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一茶の俳句集

Font used: DF教科書体w4



天明

1788年


天明八年

永き日や水に画を書鰻掻き

出代りや蛙も雁も鳴別れ

舞蝶にしばしは旅も忘けり

淋しさはどちら向ても菫かな

色鳥や木々にも花の放生会

苔の花小疵に咲や石地蔵


寛政

1789年 1790年 1791年 1792年 1793年 1794年 1795年 1796年 1797年 1798年 1799年 1800年


寛政一年

木々おのおの名乗り出たる木の芽哉

象潟もけふは恨まず花の春

騒がしき世をし祓つて遅桜

酔つてから咄も八重の桜哉

象潟や朝日ながらの秋のくれ

象潟や島がくれ行刈穂舟


寛政二年

三文が霞見にけり遠眼鏡

最う一里翌を歩行ん夏の月

かんこ鳥昼丑満の山路かな

今迄は踏れて居たに花野かな

山寺や雪の底なる鐘の声

汐浜を反故にして飛ぶ千鳥かな


寛政三年

陽炎やむつましげなるつかと塚

雉鳴て梅に乞食の世也けり

青梅に手をかけて寝る蛙哉

浦々の波よけ椿咲にけり

華の友に又逢ふ迄は幾春や

華のもと是非来て除掃勤ばや

山下て桜見る気に成にけり

五月雨や雪はいづこのしなの山

門の木も先つつがなし夕涼

時鳥我身ばかりに降雨か

閑古鳥必ず我にあやかるな

蓮の花虱を捨るばかり也

茨の花ここをまたげと咲にけり

きさがたや浪の上ゆく虫の声

吹降や家陰たよりて虫の声


寛政四年

松竹の行合の間より初日哉

行春の町やかさ売すだれ売

春風や尾上の松に音はあれど

いつ逢ん身はしらぬひの遠がすみ

白雲のかすみ吹抜く外山哉

しら浪に夜はもどるか遠がすみ

畠打が焼石積る夕べかな

うたかたや淡の波間の平家蟹

剃捨て花見の真似やひのき笠

父ありて母ありて花に出ぬ日哉

もし降らば天津乙女ぞ花曇

白雲の桜をくぐる外山哉

日盛りや芦雀に川の音もなき

夏の夜に風呂敷かぶる旅寝哉

涼しさや只一夢に十三里

涼しさや見るほどの物清見がた

しづかさや湖水の底の雲のみね

雲の峰の中にかみなり起る哉

寝せ付て外へは出たり夏の月

打ち解る稀の一夜や不二の雪

牛車の跡ゆく関の清水哉

みやこ哉東西南北辻が花

川中に床机三ッ四ッ夕すずみ

狐火の行方見送るすずみ哉

月影や赤坂かけて夕すずみ

能い女郎衆岡崎女郎衆夕涼み

馬の屁に目覚て見れば飛ほたる

通し給へ蚊蠅の如き僧一人

浜松や蝉によるべの浪の声

昼顔やしほるる草を乗越々々

散ぼたん昨日の雨をこぼす哉

梅の木の心しづかに青葉かな

塔ばかり見へて東寺は夏木立

船頭よ小便無用浪の月

松島や三ツ四ツほめて月を又

東西南北吹交ぜ交ぜ野分哉

雨を分て夕霧のぼる外山哉

おり姫に推参したり夜這星

負角力其子の親も見て居るか

鎌倉や今はかがしの屋敷守

人去つて万灯きへて鹿の声

岩間やあらしの下の虫の声

山紅葉入日を空へ返す哉

関処より吹戻さるる寒さ哉

浮草と見し間に池の氷かな

夕風や社の氷柱灯のうつる

外堀の割るる音あり冬の月

山寺や木がらしの上に寝るがごと

外は雪内は煤ふる栖かな

遠乗や霰たばしるかさの上

初霜や乞食の竈も一ながめ

初霜や蕎麦悔る人めづる人

翁さびうしろをあぶるほた火哉

ほたの火や糸取窓の影ぼうし

わらつとの焼飯あたたむるほた火哉

冬枯に風除作る山家哉


寛政五年

花じやぞよ我もけさから三十九

君が世や旅にしあれど笥の雑煮

嬌女を日々にかぞへる春日哉

陽炎に敷居を越る朝日哉

里の子が枝川作る雪解哉

命也焼く野の虫を拾ふ鳥

畠打が近道教ゆ夕べ哉

鳥も巣を作るに橋の乞食哉

夕されば凧も雲雀もをりの哉

雲に鳥人間海にあそぶ日ぞ

岩が根に蛙の眠る真昼哉

寝転んで若草摘る日南哉

花椿落来る竹のしげみ哉

寝心に花を算へる雨夜哉

吹降や花に浴びせるかねの声

蛇出て兵者を撰る花見哉

涼しさや欠釜一ッひとりずみ

夏の月明地にさわぐ人の声

山颪家々の幟に起る也

更衣しばししらみを忘れたり

青すだれ白衣の美人通ふ見ゆ

夜仕事や子を思ふ身は蚊屋の外

子に肩を間摩す人あり門涼み

蚊を焼くや紙燭にうつる妹が顔

只一ッ耳際に蚊の羽かぜ哉

出る枝は伐らるる垣のわか葉哉

君が世や茂りの下の那蘇仏

菊月や山里里も供日酒

酒呑まぬ吾身一ッの夜寒哉

歯噛みする人に目覚て夜寒哉

秋の夜や旅の男の針仕事

さらぬだに月に立待惣稼哉

花の原誰かさ敷る跡に哉

手叩て親の教ゆるをどり哉

湖や鴛の側ゆく夜這星

落し水魚も古郷へもどる哉

鞍壷に三ッ四ッ六ッいなご哉

きりぎりすしばし布団のうへに哉

遠方や枯野の小家の灯の見ゆる

君が世や寺へも配る伊勢暦

君が世やから人も来て年ごもり

冬篭り鳥料理にも念仏哉

思ふ人の側へ割込む炬燵哉

すぎはひやほた一ッ掘に小一日

糞土より梅へ飛んだりみそさざい

冬枯やあらしの中の御神灯

冬枯や桜もわらの掛どころ


寛政六年

雑煮いはふ吾も物かは旅の春

初夢に古郷を見て涙哉

きぬぎぬやかすむ迄見る妹が家

窓明て蝶を見送る野原哉

高山や花見序の寺参り

奈良坂や花の咲く夜も鹿の声

桃咲やおくれ年始のとまり客

茶の煙柳と共にそよぐ也

夏の暁や牛に寝てゆく秣刈

涼しさや半月うごく溜まり水

棒突がごもくを流す白雨哉

雲の峰外山は雨に黒む哉

雲のみね見越見越て阿蘇煙

憎るる稗は穂に出て青田原

雨垂の内外にむるる藪蚊哉

芥子の花々と見る間にあらし哉

垣津旗よりあの虹は起りけん

露の野にかた袖寒き朝日哉

あぢきなや魂迎へ火を火とり虫

すくも火やかがしの果も夕煙り

せせなぎや氷を走る炊ぎ水

冬の月いよいよいよの高根哉

初雪に昨夜の松明のほこり哉

家陰や吹雪吹雪の吹き溜り

灯ちらちら疱瘡小家の吹雪哉

畠打がうてば唸る霰かな

朝霜に潮を散す宮居哉

朝霜に野鍛冶が散火走る哉

暁の霜に風呂屋が門をたたく哉

朝な朝な焼大根哉冬ごもり

猪追ふやすすきを走る夜の声

落葉焚く妹が黒髪つつむ哉


寛政七年

元日やさらに旅宿とおもほへず

乞食も護摩酢酌むらん今日の春

出て見れば我のみならず初旅寝

くつさめは我がうはさか旅の春

なべ一つ柳一本も是も春

召仕新しき哉小正月

吾恵方参は正月ざくら哉

家飛々凧も三ッ四ッふたつ哉

凧青葉を出つ入つ哉

日でり雨凧にかかると思ふ哉

七草の音に負じと烏かな

長閑や雨後の縄ばり庭雀

長閑しや雨後の畠の朝煙り

起て見れば春雨はれず日も暮れず

春雨や独法談二はいかい

春風や順礼共がねり供養

朧々ふめば水也まよひ道

朝がすみ天守の雨戸聞へけり

門前や何万石の遠がすみ

汲みて知るぬるみに昔なつかしや

魁てうき草浮けり苗代田

いつの間に乙鳥は皆巣立けり

天に雲雀人間海にあそぶ日ぞ

蛙鳴き鶏なき東しらみけり

蝶と共に吾も七野を巡る哉

寝ころんで蝶泊らせる外湯哉

白魚のしろきが中に青藻哉

平家蟹昔はここで月見船

海のなき国をおもひきる田にし哉

藤咲くや順礼の声鳥の声

梅がかに障子ひらけば月夜哉

梅の月一枚のこす雨戸哉

正風の三尊見たり梅の宿

或時は花の都にも倦にけり

拝上頭に花の雫かな

塚の花にぬかづけや古郷なつかしや

遠山や花と見るより道急ぐ

冥加あれや日本の花惣鎮守

桃柳庇々の花見かな

軒の雨鉢うつさくら閑しや

落書の一句拙し山ざくら

振向ばはや美女過る柳哉

五月雨や借傘五千五百ばん

遠かたや青田のうへの三の山

つくづくと鵜ににらまるる鵜飼哉

衣がえ替ても旅のしらみ哉

更衣ふりかけらるる湯花哉

鉢植の竹と我とが涼み哉

暁や鶏なき里の時鳥

つかれ鵜の見送る空やほととぎす

御旅所を吾もの顔やかたつぶり

青梅や餓鬼大将が肌ぬいで

天広く地ひろく秋もゆく秋ぞ

笠の露眠むらんとすれば犬の声

義仲寺へいそぎ候はつしぐれ


寛政八年

旅笠を小さく見せる霞かな

鳥と共に人間くぐる桜哉

湖に鳥鳴初めて夜寒かな

人並に畳のうえの月見哉

降雪に草履で旅宿出たりけり


寛政九年

正月の子供に成て見たき哉

塚の土いただひてふるしぐれかな


寛政十年

とそ酌もわらじながらの夜明哉

むく起の鼻の先よりかすみ哉

苗代の雨を見て居る戸口哉

夕立に賑はしき野火山火かな

なの花に四ッのなる迄朝茶かな

梅の月階子を下りて見たりけり

我もけさ清僧の部也梅の花

あの鐘の上野に似たり花の雲

花雲三輪は真黒のくもりかな

花さくやあれが大和の小口哉

花の雲あれが大和の小口哉

涼しさや雨をよこぎる稲光り

ツあらしかいだるき雲のかかる也

青あらし我家見に出る旭哉

植込みにきのふのままのほたる哉

ほたるよぶよこ顔過るほたる哉

横町に蚤のござ打月夜哉

名月のこころになれば夜の明る


寛政十一年

今さらに別ともなし春がすみ

姨捨のきらき中より清水かな

夕山やいつまで寒い風の吹

炉のはたやよべの笑ひがいとまごひ


寛政十二年

きのふ迄毎日見しを若菜かな

さく花に拙きわれを呼子鳥

夏山に洗ふたやうな日の出哉

かつしかや早乙女がちの渡し舟


享和

1801年 1802年 1803年


享和一年

空錠と人には告よ田打人

父ありて明ぼの見たし青田原

鹿の親笹吹く風にもどりけり

時鳥我も気相のよき日也

寝すがたの蠅追ふもけふがかぎり哉

夜々にかまけられたる蚤蚊哉

足元へいつ来りしよかたつぶり

生残る我にかかるや草の露


享和二年

門松やひとりし聞は夜の雨

日の暮の山を見かけて凧

文七が下駄の白さよ春の月

茹汁の川にけぶるや春の月

昼風呂の寺に立也春がすみ

陽炎や小藪は雪のまじまじと

凍解や敷居のうちのよひの月

初午を後に聞くや上野山

初午の聞へぬ山や梅の花

初午や山の小すみはどこの里

うぐひすのあごの下より淡路島

湯の里とよび初る日やむら燕

夕暮の松見に来しをかへる雁

よひ闇の一本榎なくかはづ

草の蝶大雨だれのかかる也

辻風の砂にまぶれし小てふ哉

むら雨やきのふ時分の草のてふ

一人はつつじにかかるわらび哉

片枝は都の空よむめの花

なつかしや梅あちこちにゆふ木魚

ちる花やほつとして居る太郎冠者

薄月の礎しめる柳哉

水切の本道り也土用なり

雨はらはら荒鵜の親よ枝に鳴

枕から外見てをるやころもがへ

ひとりなは我星ならん天の川

むら竹に夜の更過し砧哉

鴫どもも立尽したり木なし山

段々に雁なくなるや小田の月

浦の雨ほたをふまへて見たりけり


享和三年

頭巾とる門はどれどれ花の春

身じろぎのならぬ家さへ花の春

春立といふばかりでも草木哉

首上て亀も待たる初日哉

我々が顔も初日や御代の松

薮入のわざと暮れしや草の月

一ぱいにはれきる山の弓始

明ぼのの春早々に借着哉

万歳よも一ッはやせ春の雪

釜粥を洗ふて待や野はわか菜

切株は御顔の際やわかな摘

竹かごにすこしあるこそわかな哉

わか菜摘袂の下や角田川

君が代を鶏も諷ふや餅の臼

紫の袖にちりけり春の雪

北さがや春の雨夜のむかし杵

膳先に雀なく也春の雨

春の雨よ所の社もめづらしき

焼餅に烏の羽や春の雨

春の風草深くても古郷也

京見えてすねをもむ也春がすみ

馬上から黙礼するや薄霞

陽炎や子をなくされし鳥の顔

雪どけや麓の里の山祭

焚残る巣をくわへ行烏哉

鶯や松にとまれば松の声

鶯や南は鴻の嘴たたく

松島はどれが寝よいぞ夕雲雀

夕雲雀どの松島が寝所ぞ

雨だれの有明月やかへる雁

行灯で飯くふ人やかへる雁

一度見度さらしな山や帰る雁

小田の雁一つとなりて春いく日

かへる雁駅の行灯かすむ也

帰る雁何を咄して行やらん

帰る雁北陸道へかへる也

帰る日も一番先や寡雁

門口の行灯かすみてかへる雁

草の雨松の月よやかへる雁

かりそめの娶入月よやなく蛙

つるべにも一夜過ぎけりなく蛙

鳴ながら蛙とぶ也草の雨

桑つむや負れし柿も手を出して

細腕に桑の葉しごく雨夜哉

夕暮を待つ人いくら藤の花

あながちに留主とも見へず梅の花

梅さけど鶯なけどひとり哉

梅の月花の表は下水也

梅一枝とる人を待ゆふべ哉

梅守に舌切らるるなむら雀

片枝の待遠しさよ梅の花

かつしかに知人いくら梅の花

草分の貧乏家や梅の花

手をかけて人の顔見て梅の花

火種なき家を守るや梅の花

梟がさきがけしたり梅の花

松間にひとりすまして梅の花

娶貰ふ時分となるや梅の花

あたら雨の昼ふりにけり花の山

方脇に息をころして花見哉

としよりの追従わらひや花の陰

花の雲あれが大和の臣下哉

夕暮や鳥とる鳥の花に来る

翌の分に一山残す桜哉

安元の比の桜哉夕の鐘

暖国の麦も見えけり山桜

一足も踏せぬ山の桜哉

人に喰れし桜咲也みよしの山

山桜きのふちりけり江戸の客

夕桜家ある人はとくかへる

祈りしはしらぬ里也桃の花

青柳の先見ゆるぞや角田川

是からは大日本と柳哉

六月の空さへ二十九日哉

短夜の門にうれしき榎哉

短夜の鹿の顔出す垣ね哉

涼しさは黒節だけの小川哉

木末から土用に入し月よ哉

寝心や膝の上なる土用雲

家一つ蔦と成りけり五月雨

五月雨の竹に隠るる在所哉

五月雨や二階住居の草の花

二階から見る木末迄五月雨

川縁ははや月夜也雲の峰

雲の峰いささか松が退くか

雲の峰の下から出たる小舟哉

しばらくは枕の上や雲の峰

あれ程の中洲跡なし夏の月

夏の月と申すも一夜二夜哉

なりどしの隣の梨や夏の月

痩松も奢がましや夏の月

たまたまに晴れば闇よ夏の山

夏山や一足づつに海見ゆる

空腹に雷ひびく夏野哉

あさら井の今めかぬ也夏花つみ

えた町に見おとされたる幟哉

川狩のうしろ明りの木立哉

むら雨の北と東に夜川哉

大名のなでてやりけり馬の汗

飴ン棒横に加へて初袷

常体の笠は似合ぬ袷哉

青山を始て見たる日傘哉

木母寺が見ゆる見ゆると日傘哉

門々も雨ははれけり青すだれ

風吹や穴だらけでも我蚊帳

糊こはき帷子かぶる昼寝哉

青い柳に任せて出たる扇哉

あさ陰に関も越えたる扇哉

雨三粒はらつて過し扇哉

海の月扇かぶつて寝たりけり

朝顔に老づら居て団扇哉

うつくしき団扇持けり未亡人

風下の蘭に月さす蚊やり哉

富士おろし又吹け吹けと蚊やり哉

餅音の西に東に蚊やり哉

行灯を持つてかたづく涼み哉

一尺の竹に毎晩涼み哉

噂すれば鴫の立けり夕涼み

木一本畠一枚夕涼み

さわつてもとがむる木也夕涼み

死跡の松をも植てゆふ涼み

近よれば祟る榎ぞゆふ涼み

松苗ややがて他人のゆふ涼み

行過て茨の中よゆふ涼み

夜涼のやくそくありし門の月

住来の人にすれたる鹿の子哉

傘の下にしばらくかのこ哉

暁のむぎの先よりほととぎす

下枝に子も口真ねや閑古鳥

はいかいの地獄のそこか閑古鳥

樅からも二つなきけりかんこ鳥

行々し尋ねる牛は吼へもせず

蚊を殺す紙燭にうつる白髪哉

蚊一ッの一日さはぐ枕哉

宵越しのとうふ明りや蚊のさわぐ

蝿一つ打ては山を見たりけり

草の蚤はらはらもどる火かげ哉

浮島やうごきながらの蝉時雨

夕顔の長者になるぞ星見たら

夕顔やひとつひとつに風さわぐ

陽炎のおびただしさやけしの花

けつくして松の日まけや芥子の花

咲く日より雨に逢けりけしの花

兵が足の跡ありけしの花

門番がほまちなるべしけしの花

暁に人気も見へぬはらす哉

白蓮に二筋三すじ柳哉

せせなぎの樋の口迄蓮の花

蓮の香をうしろにしたり岡の家

山松に吹つけられし百合の花

我見ても久しき蟾や百合の花

浮草の花より低き通りかな

浮草や黒い小蝶のひらひらと

麦刈の不二見所の榎哉

山水の溝にあまるや田麦刈

麦刈の用捨もなしやことし竹

わか竹の起きんとすれば電り

おくればせに我が畠も茄子哉

苗売の通る跡より初なすび

も一日葉陰に見たき茄子哉

駒つなぐ門の杭にわか葉哉

大蛇の二日目につく茂り哉

日々に四五本ちるや合歓の花

青梅に蟻の思ひも通じけん

探る梅枝の蛙のをしげ也

秋寒や行く先々は人の家

朝寒にとんじやくもなき稲葉哉

念入て竹を見る人朝寒き

殻俵たたいて見たる夜寒哉

よりかかる度に冷つく柱哉

一つなくは親なし鳥よ秋の暮

我植し松も老けり秋の暮

ばか長き夜と申したる夜永哉

耳際に松風の噴く夜永哉

天の川都のうつけ泣やらん

雲形に寝て見たりけり天の川

汁なべもながめられけり天の川

深さうな所もありけり天の川

我星はどこに旅寝や天の川

投られし角力も交じる月よ哉

西向て小便もせぬ月よ哉

名月は翌と成けり夜の雨

草の雨松の月夜や十五日

白石のしろき心の月見哉

名月もそなたの空ぞ毛唐人

刈株のうしろの水や秋日和

秋雨やともしびうつる膝頭

秋の雨つい夜に入し榎哉

馬の子の故郷はなるる秋の雨

片袖の風冷つくや秋の雨

喰捨の瓜のわか葉や秋の雨

口明て親待つ鳥や秋の雨

田の雁の古郷いかに秋の雨

膝節に灯のちらめくや秋の雨

ひよろ長き草四五本に秋の雨

松の木も在所めきけり秋の雨

秋の風親なきに我を吹そぶり

大根の二葉うれしや秋の風

一人づつ皆去にけり秋の風

夕月のけばけばしさを秋の風

露けさや石の下より草の花

露けしや草一本も秋の体

大名の笠にもかかる夜露哉

同じ年の顔の皺見ゆる灯籠哉

灯籠やきのふの瓦けふ葎

盆灯籠三ッ二ッ見てやめにけり

松陰におどらぬ人の白さ哉

かぢのをとは耳を離れず星今よい

かはがりの煙もとどけ星今よひ

七夕や大和は男三分一

けふぎりの入日さしけり勝角力

正面は親の顔也まけ角力

案山子にもうしろ向かれし栖哉

川音や鳴子の音や明近き

赤兀の山の贔屓や遠ぎぬた

片耳は尾上の鐘や小夜砧

砧打夜より雨ふる榎哉

口も手も人並でなし小夜砧

洪水は去年のけふ也小夜砧

更しなの蕎麦の主や小夜砧

更しなや闇き方には小夜砧

昼中の須磨の秋也遠砧

小男鹿の角引つかけし葎哉

小烏にあなどられたり小田の雁

殺されにことしも来たよ小田の雁

殺されに南へ行か天つ雁

一群は今来た顔や小田の雁

又来たら我家忘れな行燕

人の世も我もよし也とぶいなご

捨られし夜より雨ふるきりぎりす

けふも死に近き入りて草の花

染総のつつぱりとれて菊の花

朝顔のこく咲にけりよ所の家

朝顔やしたたかぬれし通り雨

松の蔦紅葉してから伐られけり

御馬の屁ながれけり萩の花

神風のはや吹給ふ稲葉哉

大豚の顔出しけり芦の花

川下は知識の門よ夕紅葉

ふまぬ地をふむ心也夕紅葉

人去つて行灯きえて桐一葉

手の前に蝶の息つく茸哉

けろけろと師走月よの榎哉

旅の空師走も二十九日哉

降雨の中に寒の入にけり

掌に酒飯けぶる寒さ哉

流れ木のアチコチとしてとし暮ぬ

片壁に海手の風や冬の月

冬の月さしかかりけりうしろ窓

冬の月膝元に出る山家哉

古郷に高い杉ありはつしぐれ

初時雨馬も御紋をきたりけり

一時に二ッ時雨し山家哉

北時雨火をたく顔のきなくさき

けぶり立隣の家を時雨哉

しぐるるや牛に引かれて善光寺

吹かれ吹かれ時雨来にけり痩男

山の家たがひ違ひに時雨哉

夕時雨馬も古郷へ向てなく

夕時雨すつくり立や田鶴

夜時雨の顔を見せけり親の門

我上にふりし時雨や上総山

時雨雲毎日かかる榎哉

三度くふ旅もつたいな時雨雲

風寒し寒し寒しと瓦灯哉

木がらしの夜に入かかる榎哉

木がらしや鋸屑けぶる辻の家

木がらしや門に見えたる小行灯

木がらしや壁の際なる馬の桶

初雪に聞おじしたる翁哉

初雪のふはふはかかる小鬢哉

海音は塀の北也夜の雪

真昼の草にふる也たびら雪

衛士の火のますますもゆる霰哉

けしからぬ月夜となりしみぞれ哉

酒菰の戸口明りやみぞれふる

酒飯の掌にかかるみぞれ哉

みぞれはく小尻の先の月よ哉

夕みぞれ竹一本もむつかしき

ゆで汁のけぶる垣根也みぞれふる

一人前菜も青けりけさの霜

起々にくさめの音や草の霜

掌に酒飯けぶる今朝の霜

としよりの高股立や今朝の霜

かくれ家に日のほかほかとかれの哉

片袖に風吹通すかれの哉

子七人さはぐかれのの小家哉

ざぶりざぶりざぶり雨ふるかれの哉

近道はきらひな人や枯野原

鳥をとる鳥も枯野のけぶり哉

虫除の札のひよりひよりかれの哉

影ぼうしの翁に似たり初時雨

君が代を鶏も諷ふや餅の臼

もちつきはうしろになりぬ角田川

としとりに鶴も下たる畠哉

狩小屋の夜明也けり犬の鈴

不二颪真ともにかかる頭巾哉

昼比にもどりてたたむふとん哉

三つ五つ星見てたたむふとん哉

御迎ひの鐘の鳴也冬篭

親も斯見られし山や冬篭

清水を江戸のはづれや冬篭

ぼんのくぼ夕日にむけて火鉢哉

起てから烏聞く也おこり炭

炭の火のふくぶくしさよ藪隣

鳴鶏のはらはら時の炭火哉

ぱちぱちと椿咲けり炭けぶる

藪ごしに福々しさよおこり炭

けふけふと命もへるや炭俵

炭もはや俵の底ぞ三ケの月

忽に淋しくなりぬ炭俵

場ふさげと思ふ間もなし炭俵

雨の日やほたを踏へて夕ながめ

うれしさは暁方のほた火哉

二軒前干菜かけたり草の雨

二軒前干菜もかけし小家哉

御仏の真向ふ先がかけ菜哉

浅ましと鰒や見らん人の顔

親分と家向あふて鰒と汁

京も京京の真中や鰒と汁

汝等が親分いくら鰒と汁

はらはらと紅葉ちりけり鰒と汁

鰒汁や大宮人の顔をして

鰒好と窓むきあふて借家哉

鰒と汁くひさくもなるつぶり哉

京にも子分ありとや鰒と汁

ももしきの大宮人や鰒と汁

山紅葉吹おろしけり鰒と汁

片袖は山手の風や鳴千鳥

夕やけの鍋の上より千鳥哉

水鳥のあなた任せの雨夜哉

どこを風が吹かとひとり鰒哉

かれ萩に裾引つかける日暮哉

冬枯の萩も長閑けく売家哉

赤い実の毒々しさよかれすすき

かれすすき人に売れし一つ家

一本は翌の夕飯大根哉

時雨よと一本残す大根哉

大根引一本づつに雲を見る

むら雨にすつくり立や大根引

我庵の冬は来りけり痩大根

畠人の思ひの外や帰り花

山川のうしろ冷し帰り花

剰海へ向つて冬椿

日の目見ぬ冬の椿の咲にけり

晴天の真昼にひとり出る哉


文化

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文化一年

元日の寝聳る程は曇る也

正月やよ所に咲ても梅の花

又土になりそこなうて花の春

わが春は竹一本に柳哉

春立や四十三年人の飯

春立やよしのはおろか人の顔

中々にかざらぬ松の初日哉

上段の代の初日哉旅の家

上段の代の先あふ初日哉

粥杖に撰らるる枝か小しほ山

やぶ入の先に立けりしきみ桶

やぶ入やきのふ過たる山神楽

やぶ入や先つつかなき墓の松

薮入よ君が代歌へ麦の雨

榎迄引抜れたる子の日哉

月見よと引残されし小松哉

門の松おろしや夷の魂消べし

住の江ものべつけにして門の松

ちる雪に立合せけり門の松

万歳のまかり出たよ親子連

七草を敲き直すや昼時分

あらためて鶴もおりるか初わかな

こてこてと鍋かけし若菜哉

あの藪に人の住めばぞ薺打

親里へ水は流るる春辺哉

長閑さや去年の枕はどの木の根

春の日や水さへあれば暮残り

春の夜や瓢なでても人の来る

川見ゆる木の間の窓や春の雨

酒ありと壁に張りけり春の雨

春雨で恋しがらるる榎哉

春雨になれて灯とぼる薮の家

春雨の中に立たる榎哉

春雨やけぶりの脇は妹が門

春雨や雀口明く膳の先

春雨や火もおもしろきなべの尻

昼過の浦のけぶりや春の雨

ほうろくをかぶつて行や春の雨

山の鐘も一ッひびけ春の雨

我松もかたじけなさや春の雨

小盥の貫すは青し春の風

春風の吹かぬ草なし田舎飴

春風や黄金花咲むつの山

松苗も肩過にけり春の風

霞み行や二親持し小すげ笠

陽炎によしある人の素足哉

雪汁のかかる地びたに和尚顔

かくれ家も人に酔けり春の山

老僧のけばけばしさよ春の山

髪虱ひねる戸口も春野哉

苔桃も節句に逢ふや赤い花

かつしかや昔のままの雛哉

女から先へかすむぞ汐干がた

淋しさや汐の干る日も角田河

汐干潟雨しとしとと暮かかる

汐干潟女のざいに遠走り

汐干潟しかも霞むは女也

汐干潟松がなくても淋しいぞ

住吉や汐干過ても松の月

折角の汐の干潟をざんざ雨

鶏のなく家も見へたる汐干哉

降雨や汐干も終に暮の鐘

御寺から直に行るる汐干哉

鳥の巣を見し辺りぞや山を焼

巣の鳥の口明く方や暮の鐘

つつがなき鳥の巣祝へあみだ坊

鳥の巣のありありみゆる榎哉

鳥の巣や翌は切らるる門の松

子雀は千代千代千代と鳴にけり

雀子も梅に口明く念仏哉

鶯ももどりがけかよおれが窓

鶯よこちむけやらん赤の飯

窓あれば下手鶯も来たりけり

痩藪の下手鶯もはつ音哉

片山は雨のふりけり鳴雲雀

住吉に灯のとぼりけり鳴雲雀

鳴雲雀人の顔から日の暮るる

鳴雲雀貧乏村のどこが果

野大根も花咲にけり鳴雲雀

雲雀鳴通りに見ゆる大和哉

故郷の見へなくなりて鳴雲雀

夕急ぐ干潟の人や鳴雲雀

夕雲雀野辺のけぶりに倦るるな

雷に鳴あはせたる雉哉

雉なくや千島のおくも仏世界

朝雨を祝ふてかへれ小田の雁

跡立は雨に逢ひけりかへる雁

かへる雁翌はいづくの月や見る

立雁のぢろぢろみるや人の顔

田の雁のかへるつもりか帰らぬか

田の人の笠に糞してかへる雁

はげ山も見知ておけよかへる雁

一ッでも鳴て行也かへる雁

行雁に呑せてやらん京の水

行雁やきのふは見へぬ小田の水

行な雁廿日も居れば是古郷

我恋はさらしな山ぞかへる雁

油火のうつくしき夜やなく蛙

蛙なくや始て寝たる人の家

鍋ずみを目口に入てなく蛙

初蛙梢の雫又おちよ

あたふたに蝶の出る日や金の番

今上げし小溝の泥やとぶ小蝶

うそうそと雨降中を春のてふ

川縁や蝶を寝さする鍋の尻

手のとどく山の入日や春の蝶

通り抜ゆるす寺也春のてふ

とぶ蝶や溜り水さへ春のもの

初蝶のいきおひ猛に見ゆる哉

吹やられ吹やられたる小てふ哉

又窓へ吹もどさるる小てふ哉

湖の駕から見へて春の蝶

目の砂をこする握に小てふ哉

行人のうしろ見よとや風のてふ

よしずあむ槌にもなれし小てふ哉

女衆に追ぬかれけり菫原

菫咲門や夜さへなつかしき

花菫便ない草もほじらるる

我前に誰々住し菫ぞも

雨だれの毎日たたく椿哉

片浦の汐よけ椿咲にけり

赤貝を我もはかるよ梅の花

あれ梅といふ間に曲る小舟哉

家一ッあればはたして梅の花

いたいけに梅の咲けり本道

一日も我家ほしさよ梅の花

うしろからぼろを笑ふよ梅の花

梅がかやどなたが来ても欠茶碗

梅さくに鍋ずみとれぬ皴手哉

梅咲くや木を割さへも朝げしき

梅咲や去年は越後のあぶれ人

梅の木は咲ほこりけりかけ硯

梅の月牛の尻迄見ゆる也

梅見ても青空見ても田舎哉

大原やぶらりと出ても梅の月

来るも来るも下手鶯よ窓の梅

此当り洛陽なるか梅の月

咲日から梅にさわるや馬の首

袖すれば祟る杉ぞよ梅の花

ちる梅のかかる賎しき身柱哉

膝の児の指始梅の花

ひたすらに咲うでもなし門の梅

むづかしやだまつて居ても梅は咲

我庵の貧乏梅の咲にけり

狙どのも赤いべえきて梅の花

白妙の僧白妙の梅の花

雀らも身祝するか梅の花

咲くからに雨に逢けり花の山

どこからの花のなぐれぞ角田川

奈良漬を丸でかじりて花の陰

初花や山の粟飯なつかしき

花びらの埃流にふる雨か

ふる雨に一人残りし花の陰

見かぎりし古郷の山の桜哉

江戸衆に見枯らされたる桜哉

大川へ吹なぐられし桜哉

大降りや桜の陰に居過して

京人にせつちうされし桜哉

咲からに縄を張れし桜哉

四五九年見ても初花ざくら哉

聖人に見放されたる桜哉

袖たけのはつ花桜咲にけり

初桜はやちりかかる人の顔

花桜一本一本のいさほしや

本降のゆふべとなりし桜哉

又人の立ふさがるや初桜

むら雨に半かくれし桜哉

夕暮や池なき方もさくらちる

桜花どつちへ寝ても手のとどく

福蟾ものさばり出たり桃の花

青柳や蛍よぶ夜の思はるる

青柳ややがて蛍をよぶところ

しるよしの郷の鐘なる柳哉

鳥どもに糞かけられし柳哉

独寝るつもりの家か柳陰

蛍よぶ夜のれうとやさし柳

身じろぎもならぬ塀より柳哉

三筋程松にかくれし柳哉

柳見へ東寺も見へて昔也

段々に夏の夜明や人の顔

