ホーム → 文法 → 庭三郎
12. 擬音語・擬態語
12.1 語形の特徴
12.2 文法的性質
補説§12
補説
§12.1「補説+する」
擬音・擬態語とは人や動物の声や物音をその音に似た形で描写したり、人や
物の動き・様子を感覚的に描写したりするための、特有の語形をもった言葉で
す。意味合いの微妙なものが多く、学習者にとって使い方の難しいものです。
音を表わすものを擬音語、声を表わすものを擬声語、動きや様子を表わすも
のを擬態語というのがふつうです。この本では擬声語は擬音語に含めることに
し、全体を言うときは擬音・擬態語とします。
12.1 語形の特徴
擬音・擬態語の形は次のようなものが多く見られます。
語基 −っ −り −ん 反復 −っ−り −ん−り
どき どきっ どきり どきん どきどき どっきり
かち かちっ かちり かちん かちかち かっちり
ひや ひやっ ひやり ひやひや ひんやり
このように、二拍の語基から多くの形が作られます。これらの形は、基本的
に表すものは共通していますが、それぞれ強さ・長さなどの違いがあり、微妙
な使い分けがあります。これも学習者には難しいところです。
「−っ」の形は、短い、鋭い音や様子を表します。「−り」「−ん」も時間
的には短い様子です。
「−っ」「−り」「−ん」の形は、文の中では「と」をつけて使われます。
どきっとしました。
かちんと音がしました。
背中がひやりとしました。
ただし、「−り」でも4拍(ひらがなで4字)のものは「と」をつけなくても
かまいません。
上にあげたような3拍、4拍の形が基本的なものですが、これ以外の形もあ
ります。
ぴっ・ぴぴっ・ぴぴぴっ・ぴぴぴぴっ
どかっ・どかどかっ・どかーん
わっ・わーん・わあっ・わあーっ・わあわあ
がりっ・がりり・がりがり・がりがりっ・がりがりがりっ
ぎんぎんぎらぎら・ぎんぎらぎん
特に擬音の場合は、その場に合わせて形が作られる可能性があります。
どどどど、どーん、どどーんと花火が鳴った。
12.2 文法的性質
擬音・擬態語は基本的には副詞に属するのですが、「−する」がついて動詞
になるものも多く、また「−だ、−な/の、−に」の形になって、ナ形容詞の
ように働いたりします。いくつかの品詞にまたがり、意味と形の共通性のある、
独特の単語のグループです。
擬音・擬態語は、擬音語だけ、あるいは擬態語だけの用法をもつものと、そ
の両方の用法をもつものがあります。
擬音語 わんわん(鳴く)・ざあざあ(降る)・げらげら(笑う)
擬態語 うろうろ(歩く)・じめじめ(湿る)・ゆらゆら(揺れる)
擬音・擬態語 かちかち・ばらばら・ぺこぺこ
かちかち時計の音がする/おもちがかちかちだ
木の実がばらばらと屋根に落ちた/家族がばらばらになった
空の箱がぺこぺこ音を立てた/上司にぺこぺこしている
文法的な面では、上に述べたように基本的には副詞で、そのままの形か「と」
を付けた形で述語を修飾します。
にっこり(と)笑いました。
ひんやり(と)冷たかったです。
「−する」がついて動詞となるものが多くあります。
彼はそのあいだ廊下をうろうろしていました。
いつも上司にぺこぺこしています。
冬の間、肌がかさかさしています。
彼女は態度がのびのびしています。
動詞といっても、動きを表わす(「うろうろ」の例)よりもむしろ状態を表
わすのがふつうです(その外の例)。「ぺこぺこ」は具体的な動作でもあり、
態度でもあるでしょう。
また、これは覚えておいていいことだと思いますが、「〜する」の形が音を
表わすことはありません。つまり、擬音・擬声語は「〜する」の形になりませ
ん。「〜する」の形になるのは擬態語か、擬音・擬態の両方の用法を持つ語の
擬態語としての用法だけです。
枯れ葉がかさかさ(と)音を立てました。
音の場合は「かさかさ(と)」で、「かさかさする(している)」というと、
必ず(物の表面の)状態を表わします。「がんがん」も「ごろごろ」も「さら
さら」もそうです。
バケツががんがんと大きな音を立てました。
二日酔いで頭ががんがんします。
小川がさらさらと(音を立てて)流れています。
この生地は手触りがさらさらしていていいですね。
状態を表わすという面がもっとはっきりするのが「−だ、−な/の、−に」
の用法をもつ擬態語です。
表面がざらざらだ/ざらざらな表面/ざらざらになる
ざらざらしている
ざらざら(と)こぼれ落ちる
「ざらざら(と)」では音と動きを表しますが、「ざらざらする/している」
では表面の状態の形容です。「ざらざらだ/な/に」ではナ形容詞として同じ
意味を表します。
なお、「−だ/に」の用法を持つものの中で、「−な」よりも「−の」の形
