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53.程度・比較・限定
53.1 程度:ほど・くらい
53.2 比較:より・ほど
53.3 限定:だけ・ばかり・しか
53.1 程度:ホド・クライ
53.1.1 交換できる場合 [N/V ほど/くらい 〜Nはない]
53.1.2 交換できない場合 [〜ば〜ほど]
53.2 比較:ヨリ・ホド
53.3 限定
53.3.1 ダケ 舛世韻澄´◆舛世院◆繊 ´〜だけに/だけあって
53.3.2 バカリ
53.3.3 シカ
53.1 程度:ホド・クライ
「程度」は、前の「様子」に近いものですが、主節の述語に対して連用節が
述語の程度を表わすものです。単文での程度の副詞に当たります。「ほど」と
「くらい(ぐらい)」を使います。
「ほど」「くらい」が名詞などをうける用法は「18. 副助詞」で扱いました。
ここでは述語をうける用法を見てみます。
53.1.1 ホド・クライが交換できる場合
「ほど」と「くらい」が交換可能な用法があります。形容詞や動詞によって
表される状態の程度を「V−ほど/くらい」が示します。「非常に〜」である
ことを、印象的に、多少極端な言い方で表します。
この「V」の内容は、実際のことである場合と、単なるたとえの場合があり
ます。否定形も受けられます。
まず、文末の述語を修飾している例から。
あの映像は悲しくなるほど/くらい 美しい。
歩けないほど/くらい、酔ってしまった。
このテーブルは10人でも持てないほど/ぐらい 重い。
ここのラーメンは新聞にも載ったほど/くらい 有名だ。
殺してやりたいほど/くらい 憎い。
日曜にも働かなければならないほど/くらい 忙しい。
死ぬほど疲れた。(×死ぬくらい)
初めの例で「あの映像が美しい」程度は、「あまり美しくて悲しくなる」と
いうことになる・・・(ここでどうしても「ほどだった」と言いたくなるところで
す)レベルだった、ということです。「死ぬほど」は慣用的な表現として固定
しているようで、「くらい」では言えません。
「くらい」のほうが「ほど」より少し話しことば的です。
「しそうだ」「V−かもしれない」を受けることができます。
うちの子は将棋が好きで、もう私も負けそうなほど強くなった。
私たちにも買えるかもしれないくらい安くなってきました。
「〜だろう」「〜らしい」は使えません。
あとに「に」をつけて、「V−ほどに」「V−くらいに」とすることもでき
ます。そうすると少し重々しい感じがします。
疑問語は、「どれ/どの くらい」「どれほど」です。
その恐竜はどのくらい大きかったんですか。
これらの「ほど」と「くらい」はお互いに入れ換えることができます。以下
の例でも同様です。
次に、文末以外の位置にある述語を修飾する場合の例。
びっくりするほどきれいに撮れた。(びっくりするくらい)
知らない人はないほど有名な話だ。
向こう岸が見えないくらい広い川だ。
やめたくなるくらいきつく、つらい仕事です。
いやになるくらい面白くない映画だった。
一つもできなかったほどむずかしい試験だった。
最初の例で「びっくりするほど」が修飾している「きれいに」は、それ自体
が「撮れた」の修飾語になっていますが、「びっくりするほど」の修飾語とい
う役割は変わりません。修飾語の修飾語になっています。
この「ほど」「くらい」は「だ」をつけて文末におくこともできます。
あの映像は(とても)美しくて、悲しくなるほどだ。
酔ってしまって、歩けないほどだった。
箱は重くて、一人では持てないくらいだった。(〜くらい重い)
その苦しさは、耐えきれないほどだった。(〜ほどの苦しさだった)
上の三つの例は「〜て」の形を受けています。「原因」の「〜て」です。
「〜ので」でも言えますが、二つの節の関係が直接的なので、「〜て」のほう
が自然な感じがします。
最後の例は名詞を受けていますが、「苦しさ」は「苦しい」と同じようにそ
の程度を考えることができます。
また、「〜ほど/くらいのN」の形にもなります。
食べきれないほど/くらい の食べ物
この場合はもちろん「食べきれないほどたくさんの」という意味合いです。
息苦しくなるほどの映像美 (〜ほど美しい)
一人では持てないほどの重さ