けふも暮けふも暮けり五月雨

五月雨の里やいつ迄笛法度

五月雨や弥陀の日延もきのふ迄

鳴烏けふ五月雨の降りあくか

二人とは行かれぬ厨子や五月雨

うつくしき寝蓙も見へて夕立哉

夕立や竹一本の小菜畠

夕立や舟から見たる京の山

雲の峰立や野中の握飯

どの人も空腹顔也雲の峰

湖に手をさし入て雲の峰

虫のなる腹をさぐれば雲の峰

汁なべも厠も夏の月よ哉

夏の月柱なでても夜の明る

水切の騒ぎいつ迄夏の月

親の家見へなくなりぬ夏の山

夏山や京を見る時雨かかる

夏山やつやつやしたる小順礼

柱拭く人も見へけり夏の山

浅ぢふも月さへさせば清水哉

かくれ家や月ささずとも湧清水

清水湧く翌の山見て寝たりけり

松迄は月もさしけり湧く清水

湧く清水浅間のけぶり又見ゆる

悪まれし草は穂に出し青田哉

木がくれに母のほまちの青田哉

更衣そもそも藪の長者也

更衣松の木ほしくなりにけり

高砂は榎も友ぞころもがへ

痩藪も窓も月さすころもがへ

袷きて見ても淋しや東山

あばら家に入ると見へしよ日傘

僧正が野糞遊ばす日傘哉

窓だけに月のさし入る紙帳哉

二番火の酒試るうちは哉

一人では手張畠や渋団扇

松の露ぽちりぽちりと蚊やり立つ

木に打つてば竹にたらざる流哉

朝顔の折角咲ぬ門涼み

翌は剃る仏が顔や夕涼み

門涼み余所は朝顔咲にけり

涼にもはりあひあらじ門の月

竹笛は鎌倉ぶりよ田植がさ

松よりも古き顔して心太

かつしかやどこに住でも時鳥

角田川もつと古びよ時鳥

雷のごろつく中を行々し

行々しどこが葛西の行留り

行々しどこが昔の難波なる

はつはつに松島見へて行々し

風道を塞ぐ枝より蛍哉

けしからぬ夕晴人やとぶ蛍

小竹さへよそのもの也とぶ蛍

とぶ蛍家のうるさき夜也けり

大雨や大ナ月や松の蝉

かくれ家は浴過けり松の蝉

聞倦て人は去也枝の蝉

蝉なくや柳ある家の朝の月

宵越の茶水明りやかたつぶり

初松魚序ながらも富士の山

初松魚山の際迄江戸気也

草の葉に半分見ゆる牡丹哉

青柳ははや夜に入て蓮の花

大沼や一つ咲ても蓮の花

雀等が浴なくしたり蓮の水

百合の花朝から暮るるけしき也

冷し瓜二日立てども誰も来ぬ

待もせぬ月のさしけり冷し瓜

とぶ蝶や青葉桜も縄の中

灰汁桶の蝶のきげんや木下闇

卯の花に蛙葬る法師哉

卯の花や葬の真似する子ども達

卯の花や水の明りになく蛙

淋しさに蠣殻ふみぬ花卯木

立秋や旅止まくと思ふ間に

雨だれや三粒おちてもけさの秋

朝寒や松は去年の松なれど

兄分の門とむきあふ夜寒哉

すりこ木もけしきに並ぶ夜寒哉

野のけぶり袖にぞ這る夜寒哉

秋の夜やよ所から来ても馬のなく

すりこ木もけしきにならぶ夜永哉

出る度に馬の嘶く夜永哉

利根川の秋もなごりの月よ哉

木に鳴はやもめ烏か天の川

やぶ陰も月さへさせば我家哉

名月や雨なく見ゆるよ所の空

名月や石のあはひの人の顔

名月や都に居てもとしのよる

橋見へて暮かかる也秋の空

秋雨や人げも見へぬうらの門

秋雨や我にひとしきかたつぶり

秋の雨松一本に日の暮るる

売馬の親かへり見る秋の雨

かつしかや遠く降つても秋の雨

手の皺の一夜に見ゆる秋の雨

山里や秋の雨夜の遠歩き

秋の風乞食は我を見くらぶる

秋の風蝉もぶつぶつおしと鳴く

秋の風剣の山を来る風か

秋の風我が参るはどの地獄

松苗のけばけばしさよ秋の風

垣際の足洗盥野分哉

ぽつぽつと馬の爪切る野分哉

山本の祭の釜に野分哉

人は旅日は朝朗けさの露

秋霧や河原なでしこ見ゆる迄

仰山に霧のはれけり付木突

しきみ桶手からも霧は立にけり

しきみさす手からも霧は立にけり

山霧のかかる家さへ祭哉

妹が家は跡になりけり花の原

赤紙のちさい草履を玉迎

迎鐘ならぬ前から露のちる

うかうかと盆も過たる灯ろ哉

夕風や木のない門の高灯籠

よ所事と思へ思へど灯ろ哉

山かげの一軒家さへおどり哉

山里やおどりもしらで年のよる

七夕や都もおなじ秋の山

人の世や山の小すみもほし迎

我星は上総の空をうろつくか

無縁時の鐘も聞へて大花火

秋角力初まる日から山の雲

咲かかる草の辺りに角力哉

淋さを鶴に及ぼすかがし哉

最う古いかがしはないか角田川

えた町も夜はうつくしき砧哉

小夜砧菰きて蘇鉄立にけり

兀山も見棄られぬぞ小夜砧

身祝の榊もうへて砧哉

さをしかや恋初めてより山の雨

死所もかなりに葺て鹿の鳴

なけ鶉邪魔なら庵もたたむべき

人は年とるべきものぞ鴫の立

あのやうに我も老しか秋のてふ

うろたへな寒くなるとて赤蜻蛉

蜻蛉や二尺飛では又二尺

きりぎりす隣に居ても聞へけり

その草はむしり残すぞきりぎりす

焼原やはやくも鳴やきりぎりす

夕月や流残りのきりぎりす

雨落に生へ合せたり草の花

五六日居過す門や草の花

魚どもの遊びありくや菊の花

菊園につつと出たる葎哉

柴門の薮の中迄小菊哉

白菊に拙き手水かかる也

たやすくも菊の咲けり川の縁

痩土にぼつぼつ菊の咲にけり

僧も立鶴も立たる野菊哉

朝顔や藪蚊の中にりんとして

蔦紅葉口紅つけし庇也

しなのぢはそば咲けりと小幅綿

そばの花咲くや仏と二人前

痩山にぽつと咲けりそばの花

啄木も日の暮かかる紅葉哉

松切に鳥も去けり夕紅葉

箕をかつぐ人と連立紅葉哉

うかうかと出水に逢し木槿哉

寝る外に分別はなし花木槿

不平な垣もむくげは咲にけり

雨三粒おちてもぬれし瓢哉

うきうきと草の咲そふ瓢哉

見覚して鳥の立らん大瓢

闇の夜に段々なるぞ種瓢

前の人も春を待しか古畳

大年のよい夢見るかぬり枕

寝所はきのふ葺けり初時雨

寝始る其夜を竹の時雨哉

木がらしに口淋しいとゆふべ哉

木がらしに三尺店も我夜也

木がらしや小溝にけぶる竹火箸

木がらしや地びたに暮るる辻うたひ

はつ雪に白湯すすりても我家哉

はつ雪や翌のけぶりのわら一把

はつ雪や竹の夕を独寝て

初雪や古郷見ゆる壁の穴

藪菊や霰ちる日に咲合

大霜の古家も人の地内也

淋しさは得心しても窓の霜

枯原の雨のひびきし枕哉

野はかれて何ぞ喰たき庵哉

芭蕉忌に先つつがなし菊の花

西山はもう鶯かはち敲

鉢敲今のが山の凹み哉

月さすや年の市日の待乳山

年の市何しに出たと人のいふ

我宿は蠅もとしとる浦辺哉

冬篭其夜に聞くや山の雨

炭俵はやぬかるみに踏れけり

ほたの火や目出度き御代の顔と顔

久木おふ片山かげや鰒汁

山風を踏こたへたりみそさざい

みそさざいちつといふても日の暮る

夕雨を鳴出したりみそさざい

片壁は千鳥に住す夜也けり

麦の葉の夜はうつくしや千鳥鳴

麦の葉は春のさま也なく千鳥

楢の葉の朝からちるやとうふぶね

有明や窓の名残をちる紅葉


文化二年

年立や日の出を前の舟の松

元日のけしきになるや泥に雪

鳥なくや野老畳もお正月

わが春やたどん一つに小菜一把

欠鍋も旭さす也是も春

はつ春も月夜となるや顔の皺

初春も月夜もよ所に伏家哉

ちぐはぐの下駄から春は立にけり

春立や草さへ持つたぬ門に迄

葎家も春になりけり夜の雨

家二ッ三ッ四ッ凧の夕哉

凧今木母寺は夜に入るぞ

山かげや薮のうしろや凧

霞む日も寝正月かよ山の家

一桶は如来のためよ朝わかな

わかな摘鷺も淋しく思ふやと

わかなのや一葉摘んでは人をよぶ

揚土のいかにも春の日也けり

破風からも青空見ゆる春日哉

春の日を背筋にあてることし哉

春の日を降りくらしたる都哉

春の日や暮ても見ゆる東山

砂をする大淀舟や暮遅き

雨がちに都の春も暮る也

顔染し乙女も春の暮る哉

下京の窓かぞへけり春の暮

松に藤春も暮れぬと夕哉

木兎の面魂よ春の暮

舞々や翌なき春を顔を染て

大和路や翌なき春をなく烏

小田の鶴又おりよかし春の雨

黒門の半分見へて春の雨

春雨や家鴨よちよち門歩き

春雨や膳の際迄茶の木原

春雨や蛤殻の朝の月

春風の闇にも吹くや浦の家

春風や土人形をゑどる也

棒先の茶笊かわくや春の風

浅川や鍋すすぐ手も春の月

春の月さはらば雫たりぬべし

春の月軒の雫の又おちよ

夜明ても朧也けり角田川

青苔や膝の上迄春の虹

鰯焼片山畠や薄がすみ

薄霞む夕々の菜汁哉

うら窓にいつもの人が霞む也

かすむ日もうしろ見せたる伏家哉

かすむ日や夕山かげの飴の笛

かりそめに出て霞むやつくば山

盗する烏よそれも春がすみ

柱をも拭じまひけり春霞

我袖も一ッに霞むゆふべ哉

陽炎の内からも立葎哉

陽炎やいとしき人の杖の跡

陽炎や笠の手垢も春のさま

家形に月のさしけり春の水

草の葉や彼岸団子にむしらるる

山陰も桃の日あるか砂糖売

猿も来よ桃太郎来よ草の餅

我宿の餅さへ青き夜也けり

草つみのこぶしの前の入日哉

うつくしい鳥見し当よ山をやく

又一つ山をやく也おぼろ也

山やくや眉にはらはら夜の雨

草蒔や肴焼香も小昼過

妻乞や一角とれしのらの猫

のら猫も妻かせぎする夜也けり

山猫も恋は致すや門のぞき

山猫や恋から直に里馴るる

鳥の巣の乾く間もなし山の雨

其夜から雨に逢けり巣立鳥

人鬼が野山に住ぞ巣立鳥

浅草や乙鳥とぶ日の借木履

草の葉のひたひた汐やとぶ乙鳥

草の葉や燕来初てうつくしき

さし汐も朝はうれしやとぶ乙鳥

乙鳥のけぶたい顔はせざりけり

乙鳥もことし嫌ひし葎哉

あさぢふは夜もうれしや雉なく

雉なくやきのふは見へぬ山畠

雉なくや立草伏し馬の顔

草山に顔おし入て雉のなく

菜の花がはなれにくいか小田の雁

あさぢふや目出度雨になく蛙

入相は蛙の目にも涙哉

片ひざは月夜也けり夕蛙

蛙とぶ程はふる也草の雨

草陰にぶつくさぬかす蛙哉

草かげや何をぶつくさゆふ蛙

なく蛙此夜葎も伸ぬべし

葉がくれに鳴ぬつもりの蛙哉

痩藪も己が夜也なく蛙

糸屑にきのふの露や春のてふ

すのへりにひたとひつつく小てふ哉

すりこ木の舟にひつつく小てふ哉

蝶とぶや二軒もやひの痩畠

蝶とぶや夕飯過の寺参り

とぶ蝶に追抜れけり紙草履

鳥もなき蝶も飛けり古畳

二三本茄子植ても小てふ哉

文七とたがひ違ひに小てふ哉

町口ははや夜に入し小てふ哉

豆程の人顕れし小てふ哉

我庵は蝶の寝所とゆふべ哉

二三日はなぐさみといふ蚕哉

三ケ月や田螺をさぐる腕の先

蜆さへ昔男のゆかりにて

田芹摘み鶴に拙く思れな

菜の花も一ッ夜明やよしの山

今晴れし雨とも見へてわらび哉

誰が手につみ切れしよ痩蕨

金のなる木のめはりけりえたが家

びんづるを一なでなでて木の芽哉

庵椿見すぼらしくはなかりけり

牛の子の顔をつん出す椿哉

馬貝を我もはかうよ里の梅

梅咲くや三文笛も音を出して

梅咲くや山の小すみは誰が家

梅のちる空は巳午の間哉

蒲焼の香にまけじとや梅の花

袖口は去年のぼろ也梅の花

ちるは梅畠の足跡大きさよ

塊に裾引ずつて梅の花

寝勝手や夜はさまざまの梅の花

松が根に一息しては梅の花

梅咲や江戸見て来る子ども客

梅さくやかねの盥の三ケの月

素湯売りも久しくなるや花の山

ちる花を屁とも思はぬ御顔哉

ちる花に活過したりとゆふべ哉

ちる花や土の西行もうかれ顔

花さけや惟然が鼾止るやら

花に雨糸楯着たる御顔哉

花の山飯買家はかすむ也

後から吹来る桜々哉

かいはいの口すぎになる桜哉

米袋空しくなれど桜哉

桜咲く春の山辺や別の素湯

一里の身すぎの桜咲にけり

桃の門猫を秤にかける也

青柳や二軒もやひの茶呑橋

朝やけも又めづらしき柳哉

入相を待遠しがる柳哉

入口に柳の立し都哉

うとましき片壁かくす柳哉

さし柳翌は出て行庵也

土染もうれしく見へて柳哉

炎天にてり殺されん天窓哉

夏の夜やあなどる門の草の花

五月雨におつぴしげたる住居哉

すき腹に風の吹けり雲の峰

峰となる雲が行ぞよ笠の先

あさぢふや夏の月夜の遠砧

鶯も鳴さふらふぞ苔清水

青田中さまさせて又入る湯哉

其次の稗もそよそよ青田哉

うれしさや御祓の宵の天の川

夕はらひ竹をぬらして済す也

身一ッや死ば簾の青いうち

団扇張つて先そよがする葎哉

反故団扇しやにかまへたるひとり哉

夕陰のはらはら雨に団扇哉

買水を皆竹に打つゆふべ哉

板塀に鼻のつかへる涼哉

宵々や下水の際もゆふ涼み

夜涼や蟾が出ても福といふ

降雨は去年のさま也時鳥

午の貝うしろになりて閑古鳥

草も木も源氏の風やとぶ蛍

一しめり松浦のうらを蛍哉

宵々はきたない竹も蛍哉

蜘の巣に月さしこんで夜のせみ

蝉時雨蝶は日やけもせざりけり

せみ啼や梨にかぶせる紙袋

朝やけがよろこばしいかかたつぶり

かたつぶり蝶はいきせきさわぐ也

昼顔の秣の員に刈れけり

蓮の花辰上りしと人のいふ

足首の埃たたいて花さうぶ

うしろ日のいらいらしさよ花あやめ

見るうちに日のさしにけり花せふぶ

瓜一ッ丸にしづまぬ井也けり

加茂川や瓜つけさせて月は入る

僧入れぬ垣の卯の花咲にけり

人形りに穴の明く也花うの木

小朝顔大朝顔も九月哉

朝寒し寒しと菜うり箕うり哉

朝寒や蟾も眼を皿にして

青柳の門にはらはら夜寒哉

二度生の瓜も花咲く夜寒哉

有明に躍りし時の榎哉

鶴亀の上にも秋の夕哉

かつしかや月さす家は下水端

里の火の古めかしたる月夜哉

汁の実を取に出ても月よ哉

むさしのに住居合せて秋の月

むさしのや犬のこふ家も月さして

山の月親は綱引子はおがむ

待宵の松葉焚さへさが野哉

雨降らぬ空も見へけり月一夜

雨降も角田河原や月一夜

家かりて先名月も二度目哉

家かりてから名月も二度目哉

大雨や月見の舟も見へてふる

けふの月我もむさしに住合せ

年よりや月を見るにもなむあみだ

後の月片山かげのくひ祭

雨がちに十三夜とは成にけり

そば花は山にかくれて後の月

秋雨のこぼれ安さよ片山家

翌の茶の松葉かくらん秋の雨

殻桶に鹿の立ち添ふ秋の雨

草切の足にひつつく秋の雨

けふもけふも秋雨す也片山家

山畠や鳩が鳴ても秋の雨

秋風にあなた任の小蝶哉

秋風の吹夜吹夜や窓明り

秋風や家さへ持たぬ大男

秋風や草より先に人の顔

穴底の仏の顔も秋の風

水打し石なら木なら秋の風

見る度に秋風吹や江戸の空

朝霧の引からまりし柳哉

一薮は別の夕霧かかる也

秋の山活て居とてうつ鉦か

秋の山一つ一つに夕哉

足元に日落て秋の山辺哉

鳥鳴て又鐘がなる秋の山

人顔も同じ夕や秋の山

戸口迄秋の野らなる雨日哉

あばら家も夜は涼しき灯籠哉

寒い程草葉ぬらして灯籠哉

松風も念入て吹く灯籠哉

隠家も星待顔の夜也けり

星待や亀も涼しいうしろつき

しやんとした松と並ぶや男星

とうとうと紅葉吹つけるかがし哉

一ッ宛寒い風吹鳴子哉

浅山や砧の後もなつかしき

新しい家も三ッ四ッきぬた哉

けぶり立松立そして砧哉

梟も役にして来る砧哉

みちのくの鬼のすみかも砧哉

投やりの菊も新酒のゆふべ哉

大汐にざぶりざぶりと男鹿哉

さをしかの萩にかくれしつもり哉

むら萩に隠れた気かよ鹿の顔

山の雨鹿の涙も交るべし

木つつきの飛んでから入る庵哉

木つつきの松に来る迄老にけり

木つつきや一ッ所に日の暮るる

木つつきの死ねとて敲く柱哉

雁鳴や旅寝の空の目にうかぶ

けふ翌の秋となりけり小田の雁

虫なくやきのふは見へぬ壁の穴

こほろぎや江戸の人にも住馴るる

きりぎりすきりきり死もせざりけり

きりぎりす鳴する藪もなかりけり

蔵陰も草さへあれば秋の花

空に迄仏ましまして草の花

朝顔に入口もないしだら哉

朝顔に片肌入れし羅漢哉

朝顔に子供の多き在所哉

あさがほに咲なくさるる小家哉

朝顔に雫拵へて居りけり

朝顔に背中の冷り冷り哉

朝顔にほかほかとして寒哉

朝顔や下水の泥もあさのさま

朝露の朝顔売るやあら男

鐘の声朝顔先へそよぐ也

取込みの門も朝顔咲にけり

我宿の悪朝顔も夜明哉

片枝は真さかさまに紅葉哉

山畠は鼠の穴も紅葉哉

秋霜に又咲ほこるむくげ哉

浦向に咲かたまりし槿哉

遅咲の木槿四五本なく蚊哉

酒冷すちよろちよろ川の槿哉

木槿さへすがれになるをなく蚊哉

木槿咲く凸ミ凹ミや金谷迄

柳まで淋しくしたる槿哉

夜々はよい風の吹く槿哉

曲り目に月の出たる瓢哉

山々も年よるさまや種瓢

枯し木の空しく暮るることし哉

我と松あはれことしも今暮るる

口明て春を待らん犬はりこ

春待や雀も竹を宿として

大年や我死所の鐘もなる

大年や我はいつ行寺の鐘

むら竹や大晦日も夜の雨

はつ雪やかさい烏がうかれ鳴

只居ればおるとて雪の降にけり

夜の雪だまつて通る人もあり

いざ走れ霰ちる夜の古木履

春の夜のおもはくもあり夜の霜

名月や松の天窓の煤もはく

松風や小野のおくさへせき候と

もちつきも夜に入るさまの角田川

もちつきや門は雀の遊処

餅つきや羅漢の鴻もつつがなく

夜に入れば餅の音する榎哉

我門は常の雨夜や餅の音

若松に雪も来よ来よ衣配

浄土寺の年とる鐘や先は聞

鷹がりや麦の旭を袖にして

あつさりと浅黄頭巾の交ぞ

ちとの間は我宿めかすおこり炭

宵々に見べりもするか炭俵

雨ふるや翌からほたの当もなき

ほた焚て皺くらべせんかがみ山

埋火に桂の鴎聞へけり

埋火や山松風を枕元

鳴鹿に紅葉もほろりほろり哉

月よ闇よ吉原行も冬枯るる

人かげや地蔵の塔も冬枯るる

冬枯もそしらぬ顔や都鳥

冬枯や親に放れし馬の顔


文化三年

又ことし娑婆塞ぞよ草の家

長閑しや梅はなくともお正月

我宿もうたたあるさまや御代の春

へら鷺も万才聞か君が春

君が世やよ所の膳にて花の春

正月を寝てしまひけり山の家

相持の橋の春めく月よ哉

軒の雨ぽちりぽちりと暮遅き

山守や春の行方を箒して

行春の空はくらがり峠哉

二葉から朝顔淋し春の霜

あさぢふや逆に寝てさへ春の雨

春雨のめぐみにもれぬ草葉哉

春雨や千代の古道菜漬売

春雨や窓も一人に一つづつ

笠程の窓持て候春の風

春の風垣の雑巾かわく也

春の風草にも酒を呑すべし

山寺や春の月夜の連歌道

宵々や軒の雫も春の月

段々に朧よ月よこもり堂

かすむ日に窓さへ見へぬ獄屋哉

霞む日や門の草葉は昼時分

片袖はばらばら雨や春がすみ

菜畠のふくら雀もかすみ哉

春がすみ鍬とらぬ身のもつたいな

むさしのや我等が宿も一かすみ

山里の寝顔にかかるかすみ哉

陽炎や蚊のわく薮もうつくしき

妹が家も田舎雛ではなかりけり

古郷は雛の顔も葎哉

染色の傘のちらちら汐干哉

田を打てば露もおりけり門の口

畠打や祭々も往く所

うら道や草の上迄種を蒔く

山畠や種蒔よしと鳥のなく

鶯のあてにして来る垣ね哉

山烏山のうぐひすさそひ来よ

巣乙鳥や草の青山よそにして

とぶ燕君が代ならぬ草もなし

野烏に藪を任せて鳴雲雀

足がらの片山雉子靄祝へ

丘の雉鷺の身持をうらやむか

昼比やほろほろ雉の里歩き

山陰も畠となりてなく雉子

行雁や更科見度望みさへ

見知られし雁もそろそろ立田哉

蛙なくやとりしまりなき草の雨

あだしのに蝶は罪なく見ゆる也

跡のてふ松原西へ這入なり

一姫の神笑み給へ草のてふ

うつつなの人の迷ひや野べの蝶

かつしかや雪隠の中も春のてふ

門々を一々巡る小てふ哉

杭の鷺蝶はいきせきさわぐ也

草の蝶牛にも詠られにけり

蝶ひらひら仏のひざをもどる也

若草に冷飯すすむ伏家哉

わか草に夜も来てなく雀哉

わか草や油断を責る暮の鐘

薄菫是にも月のやどる也

ついついと藪の中より菜種哉

なの花にうしろ下りの住居哉

人しらぬ藪もつやつや木の芽哉

春ぞとてしぶしぶ咲し椿哉

古郷は牛も寝て見る椿哉

ありふれの野さへ原さへ梅の花

梅がかを都へさそふ風も哉

梅がかに鼬もないて通りけり

梅がかに引くるまりし小家哉

梅がかや針穴すかす明り先

下草も香に匂ひけり梅の花

山里は油手ふくも梅の花

金の糞しそうな犬ぞ花の陰

咲ちるやけふも昔にならんずる

鼻先の上野の花も過にけり

花咲や二十の比の鐘もなる

花の陰此世をさみす人も有

今からは桜一人よ窓の前

姥捨し片山桜咲にけり

大かたは泥にひつつく桜哉

穀つぶし桜の下にくらしけり

土鳩が寝に来ても鳴く桜哉

初桜花ともいはぬ伏家哉

人寄せぬ桜咲けり城の山

夕過や桜の下に小言いふ

留主寺やせい出してさく桃さくら

日本は柳の空となる夜哉

夕山に肩を並ぶる柳哉

明安き榎持けりうしろ窓

明安き鳥の来て鳴榎哉

月さして遊びでのない夜也けり

夕涼や凡一里の片小山

夕涼や薬師の見ゆる片小藪

夕立に次の祭りの通りけり

夕立の祈らぬ里にかかる也

夕立や草花ひらく枕元

切雲の峰となる迄寝たりけり

寝返ればはや峰作る小雲哉

柴門も青田祝ひのけぶり哉

手枕におのが青田と思ふ哉

灌仏やふくら雀も親連れて

花つみや替々のうちは持

わざわざに蝶も来て舞ふ夏花哉

涼風もけふ一日の御不二哉

軒の菖蒲しなびぬうちに寝たりけり

更衣里は汐干る日也けり

あかざをも目出度しといふ団扇哉

入相に片耳ふさぐ団扇哉

煙してかはほりの世もよかりけり

時鳥火宅の人を笑らん

芋茶屋もうれしいものよ閑古鳥

かんこ鳥しなのの桜咲にけり

山のはへ足を伸せばかんこ鳥

庵の蛍痩なくなりもせざりけり

痩蛍大舟竿にかかる也

我家や町の蛍の逃所

我門や蛍をやどす草もなき

我薮は時分はづれの蛍哉

目出度さは上総の蚊にも喰れけり

焼にけりさしてとがなき藪蚊迄

蝿打てけふも聞也山の鐘

馬の子も同じ日暮よかたつぶり

小盥も蓮もひとつ夕べ哉

蓮の花乞食のけぶりかかる也

蓮の花燕はとしのよらぬ也

福蟇も這出給へ蓮の花

霧雨にあらのの百合のさきぬべし

筍に娑婆の嵐のかかる也

痩梅のなりどしもなき我身哉

長月の空色袷きたりけり

なでしこの気を引立る夜寒哉

なでしこの一花ほこる夜寒哉

人の声森に夜寒はなかりけり

山里や夜寒の宵の歩き好

背中から冷かかりけり日枝の雲

冷々と日の出給ふうしろ哉

又人にかけ抜れけり秋の暮

子供等が翌なき秋をさわぐ也

是程の月にかまはぬ小家哉

煤くさき畳も月の夜也けり

秋風に吹なれ顔の山家哉

うしろから秋風吹やもどり足

どの星の下が我家ぞ秋の風

朝顔のぞくぞく生て野分吹

今に見よ人とる人も草の露

おく露や丘は必けぶり立

草の露先うれしさよ涼しさよ

露の玉一ッ一ッに古郷あり

稲妻やむら雨いはふ草の原

おく露は馬の涙か秋の山

涼しさは七夕雲とゆふべ哉

七夕に一本茄子立りけり

彦星のにこにこ見ゆる木間哉

勝角力其有明も昔也

昔々角力にかちし伏家哉

夕暮は風が吹いても角力哉

かがし立て餅なき家はなかりけり

松苗のうつくしくなるかがし哉

我方へ向てしぐるるかがし哉

小田の水おとした人も淋しいか

小田守も落した水を見たりけり

みよしのの古き夜さりを砧哉

小田の雁年寄声はなかりけり

おちつくと直に鳴けり小田の雁

風吹てそれから雁の鳴にけり

雁鳴て直に夜に入る小家哉

夕風やふり向度に雁の鳴

日短かは蜻蛉の身にも有にけり

朝顔を鳴なくしたりきりぎりす

草花に汁鍋けぶる祭哉

たやすくも菊の咲たる川辺哉

はづかしの庇葺けり菊の花

朝顔や再生と秋を咲

朝顔の咲くたびれもせざりけり

朝顔や引切捨し所に咲

おく露は馬の涙か稲の花

狗の寝所迄も紅葉哉

小男鹿の枕にしたる紅葉哉

蔓草におしつけられし槿哉

花木槿烏叱りてながらふる

栗おちて一つ一つに夜の更る

芝栗のいく度人に踏れけり

芝栗や馬のばりしてうつくしき

鐘氷る山をうしろに寝たりけり

大年にかぎつて雪の降にけり

梅干と皺くらべせんはつ時雨

かたつぶり我と来て住め初時雨

祭り酒紅葉かざして初時雨

切株の茸かたまる時雨哉

我と山とかはるがはるに時雨哉

売飯に夕木がらしのかかりけり

木がらしの袖に吹けり酒強飯

木がらしの日なたに立や待乳山

雪ちるや我宿に寝るは翌あたり

膝ぶしの皺にひつつく霰哉

散みぞれ臼の湯気さへ見られけり

飯の湯のうれしくなるやちるみぞれ

初霜や茎の歯ぎれも去年迄

草の霜あはれことしも踏そむる

酒呑まぬ家のむきあふ霜夜哉

あちこちに茄子も下る枯の哉

もろもろの愚者も月見る十夜哉

はづかしや喰つて寝て聞く寒念仏

手前茶の口切にさへゆふべ哉

かつしかや煤の捨場も角田川

節季候の見むきもせぬ角田川

衾音聞しりて来る雀哉

馬迄もよいとしとるか雪車の唄

君が代を雀も唄へそりの唄

なかなかに梅もほだしや冬篭

はやばやと誰冬ごもる細けぶり

冬篭雁は夜迄かせぐ也

冬三月こもるといふも齢哉

猪の今寝た跡も見ゆる也

風吹や猪の寝顔の欲げなき

我家を踏つぶす気かむら千鳥

かれ草や茶殻けぶりもなつかしき

とくとくと枯仕廻ぬか小藪垣

帰り咲分別もない垣ね哉


文化四年

元日もここらは江戸の田舎哉

亀の身の正月も立日也けり

さかゆきに神の守らん御代の春

はつ春やけぶり立るも世間むき

我門や芸なし鳩も春を鳴

けぶりさへ千代のためしや春の立

沙汰なしに春は立けり草屋敷

春立といふより見ゆる壁の穴

けふもけふも凧引かかる榎哉

猿引は猿に持せて凧

機音は竹にかくれて凧

正月を寝て見る梅でありしよな

けふはとて垣の小すみもわかな哉

ちる雪をありがたがるやわかなつみ

鶯の東訛りも春辺哉

ついついと草に立たる春日哉

春の日やついつい草に立安き

岩の亀不断日永と思ふ哉

うら門のひとりでに明く日永哉

鶏の人の顔見る日永哉

木兎は不断日永と思ふ哉

春の雪せまき袂にすがりけり

春の雪地祭り唄にかかる哉

古郷や餅につき込春の雪

木母寺の夜を見に行春の雨

山里は常正月や春の雨

春風がならして行くぞ田にし殻

春風に箸を掴んで寝る子哉

ぼた餅に宵の春風吹にけり

かすむ日や麓の飯のめづらしき

陽炎にさらさら雨のかかりけり

陽炎やあの穴たしかきりぎりす

鬼島の涅槃の桜咲にけり

角力取も雛祭に遊びけり

人一人二人汐干の小すみ哉

深川や桃の中より汐干狩

茶をこくやふくら雀の顔へ迄

鍋ずみに一際蒔る草葉哉

御僧の其後見へぬつぎ木哉

なく烏門のつぎ穂を笑ふらん

のら猫も妻乞ふ声は持にけり

巣の鳥や人が立ても口を明く

見るうちに一人かせぎや雀の子

鶯が呑んでから汲古井哉

鶯が人は何とも思はぬか

鶯にかさい訛はなかりけり

鶯や摺小木かけも梅の花

島々も仏法ありて燕哉

巣乙鳥の目を放さぬや暮の空

山里は乙鳥の声も祝ふ也

夕燕我には翌のあてはなき

売布を透かす先より雲雀哉

鳴雲雀朝から咽のかわく也

鳴雲雀小草も銭に成にけり

馬の呑水になれたる雉哉

雉鳴て姥が田麦もみどり也

雉なくやきのふ焼れし千代の松

雉子なくや気のへるやうに春の立

痩臑にいきみをつける雉哉

雁行つて人に荒行草葉哉

立雁が大きな糞をしたりけり

藪蕎麦のとくとく匂へかへる雁

行雁がつくづく見るや煤畳

行雁や人の心もうはの空

あさぢふや臼の中よりなく蛙

影ぼふし我にとなりし蛙哉

なく蛙夜はあつけなく成にけり

葉隠に年寄声の蛙哉

葉隠の椿見つめてなく蛙

むさい家の夜を見にござれなく蛙

夕蛙葎の雨に老をなく

我門のしはがれ蛙鳴にけり

蝶おりおり馬のぬれ足ねぶる也

藪の蜂来ん世も我にあやかるな

あさぢふや馬の見て居る梅の花

馬の子の襟する梅の咲にけり

藪脇にこそり咲けり梅の花

傘で来し人をにらむや花の陰

かつしかの空と覚へて花の雲

咲花やけふをかぎりの江戸住居

花の雨ことしも罪を作りけり

花の陰よい雷といふも有

花の雲翌から江戸におらぬ也

花の山仏を倒す人も有

貧乏人花見ぬ春はなかりけり

降雨もしすまし顔や花の陰

うしろから犬のあやしむ桜哉

鉦太鼓敲止ば桜哉

桜守り仏の気にはそむくべし

ただ頼々とや桜咲

菜畠もたしに見らるる桜哉

山吹に大宮人の薄着哉

里の子が柳掴で寝たりけり

草植て夜は短くぞ成にけり

短夜やけさは枕も草の露

五月雨や烏あなどる草の家

五月雨や二軒して見る草の花

見直せば見直せば人の青田哉

曙の空色衣かへにけり

袷きる度にとしよると思哉

此月に扇かぶつて寝たりけり

川々は昔の闇や時鳥

時鳥都にして見る月よ哉

時鳥ことしも見るは葎也

時鳥常と成たる月よ哉

鶯に老を及す草家哉

