、並列助詞と比べるとかなり硬い言い方で、論文調の書き言葉という感 じがします。また、「と」などと違って、二つだけを取り上げるという点も違 います。
    ?東京および横浜および大阪
      東京、横浜、および大阪
ちょっと性質は違いますが、次のようなものも並列といえるでしょう。
    日本の首都、つまり東京は・・・・
    原子力発電所、いわゆるゲンパツが・・・・
 二つの名詞が同じものをさすという点で、次の「同格」に似てきます。


9.11 同格

 名詞を二つ並べた形で、その二つが同じものをさす場合があります。  このような二つの名詞の関係を「同格」と呼ぶことにします。  これらの二つの名詞の順番は、逆にはできません。  同格の二つの名詞A・Bの関係にはいくつかの種類があります。  一つは、Aが人称代名詞で、Bの名詞を指すものである場合です。  あいだに「つまり/すなわち」を入れることができます。その場合は逆に言うこともできます。 もちろん、どれがより自然かという違いはあります。
 次に、AがBのある特徴的な属性、あるいは別称を表している場合です。  これらは、「BはAだ」と言える関係にあります。 したがって、「AであるB」と言うことができます。  最後に、翻訳語の関係にある二つの名詞です。  これらは、「つまり/すなわち」をあいだに入れることができます。  また、二つの名詞を入れ換えることができます。  次のようにかっこの中に入れて、補足説明の形にすることもできます。

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池上素子2000「「〜化」について−学会誌コーパスの分析から−」『日本語教育』106
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大野早苗2000「日本語の代名詞の用法について−指示対照とその属性についての認識を観点に−」『日本語教育』105
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