向こう岸が見えないほどの(広い)川
この「広い」は省略できます。「〜ほどの川」だけで、広さが問題になって
いることがすぐに了解できるからです。また、「〜ほど広い川」でもいいわけ
です。
「〜だ」が「〜になる」になる例。
コートが要らないぐらいになった。(〜ぐらい暖かくなった)
枝が伸びて、屋根に届くほどになった。(〜ほど長くなった))
それぞれ、「暖かく」「長く」の省略と考えられます。
[N/V ほど/くらい 〜Nはない]
他にないのですから、「いちばん・・・だ」という意味を表します。
この湖ほど美しいところはない。
この問題ほど難しい問題はない。
あいつをだます(こと)ぐらい/ほど 簡単なことはない。
「こと」が入れば名詞節を受けることになります。
53.1.2 ホド・クライが交換できない場合
さて、「ほど」と「くらい」の言い換えのできない場合があります。
プロと比べられるほど上手ではありません。
?プロと比べられるくらい上手ではありません。
プロと比べられるほど/くらい 上手です。
「くらい」はどうも安定しません。単に否定だからだめだということでもあ
りません。
食べる物が買えないほど/くらい お金がなかった。
皆が途中で帰ってしまうほど/くらい つまらない講演だった。
言いかえられる例では「Aほど/くらいB」のAとBの関係は「BだからA」
という関係です。
お金がない→食べ物が買えない
つまらない→帰ってしまう
それに対して、上の言いかえられない例は、
上手ではない→プロと比べられる
となりません。否定をAとBの関係の外に出して、
[上手だ→プロと比べられる]ではない
と考えればいいわけです。もとの文に戻して、
[プロと比べられるほど上手]ではありません。
のような構造だと考えられます。
ヨットが買えるほどお金持ちではないよ。(×くらい)
ヨットが買えるほどのお金はないよ。(?くらいの)
僕のお小遣いで買えないほど高くはなかった。(×くらい)
どうしても結婚したいというほど愛してはいなかった。(×くらい)
「ほど」を文末に移した例。
速いといっても、入賞するほどではなかった。(×くらい)
次の例も「くらい」では言えません。
君が言うほど難しくなかったよ。
×君が言うくらい難しくなかったよ。
修飾される述語を肯定にすると、「ほど」でも変です。
×君が言うほど難しかった。
「難しい」程度は「君が言う(言った)」では示せません。
これは否定と共に使われる「ほど」で、「比較」に近い文型です。
上でも簡単に述べましたが、これまで多く見てきた「ほど・くらい」の言い
換えのできる例の場合は、
びっくりするほど難しかった。
のように、「AほどB」のAとBの関係は、
とてもBなので、Aするほどだ
となり、AはBの程度を強く印象づける内容になっています。
しかし、この用法は、A程度をかなり高いものとして予想した上での表現
で、実際にはBはその程度まで届かない、という否定的な内容です。
政府が繰り返し強調したほど重大な問題ではなかった。
行く前に想像したほどは大きくはなかった。
現地へ行ってみると、言われているほど汚染は進んでいなかった。
これらはそれぞれ、
政府が繰り返し「重大だ」と強調したほど〜
行く前に「大きいだろう」と想像したほどは〜
「汚染がひどい」と言われているほど〜
というようなことが前提になっています。「ほど」の前の動詞は言語・心理関
係の動詞で、「引用」のできる動詞です。(→「58. 引用」)実際に知る前に
「程度が高い」という予測があったが、実際はそうではなかった、というのが
この用法です。
単文の比較の文型で、
AはBほど大きくない
というとき、Bはある程度「大きい」ものであるのと並行しています。
「君が言うほど〜」の例も、
君が「難しいぞ」と言う(言った)ほど難しくなかった。
と考えられますが、「言った」を「言う」で言えるのは、この動詞の特性です。
「見る」は引用の動詞ではありませんが、「〜を〜と見る」という文型に
なる動詞です。
この仕事は、はたで見るほど楽じゃないよ。(×くらい)
(周りの人が、この仕事を「楽だ」と見るほど、楽じゃない)
次に、「くらい」のほうが自然な例。「最低」を示す「くらい」は「ほど」では
言えません。
ここに入っちゃいけない(こと)ぐらい知ってるでしょう?