鶯の寝に来て垣も老にけり

手の皺が歩み悪いか初蛍

鶯と留主をしておれかたつぶり

わか葉吹々とて寝たりけり

越後山背筋あたりを冷つきぬ

背筋から冷つきにけり越後山

冷つくや背すじあたりの斑山

秋の夕親里らしくなかりけり

行雲やかへらぬ秋を蝉の鳴く

たまに来た古郷の月は曇りけり

たまたまの古郷の月も涙哉

月さしてちいさき薮も祭り也

山霧や声うつくしき馬糞かき

里の子のおもしろがるか迎へ鐘

玉棚に必風の吹といふ

迎へ火と見かけて降か山の雨

間々に松風の吹角力哉

草花をよけて居るや勝角力

角力とり松も年よる世也けり

まどいして紅葉を祭る山の鹿

鍬の罰思ひつく夜や雁の鳴

窓の蓋おろしすまして雁の鳴

草原のその長き赤とんぼ

そば所と人はいふ也赤蜻蛉

とんぼうの赤きは人に追れけり

とんぼうの糸も日々古びけり

庇から引つづく也草の花

咲直し咲直しけり祭り菊

里犬の尿をかけけり菊の花

雪国の大朝顔の咲にけり

きたないといふまま萩の咲にけり

咲日から足にからまる萩の花

痩萩やぶくりぶくりと散にけり

小烏も嬉し鳴する稲ほ哉

小男鹿の水鼻拭ふ紅葉哉

近づけば急に淋しき紅葉哉

人先に鷺の音する氷哉

としの暮亀はいつ迄釣さるる

牛の汗あらし木がらし吹にけり

木がらしにくすくす豚の寝たりけり

心からしなのの雪に降られけり

寝ならふやしなのの山も夜の雪

雪の日や古郷人もぶあしらひ

はつ霜や何を願ひのきりぎりす

我塚もやがて頼むぞ鉢敲

すす払藪の雀の寝所迄

ぶつぶつと鳩の小言や衣配

高砂の松や笑はんとしの豆

立枯の木にはづかしき頭巾哉

けふもけふもけふも竹見る火桶哉

正月の来るもかまはぬほた火哉

地蔵さへとしよるやうに木の葉哉

鶯に一葉かぶさる紅葉哉

翌ありと思ふ烏の目ざし哉


文化五年

さりながら道の悪るさよ日の始

あら玉のとし立かへる虱哉

正月や猫の塚にも梅の花

正月や村の小すみの梅の花

古羽織長の正月も過にけり

藪並や貧乏草も花の春

貧乏草愛たき春に逢にけり

春立と猿も袖口見ゆる也

春立や我家の空もなつかしき

寝勝手に梅の咲けり我恵方

それそこの梅も頼むぞ畚おろし

やぶ入の顔にもつけよ梅の花

やぶ入のかくしかねたる白髪哉

相場原子の日の時の松ならん

喰つみも子隅の春と成にけり

門松の陰にはづるる我家哉

きそ始山の梟笑ふらん

わか水のよしなき人に汲れけり

万歳のけふも昔に成りにけり

としよりの今を春辺や夜の雨

春の日や雪隠草履の新しき

鶯の咽かはかする日永哉

のべの草蝶の上にも日や長き

ぽちやぽちやと鳩の太りて日の長き

角田川どこから春は暮るるぞよ

春の夜や一の宝の火吹竹

壁の穴幸春の雨夜哉

春雨やかまくら雀何となく

古郷や草の春雨鍬祭

膳先に夜の春風吹にけり

霞日や大宮人の髪の砂

玉琴も乞食の笛もかすみけり

吹下手の笛もほのぼのかすみ哉

陽炎の手の皺からも立にけり

陽炎や翌の酒価の小柴垣

陽炎やきのふ鳴たる田にし殻

陽炎や人に聞れし虫の殻

雛の日もろくな桜はなかりけり

煙たいとおぼしめすかよ雛顔

そろそろと蝶も雀も汐干哉

麦の葉に汐干なぐれの烏哉

うぐひすもうかれ鳴する茶つみ哉

鳥をとる鳥の栖も焼れけり

寝蝶や焼野の煙かかる迄

畠打やかざしにしたる梅の花

鶯の鳴とばかりにつぎ穂哉

鶯の寝所になれとつぎ穂哉

夜に入れば直したくなるつぎ穂哉

梅がかにうかれ出けり不精猫

鳥の巣をやめるつもりか夕の鐘

鳥の巣にあてがうておく垣根哉

鳥の巣に作り込れし桜哉

鶯に亀も鳴たいやうす哉

鶯にだまつて居らぬ雀かな

鶯や懐の子も口を明く

巣乙鳥や何をつぶやく小くらがり

なまけ日をさつさと雲雀鳴にけり

雉なくや彼梅わかの涙雨

尻尾から月の出かかる雉哉

野の雉の隠所の庵哉

木母寺は暮ても雉の鳴にけり

山寺や雪隠も雉のなき所

我門や何をとりえに雉の鳴

雁にさへとり残されし栖哉

梅の木を鳴古したる蛙哉

浦人のお飯の上もかはづ哉

ちる花を口明て待かはづ哉

昼顔にうしろの見ゆるかへる哉

山の鐘蛙もとしのよりぬべし

我を見てにがひ顔する蛙哉

あか棚に蝶も聞くかよ一大事

仇し野や露に先立草の蝶

門の蝶朝から何がせはしない

酒好の蝶ならば来よ角田川

蝶飛んで箸に折るる藪の梅

初蝶の一夜寝にけり犬の椀

初蝶もやがて烏の扶食哉

春の蝶牛は若やぐ欲もなし

山鳥のほろほろ雨やとぶ小蝶

白魚に大泥亀も遊びけり

白魚のどつと生るるおぼろ哉

白魚やきのふも亀の放さるる

わか草に我もことしの袂哉

わか草や我と雀と遊ぶ程

凡に三百年の菫かな

菜の花のさし出て咲けりよしの山

なの花の横に寝て咲く庵哉

なの花や雨夜に見ても東山

棚つけて一度も咲かず藤の花

有がたや楮裂く人の梅の花

梅が香をすすり込だる菜汁哉

梅がかにかぶり馴たる筵哉

梅がかに引くるまりて寝たりけり

梅ちりて急に古びる都哉

梟の分別顔や梅の花

いざさらば死げいこせん花の陰

乞食も一曲あるか花の陰

咲く花に部張り給はぬ御馬哉

さく花や昔々はこの位

ちる花をざばざば浴る雀哉

ちる花や鶯もなく我もなく

花盛り必風邪のはやりけり

花さくや目を縫れたる鳥の鳴

花の雨虎が涙も交るべし

又しても橋銭かする花見哉

山盛の花の吹雪や犬の椀

翌あらばあらばと思ふ桜哉

大汗に拭ひ込だる桜哉

小坊主や親の供して山桜

米踏みも唄をば止よ桜ちる

桜花賎しき袖にかかりけり

死下手と又も見られん桜花

煤臭い笠も桜の咲日哉

祟りなす杉はふとりてちる桜

ちる桜けふもむちやくちやくらしけり

花咲くや桜が下のばくち小屋

ぼた餅や跡の祭りに桜ちる

御仏もこち向給ふ桜哉

山桜髪なき人にかざさるる

山桜松は武張つて立にけり

桃苗は花を持けり数珠嫌

大藪の入りの入りなる桃の花

蚊所の八重山吹の咲にけり

山吹や培ふ草は日まけして

山吹は時鳥待つもり哉

青柳のかかる小隅も都哉

鶏〆る門の柳の青みけり

短夜を継たしてなく蛙哉

涼風に立ちふさがりし茨哉

とくとくと水の涼しや蜂の留守

寝所も五月雨風の吹にけり

夕立にとんじやくもなし舞の袖

夏山や目にもろもろの草の露

芒から菩薩の清水流れけり

なでしこの折ふせらるる清水哉

蜂の巣のてくてく下る清水哉

山清水木陰にさへも別けり

山清水守らせ給ふ仏哉

古葎祭の風のとどく也

灌仏にとんじやくもなし草の花

藤棚も今日に逢けり花御堂

夏菊の花ととしよる団扇哉

夕暮の虫を鳴する団扇哉

鶯の寝所迄も蚊やり哉

四五尺の山吹そよぐ蚊やり哉

柴門や蚊にいぶさるる草の花

露おくや晩の蚊やりの草の花

痩脛や涼めば虻に見込まるる

かはほりの住古したる柱哉

かはほりよ行々京の飯時分

悪酒や此時鳥此木立

鶯もとしのよらぬや山の酒

うつくしき花の中より薮蚊哉

蚊の声やさらさら竹もそしらるる

時鳥聞所とて薮蚊哉

蠅打に敲かれ玉ふ仏哉

草の葉やたつぷりぬれて蝉の鳴

蝉ばかり涼しき衣きたりけり

投足の蝉へもとどけ昼の空

片里はおくれ鰹も月よ哉

昼顔に大きな女通りけり

昼顔にころころ虫の鳴にけり

昼顔や赤くもならぬ鬼茄子

昼顔やけぶりのかかる石に迄

夕顔の花めで給へ後架神

夕顔やはらはら雨も福の神

筍や鶯親子連立て

瓜むいて芒の風に吹かれけり

長月や廿九日のきくの花

秋立や寝れば目につく雪の山

今朝の秋山の雪より来る風が

いななくや馬も夜寒は同じ事

かくべつの松と成たる夜寒哉

門の木に階子かかりし夜寒哉

ことごとく仏の顔も夜寒哉

行灯を引つたくられて夜寒哉

かたつむり何をかせぐぞ秋の暮

梟の一人きげんや秋の暮

入月に退くやうな小山哉

ことごとく月はささぬぞらかん達

しなのぢやいく夜なれても軒の月

湯けぶりにふすぼりもせぬ月の顔

いさらいに石あたたまる月よ哉

名月の御覧の通り屑家也

秋の天小鳥一つのひろがりぬ

秋風に御任せ申す浮藻哉

秋風にことし生たる紅葉哉

秋風や仏に近き年の程

なけなしの歯を秋風の吹にけり

白露を何とおぼすぞかかし殿

白露にお花の種を蒔ばやな

露置てうれしく見ゆる蛙哉

毒虫もいつか一度は草の露

乙鳥のつくづく見たる切籠哉

かがし暮かがし暮けり人の顔

大切に仕廻つて置しかがし哉

人に人かがしにかがし日の暮るる

さをしかの鳴も尤も山の雨

小男鹿や後の一声細長き

山の鹿小萩の露に顔洗へ

雁よりも先へ場とりし烏哉

はつ雁や貧乏村を一番に

行灯に来馴し虫の鳴にけり

籠の虫けぶりけぶりに鳴馴るる

五六本稲もそよぎて虫の籠

鳴虫の小さくしたる社哉

御仏も杓子も虫に鳴かれけり

むさしのの野中の宿の虫籠哉

夜涼みのかぎりを鳴やかごの虫

葉の虫ハ化して飛けり朝の月

羽根生へてな虫ハとぶぞ引がへる

朝寒もはや合点のとんぼ哉

こほろぎの巣にはいつなる我白髪

世の中のよしよしといふいなご哉

入相にたじろぎもせず草の花

狼の毛ずれの草の咲にけり

草の花人の上には鐘がなる

草の花よんどころなく咲にけり

鳥鳴て貧乏草も咲にけり

鉄砲の先に立たり女郎花

狗のかざしにしたり萩の花

子供等が鹿と遊ぶや萩の花

萩の花大な犬の寝たりけり

宵々に古くもならず萩の花

片袂すすきの風に荒れにけり

秋蝿の終の敷寝の一葉哉

狗のどさりとねまる一葉かな

一日の人の中より一葉哉

むづかしや桐の一葉の吹れやう

ぞくぞくと人のかまはぬ茸哉

念仏のころりと出たる茸哉

松散や茸の時は誰かある

あさぢふや大三十日の夕木魚

大年の日向に立る榎哉

梅の木や都のすすの捨所

すす竹や馬の首も其序

すす竹や先鶯の鳴ところ

すす掃て長閑に暮る菜畠哉

すすはきやけろけろ門の梅の花

木隠やあみだ如来の餅をつく

餅つきや都の鶏も皆目覚

住吉の隅にとしよる鴎哉

関守に憎まれ千鳥鳴にけり


文化六年

礎や元日しまの巣なし鳥

元日や我のみならぬ巣なし鳥

元日に曲眠りする美人哉

正月がへる夜へる夜の霞かな

正月は後の祭や春の風

朝笑いくらに買か花の春

家なしの身に成て見る花の春

家なしの此身も春に逢ふ日哉

薮入が柿の渋さをかくしけり

薮入や桐の育ちもついついと

雑巾のほしどころ也門の松

生炭団一ッ一ッの日永哉

永の日に口明通る烏哉

春の行夜を梟の小言哉

行春にさしてかまはぬ烏哉

神棚は皆つつじ也春の雨

けふもけふも同じ山見て春の雨

春雨や土のだんごも遠土産

春雨や人の花より我小薮

春風の夜も吹也東山

春風や草よりかわく犬張子

春風や柱の穴も花の塵

春風や夜にして見たき東山

春風や夜も市立なにはがた

愚さを松にかづけて夕がすみ

窓先や常来る人の薄霞

夕風呂のだぶりだぶりとかすみ哉

我笠ぞ雁は逃るな初霞

陽炎ににくまれ蔓の見事也

陽炎やきのふは見へぬだんご茶屋

雪どけや門の雀の十五日

雪解や門は雀の御一日

出代の己が一番烏かな

夕暮の笠も小褄もこき茶哉

畠打の顔から暮るつくば山

有明や家なし猫も恋を鳴

恋猫の源氏めかする垣根哉

穴一の穴に馴けり雀の子

五六間烏追けり親雀

雀子や人のこぶしに鳴初る

巣放れの顔を見せたる雀哉

鶯のだまつて聞や茶つみ唄

むら雨を尾であしらひし雉哉

雁立つた跡を見に行小松哉

大切の廿五日やかへる雁

行雁や我湖をすぐ通り

蝶とぶや此世に望みないやうに

蝶とんでかはゆき竹の出たりけり

なの花の咲連もない庵哉

藤棚や後ろ明りの草の花

梅が香やそもそも春は夜の事

のら猫のうかるる梅が咲にけり

古郷や卯月咲ても梅の花

梅がかや神酒を備へる御制札

ただ頼め花ははらはらあの通り

ちる花や仏ぎらひが浮れけり

花さくや田舎鶯いなか飴

一本は桜もちけり娑婆の役

隠家や遅山桜おそ鰹

風所の一本桜咲にけり

五十年見れども見れど桜哉

住吉の隅の小すみの桜哉

ただ頼桜ぼたぼたあの通り

つくづくと蛙が目にも桜哉

にくい程桜咲たる小家哉

古桜倒るる迄と咲にけり

山桜さくや八十八所

苦桃の花のほちやほちや咲にけり

桃さくや先祈るる麦の露

青柳や十づつ十の穴一に

観音の心をそよぐ柳哉

さし柳涼む夕は誰か有

又六が門の外なる柳哉

今来るは木曽夕立か浅間山

夕立にすくりと森の灯哉

夕立になでしこ持たぬ門もなし

夕立の枕元よりすすき哉

夕々夕立雲の目利哉

宵祭大夕立の過にけり

シ風に菩薩の清水流れけり

夏籠のけしきに植し小松哉

蟷螂が不二の麓にかかる哉

不二の草さして涼しくなかりけり

またぐ程の不二へも行かぬことし哉

菖蒲ふけ浅間の煙しづか也

乙鳥もしようぶ葺く日に逢りけり

我門を山から見たる幟哉

はらはらと汗の玉ちる稲葉哉

鶯の飯時ならん更衣

更衣朝から松につかはるる

春日野の鹿にかがるる袷かな

一日の渋帷子をきたりけり

帷子の白きを見れば角田川

木男が薄帷子をきたりけり

翌も翌も同じ夕か独蚊屋

蚊屋の穴かぞへ留りや三ケの月

昼比や蚊屋の中なる草の花

宵々や団扇とるさへむつかしき

蚊いぶしにやがて蛍も去りにけり

夕月の正面におく蚊やり哉

おれが田を誰やらそしる夕涼み

目をぬひて鳥を鳴かせて門涼

鹿の子の枕にしたるつつじ哉

萩の葉と一所に伸びるかのこ哉

木母寺は夜さへ見ゆる時鳥

時鳥声をかけたか御伐木

時鳥田のない国の見事也

時鳥鳴く空持し在所哉

雨三粒蛍も三ッ四ッかな

そよそよと世直し風やとぶ蛍

はづかしき鍋に折々蛍哉

蛍来よ一本竹も我夜也

蛍火や蛙もかうと口を明く

夕暮や蛍にしめる薄畳

あばれ蚊の生所の御花哉

母恋し恋しと蝉も聞ゆらん

世直しの竹よ小藪よ蝉時雨

ともかくもあなた任せかかたつぶり

御仏の雨が降ぞよかたつぶり

咲ぼたん一日雀鳴にけり

猫の鈴ぼたんのあつちこつち哉

我庵やあくたれ烏痩ぼたん

筍を見つめてござる仏哉

瓜になれなれなれとや蜂さわぐ

うの花にどつさりかかる柳哉

うの花や蛙葬る明り先

うの花や二人が二人仏好

梅おちて又落にけり露の玉

沙汰なしに実をむすびたる野梅哉

山の院梅は熟して立りけり

有明や空うつくしき蚊の行方

名月のさしかかりけり貰ひ餅

名月やそもそも寒きしなの山

名月やどこに居つても人の邪魔

秋雨や乳放馬の市に行

かたつぶり何をかせぐぞ秋の雨

薬呑む馬もありけり秋の雨

さらしなもそろそろ秋の雨よ哉

山寺や霧にまぶれし鉋屑

なまなかに消きりもせぬ灯ろ哉

きりぎりす星待人に取られけり

星待や茶殻をほかす千曲川

荒駒の木曽を離るる尾をふりぬ

こほろぎの声も添へけりおとし水

夕けぶり鳩吹人にかかりけり

松竹は昔々のきぬた哉

唐の吉野もかくや小夜ぎぬた

ことし酒先は葎のつつがなき

深草の鶉鳴けりばばが糊

渡り鳥いく組我を追ぬくか

渡り鳥日本の我を見しらぬか

蓑虫や梅に下るはかれが役

蓑虫や花に下る己が役

日ぐらしや急に明るき湖の方

代官の扇の上のいなご哉

とぶいなご柳もとしのよりにけり

八朔の鱠に逢しいなご哉

鼻唄にどつといなごのきげん哉

草萩の咲ふさげけり這入口

萩の末ききやうの下になく蚊哉

なむだ仏なむあみだ仏まんじゅさ花

我植た稲を見知つてしたりけり

我門は稲四五本の夕哉

鶯がさくさく歩く紅葉哉

懐の猫も見て居る一葉哉

赤木槿咲くや一人涼む程

芝栗のえむといふ日もなかりけり

あさぢふや門の口からきのこがり

虻よぶや必茸ある通り

此方に茸ありとや虻のとぶ

ぞくぞくと鼠の穴もきのこ哉

身に添や前の主の寒さ迄

はつ雪や何を願ひのきりぎりす

此次は我身の上かなく烏


文化七年

家なしも江戸の元日したりけり

牛馬も元日顔の山家哉

古郷や馬も元日いたす顔

老が身の値ぶみをさるるけさの春

大江戸や芸なし猿も花の春

下京や闇いうちから花の春

身一つも同じ世話也花の春

我庵や菜の二葉より花の春

門々の下駄の泥より春立ぬ

春立と申すもいかが上野山

あばら家も年徳神の御宿哉

大原や後れ薮入おくれ梅

薮入や墓の松風うしろ吹

朔日や一文凧も江戸の空

舞扇猿の涙のかかる哉

朝陰や親ある人のわかなつみ

ひよりひよりと磯田の鶴も日永哉

長の春今尽る也角田川

若雀翌なき春をさわぐ也

行灯で畠を通る春の雨

春雨や魚追逃す浦の犬

春雨や盃見せて狐よぶ

春雨や少古びし刀禰の鶴

鳩の恋烏の恋や春の雨

春ひと風の夜にして見たる我家哉

春風や残らず晴しらかん達

春風やはや陰作るかきつばた

親にらむ平目もかすむ一つ哉

かすむぞよ松が三本夫婦鶴

此門の霞むたそくや隅田の鶴

柴の戸やかすむたそくの隅田鶴

とくかすめとくとくかすめ放ち鳥

夕暮れや霞中より無常鐘

片隅に烏かたまる雪げかな

雁起よ雪がとけるぞとけるぞよ

長々の雪のとけけり大月夜

雪とけてくりくりしたる月よ哉

雪どけや順礼衆も朝の声

雪どけや巣鴨辺りのうす月夜

雪とけるとけると鳩の鳴木かな

おぼろげや同じ夕をよその雛

乞食子がおろおろ拝む雛哉

むさい家との給ふやうな雛哉

草餅を先吹にけり筑波東風

蓬餅そのの鶯是ほしき

鶯の嘴の先より汐干哉

雀鳴庭の小隅も汐干哉

折ふしは鹿も立添茶つみ哉

幾日やら庵の雀も皆巣立つ

鳴よ鳴よ親なし雀おとなしき

人鬼に鳴かかりけり親雀

人鬼よおによと鳴か親雀

むつまじき二親もちし雀哉

夕暮や親なし雀何と鳴

浅草や家尻の不二も鳴雲雀

けふもけふも一つ雲雀や亦打山

青山を拵へてなく雉哉

蟻程に人は暮れしぞ雉の鳴

酒桶や雉の声の行とどく

鳴く雉や尻尾でなぶる角田川

我庵のけぶり細さを雉の鳴

我夕や里の犬なく雉のなく

有明や念仏好の雁も行

いざさらばさらばと雁のきげん哉

帰る雁我をかひなき物とやは

雁行な今錠明る藪の家

念仏をさづけてやらん帰る雁

花びらに舌打したる蛙哉

藪並や仕様事なしに鳴蛙

夕陰や連にはぐれてなく蛙

入相を合点したやら蝶のとぶ

木曽山や蝶とぶ空も少の間

蝶とんで我身も塵のたぐひ哉

ついついと常正月ややもめ蝶

とぶ蝶の邪魔にもならぬけぶり哉

はづかしや蝶はひらひら常ひがん

はづかしや三十日が来ても草のてふ

蓑虫はそれで終かとぶ小蝶

はつ蝶やつかみ込れな馬糞かき

山住や蜂にも馴て夕枕

入相や桜のさわぐ鮎さわぐ

心して桜ちれちれ鮎小鮎

笹陰を空頼みなる小鮎哉

花の散る拍子に急ぐ小鮎哉

わか鮎は西へ落花は東へ

蛤の芥を吐する月夜かな

山の草芽出すと直に売られけり

草々もわかいうちぞよ村雀

蒲公英も天窓剃たるせつく哉

うす菫桜の春はなく成ぬ

きりぎりすけふや生れん菫さく

住吉の隅に菫の都哉

にくまれし妹が菫は咲にけり

花菫椿の春はなくなるぞ

水上は皆菫かよ角田川

草餅とともどもそよぐ菫哉

菜の花や袖を苦にする小傾城

深山木の芽出しもあへず喰れけり

梅を見て梅を蒔けり人の親

梅咲や里に広がる江戸虱

幼子や掴々したり梅の花

人の世や田舎の梅もおがまるる

斯う活て居るも不思議ぞ花の陰

さく花に長逗留の此世哉

さく花にぶつきり棒の翁哉

さく花や此世住居も今少し

さざ波や花に交る古木履

ちる花や已におのれも下り坂

花ちるや已が年も下り坂

手の奴足の乗もの花の山

花咲や欲のうきよの片すみに

花ちるや称名うなる寺の犬

花の雨扇かざさぬ人もなし

花の陰我は狐に化されし

花びらがさわつても出る涙哉

腹中の鬼も出て見よ花の山

夕暮はもとの旅也花の山

汚坊花の表に立りけり

天の邪鬼踏れながらもさくら哉

えた寺の桜まじまじ咲にけり

狗が供して参る桜かな

鬼の角ぽつきり折るる桜哉

観音のあらんかぎりは桜かな

咲くからに罪作らする桜哉

桜木や同じ盛も御膝元

桜々花も三月三十日哉

桜花何が不足でちりいそぐ

さざ波やさもなき桜咲にけり

死支度致せ致せと桜哉

上人は菩薩と見たる桜哉

散桜肌着の汗を吹せけり

散桜よしなき口を降埋めよ

三十日か三十日かとやちるさくら

年よりの目にさへ桜々哉

なんのその西方よりもさくら花

山桜々も二十九日かな

山桜中々花が病かな

山桜花をしみれば歯のほしき

夕桜鬼の涙のかかるべし

夕ざくらけふも昔に成にけり

よるとしや桜のさくも小うるさき

山吹や草にかくれて又そよぐ

夏の夜やうらから見ても亦打山

明安き闇の小すみの柳哉

あつき夜や江戸の子隅のへらず口

立じまの草履詠る暑哉

門の夜や涼しい空も今少し

涼風や力一つぱいきりぎりす

涼風はあなた任せぞ墓の松

涼しさに忝さの夜露哉

涼しさや山から見へる大座敷

涼しさや闇の隅なる角田川

月涼しすずしき松のたてりけり

五月雨や胸につかへるちちぶ山

いかめしき夕立かかる柳哉

小祭や人木隠て夕立す

夕立に大の朝顔咲にけり

夏山や一人きげんの女郎花

昔々々の釜が清水哉

夕陰や清水を馬に投つける

けいこ笛田はことごとく青みけり

春日のの鹿も立ちそう花御堂

里の子や烏も交る花御堂

旅烏江戸の御祓にとしよりぬ

蟾親子づれして夕祓

夕祓鴫十ばかり立にけり

茅の輪や始三度は母の分

形代の後れ先立角田川

形代やとても流れば西の方

かたしろや水になる身もいそがしき

夕あらし我形代を頼むぞよ

鰍鳴月の山川狩られけり

川がりや鳴つくばかりきりぎりす

鵜匠にとしのとれとや姫小松

鵜匠や鵜を遊する草の花

うつくしき草のはづれのう舟哉

風そよそよ今始たる鵜舟哉

草花のちらちら見へてう舟哉

人の子や鵜を遊する草の花

見る人に夜露のかかる鵜舟哉

更衣此日も山と小藪かな

何をして腹をへらさん更衣

鶯に声かけらるる袷かな

四月の二日の旦の袷かな

帷子に忝の夜露哉

草そよそよ簾のそよりそより哉

吹風のきのふは青き簾哉

から舟や鷺が三疋蚊屋の番

梟よ蚊屋なき家と沙汰するな

暮行や扇のはしの浅間山

山けぶり扇にかけて急ぐ哉

うつくしや蚊やりはづれの角田川

蚊いぶしをはやして行や夕烏

今に入草葉の陰の夕涼

うら門や誰も涼まぬ大榎

巾着の殻が流るる夕涼み

茶のけぶり仏の小田も植りけり

弓提し人の跡おふかのこ哉

かはほりをもてなすやうな小竹哉

暁の夢をはめなん時鳥

朝々やけふは何の日ほととぎす

有様は待申さぬぞ時鳥

十日程雲も古びぬほととぎす

なでしこの正月いたせ郭公

なでしこもすすきも起よほととぎす

汝らもとしとり直せ時鳥

時鳥木を植るとてしかる也

時鳥我湖水ではなかりけり

むさしのに只一つぞよほととぎす

用なしは我と葎ぞ時鳥

若い衆にきらはれ給ふほととぎす

我汝を待こと久し時鳥

何事もなむあみだ仏閑古鳥

行々し下手盗人をはやすらん

笠程の花が咲たぞとぶ蛍

手枕や小言いうても来る蛍

人鬼の中へさつさと蛍哉

梟や蛍々をよぶやうに

山伏が気に喰ぬやら行く蛍

悪土の国とも見えぬ蛍哉

老ぬれば只蚊をやくを手がら哉

鐘鳴るや蚊の国に来よ来よ来よと

蚊柱や凡そ五尺の菊の花

山人や袂の中の蝉の声

朝雨やすでにとなりのかたつぶり

それなりに成仏とげよかたつぶり

陶の笹もそよそよ松魚哉

只たのめ山時鳥初松魚

とうふ屋が来る昼顔が咲にけり

生て居るばかりぞ我とけしの花

ひろびろと麦に咲そうぼたん哉

うき葉うき葉蓮の虻にぞ喰れける

馬喰し虻が逃行蓮の花

花盛蓮の虻蚊に喰れけり

けふからの念仏聞々ゆりの花

さくゆりになむあみだぶのはやる也

しんしんとゆりの咲けり鳴雲雀

寝る牛はゆりの心にかなふべし

ゆり咲てとりしまりなき夕哉

ゆり咲や大骨折つて雲雀鳴く

鶯やうき世の隅も麦の秋

麦秋の小隅に咲くは何の花

せい出してそよげわか竹今のうち

そよげそよげそよげわか竹今のうち

わか竹や是も若は二三日

竹の子といふ竹の子のやみよかな

竹の子にへだてられけり草の花

竹の子の兄よ弟よ老ぬ

竹の子や痩山吹も夜の花

夜々は門も筍分限哉

旦夕にふすぼりもせぬわかば哉

桑の木や旦々の初わか葉

下やみや萩のやうなる草の咲

堅どうふあな卯の花の在所哉

古郷やよるも障るも茨の花

小柱や己が夜寒の福の神

古郷や是も夜寒の如来様

赤紐の草履も見ゆる秋の夕

赤紐の草履も見ゆる秋の暮

争ひや夜長のすみの角田川

あばら骨あばらに長き夜也けり

行秋をぶらりと大の男哉

行秋やすでに御釈迦は京の空

名月をにぎにぎしたる赤子哉

名月やけふはあなたもいそがしき

名月は汐に流るる小舟かな

夕暮や鬼の出さうな秋の雲

秋の雨小さき角力通りけり

秋風やあれも昔の美少年

秋風や腹の上なるきりぎりす

草の葉や雨にまぎれぬ秋の露

白露にまぎれ込だる我家哉

涼しさに忝さの夜露哉

露ちるや後生大事に鳴雀

露の世の露の中にてけんくわ哉

露ほろりほろりと鳩の念仏哉

露見ても酒は呑るることし哉

我門の宝もの也露の玉

迎鐘落る露にも鳴にけり

我仏けふもいづくの草枕

迎へ火をおもしろがりし子供哉

草原にそよそよ赤い灯ろ哉

下手祭妹がすすきは荒にけり

朝顔を一垣咲す角力哉

角力とりや是は汝が女郎花

立かがしそもそも御代の月夜也

どちらから寒くなるぞよかがし殿

笛吹て山のかがしの御礼哉

君が代や牛かひが笛小夜砧

恋猫の片顔見ゆる小夜砧

直そこのわか松諷ふきぬた哉

なでしこの一花咲ぬ小夜ぎぬた

故郷や寺の砧も夜の雨

故郷や母の砧のよわり様

古松や我身の秋もあの通り

古松や我身の秋が目に見ゆる

うら口やすすき三本雁夫婦

大橋や鑓もちどのの跡の雁

暮行や雁とけぶりと膝がしら

出る月に門田の雁の行儀哉

赤蜻蛉かれも夕が好じややら

夕汐や草葉の末の赤蜻蛉

こほろぎのなくやころころ若い同士

枯々の野辺に恋するいなご哉

庵の夜や棚捜しするきりぎりす

きりぎりすさがし歩くや庵の棚

大切のぼたもちふむなりきりぎりす

ぼた餅を踏へて鳴やきりぎりす

夕汐や塵にすがりてきりぎりす

草花やいふもかたるも秋の風

ふくろふよ鳴ばいくらの草の花

雷の焦し給ひぬ女郎花

よろよろは我もまけぬぞ女郎花

有明や親もつ人の稲の花

茶けぶりや丘穂の露をただ頼む

名月の大事として稲の花

夕月や大々として稲の花

三ケ月の御若い顔や桐一葉

柿を見て柿を蒔けり人の親

十月の中の十日の霰哉

十月やほのぼのかすむ御綿売

とし暮て薪一把も栄耀哉

わらの火のめらめら暮ることし哉

鶯が親の跡追ふ初時雨

必や湯屋休みてはつ時雨

初時雨俳諧流布の世也けり

しぐるるや苦い御顔の仏達

誰ためにしぐれておはす仏哉

寝筵にさつと時雨の明り哉

蕗の葉に酒飯くるむ時雨哉

又犬にけつまづきけり小夜時雨

山里は槌ならしても時雨けり

けふもけふも只木がらしの菜屑哉

木がらしに大事大事の月よ哉

木がらしや額にさわる東山

はつ雪をいまいましいと夕哉

はつ雪が降とや腹の虫が鳴

はつ雪や朝夷する門乞食

はつ雪や犬なき里の屑拾ひ

はつ雪やそれは世にある人の事

初雪や鶏の朝声浅草寺

はつ雪や仏の方より湧清水

初雪やほのぼのかすむ御式台

はつ雪や雪やといふも歯なし哉

むつかしや初雪見ゆるしなの山

玉霰瓦の鬼も泣やうに

散霰鳩が因果をかたる様

霰来とうたへる口へあられ哉

けふの日や鳩も数珠かけて初時雨

ほかほかと煤がかすむぞ又打山

都鳥それさへ煤をかぶりけり

せき候やそれそれそこの梅の花

加茂川を二番越さず紙子哉

朔日の拇出る足袋で候

こほろぎの寒宿とする衾哉

埋火に作りつけたる法師哉

埋火の餅をながむる烏哉

埋火をはねとばしけり盗み栗

埋火の天窓張りこくるきせる哉

埋火やきせるで天窓はりこくり

埋火や白湯もちんちん夜の雨

茎漬の氷こごりを歯切哉

朝々に半人前の納豆哉

有明や納豆腹を都迄

有明や紅葉吹おろす鰒汁

梟や我から先へ飯買に

鶯や黄色な声で親をよぶ

笹鳴も手持ぶさたの垣根哉

小夜千鳥人は三十日を鳴にけり

其やうに朝きげんかよ川千鳥

袂へも飛入ばかり千鳥哉

人ならば仏性なるなまこ哉

尋常に枯て仕廻ぬ野菊哉

かつしかや鷺が番する土大根

ちる木の葉渡世念仏通りけり

鶯の山と成したるおち葉哉

霜がれや勧化法度の藪の宿


文化八年

例の通り梅の元日いたしけり

正月の町にするとや雪がふる