の方が自然なものが多くありますが、名詞とするのは問題があります(「〜が
・を」などがついて補語となる用法がない)ので、「−の」もナ形容詞の一用
法としておきます。
以上のように、擬音・擬態語は副詞・動詞・ナ形容詞としての用法を持って
います。この中のどの用法を持つかという文法的性質によって擬音・擬態語を
分類してみましょう。三つの用法の組み合わせで大きく5つに分けられます。
基本は副詞としての用法で、それを中心にAからDまでを分けます。副詞の用
法を持たず、ナ形容詞の用法を中心とするものは数が少ないのでEとして二つ
をまとめておきます。全部を表の形にすると、次のようになります。
副詞(と) する な/の
A ○
B ○ ○
C ○ ○
D ○ ○ ○
E1 ○
2 ○ ○
A.−/−と
まず多いのは、副詞としてそのままの形か、「と」を付けた形で使われるも
のです。音・声・動き・変化・状態・態度などを表します。
ざあざあ、ぐうぐう、くすくす、ひそひそ、がらり、しとしと、
ぷかぷか、ころころ、するする、よちよち、ぎゅっと、ぐんと、
すくすく、ぴたり、こつこつ、さっと、つくづく、のこのこ、
ぼつぼつ、もくもく、もりもり・・・・
すでに触れたように、「−ん・り・っ」の形のものは「と」が付きます。独
立して使われれば別ですが。
岩をハンマーでたたいた。がちっ。がちっ。破片が飛んだ。
(ハンマーで岩をがちっとたたいた。)
例外としては、例えば「さっさと」は必ず「−と」の形で使われます。
?さっさかたづけなさい。
「もくもく」は煙なら「と」がなくてもいいですが、「もくもくと働く」の
場合は「と」が必須です。ただし、これを擬態語とみなすかどうかは問題です
が。
「どんどん」は音の意味と、変化の大きさを表します。
ドアをどんどん(と)たたきました。
新製品がどんどん出てきます。
世界がどんどん変わっていきます。
B.−/−と、−する
副詞と動詞の用法のあるものです。この二つの用法の間で、意味の違いのな
いものと多少違いのあるものがあります。まず違いのないものから。
にこにこ笑っている/にこにこしている にっこり・にやにや
うとうと眠っている/うとうとしている うつらうつら
このように意味の違いがなければ、学習者としては覚えやすくて助かります。
ただ、これらは動詞の用法があるのに、同じような意味を表す次のものにはあ
りません。(さっきのAグループです)
くすくす笑っている/×くすくすしている げらげら
すやすや眠っている/×すやすやしている ぐうぐう・ぐっすり
なぜでしょうか。「くすくす・すやすや」は本来「笑い声・寝息」としての音
を表すから「−する」の用法がないのでしょうか。そうだとしても、「×ぐっ
すりする」がないのは不規則で覚えにくいものです。
「−する」の形が動きを表す場合と、状態を表す場合があります。
ぱくぱく・ゆらゆら・うろうろ・ちょこちょこ・ぶらぶら・・・・
じめじめ・さらりと・ねばねば・ごたごた・すっきり・
きちんと・ちゃんと・てきぱき・ねちねち・ぴりぴり・
むかむか・うっかり・おずおず・ぼんやり・むずむず・
はっきり・がっしり・ごそごそ・ぴんと・まるまる・・・・
「ゆらゆらする」というと動きを感じます。「ぶらぶらする」では、実際の
動きと、「毎日ぶらぶらしている」のような状態があります。「ねばねばする」
や「すっきりする」は状態です。
また、状態を表すものは「−している」の形で使われることが多く、連体修
飾の場合、「−した」で使われることがよくあります。動詞というより形容詞
に近いものです。
じめじめしている/じめじめした部屋
「−する」の形が使われないものもあります。連体修飾の場合は、「−した」
の形も使われます。
がっしりしている(?がっしりする)
がっしりした骨組み
がっしり(と)造られている
以上の例は、二つの用法で意味の違いがあまりないものでした。以下では意
味の違いがあるものを見ます。学習者にとっては注意が必要なものです。
例えば、次の例ではずいぶん意味が違います。
新しい靴がきゅうきゅう鳴る。
安月給できゅうきゅうしている。
また、「はらはら」の場合。何となく関連があると言えるでしょうか。
涙/木の葉 がはらはらと落ちる
心配ではらはらしました。
音の面で関連がある「ばらばら」は、「ばらばらだ/な/に」というナ形容
詞の用法を持っている点で違いがあります。
濁音にすると強さ・重さなどが加わる場合が多いのですが、この例では用法
も違ってきます。
「ばたばた」は用法の広がりが興味深いものです。
看板がばたばたと倒れました。
家族が病気でばたばたと倒れました。
結婚の話がばたばたと決まってしまいました。
忙しくてばたばたしていました。