入賞したぐらいで喜んではいけない。
休みの日でも警備員をおくぐらいできるだろう。(ぐらいのことは)
彼女じゃあ、即席ラーメンを作るくらいが関の山だ。
ちょっとビールを飲むくらい、いいじゃないか。
「〜ことくらい」または「〜くらいのこと(+助詞)」でも言えます。前者は
「名詞節+くらい」で、つまりは「Nくらい」と同じことになります。
市の大会で入賞するぐらい、大したことじゃない。
「入賞することは大したことではない」という意味ですが、
市の大会で入賞するほど、大したことじゃない。
とすると、「このこと(何かはわかりませんが)は、市の大会で入賞することほ
ど素晴らしいことではない」という、まったく違った意味になります。
また、「ちょうどその分くらい」という意味の場合も、「ほど」では言いに
くいか、「ほど」で言うと意味が多少変わってきます。
この小さな店がちょうどいっぱいになるぐらい、客が来た。
車ならちょうど10分かかるくらいの距離だ。
「会費はどのくらいになりそうですか」「そうですねえ。1万円で
お釣りがくるくらいです」
「ほど」の「君が言うほど難しくなかった」に対応する「くらい」の例。
ちょうど君が言っていたくらい難しかったよ。
ちょうど君が言っていたくらいの難しさだったよ。
「君が『このぐらい難しい』と言っていた」のと同じくらい難しかった、と
いう意味です。なぜか名詞文にしたほうが安定した感じがしますが。
[〜ば〜ほど]
「ほど」は「AばBほど」の形で、Aの程度が上がるに従って、Bの程度も
上がることを表す文型に使われます。「Aば」が省略された形でもよく使われ
ます。
飲めば飲むほど、体が軽くなる。
安くなればなるほどたくさん売れる。
南へ行くほど暖かくなる。
大きいほどいいんですが。 (大きければ〜)
53.2 比較:ヨリ・ホド
単文の「17.比較構文」のところでも述べたように、そしてすぐ上でみた、
「ほど」「くらい」の用法の広がりを見てもわかるように、程度と比較は関係
の深いものですので、程度の連用節に続けて比較構文をとりあげることにしま
す。
比較構文で名詞が入るところに節を入れることができます。これは名詞節の
一つの用法と考えることもできますが、「の」も「こと」も使わず、述語に直
接「より」が接続できるところに特徴があるので、名詞節とは別にしておきま
す。
まず、動詞が入る例から。「AよりBほうが」または「BほうがAより」の
形。
渋滞すると、車より自転車のほうが速い。(名詞の例)
渋滞すると、車に乗っているより降りて歩く/歩いた ほうが速い。
店で買うより自分で作る/作った ほうが安く上がる。
でかけるより家で寝ている/いた ほうが楽だ。
手紙を書くより電話する/した ほうが時間の節約になる。
ワープロを使うほうが手で書くよりかえって時間がかかるよ。
手で書くよりワープロを使ったほうがきれいに書けるよ。
宗教の教えは、人を生かすより殺すほうが多い。(×殺した)
車を買うほうが免許をとるよりやさしい。(×買った)
離婚するほうが結婚するよりはるかに難しい。(×離婚した)
単文では、「NよりNのほうが」という形でした。節が入ると、
A(現在形)より B(現在形/過去形)ほうが〜
となり、Bの現在形と過去形は多くの場合入れ替え可能です。ただ、過去形の
ほうが仮想的で、「望ましいこと」という意味合いがあり、「忠告」の「V−
たほうがいい」に近くなります。
「望ましい」という意味合いがない、「生かすより殺すほうが」以下の例で
は「殺したほうが」は言えません。もちろん、それぞれの動詞が過去形になら
ないということではありません。
むだに苦しませるより、早く殺したほうが動物にとってもいいんだ。
離婚したほうが、憎み合って暮らすよりずっと精神的にいいさ。
「AはBより」の形。Aは「〜の/こと」の名詞節になります。
失敗から学ぶことは、たまたま成功してしまうより価値がある。
車を買うのは、免許をとるよりやさしい。
離婚するのは結婚するよりはるかに難しい。
「どちら/どっち」による疑問文は「〜の/こと」名詞節を使います。
車に乗るのと、歩くのと、どちらが好きですか。
でかけるのと、家で寝ているのと、どっちがいい?