正月や外はか程の御月夜

正月や奴に髭のなささうに

今朝の春四九じやもの是も花

けさ程やちさい霞も春じやとて

我春も上々吉よ梅の花

春立や夢に見てさへ小松原

壁の穴や我初空もうつくしき

初空へさし出す獅子の首哉

初空を拵へているけぶり哉

初空にならんとすらん茶のけぶり

初空の色もさめけり人の顔

初空のはづれの村も寒いげな

初空のはなばなしさを庵哉

初空のもやうに立るけぶり哉

初空やはばかり乍ら茶のけぶり

初空や縁の色の直さむる

蓬莱に南無南無といふ童哉

蓬莱に夜が明込ぞ角田川

蓬莱の下から出たる旭かな

蓬莱や只三文の御代の松

正夢や春早々の貧乏神

今様の凧上りけり乞食小屋

今様の凧の上りし山家哉

辻うたひ凧も上つていたりけり

万歳や馬の尻へも一祝

万ざいや門に居ならぶ鳩雀

万ざいや麦にも一つ祝ひ捨

獅子舞や大口明て梅の花

だまつても行ぬやけさの遅烏

二月や天神様の梅の花

月さして一文橋の春辺哉

長閑しや酒打かける亦打山

鳩鳴や大事の春がなくなると

ゆさゆさと春が行ぞよのべの草

鳥どもよだまつて居ても春は行

野大根烏のかがし春の雨

萩の葉に鹿のくれけり春の雨

春雨に大欠する美人哉

春雨や小島も金の咲くやうに

春雨や是は我家の夜の松

春雨やつつじでふきし犬の家

春雨や貧乏樽の梅の花

人のいふ法ほけ経や春の雨

春風や東下りの角力取

春風や牛に引かれて善光寺

彼の桃が流れ来よ来よ春がすみ

死鐘と聞さへのらのかすみ哉

ちとの間にかすみ直すや山の家

古郷や下手念仏も春がすみ

湖を風呂にわかして夕がすみ

陽炎や道灌どのの物見塚

けふの日や庵の小草も餅につく

妹が子やけふの汐干の小先達

深川や五尺の庭も汐干狩

なむあみだなむあみだとてこき茶哉

二番茶にこき交られしつつじ哉

田を打つて弥々空の浅黄哉

畠打や手洟をねぢる梅の花

真直に人のさしたるしきみかな

赤馬の鼻で吹きけり雀の子

大勢の子に疲たり雀哉

晴天に産声上る雀かな

夕暮とや雀のまま子松に鳴

鶯の足をふく也梅の花

鶯のけむい顔する垣根哉

鶯の鳴ておりけりひとり釜

鶯の法ほけ経を信濃哉

鶯や仕へ奉る梅の花

おく山も今はうぐひすと鳴にけり

かさい酒かさい鶯鳴にけり

鍬のえに鶯鳴くや小梅村

信濃なる鶯も法ほけ経哉

三日月やふはりと梅にうぐひすが

有明や鶯が鳴く綸が鳴る

小社や尾を引つかけて夕雉

祠から頭出して鳴きぎす哉

三月や三十日になりて帰る雁

浅ぢふや歩きながらになく蛙

象潟や桜を浴てなく蛙

我庵や蛙初手から老を鳴く

蝶とぶやしなののおくの草履道

むつまじや生れかはらばのべの蝶

世の中や蝶のくらしもいそがしき

うつるとも花見虱ぞよしの山

上人の西の藤波そよぐ也

上人の西の藤波今やさく

鳶のいる餅屋が藤は咲にけり

藤さくやすでに三十日の両大師

鶯の親子仕へる梅の花

梅咲くや一日ごろのつくば山

大空のはづれは梅の在所哉

かま獅子や大口明て梅の花

黒土も団子になるぞ梅の花

黒土や草履のうらも梅の花

米搗や臼に腰かけて梅の花

三尺も麓とあれば梅の花

三方の銭五六文梅の花

ちりめんの猿狙が三疋梅の花

古郷や犬の番する梅の花

物売を梅からよぶや下屋敷

梅咲て打切棒の小家哉

貝殻で家根ふく茶屋や梅の花

さく花にけぶりの嗅いtばこ哉

如意輪は御花の陰の寝言哉

花咲て祖師のゆるしの肴哉

花さくや桜所の俗坊主

花の木にさつと隠るる倅哉

花の日も精進ものや山の犬

売ものの札を張られし桜哉

大桜さらに買人はなかりけり

からからと下駄をならして桜哉

桜見て歩く間も小言哉

下々に生れて夜もさくら哉

誰も居ぬうしろ座敷の桜哉

花守や夜は汝が山桜

懐の子が喰たがる桜哉

家根をはく人の立けり夕桜

山桜咲や附たり仏の事

山ざくらそなたの空も三十日哉

山桜それが上にも三十日有

夕桜蟻も寝所は持にけり

つき合はむりにうかるる桜哉

麦などもほちやほちや肥て桃の花

山吹をさし出し顔の垣ね哉

雁鴨のづうづうしさよ門柳

けろりくわんとして雁と柳哉

下総へ一すじかかる柳かな

柳さし柳さしては念仏哉

楽々と家鴨の留主の柳哉

夜のつまる峠も下り月夜哉

涼風も仏任せの此身かな

涼風や鼠のしらぬ小隅迄

涼しさに一本草もたのみ哉

涼しさにぶらぶら地獄巡り哉

涼しさや門も夜さりは仏在世

涼しさや松見ておはす神の蛇

涼しさは雲の作りし仏哉

蝉の世も我世も涼し今少し

夕立に打任せたりせどの不二

夕立やすすき刈萱女郎花

夕立や辻の乞食が鉢の松

心から鬼とも見ゆる雲の峰

ちさいのは門にほしさよ雲の峰

ちさいのは皆正面ぞ雲の峰

よい風や中でちひさい雲の峰

柴門や天道任せの田の青む

御仏やえぞが島へも御誕生

乙鳥まちを祈るや川社

菖草巣に引たがる雀哉

わか様がせうぶをしやぶる湯どの哉

今ぞりの児や帷うつくしき

雨笠も日笠もあなた任せ哉

八九間柳を去て日傘哉

かつしかや猫の逃込むかやのうち

白扇どこで貰ふたと人のいふ

門涼爺が乙鳥の行儀也

月様もそしられ給ふ夕涼

月さへもそしられ給ふ夕涼

植る田やけふもはらはら帰る雁

浅草や上野泊りのほととぎす

あさくらや名乗て通る時鳥

いざ名乗れ松の御前ぞ時鳥

えた村や山時鳥ほととぎす

こんな夜は唐にもあろか時鳥

時鳥汝も京は嫌ひしな

時鳥橋の乞食も聞れけり

鶯も愚に返るかよだまつてる

熊坂が長刀にちる蛍哉

子ありてや橋の乞食もよぶ蛍

さし柳蛍とぶ夜と成にけり

念仏の口からよばる蛍哉

茨藪になることなかれとぶ蛍

庵の蚊にあはれことしも喰れけり

夕空や蚊が鳴出してうつくしき

盃に蚤およぐぞよおよぐぞよ

山里やおがんで借りし蚤莚

けふ切の声を上けり夏の蝉

蝉なくや鷺のつつ立寺座敷

露の世の露を鳴也夏の蝉

住吉のすみの小隅もせうぶ哉

番町や谷底見れば瓜の花

夕陰や鳩の見ている冷し瓜

卯の花の垣根に吹雪はらはらと

うしろから大寒小寒夜寒哉

さぼてんのさめはだ見れば夜寒哉

まじまじと梁上君の夜寒哉

象潟や田中の島も秋の暮

島々や思々の秋の暮

なかなかに人と生れて秋の暮

松島や一こぶしづつ秋の暮

吉原やさはさりながら秋の暮

秋の夜や窓の小穴が笛を吹

秋の夜やしようじの穴が笛を吹

おもしろき夜永の門の四隅哉

秋行や沢庵番のうしろから

赤い月是は誰のじや子ども達

婆々どのが酒呑に行く月よ哉

名月や門から直にしなの山

名月や暮ぬ先から角田川

名月や高観音の御ひざ元

名月や薮蚊だらけの角田川

牛の子が旅に立也秋の雨

秋風や壁のへまむしよ入道

秋風や皮を剥れしかんばの木

秋風や松苗うへて人の顔

牛の子の旅に立つ也秋の風

さぼてんの鮫はだみれば秋の風

月ちらちら野分の月の暑哉

生あつい月がちらちら野分哉

蚤の跡二人吹るる野分哉

門の露雀がなめて仕舞けり

杭の鷺いかにも露を見るやうに

白露にざぶとふみ込む烏哉

柴の戸や手足洗ふも草の露

うす霧の引からまりし垣ね哉

送り火やばたりと消てなつかしき

木の股の人は罪なし辻角力

梟はやはり眠るぞ大角力

夕暮をそら合点のかがし哉

梟が高みで笑ふ砧かな

さをしかや角に又候蝉の鳴

我庵も二の足ふむや迷ひ鹿

小庇やけむいけむいとなく鶉

門の雁いくら鳴ても米はなき

雁の首長くして見る門口哉

田の雁や里の人数はけふもへる

はつ雁が人にはこして通りけり

はつ雁やあてにして来る庵の畠

はつ雁やすすきはまねく人は追ふ

髭どのがおじやるぞだまれ小田の雁

二親にどこで別れし小田の雁

こほろぎがうごかして行柱哉

象がたを鳴なくしけりきりぎりす

きりぎりすふと鳴出しぬ鹿の角

なつかしや籠かみ破るきりぎりす

石仏誰が持たせし草の花

かつしかやなむ廿日月草の花

かつしかやかやの中から菊の花

菊さくや我に等しき似せ隠者

とんぼうのはこしているや菊の花

我庵は朝顔の花の長者哉

一日もみそかもないか女郎花

墓原や一人くねりの女郎花

さほしかの黙礼したり萩の花

のら猫も宿と定る萩の花

山里や昔かたぎの猫と萩

青稲や薙倒されて花の咲

豊年を招き出したるすすき哉

紅葉たく人をじろじろ仏哉

咲仕廻忘れて居るか花木槿

生残り生残りたる寒さ哉

合点して居ても寒いぞ貧しいぞ

闇がりの畳の上も氷哉

子ども達江戸の氷は甘いげな

草の戸やどちの穴から春が来る

雁鴨よなけなけとしが留るなら

寒月や喰つきさうな鬼瓦

青柴や秤にかかるはつ時雨

此時雨なぜおそいとや鳴烏

時雨して名札吹るる俵哉

木がらしにしくしく腹のぐあい哉

木がらしや是は仏の二日月

はつ雪ぐわらぐわらさはぐ腹の虫

初雪や雪隠の供の小でうちん

おく霜や白きを見れば鼻の穴

塚の霜雁も参て啼にけり

掛取が土足ふみ込むいろり哉

煎豆の福がきたぞよ懐へ

としとるや竹に雀がぬくぬくと

ほたの火や白髪のつやをほめらるる

埋火の芋をながむる烏哉

むさしのに誰々たべぬ鰒汁

浅ましの尿瓶とやなくむら千鳥

芦火たく盥の中もちどり哉

庵崎の犬と仲よいちどり哉

御地蔵のひざよ袂よ鳴千鳥

千鳥鳴九月三十日と諷ひけり

鳴千鳥俵かぶつて通りけり

冬の蝿逃せば猫にとられけり

衆生ありさて鰒あり月は出給ふ

橋下の乞食が投る鰒哉

むさしのへまかり出たる鰒哉

わら巻やそれとも見ゆる鰒の顔

わら巻やもちろん鰒と梅の花

冬木立むかしむかしの音す也

逃足の人にかまふな散紅葉

けふ迄はちらぬつもりか帰り花

月花や四十九年のむだ歩き

花の月のとちんぷんかんのうき世哉


文化九年

口べたの東烏もけさの春

みどり子や御箸いただくけさの春

おのれやれ今や五十の花の春

五十年あるも不思議ぞ花の春

春立や菰もかぶらず五十年

春立や先人間の五十年

春立やみろく十年辰の年

うつくしき春に成しけり夜の雨

同じ世をへらへら百疋小ばん哉

小一尺それも門松にて候

辻だんぎちんぷんかんも長閑哉

長閑しや大宮人の裾埃

やみくもに長閑になりし烏哉

永の日を喰やくわずや池の亀

野烏の巧者にすべる春の雨

野鼠も福を鳴ぞよ春の雨

春雨やてうちん持の小傾城

はちの木や我春風のけふも吹

春風や傾成丁の夜の体

春風や十づつ十の石なごに

春風やひらたく成つて家根をふく

春の風足むく方へいざさらば

春の風いつか出てある昼の月

細長い春風吹くや女坂

亀の甲並べて東風に吹れけり

かすむぞよ金のなる木の植所

かすむ日の咄するやらのべの馬

かすむ日やさぞ天人の御退屈

古鐘やかすめる声もむづかしき

古椀がはやかすむぞよ角田川

麦の葉も朝きげんぞよ青霞

我ににた能なし山もかすみ哉

老松や改て又幾かすみ

霞から人のつづくや寛永寺

夕客の行灯霞む野寺哉

陽炎に何やら猫の寝言哉

陽炎にめしを埋たる烏哉

陽炎や見むく奴がうしろから

小酒屋の出現したり春の山

山々は袂にすれて青むぞよ

草餅にいつか来ている小蝶哉

米蒔くも罪ぞよ鶏がけあふぞよ

晴天の又晴天の汐干哉

草つみや狐の穴に礼をいふ

里の子や草つんで出る狐穴

猿が猿に負れて見たるやけの哉

松苗や一つ植ては孫の顔

へら鷺がさしつかましてつぎ木哉

山烏おれがつぎ木を笑ふ哉

山烏おれがさし木を笑ふ哉

猫なくや中を流るる角田川

江戸猫のあはただしさよ角田川

火の上を上手にとぶはうかれ猫

むさしのや只一つ家のうかれ猫

親雀子雀山もいさむぞよ

雀子や親のけん嘩をしらぬ顔

鶯のひとり娘か跡で鳴

鶯のやれ大面もせざりけり

今来たと顔を並べる乙鳥哉

乙鳥や小屋のばくちをべちやくちやと

うつくしや雲雀の鳴し跡の空

うつくしや昼の雲雀の鳴し空

おりよおりよ野火が付いたぞ鳴雲雀

けふもけふも竹のそちらや鳴雲雀

二三尺人をはなるる雲雀哉

はたご屋のおく庭見へて鳴雲雀

細ろ次のおくは海也なく雲雀

山人は鍬を枕や鳴雲雀

雉うろうろうろ門を覗くぞよ

雉と臼寺の小昼は過にけり

雉鳴や関八州を一呑に

雉なくや見かけた山のあるやうに

走る雉山や恋しき妻ほしき

青柳も見ざめのしてや帰る雁

帰る雁人はなかなか未練也

雁行や跡は本間の角田川

からさきの松真黒に蛙かな

草陰に蛙の妻もこもりけり

小便の滝を見せうぞ鳴蛙

づうづうし畳の上の蛙哉

どち向も万吉とやなく蛙

逃足や尿たれながら鳴蛙

橋わたる盲の跡の蛙哉

花の根へ推参したる蛙哉

蕗の葉に片足かけて鳴く蛙

山吹の御味方申す蛙かな

夕空をにらみつけたる蛙哉

夕不二に尻を並べてなく蛙

起よ起よ雀はをどる蝶はまふ

なまけるな雀はおどる蝶はまふ

かせぐぞよてふの三夫婦五夫婦

糞汲が蝶にまぶれて仕廻けり

小むしろや蝶と達磨と村雀

猪ねらふ腕にすがる小てふ哉

蝶が来てつれて行けり庭のてふ

蝶と鹿のがれぬ仲と見ゆる也

蝶まふや鹿の最期の矢の先に

鉄砲の三尺先の小てふかな

寺山や児はころげる蝶はとぶ

夜明から小てふの夫婦かせぎ哉

青芝ぞここ迄ござれ田にし殿

小盥や今むく田螺すべりあそぶ

尋常に引つかまるる田にし哉

鳴田にし鍋の中ともしらざるや

寝たり寝たり天下太平の田にし哉

木母寺や花見田にしとつくば山

うつくしや貧乏蔓もまだ二葉

世につれて庵の草もわかいぞよ

わか草や町のせどのふじの山

なく蛙溝のなの花咲にけり

なの花に上総念仏のけいこ哉

菜の花にやれやれいなり大明神

なの花の門の口より角田川

なの花のとつぱづれ也ふじの山

なむあみだおれがほまちの菜も咲た

ほのぼのと乞食の小菜も咲にけり

鶯を招くやうなるわらび哉

梅さくや乞食の花もつい隣

切ござや銭が四五文梅の花

御不運の仏の野梅咲にけり

咲ばとて見るかげもなき梅の花

浄はりや梅盗む手が先うつる

せなみせへ作兵衛店の梅だんべへ

銭からから敬白んめの花

銭ねだる縄の先より梅の花

ももんじの出さうな藪を梅の花

穴一のあなかしましや花の陰

おくえぞや仏法わたる花も咲

さく花の中にうごめく衆生哉

ちる花に仏とも法ともしらぬ哉

ちる花や呑みたい水も遠がすみ

としどしの花の罪ぞよ人の皺

花さけや仏法わたるえぞが島

世の中は地獄の上の花見哉

まま子花いぢけ仕廻もせざりけり

花掘し跡をおぼへて風の吹く

市に出て二日ほさるる桜哉

天からでも降たるやうに桜哉

十日様九日さまのさくらかな

山桜花きちがひの爺哉

花咲と直に掘らるる桜哉

山吹や午つながるる古地蔵

山吹にぶらりと牛のふぐり哉

六月は丸にあつくもなかりけり

我上も青みな月の月よ哉

明安き夜のはづれの柳哉

江戸の夜は別にみじかく思ふ也

短くて夜はおもしろやなつかしや

短夜をあくせくけぶる浅間哉

短夜やまりのやうなる花の咲

短夜やよやといふこそ人も花

暑き日の宝と申す小薮哉

粟の穂がよい元気ぞよ暑いぞよ

鷺並べどつこも同じ涼風ぞ

涼しさのうしろから来る三十日哉

涼しさよ手まり程なる雲の峰

夜に入れば江戸の柳も涼しいぞ

よるとしや涼しい月も直あきる

芦の葉を蟹がはさんで五月雨

坂本や草家草家の五月雨

五月雨つつじをもたぬ石もなし

蟾どののはつ五月雨よ五月雨よ

蓑虫の運の強さよ五月雨

三粒でもそりや夕立といふ夜哉

三粒でもそりや夕立よ夕立よ

夕立が始る海のはづれ哉

夕立に鶴亀松竹のそぶり哉

夕立の天窓にさはるすすき哉

夕立のとんだ所の野茶屋哉

夕立の日光さまや夜の空

夕立やかみつくやうな鬼瓦

夕立やけろりと立し女郎花

夕立や貧乏徳利のころげぶり

雲の峰草一本にかくれけり

雲の峰草にかくれてしまひけり

ユせよ小雲も山を拵る

三ケ月に逃ずもあらなん雲のみね

むさしのや蚤の行衛も雲の峰

象がたや能因どのの夏の月

さほ姫の御子も出給へ夏の月

小便に川を越けり夏の月

蝶と成つて髪さげ虫も夏の月

戸口から難波がた也夏の月

夏の月無きずの夜もなかりけり

観音の番してござる清水哉

苔清水さあ鳩の来よ雀来よ

なむ大悲大悲大悲の清水哉

古郷や厠の尻もわく清水

夜に入ればせい出してわく清水哉

浅ぢふに又そよぐ也ちまき殻

がさがさと粽をかぢる美人哉

がやがやと鵜も正月を致す哉

婆々が鵜も三日正月致す哉

雁鴨よ是世の中は更衣

能なしもどうやらかうやら更衣

先以朝の柳やころもがへ

雇れて念仏申すころもがへ

薮蔭の乞食村もころもがへ

明がたや袷を通す松の月

瓢たんで鯰おさゆる袷哉

青空のやうな帷きたりけり

帷を帆にして走る小舟かな

帷に摺りやへらさん亦打山

帷やふし木のやうな大男

臑きりの麻帷も祭り哉

大竹のおくのおく也昼の蚊屋

古郷は蚊屋の中から見ゆるぞよ

草花が咲候と扇かな

西行の不二してかざす扇哉

貧乏神からさづかりし団扇哉

うしろ手に数珠つまぐりて夕すずみ

馬は鈴虫ははたをる夕涼み

江戸の夜もけふ翌ばかり門涼

空山に蚤を捻つて夕すずみ

乞食が何か侍る夕すずみ

煤くさき弥陀と並んで夕涼

捨人や袷をめして夕涼み

鶴亀や裃ながらの夕涼

町住や涼むうちでもなむあみだ

行月や都の月も一涼み

夜々は貧乏づるも涼哉

鶯よ江戸の氷室は何が咲

掌の虱と並ぶ氷かな

雪国の雪いはふ日や浅黄空

鹿の子の跡から奈良の烏哉

朝々や花のう月のほととぎす

有明や今えど入のほととぎす

今ごろや大内山のほととぎす

江戸入の一ばん声やほととぎす

大淀やだまつて行と鳥時

それでこそ御時鳥松の月

時鳥大内山を夜逃して

時鳥竹がいやなら木に泊れ

時鳥つつじまぶれの野よ山よ

時鳥つつじは笠にさされたり

時鳥花のお江戸を一呑に

三日月とそりがあふやら時鳥

無縁寺の念仏にまけな時鳥

山国やなぜにすくないほととぎす

行舟や天窓の際のほととぎす

我ら儀は只やかましい時鳥

かんこ鳥鳴や馬から落るなと

白壁の里見くだしてかんこ鳥

よしきりのよしも一本角田川

よしきりや四五寸程なつくば山

よしきりや空の小隅のつくば山

水鶏なく拍子に雲が急ぐぞよ

木母寺の鉦の真似してなく水鶏

一本の草さへまねく蛍かな

江戸者にかはいがらるる蛍かな

笠にさす草が好やらとぶ蛍

草の葉や犬に嗅れてとぶ蛍

さくさくと飯くふ上をとぶ蛍

其石が天窓あぶないとぶ蛍

とべ蛍庵はけむいぞけむいぞよ

髭どのに呼れたりけりはつ蛍

蛍よぶ口へとび入るほたる哉

夕暮や今うれる草をとぶ蛍

まゆひとつ仏のひざに作る也

蚊柱の外は能なし榎哉

ひとつ蚊の咽へとび込むさわぎ哉

庵の蚤かはいや我といぬる也

蚤とぶや笑仏の御口へ

夕暮や大盃の月と蚤

蝉鳴や赤い木の葉のはらはらと

初蝉といへば小便したりけり

湖に尻を吹かせて蝉の鳴

むく犬や蝉鳴く方へ口を明く

朝顔もさらりと咲て松魚哉

江戸者に三日也けり初鰹

髭どのに先こされけりはつ松魚

むさしのは不二と鰹に夜が明ぬ

大汐や昼顔砂にしがみつき

昼顔やざぶざぶ汐に馴てさく

夕顔の花で洟かむ娘かな

夕顔の花で洟かむおばば哉

夕顔の花にぬれたる杓子哉

大原や前キの小村がけしの花

何をいふはりあひもなし芥子の花

裸子が這ふけしの咲にけり

花げしのふはつくやふな前歯哉

蓮の葉に乗せたやうなる庵哉

べら坊に日の永くなるはすの花

御地蔵や花なでしこの真中に

なでしこが大な蜂にさされけり

雁鴨が足を拭也かきつばた

さをしかの角にかけたりゆりの花

長々と犬の寝にけりゆりの花

夕闇やかのこ斑のゆりの花

浮草にぞろりと並ぶ乙鳥哉

浮草の花よ来い来い爺が茶屋

浮草も願ひ有やら西にさく

麦秋やうらの苫屋は魚の秋

麦秋やしはがれ声の小田の雁

故郷や細い柱の苔もさく

藪竹もわかいうちとてさわぐ也

わか竹をたのみに思ふ小家哉

わか竹やさもうれしげに嬉しげに

瓜の香に手をかざしたる鼬哉

瓜の香やどこにどうしてきりぎりす

はつ瓜の天窓程なる御児哉

朝顔もたしにざわつく茄子哉

江戸者にかはいがらるる茄子哉

吾庵の巾着茄子にくにくし

一本の茂りを今はたのみ哉

笹の葉に飴を並べる茂り哉

塩からい飴のうれたる茂り哉

住の江の隅の飴屋の茂り哉

目の上の瘤とひろがる榎哉

秋立や隅のこすみの小松島

赤玉は何のつぼみぞ秋の夕

秋の暮かはゆき鳥の通りけり

十ばかり屁を棄てに出る夜永哉

秋風やのらくら者のうしろ吹

有明や露にまぶれしちくま川

老蛙それそれ露がころげるぞ

けさ程は草家も露の化粧哉

小便の露のたし也小金原

涼しさは露の大玉小玉哉

露の世や露の小脇のうがひ達

露の世や露のなでしこ小なでしこ

露はらりはらり世の中よかりけり

露三粒上野の蝉の鳴出しぬ

笛吹て白露いわふ在所哉

ふんどしと小赤い花と夜露哉

稲妻をとらまへたがる子ども哉

有明や浅間の霧が膳をはふ

浅ぢふや聖霊棚に蝉がなく

蚊柱の先立にけり聖霊棚

玉棚にしてもくねるや女郎花

玉棚やはたはた虫も茶をたてる

送り火や焚く真似しても秋の露

送り火やどちへも向かぬ平家蟹

泣く虫も七夕さまよ七夕よ

星迎庵はなでしこさくのみぞ

勝角力やあごにてなぶる草の花

草花をあごでなぶるや勝角力

我庵や二所ながら下手砧

どこをおせばそんな音が出る山の鹿

跡の雁やれやれ足がいたむやら

庵の夜や竹には雀芦に雁

うしろから雁の夕と成にけり

小田の雁我通てもねめつける

かしましや将軍さまの雁じやとて

雁鳴や霧の浅間へ火を焚と

雁わやわやおれが噂を致す哉

けふからは日本の雁ぞ楽に寝よ

死迄もだまり返つて小田の雁

初雁に旅の寝やうをおそはらん

はつ雁よ汝に旅をおそはらん

湖へおりぬは雁の趣向哉

夕月に尻つんむけて小田の雁

こほろぎや子鹿の角のてんぺんに

猫の飯打くらひけりきりぎりす

頬つぺたに飯粒つけてきりぎりす

又も来よ膝をかさうぞきりぎりす

草花に蝿も恋するさわぎ哉

朝顔の花で鼻かむ女哉

朝顔の花で葺たる庵哉

狗の朝顔さきぬ門先に

じやらつくもけふ翌ばかり女郎花

世の中はくねり法度ぞ女郎花

誰ぞ来よ来よとてさわぐすすき哉

びんづるは撫なくさるる紅葉哉

きり一葉とてもの事に西方へ

きり一葉二は三は四はせはしなや

さをしかの角にかけたり一葉哉

念仏に拍子のつきし一葉哉

三ケ月の細き際より一葉哉

七尺の粟おし分て木槿哉

木槿さくや親代々の細けぶり

老たりな瓢と我が影法師

しなのぢの山が荷になる寒さ哉

年の内に春は来にけり猫の恋

有様は寒いばかりぞはつ時雨

はつ時雨酒屋の唄に実が入ぬ

椋鳥の釣瓶おとしやはつ時雨

山寺の茶に焚かれけりはつ時雨

初時雨走り入けり山の家

女郎花結れながら時雨けり

柿一つつくねんとして時雨哉

鶏頭のつくねんとして時雨哉

しぐるるや菊を踏へてなく蛙

しぐるるや闇の図星を雁のなく

はやばやとしぐれて仕廻小家哉

夕暮を下手な時雨の道りけり

はつ雪に口さし出すな手どり鍋

はつ雪に餅腹こなす烏哉

はつ雪や俵のうへの小行灯

はつ雪や犬が先ふむ二文橋

是がまあつひの栖か雪五尺

掌へはらはら雪の降りにけり

ほちほちと雪にくるまる在所哉

痩脛へざくりざくりと丸雪哉

かくれ家や犬の天窓のすすもはく

名月や御煤の過し善光寺

せき候や七尺去つて小せき候

餅つきや今それがしも古郷入

山しろや小野のおく迄衣配

入相に片耳ふさぐ衾哉

こほろぎの鳴き々這入る衾かな

梟のくすくす笑ふ衾哉

夢の世と亀を笑ふかふゆ篭

鶯が先とまつたぞ炭俵

さが山や納豆汁とんめの花

納豆と同じ枕に寝る夜哉

皆ござれ鰒煮る宿の角田川

皆ごされ猪煮宿の角田川

十月の十日生かみそさざい

夜に入れば日本橋に鳴千鳥

大菊の天窓張たるおち葉哉

おち葉して憎い烏はなかりけり

生若い紅葉もほろりほろり哉

紫の雲にいつ乗るにしの海

浅ましや杖が何本老の松

五寸釘松もほろほろ涙哉

仏ともならでうかうか老の松

松蔭に寝てくふ六十よ州かな

竹にさへいびつでないはなかりけり

竹林是も丸きはなかりけり

あの世は千年目かよ鶴婦夫

草の戸も子を持つて聞夜の鶴

千年もけふ一日か鶴のなく

大釜の湯やたぎるらん亀の夢

亀どののいくつのとしぞ不二の山

からからと音して亀を引ずりぬ

どこへなとも我もおぶへ磯の亀

のら猫が仏のひざを枕哉

恥入つてひらたくなるやどろぼ猫

松島の松に生れて小すみ哉

亡母や海見る度に見る度に

腹中は誰も浅間のけぶり哉


文化十年

正月や梅のかはりの大吹雪

よ所並の正月もせぬしだら哉

花じやもの我もけさから廿九

骨つぽい柴のけぶりをけさの花

すりこ木のやうな歯茎も花の春

大雪の我家なればぞ花の春

ふがいない身となおぼしそ人は春

世の中の梅よ柳よ人は春

人の日や改めがたし庵のかゆ

薮入が供を連たる都哉

薮入の大輿の通りけり

薮入の供して行や大男

薮入やうらから拝む亦打山

福豆も福茶も只の一人哉

門の春雀が先へ御慶哉

都辺や凧の上るもむづかしき

乞食も福大黒のつもり哉

乞食の春駒などもかすみ哉

鶯に一葉とらするわかな哉

垢爪やなずなの前もはづかしき

大びらな雪のぼたぼた長閑さよ

鶏やちんば引々日の長き

雉の鳴く拍子に春は暮にけり

鑓持よ春を逃すな合点か

穴蔵の中で物いふ春の雨

起々の目に付る也春の雨

挑灯を親に持たせて春の雨

春雨や喰れ残りの鴨が鳴

春雨や鼠のなめる角田川

一ッ舟に馬も来りけり春の雨

草山の雨だらけ也春の風

てうちんでたばこ吹也春の風

春風に尻を吹るる屋根屋哉

春風や御祓うけて帰る犬

春風や鼠のなめる角田川

春の風おまんが布のなりに吹

春の風垣の茶笊を吹にけり

芦の鶴宵の朧を拵ぬ

おぼろ夜や餅腹こなす東山

かすむ日も雪の上なる住居哉

かすむ日や目を縫たる雁が鳴

かすむやら目が霞やらことしから

すりこ木の音に始るかすみ哉

泣な子供赤いかすみがなくなるぞ

西山やおのれがのるはどのかすみ

御仏の手桶の月もかすむ也

陽炎に成つても仕舞へ草の家

陽炎や臼の中からま一すじ

陽炎や鍬で追やる村烏

陽炎や子に迷ふ鶏の遠歩き

庵の雪下手な消やうしたりけり

雁鴨に鳴立られて雪げ哉

しなのぢや雪が消れば蚊がさはぐ

雀来よ四角にとけし門の雪

大切な雪がきへけり朝寝坊

けふぎりや出代る隙の凧

出代やいづくも同じ梅の花

後家雛も一つ桜の木の間哉

草つみや羽織の上になく蛙

古笠へざくりざくりとこき茶哉

山烏手伝ふてやく小藪哉

山やけや畠の中の水風呂へ

子どもらが遊ぶ程ずつやくの哉

里人のねまる程づつやく野哉

野火山火夜も世の中よいとやな

我蒔いた種をやれやれけさの霜

鶏の番をしているつぎ木哉

庵の猫玉の盃そこなきぞ

大猫よはやく行け行け妻が鳴く

なの花にまぶれて来たり猫の恋

菜の花も猫の通ひぢ吹とぢよ

春日のやあくたれ鹿も角落る

さをしかに手拭かさん角の跡

さをしかの桜を見てや角落る

我宿は何にもないぞ巣立鳥

今生えた竹の先也雀の子

かはるがはる巣の番したり親雀

雀子を遊ばせておく畳哉

雀子も朝開帳の間にあひぬ

雀の子庵の埃がむさいやら

大仏の鼻で鳴也雀の子

鶯のけむい顔する山家哉

跡なるは鶯のひとり娘哉

鶯にあてがつておく垣ね哉

鶯の御気に入けり御侍

鶯のかたもつやうな雀哉

鶯の苦にもせぬ也ばくち小屋

鶯の真似して居れば鶯ぞ

鶯や何が不足ですぐ通り

鶯よたばこにむせな江戸の山

武士や鶯に迄つかはるる

鳴けよ鳴けよ下手でもおれが鶯ぞ

寝ながらや軒の鶯うぐひすな

宮様の鶯と云ぬばかり哉

久しぶりの顔もつて来る燕哉

大井川見へてそれから雲雀哉

釣舟は花の上こぐ雲雀哉

昼飯をたべに下りたる雲雀哉

きじ鳴や汁鍋けぶる草の原

野社の赤過しとやきじの鳴

昼ごろや雉の歩く大座敷

焼飯は烏とるとやきじの鳴

夕雉の寝所にしたる社哉

夕きじの走り留まりや草と空

かしましや江戸見た雁の帰り様

善光寺も直ぐ通りして帰る雁

又かとて鹿の見るらん帰る雁

行な雁どつこも茨のうき世ぞや

浅草の不二を踏へてなく蛙

狗にここ迄来いと蛙哉

草の葉にかくれんぼする蛙哉

ちる花にあごを並べる蛙哉

なの花に隠居してなく蛙哉

のさのさと恋をするかの蛙哉

疱瘡のさんだらぼしへ蛙哉

むきむきに蛙のいとこはとこ哉

