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補説§31

 §31.1 「てください」  §31.2  

§31.1 「てください」

「てください」が、意外なことに「依頼」には使いにくい、ということを述べている 文献の紹介をします。 新屋映子・姫野伴子・守屋三千代『日本語教科書の落とし穴』アルク 1999 p.30-32 [1]「てください」  「てください」は、「依頼」表現と考えている人が多いかもしれませんが、次のよう に「指示」「依頼」「勧め」に使える汎用型の形式です。   (1)図書を持ち出すときには、この書類に書き込んでください。(指示)   (2)すみませんが、手伝ってください。(依頼)   (3)どうぞ、たくさん食べてください。(勧め)  なんにでも使えて便利なようですが、実際にどのような場面で使うかを考えてみる と、(1)のような「指示」表現として使われることが多いようです。それに対して、聞 き手の好意に期待して、話してのために何かしてほしいと頼む「依頼」場面では使いに くいことに気づきます。例えば、次のような場合はどうでしょうか。   (4)この荷物をもってください。  依頼だとしたら、ずいぶん不躾な頼み方ですね。この表現はかなり指示寄りで、純 粋に相手の好意に期待しての依頼には向かないように思われます。しかし、丁寧に言 おうとして尊敬動詞を使い、「この荷物をお持ちになってください」にすると、「丁寧 な指示」のように聞こえ、かえって慇懃無礼な印象を免れません。 (3)のように、聞き手の利益のために発話される「勧め」の場合は、「依頼」と異なり、 動詞を尊敬語化することで、より丁寧に響きます。   (5)どうぞ、たくさん召し上がってください。 [2]「お〜ください」  「お〜ください」は、「お」がついていますから、なんだかとても丁寧なような気 がして、「これは『てください』よりもっと敬意をこめた依頼です」と説明してしま いそうになりますが、実は「お〜ください」は「指示」と「勧め」が中心で、「依頼」に は使いにくいようです。この点、「お〜になってください」と共通します。   (6)こちらにご住所とお名前をお書きください。(指示)   (7)どうぞお入りください。(勧め)  先に、「推薦状をお書きください」といわれると違和感がある、と書きました。でも、 何かの申し込みに行ったときに、(6)のように言われるのは、別になんともありま せん。推薦状と申込書で何が違うのかというと、推薦状は書くように「依頼」されてい るけれども、申込書は書くように「指示」されている点です。つまり、「お〜ください」 は、丁寧な指示には適切な表現ですが、依頼には不適切ということです。「お〜くだ さい」は、また(7)のような勧めにもよく使われます。  「推薦状をお書きください」が不適切なのは、この文型では、まるで丁寧に指示して いるか、聞き手のためになることを勧めているかのような印象を与えるためだったの です。 ▽「概説」の本文を書いたのは、この本が出版される前ですので、この本の内容は参考に  していませんが、だいたい同じ趣旨のことを書いています。  私が読んでナルホドと思ったのは、参考文献にある柏崎雅世のものです。

§31.2

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