人を疑うことと、信じることとでは、どちらがより難しいことだろ
うか。
節内の述語が動詞以外の例。ナ形容詞では「である」または「なの」を使い
ます。名詞述語は「である」を使います。「こと」を入れれば名詞節となり、
単文の比較構文と同じになります。
女性は美しいよりやさしいほうが私には望ましい。
男性にとって、妻がきれいであるよりその性格がおだやかなほうが
重要なことだ。
病気で暇(なの)より、元気で忙しいほうがいい。
安い(こと)よりおいしい(ことの)ほうが大事(なこと)だ。
この車は、音がうるさいことより排気ガスが多いことのほうが大き
な欠点だ。
cf. この車は、その大きさより燃費の悪さが大きな欠点だ。
忙しい金持ちであるより、暇な貧乏人であるほうがいい。
私は指導者であるより、一市民として参加したい。
これまでの例とはちょっと違った形の例文を少しあげておきます。主節の述
語や節の助詞が違うものです。
給料を上げることより、休暇を増やすこと(のほう)を要求した。
初任給を上げるより、休暇を増やすことで大学生を引きつけた。
自分で努力することより、幸運に恵まれることに頼っている。
夫の死を嘆き悲しむより、子どもを育てるのに忙しかった。
私は、腹を立てるよりもあきれかえってしまった。
うちへ帰るよりもまず一杯だ。
手で書くより、ワープロで書くといいよ。
人に頼るより、自分でやってみることを考えたらどうだ。
話を聞くより、ただ相手の顔を見てばかりいた。
最後のほうは、「〜より」があるだけで、比較の文型とは呼びがたいもので
す。
否定は「名詞節+ほど」を使います。
禁煙を始めるのは、続けることほど難しくない。何度もやった。
冒険をして失敗することは、恐れて何もせぬことほど悪くない。
子どもを育てるのは、子供を作ることほど簡単ではありません。
次の例は、前にとりあげた「程度」の例です。比較ではありません。
車を運転するのは、思っていたほど難しくなかった。
何事も実行するのは口で言うほどやさしくない。
「より」を使うこともできます。「こと」はなくてもかまいません。
三日後の天気を正確に当てることは、ロケットを月に当てるよりも
やさしくないのです。
比較で「同程度」を表すには、名詞節にしてしまって、
山道を降りるのは、登るのと同じくらい注意が必要だ。
のように、
〜の/こと は 〜の/こと と同じくらい〜
という形にします。
これは単文の比較表現の、
AはちょうどB(と同じ)くらい難しい。
AはちょうどB(と同じ)くらいの難しさだ。
に対応する文型です。
53.3 限定
単文の「18.副助詞」で取り上げた「だけ・ばかり・しか」が述語を受ける
用法を見てみましょう。基本的な意味は「限定」です。連用節としての用法だ
けでなく、「〜だ」の形で文末に来る用法、つまり助動詞的な用法もここでみ
ていきます。
53.3.1 だけ
屐舛世韻澄
「Nだけ」の一つの意味は、述語の表す意味に該当する名詞はこのN以外
にない、というような意味でした。「〜だけだ」の形で述語を受ける場合も、基
本的には同じです。
事柄の描写として正しいのはこの述語以外にない、という意味を表します。
「〜だけで、〜」の主節は、否定的とは限りません。
新幹線なんて速いだけだ。
眠いので寝ていただけです。病気ではありません。
この辞書は厚いだけで、内容はさっぱりだ。
時々会議に出るだけで、外には何もしなくていいんですよ。
参考書を買ってきただけで、ぜんぜん読んでいない。
漢字がいくつかわからないだけで、内容は全部わかりました。
な形容詞は連体形の「−な」を使います。
デザインがちょっと変なだけで、性能は最高だ。