むだ口は一つも明ぬ蛙哉

木母寺の花を敷寝の蛙哉

いうぜんとして山を見る蛙哉

世の中は是程よいを啼蛙

うら住や五尺の空も春のてふ

けさの雨蝶がねぶつて仕廻けり

するがぢは蝶も見るらん不二の夢

茶の淡や蝶は毎日来てくれる

茶のけぶり蝶の面へ吹かける

蝶来るや何のしやうもない庵へ

てふ小てふ小蝶の中の山家哉

蝶々や猫と四眠の寺座敷

手枕や蝶は毎日来てくれる

寝るてふにかしておくぞよ膝がしら

のら猫よ見よ見よ蝶のおとなしき

丸く寝た犬にべつたり小てふ哉

山蜂や鳴々抜る寺座敷

大鶴の大事に歩く菫哉

菫咲川をとび越す美人哉

かるた程門のなの花咲にけり

鉄釘のやうな蕨も都哉

草陰に棒のやうなる蕨哉

鳥べのの地蔵菩薩の蕨哉

茨の芽も皆々人に喰れけり

かまくらや昔どなたの千代椿

梅がかに四角な家はなかりけり

梅がかや子供の声の穴かしこ

梅さくや飴の鶯口を明く

梅さくや犬にまたがる桃太郎

かくれ家や茶をにる程は梅の花

里犬のなぐさみなきや梅の花

のら猫に引つかかれけり梅の花

畠の梅したたか犬におとさるる

人のするほふほけ経も梅の花

滝かぶり側で見てさへ花の雲

ちる花を引つかぶりたる狗哉

ちる花に息を殺して都鳥

ちる花や今の小町が尻の跡

乗り物の花盗人よぬす人よ

花の山心の鬼も出てあそべ

古垣も花の三月十日哉

笠きるや桜さく日を吉日と

傘にべたりべたりと桜哉

塵箱にへばり付たる桜哉

ちる桜犬に詫して通りけり

待々し桜と成れどひとり哉

山桜序に願をかける也

夕桜鉦としゅもくの間にちる

柳から梅から御出狐哉

柳からももんぐわとて出る子哉

夏のよや焼飯程の不二の山

露ちりて急にみじかくなるよ哉

短夜の真中にさくつつじ哉

短夜や妹が蚕の喰盛

短よや獅フ口のさわがしき

短よや髪ゆひどのの草の花

短夜や傘程の花のさく

短夜やくねり盛の女郎花

短夜やにくまれ口をなく蛙

風鈴のやうな花さく暑哉

おお涼しおお涼し夜も三十日哉

下々も下々下々の下国の涼しさよ

涼風の月も〆出す丸屋哉

涼しさに雪も氷も二文哉

涼しさに我と火に入るきりぎりす

涼しさや今拵へし夜の山

涼しさや枕程なる門の山

涼しさや又西からも夕小雨

涼しさは天王様の月よ哉

大の字に寝て涼しさよ淋しさよ

何もないが心安さよ涼しさよ

草二本我夕立をはやす也

ござるぞよ戸隠山の御夕立

小むしろやはした夕立それもよい

真丸に一夕立の始りぬ

身にならぬ夕立ほろりほろり哉

夕立に椀をさし出す庵哉

夕立やかゆき所へ手のとどく

たのもしや西紅の#38642;の峰

投出した足の先也雲の峰

昼ごろや枕程でも雲の峰

水およぐ蚤の思ひや雲の峰

むだ雲やむだ山作る又作る

雲見てもつい眠る也夏の山

鶯が果報過たる清水哉

つつじから出てつつじの清水哉

ほのぼのと朝顔がさくし水哉

山里は馬の浴るも清水哉

わか赤い花の咲きけり苔清水

我宿はしなのの月と清水哉

門先や掌程の田も青む

一人前田も青ませて夕木魚

ほまし田も先青むぞよ青むぞよ

軒下も人のもの也青田原

御祭りや誰子宝の赤扇

御祭り扇ならして草臥ぬ

灯籠のやうな花さく御祓哉

都鳥古く仕へよ川やしろ

宿かりに鴎も来るか川やしろ

川がりや地蔵のひざの小脇差

月のすみ松の陰より夜川哉

舟の鵜や子の鳴窓を跡にして

牛馬の汗の玉ちる草葉哉

老の身や一汗入れて直ぐに又

けふの日や替てもやはり苔衣

更衣門の榎と遊びけり

下谷一番の顔してころもがへ

渋紙のやうな顔して更衣

四ン月のしの字嫌ひや更衣

手の皺を引伸しけり更衣

白雲を袂に入て袷かな

滝けぶり袂に這入る袷哉

帷を真四角にぞきたりけり

帷子にいよいよ四角な爺哉

古郷や蚊屋につり込草の花

御祭りや誰子宝の赤扇

西山や扇おとしに行く月夜

髭どののかざさるる也京扇

帯に似て山のこし巡る蚊やり哉

蚊いぶしもなぐさみになるひとり哉

古郷や蚊やり蚊やりのよこがすみ

門へ打つ水も銭なり江戸住居

虫干やふとんの上のきりぎりす

有明に涼み直すやおのが家

大涼無疵な夜もなかりけり

門涼み夜は煤くさくなかりけり

臑一本竹一本ぞ夕涼み

芭蕉翁の脛をかじつて夕涼

夜々は本ンの都ぞ門涼

山人や雪の御かげに京ま入

一尺の滝も涼しさや心太

小盥や不二の上なる心太

旅人や山に腰かけて心太

心太から流けり男女川

心太すすきもともにそよぐぞよ

臼程の月が出たとや時鳥

江戸の雨何石呑んだ時鳥

江戸迄も只一息かほととぎす

木曽山や雪かき分て時鳥

小けぶりが雲を作るぞ時鳥

さをしかの角傾けて時鳥

せはしさを人にうつすな時鳥

どれどれが汝が山ぞほととぎす

仲々に聞かぬが仏ほととぎす

汝迄蚤とり目ほととぎす

寝ぼけたかばか時鳥ばか烏

寝ぼけたか八兵衛村の時鳥

寝ぼけたか八兵衛と馬と時鳥

時鳥お江戸の雨が味いやら

時鳥退く時をしりにけり

時鳥のらくら者を叱るかや

時鳥湯けぶりそよぐ草そよぐ

山人のたばこにむせなほととぎす

我庵は目に這入ぬかほととぎす

前の世のおれがいとこか閑古鳥

淋しさを我にさづけよかんこ鳥

我庵のひいきしてやら閑古鳥

我門にしるしに鳴やかんこ鳥

百両の鶯もやれ老を鳴く

筏士が箸にかけたるほたる哉

筏士のうんじ果たる蛍哉

いかだ士の箸に又候蛍哉

笹の家や掴み捨ても来る蛍

すすきから松から蛍々哉

手枕やぼんの凹よりとぶ蛍

古壁や理窟もなしに行蛍

ほけ経の一葉投ればとぶ蛍

木母寺や犬が呼んでも来る蛍

行な蛍都は夜もやかましき

行け蛍薬罐の口がさし出たぞ

我宿や鼠と仲のよい蛍

ぼうふらや日にいく度のうきしづみ

蚊の声の中に赤いぞ草の花

蚊柱をよけよけ這入乙鳥哉

蚊柱が袂の下に立にけり

尻くらべ観音堂の藪蚊哉

人あれば蚊も有り柳見事也

我庵の蠅をも連て帰りけり

あばれ蚤我手にかかつて成仏せよ

有明や不二へ不二へと蚤のとぶ

門榎人から蚤をうつりけり

草原や何を目当に蚤のとぶ

皺腕歩きあきてや蚤のとぶ

蚤どもに松島見せて逃しけり

蚤の跡それもわかきはうつくしき

蚤蠅にあなどられつつけふも暮ぬ

ふくれ蚤腹ごなしかや木にのぼる

痩蚤の達者にさはぐ山家哉

よい日やら蚤がをどるぞはねるぞよ

逃る也紙魚が中にも親よ子よ

恋をせよ恋をせよせよ夏のせみ

せみ鳴や笠のやうなるにほの海

蝉鳴や空にひつつく最上川

蝉なくや我家も石になるやうに

だまれ蝉今髭どのがござるぞよ

寺山や袂の下を蝉のとぶ

夏の蝉恋する隙も鳴にけり

逃くらし逃くらしけり夏のせみ

山蝉や鳴々抜る大座敷

かたつむり仏ごろりと寝たりけり

でで虫や莚の上の十文字

何事の一分別ぞかたつぶり

古郷や仏の顔のかたつむり

夕月や大肌ぬいでかたつぶり

みそ豆の数珠がそよぐぞ芥子の花

牛のやうなる蜂のなくぼたん哉

福相と脇から見ゆるぼたん哉

乞食の枕に並ぶうき葉哉

誰家や蓮に吹かれて夕茶漬

児達や盃をく也蓮の花

はす池やつんとさし出る乞食小屋

なでしこや一ッ咲ては露のため

赤犬の欠の先やかきつばた

磯寺やこつぱの中のかきつばた

沢潟に日陰とられてかきつばた

さりとてはばか長き日よかきつばた

ひよろひよろと草の中よりかきつばた

陽炎の真盛也麦の秋

朝顔のあつらへたやうなことし竹

うれしげや垣の小竹もわか盛

陽炎の真盛り也ことし竹

君が代や世やとそよぐことし竹

さては月君がわか松わか竹よ

鳩遊べわがわか竹ぞわか竹ぞ

わか竹と云るるも一夜ふたよ哉

わか竹に一癖なきもなかりけり

若竹の世をはばからぬわか葉哉

わか竹や盲蜻蛉に遊ばるる

うつくしや苦竹の子のついついと

閑居して筍番をしたりけり

竹の子に病のなきもなかりけり

露ちるや若竹お子のぞくぞくと

石川や有明月と冷し瓜

葉がくれの瓜と寝ころぶ子猫哉

人来たら蛙になれよ冷し瓜

盗人の見るともしらで冷し瓜

一本の下闇作る榎かな

長の日やびんづるどのと合歓の花

卯の花や伏見へ通ふ犬の道

うそ寒や親といふ字を知つてから

朝寒を猿も合点か小うなづき

あばら骨なでじとすれど夜寒哉

救世観世音かかる夜寒を介給へ

鳩部屋に鳩が顔出す夜寒哉

一夜一夜虫喰ふ虫も寒い声

窓の竹うごくや夜寒始ると

両国の両方ともに夜寒哉

雨雲が山をかくして夜寒かな

今に成つて念入て見る秋の暮

親と云ふ字を知つてから秋の暮

かな釘のやうな手足を秋の暮

死神により残されて秋の暮

庵の夜も小長く成るや遊ぶ程

庵の夜や寝あまる罪は何貫目

おそろしや寝あまり夜の罪の程

下駄からりからり夜永のやつら哉

虱ども夜永かろうぞ淋しかろ

長いぞよ夜が長いぞよなむあみだ

長き夜や心の鬼が身を責る

なむあみだあむみだ仏夜永哉

蚤どもがさぞ夜永だろ淋しかろ

のら猫が夜永仕事かひたと鳴

ばらばらと夜永の蚤のきげん哉

腹の上に字を書ならふ夜永哉

翌からは冬の空ぞよ蝶蜻蛉

暮る秋も猿合点か小うなづき

行秋を尾花もさらばさらば哉

うつくしやしようじの穴の天の川

あの月をとつてくれろと泣子哉

三ケの月かすまんとして入にけり

名月や家より出て家に入

名月や上座して鳴きりぎりす

山里は汁の中迄名月ぞ

秋雨や人を身にする山烏

秋の雨いやがる蚤をとばせけり

放たる蚤の又来る秋の雨

秋風に歩行て逃る蛍哉

秋風やそとば踏へてなく烏

鉄釘のやうな手足を秋の風

熊坂が大長刀を秋の風

行先も只秋風ぞ小順礼

粟ひへが家より高き野分哉

膳先は葎雫や野分吹

裸児と烏とさはぐ野分哉

朝露に浄土参りのけいこ哉

芋の葉や親碗程の露の玉

後からぞつとするぞよ露時雨

越後馬夜露払つて通りけり

置露に蝶のきげんの直りけり

白露と仲間よく見ゆる影ぼふし

露を吸ふたぐひ也けり草の庵

露ちるや已におのれもあの通り

露ちるやむさい此世に用なしと

露の玉いくつ入たる土瓶哉

古壁の草もたのみや露の玉

朝々や茶がむまく成る霧おりる

袖からも霧立のぼる山路哉

山霧のさつさと抜る座敷哉

鶺鴒を作つたやうな灯ろ哉

軒葺もすすき御はしもすすき哉

うす闇き角力太鼓や角田川

朝顔のちよいの咲たるかがし哉

庵の畠かがし納もなかりけり

むら雨に水洟たるるかがし哉

遠山のやうの榎よ小夜砧

隣とは合点しても小夜砧

梟の口真似したる砧哉

さをしかは萩に糞して別れけり

鳴蝉に角をかしたる男鹿哉

鳴な雁どつこも同じうき世ぞや

雁とぶや門の家鴨も貰ひ鳴

蛙穴に入て弥勒の御代を頼む哉

小筵や青菜のやうな虫が鳴

又泊れ行灯にとまれ青い虫

秋のてふかがしの袖にすがりけり

蜻蛉ににらまれ給ふ仏かな

蜻蛉の尻でなぶるや角田川

なまけるな蜻蛉赤く成る程に

こほろぎを叱て寝たる草家哉

こほろぎの大声上る三十日哉

今掃し箒の中のきりぎりす

おとなしく留主をしていろきりぎりす

けふ迄はまめで鳴たよきりぎりす

粉引に叱られてなくきりぎりす

妻やなきしはがれ声のきりぎりす

橋杭や泥にまぶれしきりぎりす

我天窓草と思ふかきりぎりす

痩草のよろよろ花と成にけり

馬蝿の遊び所也きくの花

菊さくや馬糞山も一けしき

夕暮や馬糞の手をも菊でふく

朝顔や朝々蚤の逃所

一本に門をふさげる木萩哉

かくれ家やあなた任せの稲の花

古薮や小すみの稲も五六尺

我庵の大刀より切るるすすきかな

柿の葉に小判色なる木の葉哉

柿の葉や真赤に成て直にちる

大栗や漸とれば虫の穴

草原や子にひろはする一つ栗

虫喰が一番栗ぞ一ばんぞ

山陰に心安げよ実なし栗

うつくしやあら美しや毒きのこ

御子達よ赤い木の子に化されな

折々や庵の柱の茸狩

赤い葉におつ広がりし寒さ哉

草庵は夢に見てさへ寒さ哉

有明や月より丸き棄氷

鶯の軒廻りする小春哉

けふもけふもけふも小春の雉子哉

椋鳥が唄ふて走る小春哉

杭の鷺汝がとしはどう暮る

とく暮よことしのやうな悪どしは

梟がとしおしむやら竿の先

かすむぞや大三十日の寛永寺

どこを風が吹かと寝たり大三十日

夜も夜大三十日のたびら雪

人のためしぐれておはす仏哉

しぐるるや迎に出たる庵の猫

時雨るや母親もちし網代守

草庵や菊から先へしぐれたり

日本と砂へ書たる時雨哉

目ざす敵は鶏頭よ横時雨

綿玉のひそかにはぜる時雨哉

木がらしやかます着て行く箱根山

かり家や村一番の冬日向

はつ雪を敵のやうにそしる哉

はつ雪を皆ふんづけし烏哉

はつ雪が焼飯程の外山哉

はつ雪や雪隠のきはも角田川

はつ雪やとある木陰の神楽笛

はつ雪やといへば直に三四尺

はつ雪や軒の菖蒲もふはふはと

むまさうな雪がふうはりふはり哉

大雪の山をづかづか一人哉

大雪やおれが真上の天の川

大雪や印の竿を鳴く烏

大雪や膳の際から越後山

雁鴎おのが雪とてさわぐ哉

下窓の雪が明りのばくち哉

雪ちるやきのふは見へぬ明家札

雪の夜や苫屋の際の天の川

我郷の鐘や聞くらん雪の底

霰ちれくくり枕を負ふ子ども

熊坂が大長刀をあられ哉

鶏頭に三十棒のあられ哉

来よ来よとよんだる霰ふるにけり

小筵の嫁がはち子よちる丸雪

玉霰それそれ兄が耳房に

ちりめんの猿を抱く子よ丸雪ちる

散丸雪張子の犬も狂ふぞよ

一降は小雀交りのあられ哉

盛任が横面たたくあられ哉

大菊のさんだらぼしをみぞれ哉

門番は足で掃寄るみぞれ哉

戸口迄ついと枯込野原哉

有明や梅にも一ッ鉢たたき

君が代や鳥も経よむはちたたき

殊勝さや同じ瓢のたたき様

冴る夜や梅にも一ッ寒念仏

二人していろりの縁を枕哉

有明やあみだ如来とすす祝

庵のすすざつとはく真似したりけり

門雀米ねだりけり煤いはひ

水仙も煤をかぶつて立りけり

煤はきや池の汀の亀に迄

煤はきや花の水仙梅つばき

すすはくや藪は水仙梅つばき

煤ほこり天窓下しや梅つばき

山里や煤をかぶつて梅椿

我庵やすすはき竹も其序

おく小野や小藪隠れも節き候

節季候にけられ給ふな跡の児

せき候よ女せき候それも御代

節季候を女もす也それも御代

あこが餅あこが餅とて並べけり

跡臼は烏のもちや西方寺

餅臼にそれうぐひすようぐひすよ

餅臼に例の鶯とまりけり

もち搗や軒から首を出す烏

妹が子は餅負ふ程に成にけり

我宿へ来さうにしたり配り餅

餅花の木陰にてうちあはは哉

其次に猫も並ぶや衣配

誰が子ぞ辻の仏へ衣配

としの市かますかぶつて通りけり

福豆や福梅ぼしや歯にあはぬ

鬼の出た跡へ先さす月夜哉

かくれ家や歯のない口で福は内

闇がりへ鬼追出して笑ひ哉

高砂や鬼追出も歯ぬけ声

あなた任せ任せぞとしは犬もとり

としとるや犬も烏も天窓数

君が代や厄おとしに御いせ迄

三ケ月と肩を並べてあじろ守

一掴み麦を蒔たり堂の隅

一掴み麦を蒔ぞよ門雀

ここらから都か紙子きる女

時雨来よ来よとて紙衣かな

其木から奈良かよ紙衣きる女

似合しや女坂下る紙衣達

町並に紙子なんどとむづかしき

明神の御猿とあそぶ紙子哉

唐の吉野へいざと紙子哉

衾から顔出してよぶ菜うり哉

安房猫おのがふとんは知にけり

今少雁を聞とてふとん哉

さる人が真丸に寝るふとん哉

ふとんきて達磨もどきに居りけり

ふとんきるや翌のわらじを枕元

まじまじと達磨もどきのふとん哉

目覚しの人形並べるふとん哉

侘ぬれば猫のふとんをかりにけり

我宿はつくねた雪の麓哉

有明や雪で作るも如来様

うす雪の仏を作る子ども哉

御ひざに雀鳴也雪仏

とるとしもあなた任せぞ雪仏

はづかしや子どもも作る雪仏

はつ雪や仏にするもむづかしき

雪仏犬の子どもが御好げな

我門にとしとり給へ雪仏

わんぱくが仕業ながらも雪仏

雪礫馬が喰んとしたりけり

雪礫投る拍子にころぶかな

我袖になげてくれぬや雪礫

大菊を喰仕廻迄冬篭

菊喰虫と云れて冬篭り

君が代は女もす也冬篭り

猪熊と隣づからや冬篭

梨柿は烏任せよ冬ごもり

冬篭けしきに並ぶ小薮哉

冬篭る奴が喰ふぞよ菊の花

雀来よ炬燵弁慶是に有

前の世によい種蒔て炬燵哉

朝晴にぱちぱち炭のきげん哉

一茶坊に過たるものや炭一俵

おこり炭峰の松風通ひけり

直なるも曲るも同じ炭火哉

すりこ木も炭打程に老にけり

手さぐりに掴んでくべる粉炭哉

一人にはありあまる也ひろひ炭

深川や一升炭もわたし舟

福の神やどらせ給へおこり炭

ふだらくや岸打波をはしり炭

曲つたも一ッけしきやおこり炭

待時は犬も来ぬ也おこりずみ

魚串のさし所也炭俵

雲と見し桜は炭にやかれけり

炭竈のちよぼちよぼけぶる長閑さよ

炭竈やあれが桜の夕けぶり

炭竈や今に焼るる山ざくら

炭竈や師走らしくもなかりけり

見よ子ども爺が炭竈今けぶる

今の世や女もすする鰒汁

肩越に馬の覗くや鰒汁

鰒喰ぬ奴には見せな不二の山

鰒汁やせ中にあてる箱根山

木兎はとしの暮るがおかしいか

朝々にうぐひすも鳴けいこ哉

みそさざいこの三十日を合点か

我ひざもかぞへて行やみそさざい

芦の家や枕の上も鳴千鳥

御地蔵と日向ぼこして鳴千鳥

象潟の欠をかぞへて鳴千鳥

象潟の欠を掴んで鳴千鳥

雪隠も名所のうちぞ鳴千鳥

ちちははの小言聞々千鳥哉

鳴な鳴な春が来るぞよばか千鳥

干菜切音も須磨也鳴千鳥

けふもけふもだまつて暮す小鴨哉

不便さよ豆に馴たる鴨鴎

君が世のとつぱづれ也浮寝鳥

君が世や国のはづれもうき寝鳥

人鬼をいきどほるかよ鰒の顔

おち葉してけろりと立し土蔵哉

淋しさやおち葉が下の先祖達

霜がれや壁のうしろは越後山

編の目に水仙の花咲にけり

家ありてそして水仙畠かな

窪村は小便小屋も水仙ぞ

水仙の笠をかりてや寝る小雀

水仙の花の御港誕生時

水仙や大仕合せのきりぎりす

水仙や垣にかひ込角田川

水仙やせ中にあてる上総山

水仙や隙とも見へぬ古かがし

御侍御傘忘れな水仙花

茶の花に隠んぼする雀哉

山道の曲り々し心かな


文化十一年

あれ小雪さあ元日ぞ元日ぞ

かれらにも元日させん鳩すずめ

又ことし娑婆塞なる此身哉

正月や辻の仏も赤頭巾

骨つぽい柴のけぶるをけさの春

わが春も上々吉よけさの空

男風今や吹らん島の春

あつさりと春は来にけり浅黄空

御傘めす月から春は来たりけり

湯けぶりも月夜の春となりにけり

うす墨の夕ながらもはつ空ぞ

うす墨のやうな色でも初空ぞ

塀合や三尺ばかりはつ空ぞ

松間や少ありてもはつ空ぞ

松並や木の間木の間のはつ空ぞ

よわ足を又年神の御せわ哉

ちさいのはおれが在所のどんど哉

はやされよ庵の飾のけぶり様

山添やはやしてもなきどんどやき

世の中はどんどと直るどんど哉

わか草よわか松さまよ門の松

福わらや雀が踊る鳶がまふ

福わらや十ばかりなる供奴

玉も玉御とし玉ぞまめな顔

我庵やけさのとし玉とりに来る

番町や夕飯過の凧

大凧のりんとしてある日暮哉

凧の尾を追かけ廻る狗

江戸芥の山をえりはりわかな哉

負た子が先へ指さすわかな哉

わかい衆や庵の薺も唄でつむ

門の木のあはう烏もはつ音哉

さあ春が来たと一番烏哉

土の鍋土の狗の長閑也

菜畠に幣札立る日永哉

茨薮に紙のぶらぶら日永哉

鑓もちて馬にまたがる日永哉

やよ虱這へ這へ春の行方へ

淡雪や野なら薮なら道者達

思出し思出してや春の雪

一村は柳の中や春の雪

梅鉢や竹に雀や春の雨

客ぶりや犬も並んで春の雨

梟も面癖直せ春の雨

藪尻の賽銭箱や春の雨

藪といふ藪がそれぞれ春の雨

馬の背の幣に先吹春の風

春風にお江戸の春も柳かな

春風に二番たばこのけぶり哉

春風や大宮人の野雪隠

春風や小薮小祭小順礼

春風や地蔵の口の御飯粒

春風や人でつくねし寺の山

ぼた餅や地蔵のひざも春の風

白水の畠へ流て春の月

土橋の御神酒得利や春の月

湯けぶりも月夜の春と成りにけり

雨だれのぽちぽち朧月夜哉

我立た畠の棒もおぼろ月

かすむとてよろこび烏ばかり哉

かすむ夜やうらから見ても吉原ぞ

折角にかすんでくれし榎哉

野ばくちや藪の法談も一かすみ

一聳かすみ放しの榎哉

ぼた餅をつかんでかすむ烏哉

我里はどうかすんでもいびつ也

我をよぶ人の顔よりかすみ哉

陽炎にぐいぐい猫の鼾かな

陽炎や縁からころり寝ぼけ猫

今解る雪を流や千曲川

沙汰なしに大雪とれし御山哉

十ばかり鍋うつむける雪げ哉

丸い雪四角な雪も流れけり

薮村や雪の解るもむづかしき

雪とけて村一ぱいの子ども哉

我国は何にも咲かぬ彼岸哉

大原に出代駕の通りけり

家並や土の雛も祭らるる

けふの日や山の庵も雛の餅

笹の家や雛の顔へ草の雨

雛棚やたばこけぶりも一気色

薮村の雛の餅つくさわぎ哉

盃よ先流るるな三ケの月

鶏が先踏んでみる炉蓋哉

欠にも節の付たる茶つみ哉

しがらきや大僧正も茶つみ唄

だまつてもつまぬや尻の茶の木藪

烏等も恋をせよとてやく野哉

わらんべも蛙もはやす焼の哉

雲に似て山の腰起す畠哉

畠打の真似して歩く烏哉

畠打や腕の先のにほの海

畠打やざぶりと浴る山桜

あまり鳴て石になるなよ猫の恋

うかれ猫奇妙に焦れて参りけり

梅のきず桜のとげや猫の恋

つりがねのやうな声して猫の恋

猫の恋打切棒に別れけり

親のない一つ雀のふとりけり

来い来いと腹こなさする雀の子

参詣のたばこにむせな雀の子

雀の子地蔵の袖にかくれけり

竹に来よ梅に来よとや親雀

むら雀さらにまま子はなかりけり

我と来てあそぶや親のない雀

赤い実を咥た所が鶯ぞ

鶯が呑ぞ浴るぞ割下水

鶯に仏の飯のけぶりけり

鶯の袖するばかり鳴にけり

鶯のぬからぬ顔や京の山

鶯のふいふい田舎かせぎ哉

鶯やあのものといふやうな顔

鶯があのものといふ口つきぞ

鶯や田舎の梅も咲だんべい

鶯や田舎廻りが楽だんべい

鶯や会釈もなしに梅の花

鶯やかさい訛りもけさの空

鶯や泥足ぬぐふ梅の花

鶯や鳴けども鳴けども里遠き

なけよなけ下手鶯もおれが窓

山崎や山鶯も下々の客

我友の後家鶯よ鶯よ

今植た木へぶら下る乙鳥哉

起よ起よあこが乙鳥鳩すずめ

乙鳥よ是はそなたが桃の花

乙鳥とぶや二度とふたたび来ぬふりに

とび下手は庵の燕ぞ燕ぞよ

まあな尻ついと並る乙鳥哉

飯前に京へいて来る乙鳥哉

我庵や先は燕のまめな顔

から腹と人はいふ也朝雲雀

人は蟻と打ちらかつて鳴雲雀

むさし野にたつた一ッの雲雀哉

門番が花桶からも雲雀哉

薮尻はまだ闇いぞよ鳴雲雀

朝寝坊が窓からのろり雉哉

石川をざぶざぶ渡る雉哉

大筵雉を鳴せて置にけり

大屋根の桶の中から雉哉

立臼に片尻かけてきじの鳴く

野の雉起給へとや雉の鳴く

花のちるちるとてきじの夜鳴哉

髭どのを伸上りつつきじの鳴

一星見つけたやうにきじの鳴

びんづるの御膝に寝たる雉哉

本堂に首つつ込んで雉の鳴

山きじの妻をよぶのか叱るのか

山の雉あれでも妻をよぶ声か

辛崎の松はどう見た帰る雁

我顔にむつとしたやら帰る雁

うす縁にばりして逃る鳴蛙

草陰につんとしている蛙かな

ちる花にのさばり廻る蛙哉

菜畠に妻やこもりて鳴蛙

一ッ星見つけたやうになく蛙

我一人醒たり顔の蛙哉

天窓干すお婆々や蝶も一むしろ

大雨の降つて涌たる小てふ哉

さをしかの角をも遊ぶ小てふ哉

蝶とんでくわらくわら川のきげん哉

蝶べたり「あ」みだ如来の頬べたへ

ちる花にがつかりしたる小てふ哉

とぶ蝶も三万三千三百かな

泥足を蝶に任せて寝たりけり

菜よ梅よ蝶がてんてん舞をまふ

春のてふ大盃を又なめよ

べつたりと蝶の咲たる枯木哉

麦に菜にてんてん舞の小てふ哉

大蚤の中にはたはた蚕哉

みよしのへ遊びに行や庵の蜂

陽炎にぱつかり口を浅蜊哉

毒草のそぶりも見へぬわか葉哉

わか草の勇に負たる庵かな

わか草ののうのうとする葉ぶり哉

愛想やのべの草さへ若盛り

餅になる草が青むぞ青むぞよ

臼と盥の間より菫かな

ちぐはぐの菜種も花と成にけり

針程のなの花咲ぬやれ咲ぬ

藪の芽や人がしらねば鹿が喰ふ

石なごの玉の手元へ椿哉

赤いぞよあのものおれが梅の花

梅がかや生覚なるうばが家

下戸村やしんかんとして梅の花

正面は乞食の窓ぞ梅の花

谷の梅忽然と咲給ひけり

古郷や梅干婆々が梅の花

山里やまぐれ当りも梅の花

有様は我も花より団子哉

妹が家や庵の花にまぎれ込

気に入た花の木陰もなかりけり

小泥棒花の中から出たりけり

ちる花に罪も報もしら髪哉

ちる花に鉢をさし出す羅漢哉

花見るも役目也けり老にけり

山里やかりの後架も花の陰

我に似てちり下手なるや門の花

うしろから冷々したる桜哉

売わらじぶらりと下る桜哉

大江戸の隅の小すみの桜哉

気に入た桜の蔭もなかりけり

ことしきりことしきりとや古ざくら

此やうな末世を桜だらけ哉

桜さく大日本ぞ日本ぞ

三尺に足らぬも花の桜哉

大の字に踏んぞり返て桜哉

花ながらまがきに曲るさくら哉

髭どのの鍬かけ桜咲にけり

人声にぼつとしたやら夕桜

隙あれや桜かざして喧嘩買

迷子のしつかり掴むさくら哉

みちのくの鬼住里も桜かな

桃柳桜の風を引にけり

山桜皮を剥れて咲にけり

山桜ちれちれ腹にたまる程

山桜花の主や石仏

夕暮や下手念仏も桜ちる

犬の子の加へて寝たる柳哉

門柳仏頂面をさする也

観音のやうに人眠る柳哉

ちよんぼりと不二の小脇の柳哉

寝る隙にふいとさしても柳哉

畠打の内股くぐる柳かな

柳からなびきつずくや下総山

明安き天窓はづれや東山

明安き夜を触歩く雀哉

遊ぶ夜は手のなく成りぬなく成ぬ

短よや十七年も一寝入

行雲やだらだら急に夜がつまる

一本の草も涼風やどりけり

草雫今拵へし涼風ぞ

涼風の第一番は後架也

涼風の横すじかひに入る家哉

涼しさの江戸もけふ翌ばかり哉

涼しさや畠掘つても湯のけぶり

古薮も夜は涼風の出所哉

夕涼や水投つける馬の尻

鬼と成り仏となるや土用雲

草刈のざくりざくりや五月雨

五月雨 に さくさく歩く烏かな

一舟は皆草花ぞ五月雨

とかくしてはした夕立ばかり哉

西からと北と夕立ち並びけり

夕暮の一夕立が身に成りぬ

夕立や三文花もそれそよぐ

夕立や一人醒たる小松島

夕立は是切とぱらりぱらり哉

稲葉から出現したか雲の峰

順々にうごき出しけり雲の峰

涼しさは雲の大峰小みね哉

富士に似た雲よ雲とや鳴烏

穴蔵に一風入て夏の月

夏山に花なし蔓の世也けり

夏山や仏のきらひさうな花

売わらぢ松につるして苔清水

惜るる人の青田が一番ぞ

三人が枕にしたる青田哉

四五本の青田の主の我家哉

たのもしや青田のぬしの這出しぬ

合点して蛍も寝るか夏花桶

袖垣も女めきけり夏花つみ

雲霧もそこのけ富士を下る声

涼しさや五尺程でもお富士山

富士の気で鷺は歩くや大またに

富士の気で跨げば草も涼しいぞ

旅烏江戸の御祓にいく度逢ふ

蛙等も何かぶつくさ夕はらひ

十ばかり蛙も並ぶ御祓哉

一番に乙鳥のくぐるちのわ哉

蜻蛉も起てはたらく夜川哉

遊んだる夜は昔なり更衣

蒲公英は天窓そりけり更衣

人らしく替もかえけり麻衣

町並や馬鹿正直に更衣

世に倦た顔をしつつも更衣

泣虫と云れてもなく袷哉

西山や袷序の神だのみ

冷々と蕗の葉かぶる袷かな

貧乏樽しやにかまへつつ袷哉

我きれば皺帷とはや成ぬ

真つ黒な大入道の日傘哉

くら住や田螺に似せてひとり蚊屋

五十婿天窓をかかす扇かな

二百膳ばかり並て団扇かな

雀等が寝所へもはふ蚊やり哉

虫干や吹かれて鳴やきりぎりす

今に行今に行とや門涼み

片天窓剃つて乳を呑夕涼

母親や涼がてらの祭り帯

薮むらや貧乏馴て夕すずみ

木がくれや大念仏で田を植る

夕立の相伴したるかのこ哉

かはほりやさらば汝と両国へ

羽抜鳥親の声にもかくれけり

羽抜鳥どちらに親よ妻よ子よ

赤門やおめずおくせず時鳥

江戸へいざ江戸へいざとやほととぎす

門の木もまめ息災でほととぎす

此雨にのつ引ならじ時鳥

時鳥俗な庵とさみするな

三日月に天窓うつなよ時鳥

一昨日もきのふもけふもかんこ鳥

吉日の卯月八日もかんこ鳥

地獄へは斯う参れとや閑古鳥

死んだならおれが日を鳴け閑古鳥

俳諧を囀るやうなかんこ鳥

人の世に花はなしとや閑古鳥

涼風を鼻にかけてや行々し

それからは我松島か行々し

よし切とうしろ合せの笹家哉

