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[補説§45]

 §45.1 従属節の定義さまざま §45.2 寺村の複文の定義   §45.3 『現代日本語文法6 第11部複文』の紹介  

§45.1 従属節の定義さまざま

 「従属節」という術語は、人によっていろいろに使われています。そのいくつかを下に紹介します。  
A.寺村(1981)『日本語の文法(下)』
 「節と節の意味的関係」    並列的関係(継起を含む) ┌─述語(ないし節全体)を修飾・限定する │ ┌─時・前後関係 主従的関係─┤ │ 原因・理由 │ │ 仮定・条件 │ │ 程度 │ └─述語の内容(「引用」) ├─名詞を修飾・限定する │ ┌─付加情報的 │ └─内容説明的 └─従節自体が名詞となる (p.19) ▽仮に名前を付ければ、次のようになります。    並列節    従属節  連用節           (引用節を含む)         連体節           (内の関係・外の関係)         名詞節
B.益岡・田窪(1992)『基礎日本語文法 改訂版』
複文はまず「主節」と「接続節」によって構成される。そして、接続節は、 従属節と並列節に分けられる。そしてさらに、従属節が下位分類される。    主節    接続節      並列節      従属節        補足節        副詞節        連体節 ▽「接続節」というのを別にすれば、分け方としては寺村と同じです。
C.仁田(1995)『類義表現の文法(下)』
   主節    従属節(副詞節・中止節・条件づけの節・接続節・時間節など)    埋め込み節    連体修飾節 ▽「従属節・副詞節」などの用語は一般の使われ方とは違っています。  「接続節」は上の益岡・田窪とは違います。  「埋め込み節」は、「名詞節」のこと。
D.橋本修(2003)「日本語の複文」『朝倉日本語講座5 文法機
   重文 (等位節)    複文  主節        従属節 a 接続助詞等を伴う連用修飾節(副詞節)            b 連体修飾節            c 文全体を名詞化する「の」節             d 引用の助詞「と」「って」等を伴う引用節            e 「か」を伴う疑問節            f その他 (p.185) ▽「疑問節」というのが独特です。  「名詞節」にあたるcは、なぜか「の」だけで、「こと」がありません。  
E.『文法の時間』村田美穂子編 至文堂 2005
   (執筆者:村田美穂子・光信仁美・佐藤雄一・梅林博人・佐藤尚子) ▽この本は複文の分類・定義に独特のところがあって、興味深い本です。  (全体の紹介は「1.文型の概観」の補説にあります。)  一つの述語で、単純な文が一つできる。しかし、一つの文が複数の述語をもつこともある。この ような文の、文末以外の箇所に置かれた述語は終止形をとることができない。文の中で、このよう な述語を含む部分を「節」と呼ぶ。    ・おじいさんは山で柴を刈り、おばあさんは川で洗濯をした。  この文は、下線で示したとおり、二つの述語をもつ文である。この文の「おじいさんは山で柴を 刈り」の部分は並列節という節である。並列節をもつ文を「重文」と呼ぶ。    ・花子が時計を壊して、私はとても困った。  この文も述語を二つもっている。この文の「花子が時計を壊して」の部分は連用節という節であ る。連用節をもつ文を「複文」と呼ぶ。    ・花子が壊した時計を修理に出した。  この文も述語を二つもっている。この文の「花子が壊した」の部分は連体節、「花子が壊した時 計」の部分は名詞節という節である。名詞節は、一つの名詞と同じようにはたらくものである。  本書では、節の種類と役割を次のように考えている。    節  並列節(重文を作る)       名詞節(名詞に準ずる)       従属節        連体節(名詞節を作る)                  連用節(複文を作る)                                  (p.14)  節とは、複数の述語をもった文の中で文末以外の箇所に置かれ、そのために終止形になれない述 語を含む部分のことである。  