名詞節の「〜こと」ももちろん受けられます。
私の今日の仕事は会議に出席することだけです。
主節は、推量や命令や意志を表すこともできます。
あいさつがちょっとあるだけで、あとは気楽な会になるだろう。
おもちゃは見るだけで帰ってきなさい。買っちゃだめよ。
彼女と週に一度会うだけで我慢しよう。毎日会ったら勉強できない。
「Aだけでなく、B」の形で、もう一つの述語も成り立つことを表します。
この部屋は明るいだけでなく、風通しもいいね。
このリンゴは形が悪いだけじゃなくて、味も悪い。買って損した。
見舞いに来ただけでなく、仕事の話を持ってきてくれた。
ただ量を走るだけでなく、フォームを考えて走りなさい。
最初の二つの例は、類似のことを単純に並べただけなので「〜し、〜」に置
き換えられます。主節のほうに「Nも」が現れています。最後の例は述語は同
じ「走る」ですが、修飾語の内容が違います。「だけでなく」で否定されてい
るのは「量を(走る)」です。これは「〜し、〜」では言えません。また、主節
に命令や意志の表現を使うことができます。
「だけだ」の「だ」が他の形になり、他の文型との組み合わせもいろいろで
きます。
見るだけの客
行って帰ってくるだけの仕事
安いだけなら、ほかにもある。
安いだけでは、売れない。
試合に出られただけで十分です。(〜で十分だ)
一度失敗しただけだろう?まだまだこれからだよ。
口で言うだけならかんたんだ。
ちょっと顔を出してくれるだけでもいいんだけどなあ。
叱るだけじゃダメだ。たまにはほめてやらないと。
「V−だけにする」という表現もあります。
今日は仕事の手順を決めるだけにして、作業は明日からにしよう。
今回は会って話すだけにしよう。取引は別の機会にしたい。。
慣用的な表現で、「〜だけがNだ」という言い方があります。
足が速いだけがあいつの取り柄だ。
おまけが付いているだけが魅力のお菓子だが、子供は欲しがる。
大きいだけが売りものの冷蔵庫だね。工夫がないね。
◆屐舛世院◆繊
「Nだけ」のNが分量の時、「ちょうどその分」という意味がありました。
「それ以上ではない」ということですが、否定的な評価はありません。述語を
受ける場合にも、同じような使い方があります。「ちょうどその分」です。
テレビも見られるだけ、こっちのパソコンのほうが得だ。
そう言われるだけ、評価されているということだ。
相手にしてくれるだけいいよ。
角が丸くなっただけ、持ち運びに便利な形になった。
ここにあるだけ、全部使ってしまおう。
まだ余力を残しているだけ、こちらに勝ち目がある。
同じ動詞が「だけ」の前後に使われる形があります。最大限という意味合い
になります。前の動詞が可能形や「V−たい」の形をとることが多いです。
「のこと+助詞」が「だけ」の後ろに入ることもあります。
手に持てるだけ持った。
やれるだけ/できるだけ(のことを)やってみろよ。
言いたいだけ言えばいいさ。
次は「最大限」ではなく、「ちょうどその分」です。
こんな本でも、出せば出しただけの価値はある。
やるだけ(のこと)はやった。
違う動詞の例。
カバンに入るだけ詰め込んだ。
欲しいだけあげるよ。
要るだけ持っていっていいよ。
後の動詞が「V−てみる」になる場合も多くあります。こちらは最低限です。
ただし、否定的な意味合いはありません。
会うだけ会ってみてください。
どんなものか、見るだけ見てみよう。
話を聞くだけ聞いてみよう。
一応、見るだけは見たけどね。あまり大したことはないね。
「V−ばVほど」の文型の「ほど」のところに「だけ」を使ってほぼ同じ意
味を表すことができます。
やればやるだけ上手になる。