市中や大骨折つてとぶ蛍

犬どもが蛍まぶれに寝たりけり

馬の草食らふ音してとぶ蛍

来よ蛍一本草も夜の露

はつ蛍都の空はきたないぞ

人声や大骨折つてとぶ蛍

本町をぶらりぶらりと蛍哉

蚊柱の穴から見ゆる都哉

蚊柱のそれさへ細き栖かな

蚊柱や是もなければ小淋しき

方々から叩き出されて来る蚊哉

蝿一つ打てはなむあみだ仏哉

我宿の蝿とり猫とうたひけり

追な追な追な子どもよ子持蚤

狭くともいざ飛習へ庵の蚤

辻堂を蚤蚊に借て寝たりけり

草家は蚤蚊に借て寝たりけり

蝉鳴や物喰ふ馬の頬べたに

夏の蝉なくが此世の栄よう哉

はつ蝉や馬のつむりにちよつと鳴く

かたつぶり見よ見よおのが影ぼふし

でで虫や赤い花には目もかけず

並んだぞ豆つぶ程なかたつぶり

昼顔や畠掘つても湯のけぶり

昼顔やふんどし晒らす傍に杭

夕顔の花に冷つく枕かな

汁椀にぱつと夕顔明り哉

夕顔や祭の客も一むしろ

子を喰ふ猫も見よ見よけしの花

足洗ふ拍子にひらく蓮の花

穏坊のむつきほしたり蓮の花

雲霧もそつちのけとや蓮の花

蝶鳥もそつちのけとや蓮の花

蓮池にうしろつんむく後架哉

さをしかの口とどかぬや杜若

乙鳥にも節句をさせよ杜若

我庵や花のちいさいかきつばた

大馬の口のとどかぬあやめ哉

此所かすみ盛りや麦の秋

のさばるや黒い麦のほ里蜻蛉

麦の穂や大骨折つて行小蝶

苔咲くや自慢を聞に来る雀

さわぐぞよ竹も小笹もわか盛り

なよ竹や今のわかさを庵の垣

細竹もわかわかしさよゆかしさよ

わか竹や山はかくれて入間川

筍の連に咲けり赤い花

しんとしてわか葉の赤い御寺哉

辻番の窓をせうじをわか葉哉

なぜかして赤いわか葉がもろいぞよ

寝ころべば腹の上迄わか葉哉

古垣の仕様事なしのわか葉哉

向ふ三軒隣々へわか葉哉

わか葉さへ日陰もの也鉢の木は

わか葉して又もにくまれ榎哉

故郷やちさいがおれが夏木立

渋柿のしぶしぶ花の咲にけり

卯の花や神と乞食の中に咲

卯の花や乞食村の大祭

ずつぷりと濡て卯の花月よ哉

立秋もしらぬ童が仏哉

けさ秋と云ばかりでも小淋しき

けさ秋と合点でとぶかのべの蝶

母親に猿がおぶさる夜寒哉

腹上で字を書習ふ夜寒哉

六十に二ッふみ込む夜寒哉

へら鷺や水が冷たい歩き様

さぼてんやのつぺらぼうの秋の夕

野歌舞伎や秋の夕の真中に

青空に指で字をかく秋の暮

朝顔の生れ替りや秋の暮

芦の葉を蟹がはさみて秋のくれ

江戸江戸とえどへ出れば秋の暮

狼も穴から見るや秋の暮

草からも乳は出るぞよ秋の暮

杉で葺く小便桶や秋の暮

化されに稲むら歩行秋の暮

むさし野へ投出ス足や秋の暮

むら雨やおばばがまきも秋の暮

庵門に流れ入けり天の川

我星は年寄組や天の川

木母寺は反吐だらけ也けふの月

半分も又名月ぞ名月ぞ

秋風や櫛の歯を引おく道者

秋風やのらくら者のとぼけ顔

秋風やひよろひよろ山の影法師

秋風や曲がり曲がりて門に入

膝節の古びも行か秋の風

赤椀のだぶだぶ酒を野分哉

世の中や祈らぬ野分きつと吹

朝顔の花に何盃けさの露

くよくよとさわぐな翌は翌の露

白露の丸く成るにもいそがしや

白露や乞食村の祭り客

白露や茶腹で越るうつの山

只頼め頼めと露のこぼれけり

露ちるや地獄の種をけふもまく

身の上の露とは更にしらぬ哉

よい世じやと露がざんぶりざんぶり哉

蓬生や露の中なる粉引唄

稲妻を浴せかけるや死ぎらい

稲妻にけらけら笑ひ仏哉

稲妻の打力なき草家哉

稲妻やうつかりひよんとした顔へ

朝ぎりのろくには晴ぬ山家哉

大仏の鼻から出たりけさの霧

つりがねの中から霧の出たりけり

山霧や瓦の鬼が明く口へ

明神の猿遊ぶや秋の山

夜に入れば入程秋の山辺哉

夜々や枕ほどでも秋の山

猿の子につかはるる花の哉

玉棚に孫の笑ひを馳走哉

魂棚や上座して鳴くきりぎりす

妙法の火に点をうつ烏哉

御祝儀に楫もそよぐか星いはひ

七夕にかくれてさくや女郎花

七夕や天よりつづく女郎花

子宝が蚯蚓のたるぞ梶の葉に

久かたの花婿星よ婿星よ

婿星も見よ山盛の稲の花

嫁星の行儀可笑しやけふの雨

大それた花火の音も祭哉

世につれて花火の玉も大きいぞ

角力とりやはるばる来る親の塚

墓の木の陰法師ふまぬ角力哉

梟が笑ふ目つきや辻角力

ぬつぽりと月見顔なるかがし哉

うかと来て我をかがしの替哉

立かがし三つ四つ五つ六つかしや

立田山紅葉御覧のかがし哉

どこもどこも若いかがしはなかりけり

とぶ蝶を憐み給へ立かがし

夕鐘に野べ賑しくかがし哉

雨降や苔の衣を打夜とて

芋蔓がうしろでそそる砧哉

うぢ山や木魚の外も小夜砧

えのころもうかれ出たるきぬた哉

門の木もやもめ烏よさよ砧

玉川や涼がてらの小夜砧

鳩だまれ苔の衣を今打ぞ

足枕手枕鹿のむつまじや

妻乞や秘若い鹿でなし

人ならば五処ハぞ鹿の恋

鵙の声かんにん袋破れたか

青い虫茶色な虫の鳴にけり

青虫よ黒よどつちが鳴まける

こほろぎのころころ髭を自慢哉

あてがつておくぞ其薮きりぎりす

きりぎりす髭をかつぎて鳴にけり

逃しなや瓜喰欠てきりぎりす

野ばくちや銭の中なるきりぎりす

雀等がはたらきぶりや草の花

まけぬ気やあんな小草も花が咲

大菊や負るそぶりはなかりしが

片隅や去年勝たる菊の花

勝菊にほろりと爺が涙哉

勝菊に餅を備て置にけり

勝声や花咲爺が菊の花

門口を犬に預けて菊の花

金蔵を日除にしたり菊の花

けふの日や信濃育ちも菊の花

生涯に二番とはなき負たきく

小便の香も通ひけり菊の花

七転び髪八起の花よ女郎花

さをしかにかりて寝にけり萩の花

猫の子のかくれんぼする萩の花

ぶち猫も一夜寝にけり萩の花

犬に迄いただかせたる刈穂哉

ちさい子がきせる加へて刈穂哉

天皇の袖に一房稲穂哉

雷をまねき落したすすき哉

芦の穂やあんな所にあんな家

芦吹や天つ乙女も斯うまへと

或人の着られし芦のほ綿哉

日の暮や芦の花にて子をまねく

大闇にやみを添たる一葉哉

桐の木やてきぱき散てつんと立

寝た犬にふはとかぶさる一葉哉

十月の中の十日を茶の湯哉

十二月二十九日の茶の湯哉

日本の冬至も梅の咲にけり

御仏の御鼻の先へつらら哉

春来いととしより来いと鳴鳩よ

米と銭篩分けけり初時雨

薪の山俵の山やはつ時雨

今の間に十時雨程の山家哉

芋運ぶ僧都の猿やむら時雨

大時雨小しぐれ寝るもむづかしや

おそろしや狼よりももる時雨

菰簾ばたりばたりとしぐれかな

座頭の坊中につつんで時雨けり

時雨るや細工過たる菊の花

死山を目利しておく時雨哉

ちんば鶏たまたま出れば時雨けり

蛤のつひのけぶりや夕時雨

一ッ家や馬も旅人もしぐれ込

木母寺につきあたりたる時雨哉

罠ありてしらでしぐるる雀哉

木がらしの吹ばふけとや角田川

ばか烏我はつ雪と思ふかや

はつ雪の降損じたる我家哉

はつ雪やどなたが這入る野雪隠

はつ雪やなむきえ僧の朝の声

大菊のさんだらぼしやけさの雪

おらが世は臼のこだまぞ夜の雪

一握り雪持つて居る仏かな

びんづるの目ばかり光るけさの雪

山に雪降とて耳の鳴にけり

今降が児が霰ぞそれそこに

啄木も不仕合やら薮あられ

ちる霰立小便の見事さよ

御談義の手まねも見ゆるかれの哉

達磨忌や傘さしかける梅の花

達磨きやちんぷんかんを鳴ち鳥

達磨忌や箒で書し不二の山

小豆粥大師の雪も降にけり

けふの日やするする粥もおがまるる

相伴に鳩も並ぶや大師粥

なむ大師しらぬも粥にありつきぬ

鶯に目を覚さすな鉢たたき

ろう八や我と同じく骨と皮

寒声や不二も丸めて呑んだ顔

よい雨や茶壷の口を切る日とて

隠家の犬も人数やすす祝

煤ひきにげん気付ルや庵の犬

さてもさても六十顔のせつき候

庵の田もとうとう餅に成にけり

鶏が餅踏んづけて通りけり

餅搗や臼にさしたる梅の花

餅搗や松の住吉大明神

藪陰やとしとり餅も一人つき

浅草の鶏にも蒔ん歳暮米

亦打山夕越くればずきん哉

いついつは鹿が餌食ぞ紙衾

雀らよ小便無用古衾

梟が念入て見る衾かな

飯粒を鳥に拾はするふとん哉

我国や子どもも作る雪仏

三弦のばちでうけたり雪礫

炭の手を柱で拭ふ爺哉

炭竈やしばし里あるけぶり様

赤椀に竜も出さうなそば湯哉

胡坐して猿も座とるや鰒汁

鰒すするうしろは伊豆の岬哉

大津絵の鬼も見じとや暖鳥

門烏一夜は鷹に雇はれよ

暖鳥同士が何か咄すぞよ

梅の木に大願あるかみそさざい

柴けぶり立るぞ遊べみそさざい

野はこせん見ることなかれみそさざい

草庵の寝事の真似やなく千鳥

むら千鳥犬をじらして通りけり

木母寺の雪隠からも千鳥哉

水鳥のよい風除や筑波山

水鳥よ今のうき世に寝ぼけるな

見れば見るほど仏頂面の鰒哉

浮け海鼠仏法流布の世なるぞよ

鬼もいや菩薩もいやとなまこ哉

ほのぼのと明石が浦のなまこ哉

大根引大根で道を教へけり

どの草も犬の後架ぞ散紅葉

枯々や俵の山になく烏

冬がれの五百がなけや山烏

藪並におれが首も枯にけり


文化十二年

狼も上下で出よ戌の春

年神や又も御世話に成りまする

人の日や本堂いづる汗けぶり

生神の凧とり榎たくましや

凧きれて犬もきよろきよろ目哉

人真似や犬の見て居る凧

鶏の仲間割して日永哉

日の長い日の長いとて涙かな

行灯で菜をつみにけり春の雨

しんしんとしんらん松の春の雨

春雨や菜をつみに行小行灯

春風や今つくねたる山の月

春風や畠掘つても涌く油

霞から人さす虫が出たりけり

けふの日も喰つぶしけり春がすみ

土橋や立小便も先かすむ

菜も蒔いてかすんで暮らす小家哉

陽炎に扇を敷いて寝たりけり

陽炎に子を返せとや鳴く雀

陽炎や狐の穴の赤の飯

陽炎や敷居でつぶす髪虱

陽炎の猫にもたかる歩行神

陽炎や馬糞も銭に成にけり

さむしろや銭としきみと陽炎と

朝夕にせつてふされて残る雪

残る雪雀に迄もなぶらるる

世に住めばむりにとかすや門の雪

我庵や貧乏がくしの雪とける

我門や此界隈の雪捨場

我雪も連に頼むぞ千曲川

ねはん会やそよとなでしこ女郎花

ねはん像銭見ておはす顔も有

花咲くや在家のみだも御開帳

飴売も花かざりけり終御影講

こんにやくも拝まれにけり御影講

御影講や泥坊猫も花の陰

さてもさても六十顔の出代りよ

出代が駕にめしたる都哉

出代の市にさらすや五十顔

雨漏を何とおぼすぞ雛達

ちる花に御目を塞ぐ雛哉

土人形もけふの祭りに逢にけり

おらが世やそこらの草も餅になる

草餅や臼の中から蛙鳴

松の木に笠をならべる汐干哉

負た子が花ではやすや茶つみ唄

ぶつぶつと大念仏でつむ茶哉

君が代は女も畠打にけり

浮かれ猫いけんを聞いて居たりけり

うかれ猫狼谷を通りけり

嗅で見てよしにする也猫の恋

恋序よ所の猫とは成にけり

恋ゆへにぬすつと猫と呼れけり

鼻先に飯粒つけて猫の恋

我窓は序に鳴や猫の恋

むつまじや軒の雀もいく世帯

草の戸やみやげをねだる雀の子

柴門や足にからまる雀の子

雀子のはや喰逃をしたりけり

雀子や銭投る手に鳴かかる

頬べたのお飯をなくや雀の子

家跡や此鶯に此さくら

鶯や雨だらけなる朝の声

鶯や此声にして此山家

鶯や花なき家も捨ずして

鶯よ何百鳴いた飯前に

いざこざをじつと見て居る乙鳥哉

急度した宿もなくて夕乙鳥

京も京々の五条の乙鳥哉

乙鳥やゆききの人を深山木に

やよ燕細いけぶりを先祝へ

世がよいぞよいぞ野燕里つばめ

大地獄小じごくからも雲雀哉

子を捨し藪を離れぬ雲雀哉

地獄画の垣にかかりて鳴雲雀

野ばくちが打ちらかりて鳴雲雀

朝もやの紛に雁の立にけり

小田の雁長居はおそれおそれとや

釣人のぼんの凹より帰る雁

どこへなと我をつれてよ帰る雁

念仏がうるさいとてや雁帰る

御地蔵の手に居へ給ふ蛙かな

亀どのに負さつて鳴蛙哉

炬をはやし立てや鳴蛙

ちる梅をざぶりと浴てなく蛙

天下泰平と居並ぶ蛙かな

人を吐やうに居て鳴く蛙

目出度の煙聳へてなく蛙

犬と蝶他人むきでもなかりけり

寝るてふ鼠の米も通りがけ

桟を歩んで渡る小てふ哉

がむしやらの犬とも遊ぶ小てふ哉

此方が善光寺とや蝶のとぶ

鹿の角かりて休みし小てふ哉

蝶とぶや草葉の陰も湯がわくと

笛役は名主どの也蝶のまひ

舞賃に紙をとばすぞのべの蝶

薮中も仏おはして蝶のまふ

おのれらも花見虱に候よ

痩虱花の御代にぞ逢にけり

鮎迄もわか盛也吉の川

逃るやら遊ぶやら鮎小鮎哉

なの花をとらまへて立鼠哉

菜の花にちんと蛙の居りけり

菜の花や鼠と遊ぶむら雀

菜の花やふはと鼠のとまりけり

我庵は菜種の花の台哉

仰のけに寝てしやぶりけり藤の花

菜所や御休所藤の花

藤棚を潜れば王子海道哉

藤棚の隅から見ゆるお江戸哉

藤の花南無ああああとそよぎけり

門の梅不承不承に咲にけり

紅梅にほしておく也洗ひ猫

膳先へ月のさしけり梅の花

楽々と梅の伸たる田舎哉

我梅も仕様事なしに咲にけり

送られし狼鳴や花の雲

日々の屎だらけ也花の山

花さくや下手念仏も銭が降る

花さくや弥陀成仏の此かたは

花ちるや一開帳の集め銭

閻魔王も目をむき出して桜哉

親ありて笠にさしたるさくら哉

門桜はらりはらりとかきま哉

散花の桜きげんや小犬ども

日本は這入口からさくらかな

湯も浴て仏おがんで桜かな

よしの山変桜もなかりけり

留主寺にせい出してさく桜哉

蛇に成るけいこにくねる柳かな

今に知れ夜が短いという男

短夜を公家で埋たる御山哉

短夜のなんのと叱る榎哉

短夜や樹下石上の御僧達

わるびれな野に伏とても短夜ぞ

暑き夜をにらみ合たり鬼瓦

竹縁の鳩に踏るるあつさ哉

蕗の葉にぽんと穴明く暑哉

涼風に欠序の湯治哉

涼風の曲りくねつて来たりけり

涼風も隣の松のあまり哉

涼風は雲のはづれの小村かな

涼しいといふ夜も今少し哉

涼しさやお汁の中も不二の山

涼しさや大大名を御門番

涼しさや湯けぶりそよぐ田がそよぐ

涼しやな弥陀成仏の此かたは

夕涼や草臥に出る上野山

足ばやの逃夕立よ夕立よ

お汁桶一夕立は過にけり

夕立を鐘の下から見たりけり

白雨がせんだくしたる古屋哉

夕立と加賀もぱつぱと飛にけり

夕立もむかひの山の贔負哉

夕立や臼に二粒箕に三粒

我恋のつくば夕立夕立よ

青垣や蛙がはやす雲の峰

けふも亦見せびらかすや雲の峰

雲の峰行よ太鼓のなる方へ

ちよぼちよぼと小峰並べる小雲哉

目道りへ並べ立たよ雲の峰

青嵐吹くやずらりと植木売

大の字にふんばたがりて清水哉

毒草の花の陰より清水哉

古郷や杖の穴からわく清水

君が田も我田も同じ青み哉

雀子がざくざく浴る甘茶哉

神棚のつつじとそよぐ粽哉

鶯の声の薬かけさの雨

衣替て袂に入れる豆腐かな

三介も菩薩気どりよ更衣

腹のへる工夫尽てや更衣

としよれば犬も嗅ぬぞ初袷

初袷しなのへ嫁にござるげな

帷を雨が洗つてくれにけり

翌は翌の風が吹とやひとり蚊屋

逢坂や荷牛の上に一昼寝

闇がりにひらりひらりと扇哉

づうづうと猫の寝ころぶ扇哉

貰よりはやくおとした扇哉

我庵やたばこを吹ておく蚊やり

虫干に猫もほされて居たりけり

翌しらぬ盥の魚や夕涼

魚どもは桶としらでや夕涼

神の木に御詫申して一涼

土べたにべたりべたりと夕涼

妻なしが草を咲かせて夕涼

屁くらべや夕顔棚の下涼み

庖丁で鰻よりつつ夕すずみ

松瘤で肩たたきつつ夕涼

夜涼や足でかぞへるえちご山

夜涼みやにらみ合たる鬼瓦

おれが田も唄の序に植りけり

田植歌どんな恨みも尽ぬべし

薮陰やたつた一人の田植唄

八文で家内が祝ふ氷かな

朝起が薬といふぞほととぎす

跡からも日光もどりや時鳥

江戸入やおめずおくせず時鳥

宗鑑に又しかられな時鳥

日光を鼻にかけてや時鳥

日光の祭りはどうだ時鳥

人丸の筆の先より時鳥

貧乏雨とは云もののほととぎす

蕗の葉をかぶつて聞や時鳥

時鳥馬をおどして通りけり

夜かせぎや八十島かけて時鳥

ろうそくでたばこ吸けり時鳥

柿崎やしぶしぶ鳴のかんこ鳥

かんこ鳥鳴や蟇どのの弔いに

下陰は蟻の地獄ぞかんこ鳥

先住のつけわたり也かんこ鳥

草庵の虱でも喰へかんこ鳥

守るかよお竹如来のかんこ鳥

我宿を守り給ふよかんこ鳥

舟引の足にからまる蛍哉

筏士が飯にかけたる蛍かな

妹が子やくねた形りでよぶ忖

牛の背を掃おろしたる蛍哉

狗も同じく出てよぶ蛍

来る蛍おれが庵とあなどるか

小便の滝を見せうぞ来よ蛍

手の皺に蹴つまづいたる蛍かな

出よ蛍錠をおろすぞ出よ蛍

はつ蛍仏の膝へ逃げ入ぬ

懐を通り抜たる蛍かな

古桶に稲葉そよぎてとぶ忖

蛍火や庵を横竪十文字

蛍見の案内やするや庵の犬

行く蛍尻見よ観音観音と

我宿に鼻つかへてや行蛍

我宿や棚捜しして行蛍

ぼうふりも御経の拍子とりにけり

蝿打やあみだ如来の御天窓

留主にするぞ恋して遊べ庵の蝿

門の蚤犬がまぶつて走りけり

猫の子が蚤すりつける榎かな

うす赤い花から蝉の生れけり

唖蝉それも中々安気かな

小坊主や袂の中の蝉の声

ざんぶりと一雨浴て蝉の声

住吉やあひに相生の蝉の声

涼風やあひに相生の蝉の声

蝉鳴て疫病にしたりけり

蝉鳴や今伐倒ス松の木に

蝉鳴やまゆが干るる干るると

鳴蝉や袂の下をついととぶ

初蝉の目見へに鳴か如来堂

松の蝉経聞ながら生れけり

一つぱしの面魂やかたつむり

柴門や錠のかはりのかたつぶり

夕立がよろこばしいかかたつぶり

涼風をはやせば蛭が降りにけり

今日の志いふけしの花

世の中よ針だらけでも蓮の花

余苗馬さへ喰ず成にけり

捨早苗馬も踏ずに通りけり

我上にやがて咲らん苔の花

娑婆の風にはや筍の痩にけり

順々に大竹の子の曲りけり

筍の兄よ弟よついついと

竹の子のうんぷてんぷの出所哉

我庵や小川をかりて冷し瓜

堂守りが茶菓子売る也夏木立

突さした柳もぱつと茂り哉

門脇や麦つくだけの木下闇

堂守が茶菓子売也木下闇

卯の花を先かざしけり菩薩役

卯の花に活た雛見る御山哉

石橋を足で尋ねる夜寒哉

狼どのより漏どのが夜寒哉

せつかれてむりに笛吹く夜寒哉

次の間の灯で飯を喰ふ夜寒哉

ならはしや木曾の夜寒の膝頭

膝がしら山の夜寒に古びけり

笛吹くや已に夜寒が始ると

豆煎を足で尋る夜寒哉

椋鳥といふ人さはぐ夜寒哉

むだ人の遊かげんの夜寒哉

餅腹をこなして歩く夜寒哉

我庵は尻から先へ夜寒哉

小猿めがきせる咥へて秋の暮

寝むしろやたばこ吹かける天の川

掃溜を山と見なして秋の月

むだ人を叱なさるや秋の月

壁穴に我名月の御出哉

名月や西に向へばぜん光寺

名月や松ない島も天窓数

破壁や我が名月の今後座る

秋風が吹くにものらりくらり哉

秋風や我うしろにもうそり山

むだ人や花の都も秋の風

流さるる蚕の蝶を秋の風

いびつでも露の白玉白玉ぞ

おく露や猫なで声の山烏

白露のどつちへ人をよぶ烏

玉になれ大玉になれけさの露

稲妻やあつけとられし犬の顔

稲妻や一もくさんに善光寺

我犬が蜻蛉返りの花の哉

瓜の馬くれろくれろと泣く子哉

負た子が手でとどく也迎鐘

こほろぎのふいと乗けり茄子馬

としとへば片手広げる棚経哉

なぐさみに打としりつつ迎鐘

雀らもせうばんしたり蓮の飯

蓮の葉に盛れば淋しきお飯哉

送り火の明り先也角田川

夕月や涼がてらの墓参

おどる夜も盆もけふ翌ばかり哉

星待や人は若くも思ふかと

嫁星の御顔をかくす榎哉

青ばしのちぐはぐなるも祭り哉

一日の名所也けりお花小屋

猪も一夜は寝かせほや作り

お花から出現したかふじの山

きりぎりすほやを葺れて鳴にけり

四角のは今様らしやほや作り

しなの中皆すは山の夜露哉

すすき箸見たばかりでも涼しいぞ

すは風にとんじやくもなきすすき哉

ちぐはぐのすすきの箸も祝哉

ちつぽけなほ屋から先にそよぐ也

はつお花招き出したよ不二の山

花すずきほやと成つても招く也

ほやつずきことさら不二のきげん哉

かまくらや犬にも一ッ御なん餅

苔衣わざと敲いて仕舞けり

小夜砧妹が茶の子の大きさよ

山住や僧都が打もさよ砧

草の戸も衣打石は持にけり

連のない雁よ来よ来よ宿かさん

はつ雁や畠の稲も五六尺

我が門に来て痩雁と成にけり

黒組よ青よ茶色よ虫の鳴

虫鳴くやとぶやてんでん我々に

日ぐらしやついつい星の出やうに

大犬の天窓張たる蜻蛉哉

こほろぎの寝所にしたる馬ふん哉

きりぎりすまんまと籠を出たりけり

小むしろや粟の山よりきりぎりす

柴の戸や渋茶色なるきりぎりす

蟷螂が片手かけたりつり鐘に

あはう草花も苦はなかりけり

門口や折角咲た草の花

我菊や形にもふりにもかまはずに

朝顔の花に顔出す鼠かな

寝むしろやたばこ吹かける女郎花

古郷や貧乏馴れし女郎花

萩咲や子にかくれたる鹿の顔

一雨を招き当たるすすき哉

さをしかの尻にべつたり紅葉哉

柿の葉や仏の色に成るとちる

我国や薮の仏も綿初穂

我門の猫打栗よ打栗よ

十月の中の十日の寝坊哉

十月やうらからおがむ浅草寺

冬の夜を真丸に寝る小隅哉

うら口や曲げ小便もはつ氷

福鼠渡り返せやはつ氷

鶯の寝所見ゆる冬の月

おんひらひら金比羅声よ冬の月

老人の下駄も鳴りけり冬の月

寒月や雁も金毘羅祈る声

酒飯のぽつぽとけぶるはつ時雨

陶の杉の葉そよぐはつ時雨

犬ころが土産をねだる夕時雨

木つつきも骨折損や夕時雨

鶏頭の身に引受る時雨哉

しぐるるや在鎌倉雁かもめ

しぐれ込角から二軒目の庵

うづの山木枯し呑んで向ひけり

木がらしや鉄砲かつぎて小脇差

土団子けふも木がらし木がらしぞ

身一ッにあらし木がらしあられ哉

やせ脛やあらし木枯らし三ケの月

うら町は犬の後架もはつ雪ぞ

初物ぞうすつぺらでおれが雪

はつ雪と呼る小便序哉

三弦で雪を降らする二階哉

でも花の都で候か汚れ雪

明神にほうり出された霰哉

はつ霜の草へもちよいと御酒哉

はつ霜や女の声のあびらうん

はつ霜や並ぶ花売鉦たたき

初霜や笑顔見世たる茶の聖

霜おくと呼る小便序哉

大数珠を首にかけたるかれの哉

枯のはら俵かぶつて走りけり

鳶ひよろひひよろ神の御立げな

朝の月夷の飯にかくれけり

夷講出入の鳩も並びけり

本町や夷の飯の横がすみ

宵闇やあんな藪にも里神楽

夜神楽や焚火の中へちる紅葉

我家に来よ来よ下手なはち敲

口切やはやして通る天つ雁

時雨せよ茶壷の口を今切ぞ

なむ芭蕉先綿子にはありつきぬ

赤づきん垢入道の呼れけり

屁くらべが已に始る衾かな

はいかいを守らせ給へ雪仏

はつ雪をおつつくねても仏哉

雪仏我手の跡もなつかしや

寄合つて雀がはやす雪仏

はつ降りや雪も仏に成にけり

おかしいと犬やふりむく雪礫

本町の火鉢の上の夜明哉

朝夷も一ッ笑へおこり炭

炭もけふ俵焚く夜と成にけり

炭竈のけぶりに陰るせうじ哉

炭竈も必ず隣ありにけり

真直ぐは仏五兵衛がすみがまよ

ほたぽきりぽきりなむあみだ仏哉

茶の花に鶯の子のけいこ哉

けぶたくも庵を放れな鳴千鳥

笹の家をふみつぶしたる千鳥哉

さよ千鳥としより声はなかりけり

しやがれ声の千鳥よ仲間はづされな

とろとろと尻やけ千鳥又どこへ

鳴下手も須磨の千鳥千鳥ぞよ

吉原も壁一重也さよちどり

誰やらに似たるぞ鰒のふくれ顔

鶏頭が立往生をしたりけり

赤菊の赤恥かくな又時雨

金の出た菊も同じく枯にけり

枯菊に傍若無人の雀哉

木々の葉や菊のみじめに咲にけり

薮原や何の因果で残る菊

恋人をかくしたすすきかれにけり

風のおち葉ちよいちよい猫が押へけり

焚くほどは風がくれたるおち葉哉

猫の子がちよいと押へるおち葉哉


文化十三年

こんな身も拾ふ神ありて花の春

ちりの身のふはりふはりも花の春

何なくと生れた家ぞ花の春

小かざりや焼るる夜にはやさるる

御祝儀に雪も降也どんどやき

下手もへはおれがかざりぞかざりぞよ

姫小松祝儀ばかりに日が伸る

背中から猿が引也凧の糸

大名の凧も悪口言れけり

凧上げてゆるりとしたる小村哉

凧抱たなりですやすや寝たりけり

一ところに御代の大凧小凧哉

反古凧や隣は前田加賀守

門前の凧とり榎千代もへん

舞猿も草臥顔はせざりけり

我国は猿も烏帽子をかぶりけり

我国は猿も祈とうをしたりけり

春駒の歌でとかすや門の雪

有がたや用ない家も日が長い

老の身は日の永いにも涙かな

長き日の壁に書たる目鼻哉

永の日の杖の先なる火縄哉

日が長い長いとむだな此世哉

むだな身に勿体なさの日永哉

山守の箒の先を行春ぞ

今敷た鋸屑を春の雪

春の雪あら菰敷て降らせけり

春の雪扇かざさぬ人もなし

鋤鍬を先拝む也春の雨

猫洗ふざぶざぶ川や春の雨

春雨や欠をうつる門の犬

春風や袂にすれる亦打山

春風や筆のころげる草の原

泥坊や其身そのまま朧月

寺の茶の二番鳴子や朝霞

陽炎にまぎれ込だる伏家哉

陽炎や大の字形に残る雪

わかい衆よ雪とかしても遊ぶのか

苗代や親子して見る宵の雨

むらのない苗代とてもなかりけり

草餅の桜の花にまぶれけり

のさのさと汐干案内や里の犬

松の葉に足拭ふたる汐干哉

川霧のまくしかけたり茶つみ唄

正面はおばば組み茶つみ唄

うかれ猫どの面さげて又来たぞ

門雀見て居て玉子とられけり

朝飯の鐘をしりてや雀の子

子どもらの披露に歩く雀哉

善光寺へ行て来た顔や雀の子

手伝つて虱を拾へ雀の子

鶯がちよいと隣の序哉

鶯がばくち見い見い鳴にけり

鶯の朝飯だけを鳴にけり

鶯のかせぎて鳴くや飯前に

鶯の尻目にかけしばくち哉

鶯の毎旦北野参り哉

鶯や今に直らぬ木曽訛

鶯やたまたま来たにばくち客

鶯や糞しながらもほつけ経

鶯よ咽がかはかば角田川

鶯や枝に猫は御ひざに

木の股の弁当箱よ鶯よ

雀程でもほけ経を鳴にけり

有明や雨の中より鳴雲雀

蛤も大口明くぞ鳴雲雀

むさしのや野屎の伽に鳴雲雀

野談義や大な口へ雉の声

山雉子袖をこすつて走りけり

帰る雁浅間のけぶりいく度見る

帰る雁花のお江戸をいく度見た

雁よ雁いくつのとしから旅をした

連もたぬ雁もとぼとぼ帰りけり

どこでどう正月をした帰る雁

一組は千住留りか帰る雁

夫婦雁話して行ぞあれ行ぞ

木母寺の念仏さづかりて帰る雁

我家を置ざりにして帰る雁

亀どのに上座ゆづりて鳴蛙

来かかりて一分別の蛙かな

車座に居直りて鳴く蛙哉

小仏の御首からも蛙かな

ことしや世がよいぞ小蛙大蛙

西行のやうに居て鳴蛙

笹の家の小言の真似を鳴蛙

叱つてもしやあしやあとして蛙哉

上人の口真似してやなく蛙

小便を致しながらもなく蛙

順々に座につきてなく蛙

住吉の神の御前の蛙哉

同音に口を明たる蛙かな

なむなむと口を明たる蛙かな

逃しなに何をぶつくさ夕蛙

女房を追なくしてや鳴く蛙

花蓙や先へ居りている蛙

痩蛙まけるな一茶是に有り

山吹や先御先へととぶ蛙

夕やけにやけ起してや鳴蛙

我庵に用ありそうな蛙哉

我庵や用ありそうな来る蛙

我門へしらなんで這入る蛙哉

夕不二に手をかけて鳴蛙哉

馬の耳一日なぶる小てふ哉

門畠や烏叱れば行小蝶

門筵小蝶の邪魔をしたりけり

銭の出た窓きらふてや行小蝶

たのもしやしかも小てふの若夫婦

蝶とぶやそれ仏法の世の中と

蝶とぶや茶売さ湯うり野酒売

蝶とまれも一度留れ草もちに

蝶とまれも一度留れ盃に

猫の子の命日をとぶ小てふ哉

はつ蝶の夫婦連して来たりけり

はつ蝶やしかも三夫婦五夫婦

ひざの児の頬つべたなめる小てふ哉

目黒へはこちへこちへと小てふ哉

やよや蝶そこのけそこのけ湯がはねる

湯入衆の頭かぞへる小てふ哉

世にあれば蝶も朝からかせぐぞよ

鳩の藪雀の垣やから蜆

かくれ家や日々草は若くなる

わか草に笠投やりて入る湯哉

小菜の花いかなる鬼もつみ残す

なの花の中を浅間のけぶり哉

藪の菜のだまつて咲て居たりけり

鰻屋のうなぎ逃けり梅の花

梅の木や花の明りの夜念仏

貝殻でばくちもす也梅の花

かつしかや三百店も梅の花

門の梅家内安全と咲にけり

猿丸がきせる加へて梅の花

散銭を投るべからず梅の花

雀らが喰こぼしけり梅の花

貫之の梅よ附たり三ケの月

蟾どのが何か侍る梅の花

三ケ月や梅からついと本尊へ