節には、たまたま文末に置かれず述語が連用形をとる並列節と、一つの名詞に相当する名詞節が ある。この二つの節については、第21回で学ぶ。  また、節には、名詞(体言)をくわしくする連体節と、文(述語)を詳しくする連用節がある。連体 節と連用節は文のほかの部分に従属してはたらくので、この二つを合わせて従属節と呼ぶ。    節  並列節 → 文に相当する       名詞節 → 単語に相当する       従属節(文の他の部分を詳しくする)  (名詞を詳しくする)連体節                          (述語を詳しくする)連用節    本書では、「従属節」を「文の他の部分に従属してはたらく節」と考える。これに該当するもの には、名詞(体言)に従属する連体節と、文(述語)に従属する連用節がある。従属節には、「名詞+ は」の形を用いることができないという制約がある。  並列節は文に、名詞節は単語に収斂されるため、節としての意味は薄い。節として文法的に重要 なのは、後続の名詞、あるいは文との関係の中ではたらく従属節である。                                  (p.180) 「連体節+名詞」の形のものが名詞節である。名詞節は文の中で一つの名詞と同じようにはたら き、専ら「ことがら」を表す。                                  (p.192) ▽「従属節」の範囲の違いはともかくとして、     連体節+名詞 = 名詞節  というのはオドロキです。「買ってきた本」は二つの節が重なっているわけです!  では、何のために「連体節」という用語が必要なのでしょうか。 同じようなことを、野田尚史が書いています。
F.野田尚史「単文・複文とテキスト」
   『日本語の文法4 複文と談話』岩波書店 2002  このように、連用節と名詞節、連体節は、それぞれ形も働きも違うものであるが、そ の違いは本質的なものではない。どの部分を節と考えるかによって、連用節になったり 連体節になったりすることがあるからである。また、同じ形が連用節とも名詞節とも考 えられることがあるからである。  どの部分を節と考えるかによって、連用節になったり連体節になったりするというの は、次のようなことである。たとえば、次の(51)の下線部の「大雪が降った日」を節と 考えると、時を表す連用節になるが、「大雪が降った」だけを節と考えると、「日」を 限定する連体節になる。その次の(52)でも、「大雪が降った日」は名詞節と考えること ができ、「大雪が降った」は連体節になる。  (51) 大雪が降った日、バスも電車ものろのろ運転だった。  (52) 大雪が降った日は日曜日だった。  同じ形が連用節とも名詞節とも考えられることがあるというのは、次のようなことで ある。同じ「大雪が降った日」でも、前の(51)の「大雪が降った日」は連用節になって いるが、その後の(52)の「大雪が降った日」は名詞節と考えることができるということ である。  ただし、同じ形が連用節と名詞節のように違う成分になるのは、節だけに見られるこ とではない。節でなくても、連用成分になったり名詞になったりすることがある。たと えば、次の(53)の「きのう」は時を表す連用成分に案っているが、その次の(54)の「き のう」は格成分の中の名詞になっている。  (53) きのうバスも電車ものろのろ運転だった。  (54) きのうは日曜日だった。                             (p.11-12) ▽これもびっくりです。では、何のために「連用節」とか「名詞節」とかいう概念を作 り出したのか。  何かの説明の中に「本質的な」という言い方が出てきたら、要注意です。どういう面 の、どういうことを指してそう言っているのか、よく確かめてみることが必要です。  それが「本質的」だというのは、著者がそう思っているだけ、ということがよくあり ます。