使えば使うだけ少なくなる。
「すればするほど」「すればするだけ」を比べると、ほぼ同じように思いますが、いろいろ違った語や形式にすると、多少の違いが現れるようです。
まず、「〜ほどのN」は言えそうにありませんが、「〜だけのN」は言えます。
その場合、「しただけの」のように過去形が使えます。
努力すれば努力しただけの効果があるものだ。
×努力すれば努力したほどの(努力するほどの)効果があるものだ。
この例から感じられると思いますが、「AほどB」のほうは、Aの程度が増すとBの程度も増す、それが一方向的であり、「どんどんそうなる」ということを強める言い方であるのに対して、「AだけB」のほうは、Aの程度の変化の分に「相当する分」、Bの程度も変化する、というような意味合いなのではないでしょうか。
これは、「だけ」が「限定」であるということによるのだろうと思います。
金があればあるだけ使ってしまう。(その分全部) 「あっただけ」も可
金があればあるほど使ってしまう。(「どんなに多くても」多さを強調)
金が入れば入るだけ(入っただけ)、その日のうちに使ってしまう。
?金が入れば入るほど、その日のうちに使ってしまう。
この例の場合、「程度」と言うより「分量の多さ」と言ったほうがいいでしょうか。
この女優、見れば見るほど、いい女だねえ。
?この女優、見れば見るだけ、いい女だねえ。
これが変なのはなぜでしょうか。「見る」ことの分量に対応する「いい女だという思いの強さ」が想定できないからでしょうか。
[〜だけに/だけあって]
「18.副助詞」でも「Nだけに/だけあって」の形を出しましたが、それが
節を受ける例です。
「AだけにB」は、特徴のあるAという事実から、当然の結論としてBとい
う判断が出てくる、という意味を表します。「〜からこそ」にほぼ置き換えら
れます。
話が急に決まっただけに、準備が大変だ。
なかなかおいしかっただけに、閉店とは残念だ。
あと少しで同点、というところだっただけに、惜しかった。
内情を知っているだけに、批判はしにくい立場だ。
最重要の課題であるだけに、慎重な対応が必要だ。
同じ名詞を繰り返して、「NがNだけに」という形で、「そのNが特別なN
だから、当然〜」という意味を表します。
昨日の事件は起きた場所が場所だけに、日本中の注目を集めている。
この映画は、主役が主役だけに大当たり間違いなしだ。
「〜だけあって」は、あるNに関して、その程度が高いことを予想させる評
判や様子があることを示し、主節のほうは実際にその通りであることを表しま
す。「〜だけのことはある/あって」の形も使われます。「さすが(に)」がよ
く一緒に使われます。
この画家はさすがに有名なだけあって、高い値段が付いているね。
偉そうなことを言っているだけあって、確かに実力はあるねえ。
さすが才能のある作家が長い年月をかけただけあって、いい作品だ。
なるほど、自慢するだけのことはある。最高にうまいラーメンだ。
53.3.2 ばかり
基本的には「だけ」の,汎韻犬茲Δ瞥冕,任后「〜ばかりだ」はそれ以外
のことが起こらない、という否定的な意味を表します。「〜ばかりで、〜」の
形も多いです。その場合、主節にも否定的な内容が来ます。過去形・否定形は
使いません。
単身赴任の日曜日、ただ家族のことを思うばかりだ。
彼は文句を言うばかりで、ちっとも仕事をしない。
シルクロード。ただ砂漠が広がるばかりだったが、感動した。
こうなったら、後はひたすら祈るばかりだ。
ただ見ているばかりで、何もできなかった。
これは安いばかりで、性能は良くない。
楽な仕事だけれども、退屈なばかりでいやになってきた。