身一つに大な月よ梅がかよ

ちる花に御免の加へぎせる哉

散花もつかみ込けりばくち銭

花咲て本ンのうき世と成にけり

起臥も桜明りや念仏坊

小うるさや山の桜も評判記

是程にけちな桜も都哉

財布から焼飯出して桜哉

尿をやる子にあれあれと桜哉

としよりの目の正月ぞさくら花

なむなむと桜明りに寝たりけり

日本はばくちの銭もさくら哉

蕗の葉に煮〆配りて山桜

老が世に桃太郎も出よ桃の花

なぐさみに馬のくはへる桃の花

石下戸の門も青柳と成りにけり

大犬をこそぐり起す柳哉

隠坊が門もそよそよ青柳ぞ

加へぎせる無用でもなし門柳

倒れ家といほ相もちの柳哉

垂柳門の曲りはかくれぬぞ

田も見へて大事の大事の短夜ぞ

短夜をさつさと露の草ば哉

短夜やいうぜんとして桜花

暑き夜を唄で参るや善光寺

大家の大雨だれの暑哉

あら涼し涼しといふもひとり哉

涼風の吹木へ縛る我子哉

涼しさに転ぶも上手とはやしけり

涼しさに夜はえた村でなかりけり

涼しさは仏の方より降る雨か

さしつつじ花々しさや五月雨

五月雨の初日をふれる烏哉

薮陰やひとり鎌とぐ五月雨

虻出よせうじの破の五月晴

浅間から別て来るや小夕立

あつさりと朝夕立のお茶屋哉

てんてんに遠夕立の目利哉

一つ家や一夕立の真中に

夕立に大行灯の後光哉

夕立やおそれ入たり蟾の顔

赤々と出来揃けり雲の峰

大雲や峰と成つてもずり歩く

先繰りにおつ崩しけり雲の峰

相応な山作る也根なし雲

山と成り雲と成る雲のなりや

行灯を虫の巡るや青あらし

我庵や左は清水右は月

柴の戸の田やひとりでに青くなる

そよ吹や田も青ませて旅浴衣

田が青む田が青むとやけいこ笛

茶仲間や田も青ませて京参り

露の世をさつさと青む田づら哉

人真似に庵の門田も青みけり

よい風や青田はづれの北の院

りんりんと凧上りけり青田原

御指に銭が一文たん生仏

門前の爺が作し灌仏ぞ

ともどもに犬もはらばふ夕はらひ

形代に虱おぶせて流しけり

今葺たあやめにちよいと乙鳥哉

馬の子がなめたがる也さししようぶ

かくれ家やそこらむしつてふくしようぶ

草の戸の菖蒲や猫の手もとどく

十ばかり笹にならせる粽哉

叱られて又疲うの入にけり

つかれ鵜や子をふり返りふり返り

夕月やうにかせがせて茶碗酒

ふんどしで汗を拭き拭きはなし哉

我庵は草も夏痩したりけり

うしろから見れば若いぞ更衣

門並にぼろぼろ衣替にけり

かりぎとも子はしらぬ也更衣

けふばかり隣ほしさよ更衣

御祝儀に雨も降けり更衣

手盥に魚遊ばせて更衣

門外は本のうき世ぞ更衣

たのもしやてんつるてんの初袷

杖によい竹に目のつく初袷

はつ袷にくまれ盛にはやくなれ

馬柄杓を伊達にさしたる袷哉

老けりな扇づかいの小ぜはしき

おとろへの急に見へけり赤扇

大猫のどさりと寝たる団扇哉

膝抱て団扇握つて寝たりけり

行あたりばつたりばたり団扇哉

蚊いぶしの真風下に仏哉

蚊いぶしも只三文の住居哉

さく花もちよいと蚊やりのそよぐ哉

新しい水湧音や井の底に

庵の井は手でかへほして仕廻けり

井の底をちよつと見て来る小てふ哉

井の中に屁をひるやうな咄哉

涼しくば一寝入せよ井戸の底

あこよあこよ転ぶも上手夕涼

草のほにこそぐられけり夕涼

下り虫蓑作りつつ夕涼み

大門や涼がてらの草むしり

立涼寝涼さても涼しさや

たばこの火手にうち抜て夕涼

ばか蛙すこたん云な夕涼

真丸に芝青ませて夕涼

むさしのや涼む草さへ主がある

宵々や屎新道も夕涼

わんぱくや縛れながら夕涼

蕗の葉にいわしを配る田植哉

我庵も田植休の仲間哉

住吉やさ乙女迄もおがまるる

かはほりが中で鳴けり米瓢

かはほりのちよいちよい出たり米瓢

行灯に笠をかぶせて時鳥

うの花に食傷するな時鳥

うの花も馳走にちりぬほととぎす

川越や肩で水きる時鳥

是はさて寝耳に水の時鳥

叱らるる貧乏雨もほととぎす

銭投るやつを叱るか時鳥

ちつぽけな田も見くびらず時鳥

としよりと見てや大声に時鳥

掃溜の江戸へ江戸へと時鳥

兀山の天窓こつきりほととぎす

馬上からおおいおいとや時鳥

頬かぶりならぬならぬぞほととぎす

時鳥なけなけ一茶是に有

時鳥何を忘て引返す

時鳥人間界をあきたげな

むだ山も脇よれ脇よれ時鳥

飯けぶり聳る里やほととぎす

よい蔵にうしろ見せるな時鳥

我を見て引返すぞよほととぎす

づぶ濡の仏立けりかんこ鳥

我門に入らぬ御世話ぞ行々し

大雨や四五丁北の鳴水鶏

おれが田に水がないとや鳴水鶏

我門や水鶏も鳴かず屁もへらず

四五丁の事で来ぬ也鳴水鶏

とぶ蛍女の髪につながれな

入道が気に喰ぬやら行く蛍

寝むしろや尻をかぞへて行蛍

蛍見や転びながらもあれ蛍

本道りゆらりゆらりと蛍哉

我門や折角に来て行蛍

我髪を薮と思ふかはふ蛍

わんぱくや縛れながらよぶ蛍

泣蔵や縛れながらよぶ蛍

汁鍋にちらりちらりと蛍かな

蚊柱の足らぬ所や三ケ月

蚊柱や月の御邪魔でないやうに

涼風が口へ吹込む薮蚊哉

それがしが宿は薮蚊の名所哉

なむああと大口明けば薮蚊哉

むらの蚊の大寄合や軒の月

目出度さはことしの蚊にも喰れけり

我宿は口で吹ても出る蚊哉

武士に蝿を追する御馬哉

すりこ木で蠅を追けりとろろ汁

蝿打に花さく草も打れけり

我出れば又出たりけり庵の蝿

飛下手の蚤のかわいさまさりけり

じつとして見よ見よ蝉の生れ様

蝉鳴や六月村の炎天寺

初蝉のちよと鳴て見し柱哉

人の世や山は山とて蛭が降る

蛭住としりつつ這入る沼田哉

馬上からおおいおいとや初松魚

山かげも江戸気にしたりはつ松魚

みたらしや梅の葉およぐ鮎およぐ

大水や大昼顔のけろり咲く

昼顔に虫もぎいちよぎいちよ哉

夕顔の次其次が我家かな

夕顔の中より馬の屁玉哉

夕顔や馬の尻へも一つ咲く

茶けぶりのそよと不運のぼたん哉

千軒の垢も流るる蓮の花

張出しや蓮の台の乞食小屋

人の世に田に作るる蓮の花

虻蠅になぶらるる也捨早苗

里の子が犬に付たるさ苗哉

捨さ苗犬の寝所にしたりけり

大道へとなりとなりや捨早苗

妹が子は穂麦の風にふとりけり

辻仏守り給ふや麦一穂

軒下や一本麦も五六尺

かくれ家や枕元よりことし竹

足序若竹の子も折れけり

筍の三本目より月よ哉

竹の子のついと揃も揃たよ

瓜西瓜ねんねんころりころり哉

我桜わか葉盛りもちりにけり

屁のやうな茶もうれる也夏木立

鶯も隠居じたくの茂り哉

下闇に清めの手水手水哉

下闇や虫もふらふら蓑作る

卯の花の門はわらぢの名代哉

鬼茨も花咲にけり咲にけり

わらじ売窓に朝寒始りぬ

大声に夜寒かたるや垣越に

おもしろう豆の転る夜寒哉

垣外へ屁を捨に出る夜寒哉

ぼつぼつと猫迄帰る夜寒哉

見上皺見下ル皺の夜寒哉

身一つ是は朝寒夜寒哉

有明や窓からおがむぜん光寺

馬の子も旅に立也秋の暮

親なしや身に添かげも秋の暮

又ことし死損じけり秋の暮

梁の横にさしても名月ぞ

ふしぎ也生た家でけふの月

名月にけろりと立しかがし哉

名月や石の上なる茶わん酒

名月やすすきの陰の居酒呑

名月や山のかがしの袂から

はづかしやおれが心と秋の空

小庇や砂利打やうな秋の雨

秋風の袂にすがる小てふ哉

秋風や鶏なく家のてつぺんに

のらくらや花の都も秋の風

朝々や庵の茶おけの草の露

あばら家やむだ骨折つて露のおく

けふからは見るもをがむも草の露

山霧の足にからまる日暮哉

牛もうもうもうと霧から出たりけり

大仏や鼻の穴から霧が出る

大仏や鼻より霧はふはふはと

古郷をとく降かくせ霧時雨

山霧の通り抜たり大座敷

夕晴や浅黄に並ぶ秋の山

山里は小便所も花の哉

逢坂や手馴し駒にいとまごひ

駒鳴くやけふ望月のはなれ際

天下泰平と立たるかがし哉

蜻蛉の寝所したるかがし哉

昼飯をぶらさげて居るかがし哉

こほろぎに唄うたわせて小夜砧

小夜砧見かねて猫のうかれけり

故郷は寝ながらもうつ砧哉

なくな雁けふから我も旅人ぞ

うつくしい鳥はだまつて渡りけり

来るも来るも同じつれなり渡り鳥

むさい家もすぐ通りせず渡り鳥

手枕や虫も夜なべを鳴中に

仰のけに寝て鳴にけり秋の蝉

ついついとから身でさわぐ蜻蛉哉

蜻蛉の夜かせぎしたり門の月

ばん石にかぢり付たるとんぼ哉

我門に煤びた色のとんぼ哉

きりぎりす庵の柱をかじりけり

きりぎりす尿瓶のおともほそる夜ぞ

米箱に住かはりけりきりぎりす

小むしろや粉にまぶれしきりぎりす

白露の玉ふみかくなきりぎりす

寝返りをするぞそこのけきりぎりす

山犬の穴の中よりきりぎりす

女郎花からみ付けり皺足に

我家をくねり倒すな女郎花

鹿の子はとつていくつぞ萩の花

山の井を花で埋る小萩哉

かくれ家や一人前のそばの花

庵の田やどうやら斯うやら稲に出る

今の世はすすきも縞を吹れけり

くやしくも熟柿仲間の座につきぬ

渋柿をはむは烏のまま子哉

高枝や渋柿一つなつかしき

老が世に桃太郎も出よ捨瓢

大栗や旅人衆に拾はるる

茹栗と一所に終るはなし哉

御地蔵よ我も是からかみな月

有明や壁の穴から寒が入

古盆の灰で手習ふ寒さ哉

僧正の天窓で折し氷柱哉

年の内に春は来にけりいらぬ世話

羽生へて銭がとぶ也としの暮

有がたや能なし窓の日も伸る

むだ草や汝も伸る日も伸る

石切のかちかち山や冬の月

下駄音や庵へ曲ル冬の月

金比羅の幟ひらひら冬の月

四五寸の橘赤し冬の月

笛ぴいぴい杖もかちかち冬の月

ふんどしに脇ざしさして冬の月

むだ人や冬の月夜をぶらぶらと

我はけば音せる下駄ぞ冬の月

寒月やむだ呼されし座頭坊

棒突や石にかんかん寒の月

義中寺や拙者も是にはつ時雨

干栗の数珠もいく連初時雨

小便の供がつくばふ時雨哉

一時雨行あたりけりうしろ窓

古郷や時雨当りに立仏

冬の雨火箸をもして遊びけり

木がらしや餌蒔の跡をおふ烏

鉄棒のからりからりやちる霰

指さして笑ふ仏よ玉丸雪

おく霜のたしに捨たる髻哉

氏神の留主事さわぐ烏哉

翁忌や何やらしやべる門雀

梟も一句侍れ此時雨

杉箸で火をはさみけり夷講

御烏もついと並ぶや煤祝

我家は団扇で煤をはらひけり

庵の餅つくにも千代を諷ひけり

犬のぶん烏の餅も搗にけり

町並やどんな庵でも餅さわぎ

餅とぶやぴたりと犬の大口へ

麦蒔て妻有寺としられけり

松の月頭巾序に見たりけり

初ものや雪も仏につくらるる

我門は雪で作るも小仏ぞ

我とてもをがむ気になる雪仏

屁くらべが又始るぞ冬篭

京辺や冬篭さへいそがしき

ほたの火や仏もずらり並びつつ

大江戸や只四五文も薬喰

薬喰から始るやあばれ喰

松の葉を添て送れし薬喰

から鮭の口へさしけり梅の花

から鮭も敲ば鳴ぞなむあみだ

鶯の倅が鳴ぞあれなくぞ

せい出してうぐひすも鳴けいこ哉

入相に少もさわがずみそさざい

みそさざい大事の大事三十日ぞと

汝等も福を待かよ浮寝鳥

横柄にまかり出たる鰒哉

さる人のそぶりに似たり鰒の面

さる人の面にも似たり鰒哉

誰やらが面にも似たる鰒哉

枯草と一つ色なる小家哉

とがとがし枯ても針のある草は

女郎花何の因果に枯かねる

庵の大根客有度引れけり

人の世や木の葉かくさへ叱らるる

かれがれや一緒に超し角田川

霜がれにとろとろせいび参り哉

霜がれや米くれろとて鳴雀

霜がれや何を手向にせいび仏

竹ぎれで手習ひをするまま子哉


文化十四年

元日をするや揃ふて小田の雁

小菜畠元日さへをしたりけり

ぬくぬくと元日するや寺の縁

鑓にやり大元日の通り哉

我門は昼過からが元日ぞ

影ぼしもまめ息災でけさの春

ちりぢりに居てもする也花の春

春立や牛にも馬にもふまれずに

誂の通り浅黄のはつ空ぞ

草枕雨のない日が初空ぞ

初空をはやしこそすれ雀迄

初空を夜着の袖から見たりけり

はつ空にはやきず付るけぶり哉

はつ空の祝儀や雪のちらちらと

初空の行留り也上総山

うらの戸や北より三が明の方

薮入が必ず立や思案橋

薮入が薮入の駕かきにけり

薮入の片はなもつや奉加橋

薮入や犬も見送るかすむ迄

薮入や涙先立人の親

薮入や二人して見る又打山

薮入や三組一つに成田道

烏帽子きてどさり寝ころぶ子の日哉

太刀佩て芝に寝ころぶ子の日哉

我庵や元日も来る雑煮売

七草を打つてそれから寝役哉

餅臼に鶏諷ひけり君が代と

春雨や薮に吹るる捨手紙

春風や犬の寝聳るわたし舟

春風や八文芝居だんご茶や

春風やおばは四十九でしなの道

笠でするさらばさらばや薄がすみ

呉服やの朝声かすみかかりけり

吼る犬かすみの衣きたりけり

旅浴衣雪はくりくりとけにけり

とけ残る雪や草履がおもしろい

町並や雪とかすにも銭がいる

雪どけや大手ひろげし立ち榎

雪どけや鷺が三疋立臼に

畠打や尾上の松を友として

有明にかこち顔也夫婦猫

庵の猫しやがれ声にてうかれけり

うかれきて鶏追まくる男猫哉

浄はりの鏡見よ見よ猫の恋

竹の雨ざつぷり浴て猫の恋

寝て起て大欠して猫の恋

ばか猫や身体ぎりのうかれ声

屋根の声見たばかり也不精猫

山寺や祖師のゆるしの猫の恋

よい所があらば帰るなうかれ猫

我猫が盗みするとの浮名哉

親としてかくれんぼする子猫哉

雀子やお竹如来の流し元

鶯の涙か曇る鈴鹿山

鶯が命の親の御墓哉

鶯も添て五文の茶代哉

鶯や大盃のぬれ色に

鶯やたばこけぶりもかまはずに

鶯よ弥勒十年から来たか

けふ迄はようしんぼした門の雁

夜伽してくれたる雁も帰りけり

桶伏の猫を見舞やとぶ小蝶

蝶の身も業の秤にかかる哉

ぬかるみに尻もちつくなでかい蝶

春の蝶平気で上座いたす也

それ虻に世話をやかすなせうじ窓

又虻に世話をやかすぞ明り窓

梅を折る手が浄はりにうつりけり

梅折やえんまの帳につく合点

梅がかに喰あひのない烏哉

梅咲て虱の孫も遊ぶぞよ

梅咲くや現金酒の通帳

梅の木にわる口たたく烏哉

おさなごや尿やりながら梅の花

方々は草履道也梅の花

がらがらやぴいぴいうりや梅の花

さをしかはとつていくつぞ梅の花

雀らになぶられてさく野梅哉

線香にいぶされつつも梅の花

野仏も赤い頭巾や梅の花

隙さうな里也梅のだらり咲

不精犬寝て吼る也梅の咲

道の記や一つ月一つ梅の花

都ぢや梅干茶屋の梅の花

いういうと茨のおくの野梅哉

おとろへや花を折にも口曲げる

深山木やしなのの育の花盛

ばばが餅爺が桜咲にけり

窮屈に並られけり山桜

三文が桜植けり吉野山

素人の念仏にさへ桜ちる

釣人の邪魔を折々桜哉

釣人やいまいましいと夕桜

天下泰平とうに咲桜哉

手の込んだ草の花ぞよ短夜に

短夜にさて手の込んだ草の花

短夜や草はついついついと咲

短夜を嬉しがりけり隠居村

遊女めが見てけつかるぞ暑い舟

夕涼や汁の実を釣るせどの海

我宿といふばかりでも涼しさよ

入梅や蟹かけ歩大座敷

入梅の晴損ひや箱根山

下手晴の入梅の山雲又出たぞ

ざぶざぶと五月雨る也法華原

手始はおれが草家か五月雨

夕立や祈らぬむらは三度迄

大の字に寝て見たりけり雲の峰

今一度婆々もかぶれよつくま鍋

入相の鐘にちらばふ鵜舟哉

門出の鵜に馳走する妻よ子よ

一村やうにかせがせて夕枕

雨乞にから鉄砲のきげん哉

蚊所がくらしよいぞよ裸組

門並に替もおかし苔衣

誰か又我死がらで更衣

のらくらも御代のけしきぞ更衣

念仏の給金とりや初袷

一人呑茶も朔日ぞ青簾

剰へ反古の紙帳ぞ紙帳ぞよ

月さすや紙の蚊屋でもおれが家

画団扇やあつかましくも菩薩顔

天から下りた顔して団扇哉

欲心の口を押へる団扇哉

涼まんと出れば下に下に哉

大の字にふんぞり返る涼哉

松の木に蟹も上りて夕涼

門の月蚊を喰ふ鳥が時得たり

一寸も引ぬやえどの時鳥

今出た不二をさつそく時鳥

入月や一足おそき時鳥

大江戸や闇らみつちやに時鳥

大江戸や槍おし分てほととぎす

吉も吉上吉日ぞほととぎす

神ぎ祇や何れまことや時鳥

鳴まけなけふからえどの時鳥

這渡る橋の下より時鳥

時鳥五月八日も吉日ぞ

わたのべの芒にいざや時鳥

翌も来よあさつても来よかんこ鳥

打鉦と互い違いやかんこ鳥

帰る迄庵の番せよ閑古鳥

それがしがひぜんうつるな閑古鳥

長居して蔦に捲れなかんこ鳥

たしなめよ口がすぐるぞ行々し

かくれ家や手負ひ蛍の走入る

庵の蚊のかせぎに出や暮の月

蚤噛んだ口でなむあみだ仏哉

大川へ虱とばする美人哉

門川や逃出しさうな初松魚

虻蜂もそつちのけのけ蓮の花

灯かげなき所が本んの蓮哉

ちさい子がたばこ吹也麦の秋

畠縁に酒を売也麦の秋

ごろり寝の枕にしたる真瓜哉

白笠を少さますや木下陰

下闇や精進犬のてんてんと

たばこ盆を足で尋る夜寒哉

いろりから茶の子掘出す夜寒哉

草の穂のつんと立たる夜寒哉

こほろぎの大声上る夜寒哉

立臼の蓑きせておく夜寒哉

掌に藍染め込んで夜寒哉

ばか咄嗅出したる夜寒哉

咄する一方は寝て夜寒哉

下冷の菰をかぶつてごろり哉

下冷や臼の中にてきりぎりす

下冷よ又上冷よ庵の夜は

赤雲や蝶が上にも秋の暮

鳴くな雁どこも旅寝の秋の月

ころび寝や庵は茶の子の十三夜

秋雨や乳放れ馬の旅に立

笹の家や猫も杓子も秋の雨

青臭きたばこ吹かける秋の風

秋風や翌捨らるる姥が顔

秋風や戸を明残すうら座敷

秋の風宿なし烏吹かれけり

空ッ坊な徳本堂や秋の風

秋風や谷向ふ行影法師

一升でいくらが物ぞ露の玉

白露やいさくさなしに丸く成る

露の世は得心ながらさりながら

我庵は露の玉さへいびつ也

よい雨や二文花火も夜の体

べつたりと人のなる木や宮角力

出来立や山のかがしもめづらしき

牛かひや笛に合する小夜砧

としよりと見えて始まる近砧

年寄は遠い所より近砧

不拍子はたしか我家ぞ小夜砧

来た雁や片足上て一思案

青い虫茶色な虫よ庵の夜は

行灯にちよつと鳴けり青い虫

虫どもにとしより声はなかりけり

虫なくなそこは諸人の這入口

辻風やぼた餅程な秋の蝶

御祭の赤い出立の蜻蛉哉

づぶ濡にぬれてまじまじ蜻蛉哉

なぐさみにいなごのおよぐ湖水哉

湖をちよつと泳しいなご哉

みぞ川をおぶさつてとぶいなご哉

小むしろや米の山よりきりぎりす

一方は尿瓶の音ぞきりぎりす

うるさしや菊の上にも負かちは

菊さくや山の天窓も白くなる

大名を味方にもつやきくの花

人間がなくば曲らじ菊の花

負てから大名の菊としられけり

負馴れて平気也けりきくの花

我菊や向たい方へつんむいて

朝顔にをしつぶされし扉かな

我庵や竹には烏萩に猫

しなのぢやそばの白さもぞつとする

そば咲やその白ささへぞつとする

それぞれに花の咲けり日やけ稲

鰐口にちよいと加へし紅葉哉

鳴蝉も連てふはりと一葉哉

朝寒を引くり返す木槿哉

代々の貧乏垣の木槿哉

火のふけぬ家をとりまく木槿哉

大栗や刺の中にも虫の住

うす壁にづんづと寒が入にけり

庵の夜はしんそこ寒ししんしんと

しんしんと心底寒し新坊主

米負て小唄で渡る氷哉

我家の一つ手拭氷りけり

野仏の御鼻の先の氷柱哉

我家や初氷柱さへ煤じみる

惣〆只三軒のむら時雨

継つ子や指を咥へて行時雨

木がらしに女だてらの跨火哉

木がらしや木の葉にくるむ塩肴

木がらしや軒の虫籠釣し柿

はつ雪を引握つたる烏哉

初雪といふ声ことしよはりけり

はつ雪や机の上に一握り

うら壁やしがみ付たる貧乏雪

ちよんぼりと雪の明りや後架道

鍋の尻ほしておく也雪の上

雪の日や字を書習ふ盆の灰

ちりめんの猿を負ふ子や玉霰

村中を膳もて行や玉霰

わらはべや箕をかぶりつつ玉霰

初時雨お十二日を忘ぬや

したはしやむかししのぶの翁椀

庵の煤嵐が掃てくれにけり

庵の煤口で吹ても仕廻けり

庵の煤掃く真似をして置にけり

煤掃て垣も洗て三ケの月

それ遊べ煤もはいたぞ門雀

鶏の餅ふん付ておかしさよ

ひえ餅はつく音にてもしられけり

餅搗のもちがとぶ也犬の口

世の中やおれがこねても餅になる

鳩雀来よ来よおれも貰ひ餅

深川や舟も一組とし忘

掛乞に水など汲で貰ひけり

旅すれば猫のふとんも借にけり

かじき佩て出ても用はなかりけり

三介が開眼したり雪仏

犬の子が追ふて行也雪礫

榎迄ことしは行かず雪礫

親犬が尻でうけけり雪礫

親犬や天窓で明る雪囲

どら犬の尻で明るや雪囲

どら犬や天窓でこぢる雪囲

蝿打が巧者也けり冬篭

大名は濡れて通るを炬燵哉

先よしと足でおし出すたんぽ哉

浅ましや炭のしみ込む掌に

けふけふとうき世の事も計り炭

僧正もほた火仲間の座とり哉

膝節でほたを折さへ手柄哉

埋火の真闇がりもたのみ哉

ばさら画の遊女も笑へ薬喰

きよろきよろきよろきよろ何をみそさざい

大切の九月三十日をみそさざい

みそさざい犬の通ぢくぐりけり

みそさざい身を知る雨が降にけり

あちこちに小より合する千鳥哉

小便の百度参りやさよ千鳥

月さして千鳥に埋る笹家哉

何事の大より合ぞ浜千鳥

降雪は声の薬か小夜千鳥

水鳥の紅葉かぶつて寝たりけり

菊なども交ぜてかれけり寺の道

人をさす草もへたへた枯にけり

枯すすきむかし婆々鬼あつたとさ

大根で叩きあふたる子ども哉

おち葉して親孝行の烏哉

恋猫の糞ほり埋るおち葉哉

君なくて誠に多太の木立哉


文政

1818年 1819年 1820年 1821年 1822年 1823年 1824年 1825年 1826年 1827年


文政一年

神々やことしも拝む子二人

正月も廿日過けりはおり客

正月やえたの玄関も梅の花

正月や夜は夜とて梅の月

這へ笑へ二ッになるぞけさからは

足元に鳥が立也春も立

春立や弥太郎改め一茶坊

春もはや立ぞ一ひ二ふ三けの月

ひへ餅にあんきな春が来たりけり

朝雫皺手につたふ初日哉

内中にてらてら鍬の初日哉

隠家は昼時分さす初日哉

はつ旭鍬も拝まれ給ひけり

足の向く村が我らが恵方哉

鶯や折戸半分明の方

大雪や出入の穴も明の方

おくさがや恵方に出し杖の穴

畠縁や恵方に出し杖の穴

とし棚の灯に鍬の後光哉

とし棚や闇い方より福鼠

吾庵や曲たなりに恵方棚

引下す畚の中より雀哉

左義長に月は上らせ給ひけり

左義長や其上月の十五日

どんど焼どんどと雪の降りにけり

蓬莱を引とらまへて泣子哉

蓬莱の天窓をしやぶるをさな子哉

犬の子やかくれんぼする門の松

から崎や門松からも夜の雨

君が世や主なし塚もかざり松

赤馬の口はとどかずかざり縄

輪飾や辻の仏の御首へ

大御代やからたち垣も御慶帳

かつしかや川むかふから御慶いふ

ざぶざぶと泥わらんじの御慶哉

武家丁やからたち藪も年始帳

楽な世やからたち藪の年始帳

茶けぶりや我わか水も角田川

名代のわか水浴びる雀哉

欲どしくわか水つかふ女哉

若水や並ぶ雀もまめな顔

若水や先は仏のしきみ桶

つく羽を犬が加へて参りけり

つく羽の落る際也三ケの月

神の代はおらも四角な雑煮哉

目出度といふも二人の雑煮哉

朝不二やとそのてうしの口の先

御関やとその銚子の不二へむく

月代にとそぬり付て出たりけり

女衆に出し抜れつつつむわかな

二葉三葉つみ切つて来るわかな哉

三ケ月はそるぞ寒は冴かへる

長き日やここにもごろりごろり寝

長き日や大福帳をかり枕

ばか長い日やと口明く烏哉

べら坊に日の長い哉長い哉

梅どこか二月の雪の二三尺

梅どこかはらはら雪のむら雀

雁鴨のきげん直るや春の雪

我村や春降雪も二三尺

明六を鳩も諷ふや春の雨

有明や石の凹みの春の雨

傘さして箱根越也春の雨

草の葉に鹿のざれけり春の雨

小社の餅こそ見ゆれ春の雨

酒法度たばこ法度や春の雨

笹ツ葉の春雨なめる鼠哉

山門の長雨だれの春雨哉

釣り棚のつつじ咲けり春の雨

春雨やしたたか銭の出た窓へ

春雨やばくち崩と夜談義と

春雨や髭を並べるせうじ紙

春雨や窓から値ぎる肴売

雨だれの中から吹や春の風

春風や馬をほしたる門の原

春風や女も越える箱根山

春風や供の娘の小脇差

春風や曲り曲りの奉加橋

降雪の中も春風吹にけり

すつぽんも時や作らん春の月

朧夜や酒の流し滝の月

梅ばちの大挑灯やかすみから

かすむ野にいざや命のせんたくに

霞やら雪の降やら古郷山

さらし布かすみの足に聳へけり

古郷はかすんで雪の降りにけり

我家はどうかすんでもいびつ也

陽炎のとり付て立草家哉

陽炎や歩行ながらの御法談

陽炎や庇の草も花の咲く

町住や雪とかすにも銭がいる

大川に四角な雪も流けり

門の雪四角にされて流けり

小庇に薪並おく雪解哉

小庇の薪と猫と雪解哉

里犬の渡て見せる雪げ哉

雀迄かち時作る雪げ哉

雪解や貧乏町の痩せ子達

六尺の暖簾ひたひた雪げ哉

茶のけぶり庵の苗代青みけり

苗代も庵のかざりに青みけり

苗代や草臥顔の古仏

我植た稲も四五本青みけり

雨に雪しどろもどろのひがん哉

西方は善光寺道のひがん哉

ばくち小屋降つぶしけり彼岸雨

我村はぼたぼた雪のひがん哉

桃の日や深草焼のかぐや姫

いとこ雛孫雛と名の付合ふ

小筵や畠の中の蓬餅

一対に並ぶ茶つみの儀式哉

小袋に米も少々扱茶哉

僧正が音頭とる也茶つみ唄

豊年のほの字にやけよしなの山

山焼の明りに下る夜舟哉

畠打や足にてなぶる梅の花

山畠や人に打たせてねむる鹿

梅持つて接木の弟子が御時宜哉

接木する我や仏に翌ならん

庭先や接木の弟子が茶をはこぶ

のらくらが三人よれば接木哉

餅腹をこなしがてらのつぎほ哉

謹で犬がつくばふさし木哉

へたへたと蛙が笑ふさし木哉

朝飯を髪にそよそよ猫の恋

闇より闇に入るや猫の恋

面の皮いくらむいてもうかれ猫

攣れて来て飯を食する女猫哉

盗喰する片手間も猫の恋

ばか猫や縛れながら恋を鳴く

猫の子や秤にかかりつつざれる

しよんぼりと雀にさへもまま子哉

雀らもおや子連にて善光寺

それ馬が馬がとやいふ親雀

やつれたよ子に疲たぞ門雀

鶯や朝々おがむ榎から

鶯や桶をかぶつて猫はなく

鶯や垣踏んで見ても一声

鶯や廻り廻て来る庵

鶯よけさは弥太郎事一茶

うら窓やはつ鶯もぶさた顔

薮超の乞食笛よ鶯よ

あらかんの鉢の中より雲雀哉

追分の一里手前の雲雀哉

小島にも畠打也鳴雲雀

坂本はあれぞ雲雀と一里鐘

小な市の菜の祭り雲雀哉

松島やあちの松から又雲雀

松島やかすみは暮て鳴雲雀

蓑を着て寝たる人より雲雀哉

加賀どのの御先をついと雉哉

雉なくや臼と盥の間から

雉なくや座頭が橋を這ふ時に

雉鳴や寺の座敷の真中に

大雨やずつぷり濡て帰る雁

帰り度雁は思ふやおもはずや

帰る雁細い煙を忘るるな

雁にさへ袖引雨は降りにけり

こんな日も旅立よしか帰る雁

松の木を置去にして帰る雁

我村はいく日に通る帰る雁

いも神のさんだらぼしに蛙哉

足下の月を見よ見よ鳴蛙

大蛙から順々に座とりけり

散花を奪とりがちになく蛙

爪先は夜に入にけり鳴く蛙

蕗の葉を引つかぶりつつ鳴蛙

三ケ月を白眼つめたる蛙哉

祝ひ日や白い僧達白い蝶

うつくしき仏になるや蝶夫婦

大猫の尻尾でじやらす小てふ哉

かいだんの穴よりひらり小てふ哉

神垣や白い花には白い蝶

それぞれや蝶も白組黄色組

蝶とぶや大晴天の虎の門

蝶行やしんらん松も知つた顔

虎の門蝶もぼつぼつ這入けり

一莚蝶もほされておりにけり

ふり上る箒の下やねる小蝶

舞は蝶三弦流布の小村也

まへや蝶三弦流布のあさじ原

さまづけに育られたる蚕哉

たのもしや棚の蚕も喰盛り

人並に棚の蚕も昼寝哉

村中にきげんとらるる蚕哉

家うちして夜食あてがふ蚕哉

隠家を蜂も覚て帰る也

辻堂の蜂の威をかる雀哉

蜂鳴て人のしづまる御堂哉

蜂の巣や地蔵菩薩の御肱に

門畠憎くまれ草もわかわかし

わか草に背をこする野馬哉

狗の鼻で尋る菫哉

是からは庵の領とて菫哉

鼻紙を敷て居れば菫哉

小盥に臼になの花吹雪哉

折々に猫が顔かく木の芽哉

家一つ有梅一つ三ケの月

梅がかよ湯の香よ外に三ケの月

梅咲くや地獄の釜も休日と

梅咲やせうじに猫の影法師

梅咲くや目にもろもろの人通り

梅の花庵の鬼門に立りけり

梅の世や蓑きて暮す虫も有

うら店やつつぱり廻る梅の花

烏帽子きた馬士どのや梅の花

大馬の尻引こする野梅哉