足をばたばたさせていました。
副詞用法では「次々と(大きな音を立てるように)」で、動詞用法では、具体
的な動きも「−させる」の形で表せます。
「続々と」は擬態語とは言えませんが、学習者から見れば、「ぞくぞくする」
と関連があるように思うでしょう。
寒気がして、ぞくぞくします。
港に船がぞくぞくと入ってきます。
C.−/−と、−だ/な/の/に
「−と」も「−に」もあるものの例です。どちらも連用修飾になるわけですが、
意味がかなり違います。
かちかち、からから、ぎりぎり、とんとん、ばらばら、
かちかちと音がする/かちかちに凍る
からからと笑う/のどがからからだ
どちらの例も、「−と」が音・声を表わし、「−だ/に」のほうが状態を表
しています。「かちかち」のほうは、「そんな音がしそうな状態」ということ
で意味の関連がありますが、「からから」のほうは意味がずいぶん違います。
とんとんとたたく/話がとんとんと進む/収入ととんとんだ
「とんとん」では「−と」が音・変化の様子で、「−だ」が状態です。意味
はそれぞれ別ですから、学習者は注意が必要です。
かんかんと鐘が鳴る/日がかんかんと照っている
父はかんかんになって怒っている
この例では「−と」が状態も表わします。
「ぎゅうぎゅう」の場合は複雑です。
ぎゅうぎゅうと音がする
ぎゅうぎゅうと詰め込む
ぎゅうぎゅうに詰め込む
満員でぎゅうぎゅうだ
「−と」は音と「そんな音がするような様子で」ということで、「−に」の
ほうは「結果」の状態を表します。「詰め込んだ」結果が「ぎゅうぎゅう」な
のです。みな意味のつながりはありますが、微妙な使い方の違いがあります。
次の二つは、名詞の接尾辞のような用法があるものです。
油がたらたら流れる/不平をたらたら言う/不満たらたらだ
ほやほやと湯気が立つ/新婚ほやほやの二人
意味は関連性があります。
D.−/−と,−する、−だ/な/の/に
副詞・動詞・ナ形容詞の三つの用法がそろったものです。動きを表すものは
少なく、触覚など感覚的な意味が中心のものが多くなります。
つるつる、どろどろ、ぬるぬる、ふわふわ、べたべた、ほかほか、
ぴかぴか、ぐらぐら、ふらふら、よぼよぼ、きっちり、ぴったり・・
以上は文法的用法が違っても意味の違いが少ないものです。
つるつる(と)滑る/つるつるしている/つるつるだ
ぐらぐら揺れる/歯がぐらぐらする/歯がぐらぐらだ
みな共通した意味を持っていると言えます。
次は、副詞が音・動作の様子を表し、他が状態・性質を表すものです。
がさがさ、がたがた、がらがら、くしゃくしゃ、ぺらぺら・・・・
がさがさと音を立てる/手ががさがさしている/手ががさがさだ
がたがた(と)揺れる/体ががたがただ/がたがたするな
ぺらぺら(と)しゃべる/英語がぺらぺらだ/ぺらぺらした紙
前に例にあげた「かさかさ」「ぺこぺこ」もこの例です。この中でも、音と
状態に意味の関連があるものと、あまりないものがあります。
E1.−だ/な/の/に
へとへとに疲れる もうへとへとだ
めちゃめちゃにこわす/めちゃめちゃな状態
これらは「〜と」の形がありません。つまり、ナ形容詞とその中立形からで
きた「〜に」の形の副詞です。数は多くありません。
E2.−だ/な/の/に、−する
副詞の用法がなく、ナ形容詞と動詞のもの。動詞も状態を表します。
おなかがだぶだぶする/服がだぶだぶだ
あの時はまったくひやひやした/ひやひやだった
これも数は多くありません。
以上、品詞の違いによる意味の違いの有無を見てきました。グループによっ
て、またそれぞれの語によって用法と意味の広がりに個性があって、興味深い
ものです。擬態語というと、意味の微妙さばかりが話題になることが多いので
すが、以上見てきたように文法的特徴にも十分注意を払う必要があります。
なお、形のところで触れたように、時間的な性質の違いとしては、「ぴかっ
と」「がちゃりと」「ずしんと」などが短く、「ぴかぴか」「ごーんと」など
が継続的な事柄を表し、「V−ている」などといっしょに使えるかどうかの制
限が違います。
ライトがぴかっと光りました。
×ライトがぴかっと光っていました。
ライトがぴかぴか光っていました。
重い鐘の音がごーんと鳴り響いていました。
×重い鐘の音がごんと鳴り響いていました。
補説§12へ
参考文献
この章の内容は次の文献によっています。
野田時寛1987「擬音語・擬態語の意味と用法の関係について」『日本語学校論集』14号 東京外国語大学附属日本語学校
『外国人のための基本語用例辞典』文化庁
天沼寧編1974『擬音語・擬態語辞典』東京堂
浅野鶴子編1978『擬音語・擬態語辞典』角川書店
目次へ
主要目次へ