主節に命令や意志などは来ません。推量は使えます。
どうせ人が多いばかりで、面白いことはないだろう。
×ちょっと見るばかりで、すぐ帰ってきなさい/来よう。(○だけで)
「〜ばかりでなく」の形があり、「〜だけでなく」とほとんど同じ意味で使
われます。「〜ばかりか」の形でも同じ意味で、少し書きことばです。いいこ
とにも悪いことにも使えます。主節に「Nも」がよく使われます。
この果物はおいしいばかりでなく、香りもいい。
いつも顔を出すばかりでなく、必ずおみやげを持ってくる。
彼女は、テニスが得意なばかりか、スキーも一級の腕前だ。
顔を出さないばかりか、電話もしてこない。
「〜ばかりが(〜ない)」の形もよく使われます。あとに否定的な内容が来
ます。「〜だけが」に置き換えられます。
早いばかりがいいとは言えない。
目立つばかりが個性じゃない。
このトランクは大きいばかりが取り柄で、かさばって困る。
「V−ばかりだ」はいくつかの意味があります。前に「24.10 V−たばかり
だ」という文型をとりあげました。それと形の上で対応する「V−るばかりだ」
には、3つの用法があります。
まず、最初に出した「〜だけだ」に近い意味のもの、次に、ある方向への変
化ばかりが起こる、という用法があります。悪いことが多いようです。
毎年、トシと体重が増えるばかりだ。
考えれば考えるほど、わからなくなるばかりだ。
この地区の人口は減って行くばかりで、高齢化が進んでいる。
もう一つの用法は、「外の準備は終わって、残っているのはこのことだけだ」
というような意味を表します。あまり多くは使われません。
準備は全部終わって、後は始めるばかりだ。
留学の手続きをみなすませ、後は出発の日を待つばかりだ。
豪華な料理が並べられ、乾杯の合図を待つばかりになっている。
「〜ばかりに」の形で「理由」を表す用法は「50.8.1 〜ばかりに」で説明
しました。「そのほかのことのためでなく」というような意味合いが、限定と
関係するのでしょう。
「V−てばかりだ/ている」という形もありました。これも「外のことはせ
ずに」という限定の意味合いがあります。「44.2(複合述語と)他の要素との
関係」というところでかんたんに触れました。
最後に、ちょっと特別な形で「V−んばかりに」というのがあります。大げ
さな、古い言い方という感じがします。この「ん」は否定の「ぬ」で、「V−
ぬばかりに」でも使われます。動詞の形は「V−ずに」の場合と同じです。
「ほとんどそれに近い状態だ」という意味です。
まるで「お前のせいだ」と言わんばかりの言い方だった。
その時、核弾頭ミサイルはまさに発射せんばかりになっていた。
53.3.3 しか
「動詞+しか」の形は用法の狭いものです。他に取り得る選択肢がない、と
いう場合に使われます。文末の否定は「〜しかない」または「〜しか〜Nがな
い」という形になります。
もう会社をやめるしかなかった。
ただ謝るしか(しかた/方法 が)なかった。
その山道を行くしか逃げる道はなかった。
次の例は、「人に頼ることを考える」という「〜こと」の名詞節を使った文
に「しか」を使っただけで、ここで取り上げた「動詞+しか」の例とは違う文
型です。
彼はいつも人に頼ることしか考えない。
[参考文献]
野田時寛2001「複文研究メモ(5) 程度・比較構文」『中央大学論集』22
井本亮1999「「ほど」構文の解釈と主文の有界性について−述語動詞句の動詞分類を中心に−」『筑波日本語研究』4
井本亮2000「連用修飾成分「ほど」句の用法について」『日本語科学』8
安達太郎2001「比較構文の全体像」『広島女子大学国際文化学部紀要』9