「本質的でない」というのも同じです。そういう人は、何か別のものを「本質的」 と考えているわけですから。  「きのう」が名詞としても、副詞としても(あるいは、「副詞的に」)使われるからと いって、名詞と副詞の違いが「本質的なものではない」などということにはなりません。 名詞と副詞は、明らかに、違うものです。(この「明らかに」というのも、本当は、怪 しい説明です。単に、そう書いた人がきちんと説明できないだけ、である可能性があり ます。)    (52)の「大雪が降った日」は名詞節 というのは、いったい何を考えているのか。この「日」ははっきり名詞であり、「大雪 が降った」は連体節です。その全体を「名詞節」と考えるというなら、「連体節」とい う概念は不要になります。  (51)の場合は、また違います。    その日、大雪が降った。 の「その日」が格助詞をつけずに時を表していて、副詞的な表現に近づいているのと同 様に、(51)の「大雪が降った日」は連用節と見なしたほうが全体の節の分類の整合性が 保てる、ということなのです。  これを、   ア.大雪が降った日は、バスも電車ものろのろ運転だった。 とすることもできます。この場合も、「大雪が降った」は連体節です。  では、「大雪が降った日」はなぜ名詞節と言えないのか。まあ、言いたい人は言って もいいのかもしれませんが、そう言ってしまうと、そもそもなんのために「連体節」と 区別して「名詞節」というものを立てたのかがわからなくなります。  「名詞節」というのは、次のようなものを言います。    テレビを見るの/こと が好きだ。  (テレビが好きだ)    中国語を話すことができる。     (中国語ができる)    いつ行くか(は)、わからない。   (出発の日はわからない)  これらは、名詞が入るところに「補語+述語」つまり「文」に近い形のもの、「節」が 入っているので、「名詞節」というわけです。  では、「連体節」とはどういうものだったか。     昨日買った本を読んだ。  「本を読んだ」という(主)文の「本」を限定して、「どの本・どういう本」かを詳し く示しています。「前からある本」ではなく、「今日買った本」でもなく、「友達から 借りた本」でもない、ということです。  もう一度名詞節を見ます。    テレビを見るの/こと    中国語を話すこと    いつ行くか  これらは、「連体節」と言えないか。例えば、「中国語を話すこと」は「こと」とい う名詞を「中国語を話す」という連体節が修飾している、と言えないか。  そもそも、    ことを話す というのが「補語+述語」とはとりにくい、ということがあるのです。この「こと」は、 前に修飾することばがあり、それと合わさって全体で「名詞相当」になる、という働き をするものです。いわゆる「形式名詞」です。  繰り返しますが、     昨日買った本を読んだ。 の場合は、「本を読んだ」という形が主文として成り立つところへ、その「本」を修飾 する部分(連体節)がついたものです。  名詞節のばあいは、「ことができる」のではなくて、「中国語を話す」、それが「で きる」のです。意味の中心になるのは「こと」ではなくて、「中国語を話す」のほうで す。それを「名詞節」というのです。  「こと」でなく、「の」の場合はもっとはっきりします。    のがすきだ では何の意味もありません。「テレビを見る」、それが「好き」なのです。「の」は 「テレビを見る」を「名詞化」するだけの役割で、連体節を受ける名詞とは違います。  この「の」を「形式名詞」と考えることには、あまり賛成できませんが、「の」だ けで一つの品詞とするのも不経済ですし、「こと」の同類と見なしておきます。  疑問文が名詞の位置に来る場合、    いつ行くか(は)、わからない。 では、どう考えても連体節とは関係ありません。これは、「疑問節」として、名詞節と は別にする考え方もありますから、いっしょにはできないかもしれませんが、「名詞の 位置に節が来る」ということの考え方の参考にはなるでしょう。  で、名詞節と連体節は別に考えておいたほうがいいと思うのです。

§45.2 寺村の複文の定義

  寺村秀夫の複文の定義の問題を考えてみます。 寺村は、並列接続で主格補語が同じなら、述語が二つあっても単文とします。次のように書いています。  上のように考えると、たとえば、 (92) おやじが魚を炭火で焼き、酒の燗をする。 は、主格補語が一つで、それと述語動詞が二つ結びついているが、コトとしては一つであり、 したがって単文と考えることになる。これに対し、 (93) おやじが魚を炭火で焼き、かみさんが酒の燗をする。 は、一つの主格補語にその述語が一つ、もう一つの主格補語にその述語が一つある。つまり二 つのコトがテ形でつながって一つの文になっている。こういうのは、「複文」の一つと考える ことにする。 (92)のような単文を、述語も一つの単文、例えば(91)のような文と区別する必要があるとき は、「複述語」をもつ単文ということにする。」                     (『日本語のシンタクスと意味掘p.217)  寺村は別のところで単文も含めて細かく分けた分類案を出しています。  単文 1型 「地球ハ太陽ノ回リヲ好転シテイル。」 2型 「オジイサンガ山ヘ行ッテ、芝ヲ刈ッタ。」 複文 1型 シ、シテ形が、主たる文の述語と別の補語をもっている場合、並立節を含む文。 「オジイサンハ山ヘ行キ、オバアサンハ川ヘ行ク。」 2型 あとに続く活用形、スレバ、シタラで終わる節を含むもの。および、スル形、         イ形に条件のトが結びついた節を含む文。 3型 連体節を含む文。 「冬ノ夜空ニ見エタ星ハ・・・ 」 4型 接続節を含む文 「地球ハ太陽ノマワリヲ公転シテイルノデ、冬ノ・・・・・ 」 5型 引用節を含む文       (「日本語における単文、複文認定の問題」『寺村秀夫論文集機p.110) このような分類をする理由は、次のように述べられています。  単文の1型の中に用言のシ形、シテ形が含まれていても、その陳述度はゼロである。しかし 2型の中に含まれるシ形、シテ形は、わずかながら陳述度をもつ。以下、複文の1、2、・・・ と進むにしたがって、節の陳述度は高くなる。」                                (同論文p.111) この分類に対して感じる疑問は、「単文2型」を「複文」の最も簡単な型としていけない理由が あるのだろうか、ということです。上に引用した中で「魚を炭火で焼き、酒の燗をする」は「コ トとしては一つ」であると言っていますが、私には二つのコトとしか思えません。 学校文法の場合は、「主語−述語」が文を成り立たせると考え、したがって、それが節を成り立 たせる基本的構造ですから、主語が一つしかなければ節は一つであり、当然単文とみなされます。 寺村も主格補語がなければ「コトは成立しない」と言っています。 ただ、寺村は「〜と、〜」や「〜が、〜」などでは、主格補語が同じ場合でも「陳述度が高い」 ので、複文に入れるというところが違います。しかし、それと先程の「コトが成立」するかどう かという議論との関係ははっきりしません。

§45.3 『現代日本語文法6 第11部複文』の紹介 

   くろしお出版の大きな記述文法のシリーズで、「複文」の巻が出版されました。  私も、非常に期待していたものです。まず、目次を下に写しておきます。 『現代日本語文法6 第11部複文』くろしお出版2008 日本語記述文法研究会編 目次 ページ 第1章 複文の概観  第1節 複文とは  3  第2節 複文の類型と体系 5 第2章 補足節  第1節 補足節とは  13  第2節 名詞節 15  第3節 引用節 26  第4節 疑問節 37 第3章 名詞修飾節  第1節 名詞修飾とは 43  第2節 名詞修飾節の構造 51  第3節 名詞修飾節の機能 84 第4章 条件節  第1節 条件節とは  93  第2節 順接条件節 96  第3節 原因・理由節 121  第4節 逆接条件節 146 第5章 時間節  第1節 時間節とは  165  第2節 同時を表す時間節 169  第3節 期間を表す時間節 184  第4節 前後関係を表す時間節 195  第5節 そのほかの時間節 222 第6章 目的節  第1節 目的節とは 233  第2節 目的節を表す形式 233 第7章 様態節  第1節 様態節とは 239  第2節 様態節を表す形式 240 第8章 等位節・並列節  第1節 等位節・並列節とは 253  第2節 等位節 257  第3節 並列節 273  第4節 テ形・連用形による接続   279  第5節 等位節で文を終わる言い方  290 ▽「複文のテンス」に関する問題は、第3巻『アスペクト・テンス・肯否』にあります。 △分類について  「従属節が主節に対して果たす役割によって、複文は4種類に分かれる。」(p.6)    補足節    名詞節 引用節 疑問節    名詞修飾節  格成分名詞修飾節  内容補充修飾節 相対名詞修飾節 付随名詞修飾節    副詞節    原因・理由節 順接条件節 逆接条件節 時間節 目的節 様態節    等位節・並列節  ということですが、面白いのは「等位節」と「並列節」を分けていることです。   「主節に対して従属度が低く、対等に近い関係をもつ節を等位節という。また、    主節以外のほかの節と対等の関係で並べられた節を並列節という。」(p.253)  略した例をあげると、      等位節  〜だが、〜だ。   並列節  〜たり、〜たりする。  ということです。なるほど。  あと、名詞修飾節(連体節)の下位分類の名づけがいかにも堅苦しい感じですね。  引用節を補足節に入れているのは、一般的な考え方なのでしょうか。
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