子地蔵よ御手出し給へ梅の花

小坊主よも一ッ笑へ梅の花

そら錠と人には告よ梅の花

三ケ月の御きげんもよし梅の花

明星や庵の鬼門の梅の花

餅の座につくも有けり梅の花

湯けぶりにせつかれて咲梅の花

駕かきは女也けり花の山

けふは花見まじ未来がおそろしき

下馬札や是より花の這入口

散花の辰巳へそれる屁玉哉

散花や長々し日も往生寺

畠縁りに酒を売也花盛

花を折る拍子にとれししやくり哉

花さくや伊達に加へし空ぎせる

花ちるやとある木陰も開帳仏

花ちるや日の入かたが往生寺

花の世を笠きて暮す仏哉

花の世は仏の身さへおや子哉

日ぐらしや花の中なる喧嘩買

大馬に尻こすらるる桜哉

君が代は紺のうれんも桜哉

桜へと見えてじんじんばしより哉

小筵にざぶとまぶせる桜哉

釣針に引上て見る桜哉

堂守が人に酔たる桜哉

塗下駄の音やかんじてちる桜

塗下駄の方へと桜ちりにけり

寝て起て大欠して桜哉

はらはらと畠のこやしや桜花

はらはらの飯にまぶれる桜哉

山吹の花のはだへの蛙哉

山吹や四月の春もなくなるに

山吹よちるな蛍の夕迄

青柳のあいそう付る我家哉

穴一の穴十ばかり柳哉

ぢちむさい庵も今は青柳ぞ

通りぬけせよと垣から柳哉

ひよいひよいとぶつ切棒の柳哉

我柳しだるる芸はなかりけり

青蔓の窓へ顔出す暑哉

暑き日やひやと算盤枕哉

あらあつしあつしと寝るを仕事哉

栗の木の白髪太夫の暑哉

しなの路の山が荷になる暑哉

蝮住草と聞より暑哉

涼しさにみだ同体のあぐら哉

涼しさに釈迦同体のあぐら哉

朝涼や外村迄も祈り雨

涼しさや飯を掘出すいづな山

五月雨や石に坐を組む引がえる

五月雨や線香立したばこ盆

五月雨や天水桶のかきつばた

ひきどのの仏頂面や五月雨

面壁の三介どのや五月雨

夕立を三日待たせて三粒哉

夕立に拍子を付る乙鳥哉

夕立や今二三盃のめのめと

夕立や大肌ぬいで小盃

夕立や上手に走るむら乙鳥

うき雲の苦もなく峰を作りけり

寝むしろや足でかぞへる雲の峰

夕鐘や雲もつくねる法の山

よい程に塔の見へけり雲の峰

大川や盃そそぐ夏の月

夏山やばかていねいに赤い花

灌仏をしやぶりたがりて泣子哉

子どもらも天窓に浴る甘茶哉

花御堂月も上らせ給ひけり

へぼ蜂が孔雀気どりや花御堂

御仏のう月八日や赤い花

御仏や乞食町にも御誕生

門の木にくくし付たる幟哉

乙鳥のちよいと引つつく幟哉

けふは鵜も骨休みする祭哉

子もち鵜や門から呼るもどり声

としとへば片手出す子や更衣

福耳と母がいふ也更衣

おもしろう汗のしみたる浴衣哉

おそ起や蚊屋から呼るとうふ売

十露盤を肱につつ張る昼寝哉

大の字にふんばたがつて昼寝哉

継つ子や昼寝仕事に蚤拾ふ

小うたひの尻べたたたく扇哉

ごろり寝の顔にかぶせる扇哉

大般若はらりはらりと扇哉

手にとれば歩たく成る扇哉

としよれば煤け扇もたのみ哉

二階から我をも透す扇哉

かり住の敷居の上の蚊やり哉

犬ころが火入れの番や夕涼み

大海を手ですくひつつ夕涼

人形に餅を売らせて夕涼

頬べたに筵の跡や一涼み

本堂の長雨だれや夕涼

それがしも田植の膳に居りけり

よその子や十そこらにて田植唄

只つた今旅から来しを田植馬

かはほりや四十島田も更衣

石山へ雨を逃すなほととぎす

うす墨を流した空や時鳥

大水の百年忌也時鳥

から崎の雨よせて又ほととぎす

品玉の赤い襷やほととぎす

次郎寝よばか時鳥鳴過る

白妙の花の卯月や時鳥

八文がつつじ咲けり時鳥

時鳥咄の腰を折にけり

時鳥貧乏耳とあなどるな

やかましや追かけ追かけ時鳥

行な行なおらが仲間ぞ閑古鳥

あちこちの声にまごつく蛍哉

一群は石山方の蛍かな

喧嘩せば外へ出よ出よはつ蛍

西なるはなむあみ方の蛍哉

寝むしろや雨もぽちぽちとぶ忖

はつ蛍ついとそれたる手風哉

番町や大骨折つて行蛍

蛍火や呼らぬ亀は手元迄

本町の真中通る蛍かな

我袖に一息つくや負け蛍

あばれ蚊に数珠をふりふり回向哉

蚊の声に貧乏樽を枕哉

蚊柱の三本目より三ケの月

蚊柱のそつくりするや畠迄

真直に蚊のくみ立し柱哉

子の蚤を休み仕事に拾いけり

蚤の跡かぞへながらに添乳哉

継つ子や昼寝仕事に蚤拾ふ

水桶の尻干す日也羽蟻とぶ

大牡丹貧乏村とあなどるな

おのづから頭の下たるぼたん哉

影ぼしも七尺去つてぼたん哉

是程のぼたんと仕かたする子哉

盃をちよいと置たるぼたん哉

侍が傘さしかけるぼたん哉

蟇どのも福と呼るるぼたん哉

小便のたらたら下や杜若

古杭の古き夜明やかきつばた

細長い蛇の社や杜若

黒い穂も世の賑しや麦畠

古郷や寝所に迄ことし竹

門の垣わか葉盛もなかりけり

ざぶざぶと白壁洗ふわか葉哉

念入て虫が丸しわか葉哉

橋守が桶の尻干わか葉哉

わか葉して男日でり在所哉

ぶら下るわらじと虫や木下闇

小盥に臼にうの花吹雪哉

一人と書留らるる夜寒哉

かくれ家や夜寒をしのぐあつめ垣

木のはしの法師に馴るる夜寒哉

盆の灰いろはを習ふ夜寒哉

宮守を鼬のなぶる夜寒哉

藪陰をてうちん通る夜寒哉

追分の一里手前の秋の暮

鬼の寝た穴よ朝から秋の暮

米炊ぐ水とくとくや秋の暮

床の間の杖よわらじよ秋の暮

一二三四と薪よむ声や秋の暮

我家も一里そこらぞ秋の暮

秋の夜やうらの番屋も祭客

木曽山に流入けり天の川

小坊主が子におしへけり天の川

さむしろや鍋にすじかふ天の川

すつぽんと月と並ぶや角田川

小柱もせんたくしたり盆の月

草の穂は雨待宵のきげん哉

みたらしやすみ捨てある後の月

秋日和負ふて越るや箱根山

秋日和とも思はない凡夫かな

順礼が馬にのりけり秋日和

なぐさみのはつちはつちや秋日和

雷に焼かれし山よ秋の雨

秋風や小さい声の新乞食

秋風やつみ残されし桑の葉に

上人の目には御舎利か草の露

仏法がなくば光らじ草の露

稲妻や三人一度に顔と顔

稲妻や屁とも思はぬひきが顔

磯寺や座敷の霧も絶え絶えに

霧雨や夜霧昼霧我庵は

神風や飯を掘出す秋の山

御仏も笠きて立や辻踊

髪のない天窓並べて星迎

しやんしやんと虫もはたおりて星迎

梶の葉の歌をしやぶりて這ふ子哉

紙でした梶の葉にさへ祭哉

星合の閨に奉る蚊やり哉

ふいに寄つても角力也門の月

ふいと立おれをかがしの替哉

蜻蛉の休み所のかがし哉

夕ぐれやかがしと我と只二人

おとし水おさらばさらばさらば哉

落し水鰌も滝を上る也

小夜砧うつや隣の其の隣

我家の一理そこらぞ夕砧

我庵の一里手前の砧哉

わか鹿や二ッ並んで対の声

鵙鳴や七日の説法屁一つ

五百崎や鍋の中迄雁おりる

はつ雁や同行五人善光寺

籠の虫妻恋しとも鳴ならん

日ぐらしの朝からさわぐ山家哉

御仏の代におぶさる蜻蛉哉

よい世とや虫が鈴ふり鳶がまふ

門畠や筵敷かせてとぶいなご

鎌の刃をくぐり巧者のいなご哉

行灯にちよいと鳴けりきりぎりす

きりぎりす紙袋にて鳴にけり

勝菊は大名小路もどりけり

菊ぞのや女ばかりが一床机

酒臭し小便くさし菊の花

人声の江戸にも馴れて菊の花

負菊の叱られて居る小隅哉

山寺や茶の子のあんも菊の花

好い菊と云れて菊を喰ひけり

朝顔をざぶとぬらして枕哉

朝顔の黒く咲けり我髪は

朝顔の花や一寸先は闇

朝顔やなむあ--あ--と一時に

木がくれや白朝顔のすまし顔

人の世や新朝顔のほだし咲

片隅につんと立けり女郎花

刈跡や一穂もとらばなむあみだ

鶺鴒がふんで流るるおち穂哉

日本の外ケ浜迄おち穂哉

拾へとて鳥がおとしたおち穂哉

新わらにふはりふはりと寝楽哉

馬の子や口さん出すや柿紅葉

そつくりと蛙の乗し一葉哉

落栗や先へ烏に拾はるる

山寺や畳の上の栗拾ひ

十二月二十九日も入相ぞ

狼の糞を見てより草寒し

ひいき目に見てさへ寒き天窓哉

ひいき目に見てさへ寒し影法師

真丸に小便したる夜寒哉

むちやくちややあはれことしも暮の鐘

入相の鐘も仕廻の三十日哉

かくれ家や大三十日も夜の雪

ごろり寝や先はことしも仕廻酒

旅人の悪口す也初時雨

小盲や右も左もむら時雨

小便に手をつく供や横時雨

鳩どもも泣事をいふしぐれ哉

はつ雪に打かぶせたる尿瓶哉

はつ雪や今重ねたる庵の薪

はつ雪やいろはにほへと習声

はつ雪は御堂参りの序哉

闇夜のはつ雪らしやぼんの凹

雪ちりて犬の大門通り哉

一吹雪拍子つきけり米洗

霰こんこんこん触ル狐哉

懐に袂に霰々哉

我門は無きずな旦も小霜哉

名代の寒水浴る雀哉

煤はきや旭に向ふ鼻の穴

大仏の鼻から出たり煤払

ほちやほちやと菜遣しぬ煤払

ほのぼのと明わたりけり煤の顔

えどの世は女もす也節き候

門口や上手に滑る節季候

せき候の尻の先也角田川

鶺鴒の尻ではやすやせつき候

隠家や手の凹ほども餅さわぎ

のし餅や子どものつかふ大団扇

世は安し焼野の小屋も餅さわぎ

藪並に餅もつく也宵の月

山の手や渋茶すすりてとし忘

鬼打の豆に滑つて泣子哉

雪車負て坂を上るや小さい子

五百崎や雉子の出て行く炭俵

ぬかるみにはや踏れけり炭俵

若い衆に頼んで寝たるほた火哉

有明をなくや千鳥も首尾の松

橋守の鍋蓋ふんで鳴千鳥

散すすき寒く成つたが目に見ゆる

あにかれじかれじと見しは欲目也

今見れば皆欲目也枯た梅

冬がれて親孝行の烏哉

朽ち桜何の願ひに帰り花

士の供を連たる御犬哉


文政二年

正月や夜は夜とて梅の花

正月や貸下駄並ぶ日陰坂

鶯のいな鳴やうも今朝の春

あばら家や其身其まま明の春

目出度さもちう位也おらが春

春立や弥太郎改めはいかい寺

今春が来たよふす也たばこ盆

土蔵からすじかいにさすはつ日哉

ぬかるみに筑つつ張てはつ日哉

西方のはつ空拝む法師哉

御盛りや草の庵ももりはじめ

雪降や夜盗も鼻を明の方

御地蔵の御首にかける飾り哉

二つ三つ藪にかけるやあまり七五三

又ことし七五三かける也顔の皺

年頭に孫の笑ふをみやげ哉

白髪の天窓をふり立て御慶哉

かくれ家や猫にも一ッ御年玉

番丁や窓から投る御年玉

書賃のみかんみいみい吉書哉

小坊主が棒を引ても吉書始

ついついと棒を引ても吉書哉

わんぱくや先掌に筆はじめ

名代のわか水浴びる烏哉

三文が若水あまる庵哉

親よぶや凧上ながら小順礼

お袋が福手をちぎる指南哉

葉固の歯一枚もなかりけり

竃の門に置するわかな哉

長閑さや浅間のけぶり昼の月

山の湯やだぶりだぶりと日の長き

白犬の眉書れたる日永哉

大道にころころ犬の日永哉

朝市の大肌ぬぎや春の雨

馬迄もはたご泊りや春の雨

芝居へと人はいふ也春の雨

掃溜の赤元結や春の雨

福狐出た給ふぞよ春の雨

ぼた餅や藪の仏も春の風

春風に御用の雁のしぶとさよ

朧夜や天の音楽聞し人

後の家見るやかすめばかすむとて

あとの家もかすんで音途々哉

家舟の音途々もかすみけり

おのが門見るやかすめばかすむとて

思ふまじ見まじかすめよおれが家

かすむ日やしんかんとして大座敷

白壁のそしられつつもかすみけり

古郷や朝茶なる子も春がすみ

横乗の馬のつづくや夕がすみ

陽炎の中にうごめく衆生かな

陽炎や手に下駄はいて善光寺

陽炎や掃捨塵も銭になる

愛らしく両手の跡の残る雪

鍋の尻ほし並たる雪解哉

昔なり両手の跡の残る雪

門前や子どもの作る雪げ川

薮の雪ちよつととけるもけむり哉

雪どけや大旅篭屋のうらの松

雪の道片方とけてやみにけり

引連て代もかく也子もち馬

小うるさい花が咲とて寝釈迦かな

寝ておわしても仏ぞよ花が降る

涅槃会や鳥も法華経法華経と

御仏や寝てござつても花と銭

はつ午や火たく畠の夜の雪

初午に無官の狐鳴にけり

花の世を無官の狐鳴にけり

鋲打の駕で出代る都哉

隠れ屋や猫のもすえる二日灸

片すみに煤け雛も夫婦哉

煤け雛しかも上座をめされけり

土雛は花の木かげに隠居哉

土雛も祭の花はありにけり

花の世や寺もさくらの雛祭

ひな棚にちよんと直りし小猫哉

へな土の雛も同じ祭り哉

我こねた土のひなでも祭り哉

草餅を鍋でこねてもいはひ哉

山焼や仏体と見へ鬼と見へ

山焼や夜はうつくしきしなの川

ざくざくと雪かき交ぜて田打哉

浅間根のけぶる側迄畠かな

畠打や子が這ひ歩くつくし原

我と来て遊べや親のない雀

大勢の子を連歩く雀哉

ぎりのある子を呼ばるかよ夕雀

雀子のしをしをぬれて鳴にけり

雀子や川の中迄親をよぶ

雀の子そこのけそこのけ御馬が通る

筍と品よくあそべ雀の子

今の世も鳥はほけ経鳴にけり

鶯の兄弟連れか同じ声

鶯の馳走にはきしかきね哉

鶯の鳴かげぼしや明り窓

鶯の目利してなくわが家哉

鶯も上鶯のいなかかな

鶯や男法度の奥の院

君が代は鳥も法華経鳴にけり

来るも来るも下手鶯ぞおれが垣

なつかしや下手鶯の遠鳴は

乙鳥を待つてみそつく麓哉

松島や小隅は暮て鳴雲雀

子をかくす薮の廻りや鳴雲雀

横のりの馬のつづくや夕雲雀

小社を三遍舞て帰る雁

早立は千住留りか帰る雁

有明や火を打つまねを鳴く蛙

おれとしてかがみくらする蛙かな

おれとして白眼くらする蛙かな

親分と見えて上座に鳴蛙

蛙鳴や狐の嫁が出た出たと

鶺鴒の尻ではやすや鳴蛙

其声で一つをどれよなく蛙

木母寺の鐘に孝行かはづ哉

大猫の尻尾でなぶる小てふ哉

葎からあんな小蝶が生れけり

塵塚にあんな小蝶が生れけり

てふてふのふはりととんだ茶釜哉

蝶ひらひら庵の隅々見とどける

びんづるの御鼻をなでる小蝶哉

門の草芽出すやいなやむしらるる

芽出しから人さす草はなかりけり

うちはぐみ人さす草でなかりけり

竹の葉につれて葎もわか葉哉

わか草や北野参りの子ども講

九輪草四五りん草で仕廻けり

野大根大髭どのに引れけり

梅折や天窓の丸い陰ぼふし

梅が香や小藪の中も正一位

梅さくや泥わらじにて小盃

梅の花ここを盗めとさす月よ

梅の花ここを盗めとさす月か

大淀や大曙のんめの花

男禁制の門也梅の花

欠茶碗開帳したる梅の花

関守りの灸点はやる梅の花

ちさい子の麻上下も梅の花

一入に新善光寺ぞよ梅の花

薮尻のさいせん箱や梅の花

藪村やまぐれあたりも梅の花

苦の娑婆や花が開けばひらくとて

小倅はちに泣花の盛りかな

花ちるや末代無智の凡夫衆

花の陰赤の他人はなかりけり

花の世に穴ほしげなる狐哉

山の月花ぬす人をてらし給ふ

苦の娑婆や桜が咲ば咲いたとて

さくらさくらと唄れし老木哉

茶屋村の出現したるさくらかな

茶屋村の一夜に出来しさくらかな

弥陀仏の見ておはす也ちる桜

山畠やこやしのたしにちる桜

夜桜や天の音楽聞し人

通りぬけせよと垣から柳哉

青柳に金平娘立にけり

入口のあいそになびく柳かな

江戸もえどえど真中の柳哉

門柳天窓で分て這入けり

白猫のやうな柳もお花哉

灰猫のやうな柳もお花哉

野雪隠のうしろをかこふ柳哉

人声にもまれて青む柳かな

一吹にほんの柳と成にけり

我門はしだれ嫌ひの柳哉

戸口から青水な月の月夜哉

六月にろくな月夜もなき庵哉

六月や月幸に煤はらひ

六月や月夜見かけて煤はらひ

短夜をよろこぶとしと成にけり

短夜や赤い花咲蔓の先

あついとてつらで手習した子かな

暑き日や庇をほじるばか烏

暑き夜の荷と荷の間に寝たりけり

暑き夜や蝙蝠かける川ばたに

稲の葉に忝さのあつさ哉

米国の上々吉の暑さかな

大帳を枕としたる暑かな

なを暑し今来た山を寝て見れば

白山の雪きらきらと暑かな

草臥や涼しい木陰見て廻る

涼風の出口もいくつ松かしは

涼しさにしやんと髪結御馬哉

涼しさに大福帳を枕かな

涼しさや極楽浄土の這入口

涼しさやしなのの雪も銭になる

すしさや沈香もたかず屁もひらず

入梅晴や二軒並んで煤はらひ

五月雨も仕廻のはらりはらり哉

此闇に鼻つままれな五月雨

五月雨も中休みぞよ今日は

五月雨の中休みかよ今日は

女郎花つんと立けり虎が雨

とし寄りの袖としらでや虎が雨

とらが雨など軽じてぬれにけり

我庵は虎が涙もぬれにけり

寝並んで遠夕立の評義哉

夕立の拍子に伸て葎哉

夕立や樹下石上の小役人

寝むしろや足でかぞへる雪の峰

蟻の道雲の峰よりつづきけり

風有をもつて尊し雲の峰

山人の枕の際や雲の峰

小むしろや茶釜の中の夏の月

なぐさみにわらをうつ也夏の月

二番火の酒の騒ぎや夏の月

此入は西行庵か苔清水

此入はどなたの庵ぞ苔清水

水風呂へ流し込だる清水哉

母馬が番して呑す清水哉

山守の爺が祈りし清水哉

起々の慾目引つぱる青田哉

そんじよそこここと青田のひいき哉

寝並びておのが青田をそしる也

卯の花も仏の八日つとめけり

長の日にかわく間もなし誕生仏

疫病神蚤も負せて流しけり

おどる魚桶とおもふやおもはぬや

青柳の木陰を頼む寄鵜哉

鵜の真似を鵜より巧者な子供哉

鵜の真似は鵜より上手な子供哉

鵜もおや子うかいも親子三人哉

子もち鵜が大声上てもどりけり

放鵜の子の鳴舟にもどりけり

ひいき鵜は又もからみで浮にけり

衣替て居つて見てもひとりかな

杉で葺く小便桶やころもがい

其門に天窓用心ころもがへ

髪結も大小さして初袷

三間の木太刀をかつぐ袷かな

四五間の木太刀をかつぐ袷かな

京の夜や白い帷子しろい笠

此風の不足いふ也夏さしき

松陰やござ一枚のなつ座敷

今迄は罰もあたらず昼寝蚊屋

馬迄も萌黄の蚊屋に寝たりけり

ごろり寝の紙帳の窓や三ケの月

塵の身もともにふはふは紙帳哉

手をすりて蚊屋の小すみを借りにけり

出ル月は紙帳の窓の通り哉

始から釣り放しなる紙帳哉

留守中も釣り放しなる紙帳哉

ひとり寝の太平楽の紙帳哉

今見ればつぎだらけ也おれが蚊屋

今迄は罰もあたらぬ昼寝哉

十ろばんに肱をもたせて昼寝かな

蓮の葉に片足のせて昼寝哉

貰よりはやくうちなふ扇哉

小座頭の天窓にかむる扇かな

子道者の年はいくつぞ赤扇

小道者や手を引れつつ赤扇

小坊主が襟にさしたる扇哉

太郎冠者まがいに通る扇かな

花つむや扇をちよいとぼんの凹

ぼのくぼに扇をちよいと小僧哉

山寺や扇でしれる小僧の名

大寺や扇でしれし小僧の名

風上におくや舳先の蚊やり鍋

魚どもや桶ともしらで門涼み

青草も銭だけそよぐ門涼

一尺の滝も音して夕涼み

有明や二番尿から門涼み

鬼茨も添て見よ見よ一涼み

極楽に片足かけて夕涼

銭なしは青草も見ず門涼み

線香の火でたばこ吹くすすみかな

なぐさみに鰐口ならす涼み哉

人形に茶をはこばせて門涼み

寝た鹿に片肱ついて夕涼

母おやや涼がてらの針仕事

ままつ子や涼み仕事にわらたたき

水に湯にどの流でも夕涼

夜に入ば下水の上も涼み哉

馬どもも田休す也門の原

唐人も見よや田植の笛太鼓

鹿の子や横にくはへし萩の花

俄川飛で見せけり鹿の親

人声に子を引かくす女鹿かな

わやわやと土産をねだる鹿の子哉

急グかよ京一見のほととぎす

卯の花や梅よ桜よ時鳥

つき山や祝て一ッほととぎす

ひきどのの弔いはやせほととぎす

時鳥なけや頭痛の抜る程

時鳥蝿虫めらもよつく聞け

我家に恰好鳥の鳴にけり

雨乞のばかばかしとや行々し

牛の子の寝入ばな也行々し

行々し一本芦ぞ心せよ

十日程雨うけあふか行々し

へら鷺は無言の行や行々し

しほらしや蛇も浮世を捨衣

法の山や蛇も浮世を捨衣

法の世や蛇もそつくり捨衣

稲妻に天窓なでけり引蟇

霧に乗る目付して居る蟇かな

霧に乗る目付して居る烏かな

雲を吐く口つきしたり引蟇

蟇どのの妻や待らん子鳴らん

一雫天窓なでけり引がえる

罷出るは此薮の蟾にて候

大蛍ゆらりゆらりと通りけり

片息に成つて逃入る蛍かな

逃て来てため息つくかはつ蛍

二三遍人をきよくつて行蛍

初蛍上手の手でももりにけり

はつ蛍其手はくはぬとびぶりや

飛蛍其手はかはぬくはぬとや

鼻紙に引つつんでもほたるかな

人声の方へやれやれはつ蛍

蛍火やだまつて居れば天窓まで

我袖を親とたのむか逃ぼたる

虫に迄尺とられけり我柱

けふの日も棒ふり虫と暮にけり

けふの日も棒ふり虫よ翌も又

ぼうふりが天上するぞ三ケの月

旦の蚊の弥陀のうしろにかくれけり

あばれ蚊のついと古井に忍びけり

蚊の声に馴れてすやすや寝る子哉

蚊もちらりほらり是から老が世ぞ

かはいらし蚊も初声ぞ初声ぞ

桜迄悪く言する薮蚊哉

年寄と見るや鳴蚊も耳の際

なむあみだ仏の方より鳴蚊哉

閨の蚊の初出の声を焼れけり

閨の蚊のぶんとばかりに焼れけり

一ッ蚊のだまつてしくりしくり哉

夕空に蚊も初声をあげにけり

縁の蝿手をする所を打れけり

かくれ家は蝿も小勢でくらしけり

笠の蝿もうけふからは江戸者ぞ

笠の蠅我より先へかけ入ぬ

ぬり盆にころりと蝿の滑りけり

人一人蝿も一つや大座敷

古郷は蝿すら人をさしにけり

世がよくばも一つ留れ飯の蝿

草原にこすり落や猫の蚤

とぶな蚤それそれそこが角田川

とべよ蚤同じ事なら蓮の上

羽蟻出る迄に目出度柱哉

狗にここへ来よとや蝉の声

せみなくやつくづく赤い風車

はつ蝉のうきを見ん見んみいん哉

松のせみどこ迄鳴て昼になる

山ぜみや袂の下を通りけり

鰐口のくちのおくより蝉の声

昼顔や古僧部の僧が窓に迄

昼顔やぽつぽと燃る石ころへ

夕顔の花にて洟をかむ子哉

扇にて尺を取たるぼたん哉

紙屑もぼたん顔ぞよ葉がくれに

鶏の抱かれて見たるぼたん哉

福の神やどらせ給ふぼたん哉

福もふく大福花のぼたん哉

ぼたん迄果報のうすき我家哉

唐土の真似する寺のぼたん哉

咲花も此世の蓮はまがりけり

直き世や小銭ほどでも蓮の花

蓮の花少曲がるもうき世哉

我門にうつせば小さし蓮の花

なでし子に二文が水を浴せけり

なでしこやままはは木々の日陰花

馬の髪結ひて立也かきつばた

けさ程や芥に一本かきつばた

浮草の花からのらんあの雲へ

馬柄杓にちよいと浮草咲にけり

かくれ家の畠に植る早苗かな

道ばたや馬も喰はぬ捨早苗

隠れ家の柱で麦をうたれけり

麦秋や子を負ながらいはし売

いそがしや山の苔さへ花盛り

山苔も花咲世話のありにけり

赤住連や疱瘡神のことし竹

あつぱれの大若竹ぞ見ぬうちに

少し見ぬうちに天晴若竹ぞ

それであれうす紫の今年竹

苦竹をよい事にして若葉哉

竹の子の千世もぽつきり折にけり

筍の人の子なくば花さかん

苦竹の子や幸にしてそろふ

御座敷や瓜むく事もむつかしき

初瓜を引とらまへて寝た子哉

三日月と一ッ並びや冷し瓜

頬べたにあてなどしたる真瓜哉

赤い葉の栄耀にちるや夏木立

芝でした休所や夏木立

一本は昼寝の足しの茂り哉

界隈のなまけ所や木下闇

卯の花に一人切の鳥井哉

卯の花に一人切の社哉

卯の花の吉日もちし後架哉

卯の花の花なきさへうられけり

卯の花もほろりほろりやひきの塚

寝所見る程は卯の花月夜哉

寝所見る程は卯の花明りかな

けさ秋や瘧の落ちたやうな空

盆の灰いろは書く子の夜寒哉

赤馬の苦労をなでる夜寒哉

親のいふ字を知つてから夜寒哉

影法師に恥よ夜寒のむだ歩き

から樽を又ふつて見る夜寒哉

小便所ここと馬呼ぶ夜寒哉

のらくらが遊びかげんの夜寒哉

古郷を心でおがむ夜寒哉

子どもらを心でおがむ夜寒哉

若い衆のつき合に寝る夜寒哉

馬の背の土をはくなり秋の暮

膝抱て羅漢顔して秋の暮

一人通るとかべに書く秋の暮

行な雁住ばどつこも秋の暮

影法師に恥よ夜永のむだ歩き

行秋や馬の苦労をなでる人

名月を取つてくれろと泣く子哉

庵のかぎ松にあづけて月見哉

御祝儀に月見て閉る庵かな

酒尽て真の座に付月見哉

そば国のたんを切つつ月見哉

古郷の留守居も一人月見哉

名月やあたりにせまる壁の穴

名月や五十七年旅の秋

名月や膳に這よる子があらば

名月や膝を枕の子があらば

名月や松に預ける庵の鍵

籾倉の陰の小家も月見哉

石山や蝕名月の目利役

欠様の立派もさすが名月ぞ

十五夜や闇に成のも待遠き

世話好が蝕名月の目利哉

僭上に月の欠るを目利哉

忽に無病な月と成にけり

出直して大名月ぞ名月ぞ

瑞l数は月より先へ欠にけり

人顔は月より先へ欠にけり

人の声闇でさすか十五夜ぞ

人の世へ月も出直し給ひけり

人の世は月もなやませたまいけり

名月の御名代かや白うさぎ

名月も出直し給ふ浮世哉

名月や欠けしまふたが山の雨

世は斯うと月も煩ひ給ひけり

雁どもの腹もふくれて十三夜

箕の中の箸よ御札よ秋日和

秋風や磁石にあてる古郷山

秋風やむしりたがりし赤い花

露の玉袖の上にも転りけり

露の玉つまんだ時も仏哉

露の玉つまんで見たるわらべ哉

露の世は露の世ながらさりながら

蓮の露一つもあまる朝茶哉

蓮の葉に此世の露はいびつ也

蓮の葉に此世の露は曲りけり

石川はぐはらり稲妻さらり哉

稲妻につむりなでけり引蟇

稲妻にへなへな橋を渡りけり

稲妻や門に寝並ぶ目出度顔

稲妻や一切づつに世がなをる

さむしろや一文橋も霧の立

夕霧や馬の覚し橋の穴

歌書や梶のかはりに糸瓜の葉

世を捨ぬ人の庇のすすきかな

名月のあるが上にも玉火哉

乳呑子の風よけに立かがし哉

雨の夜やつい隣なる小夜ぎぬた

行灯を畑に据へて砧かな

行灯を松につるして小夜ぎぬた

木の下に茶の沸にけり小夜砧

恋衣打るる夜あり庵の石

衣打槌の下より吉の川

鳴鹿も母や恋しき小夜ぎぬた

はたはたは母が砧としられけり

梟が拍子とる也小夜ぎぬた

春日野や駄菓子に交る鹿の尿

さをしかの角にかけたり手行灯

さをしかやことし生れも秋の声

爺鹿が寝所見付て呼りけり

爺鹿の瀬ぶみ致スや俄川

鹿笛や下手が吹ても夜の声

神前に鳴さをしかも子やほしき

息災に紅葉を見るよ夫婦鹿

高縁を睨でよぶや男鹿

鳴鹿の片顔かくす鳥居哉

鳴な鹿柳が蛇になるほどに

はいかいの主集を負せん庵の鹿

不精しか鳴放しにて寝たりけり

下手笛によつくきけとや鹿のなく

山寺や縁の上なるしかの声

夕暮や鹿に立添ふ羅かん顔

啄木のけいこにたたく柱哉

啄木の目利して見る庵哉

啄木もやめて聞かよ夕木魚

得手物の片足立や小田の雁

大組を呼おろしけり小田の雁

おりよ雁一もくさんに我前へ

片足立して見せる也杭の雁

門の雁片足立つて思案哉

雁鴨や御成りもしらで安堵顔

雁どもも夜を日に次で渡りけり

一ッ雁夜々ばかり渡りけり

木母寺古き夕や芦に雁

追れても人住里や渡り鳥

喧嘩すなあひみたがひに渡り鳥

どふ追れても人里を渡り鳥

山雀の輪抜しながら渡りけり

虫の屁を指して笑ひ仏哉

こほろぎのとぶや唐箕のほこり先

きりぎりすかがしの腹で鳴にけり

蟷螂や五分の魂見よ見よと

夜々や涼しい連に鳴蚯蚓

鰯めせめせとや泣子負ながら

井筒から日本風ぞ菊の花

開山は芭蕉さま也菊の花

菊園や歩きながらの小盃

鍬さげて新農顔やきくの花

下戸庵が疵也こんな菊の花

小菊なら縄目の恥はなかるべし

幸にらくらく咲くや屋草菊

幸に遅々さくややたら菊

酒臭き紙屑籠やきくの花

杖先で画解する也菊の花

入道の大鉢巻できくの花

寝る連に瓢もごろり菊の花

藪菊のこつそり独盛りけり

山寺や糧の内なる菊の花

らくらくと寝て咲にけり名無菊

ろくろくに露も呑さぬ菊の花

我やうにどつさり寝たよ菊の花

朝顔にかして咲する庇かな

念仏の指南所や庵の蔦

さおしかの食こぼしけり萩の花

葛蔓の手にしてまとふ柱かな

下戸庵が疵也こんな蘭の花

馬のくび曲らぬ程の稲穂哉

首出して稲付馬の通りけり

蜻蛉もおがむ手つきや稲の花

まけぬきに畠もそよぐ稲穂哉

夕月や刈穂の上の神酒徳り

一念仏申す程してすすき哉

頬べたにあてなどするや赤い柿

団栗がむけんの鐘をたたく也

木末から猿がをしへる茸哉

五六人只一ッ也きの子がり

猿の子に酒くれる也茸狩

旅の子に酒くれる也茸狩

茸がりのから手でもどる騒かな

雪ちらりちらり冬至の祝儀哉

一文に一つ鉦うつ寒さ哉

狼は糞ばかりでも寒さかな

古札の薮にひらひら寒さ哉

椋鳥と人に呼るる寒さ哉

夕やけや唐紅の初氷

棒先の紙のひらひら小春哉

ともかくもあなた任せのとしの暮

大三十日とんじやくもなし浮寝鳥ケ

夕山やそば切色のはつ時雨

子を負て川越す旅や一しぐれ

業の鳥罠を巡るやむら時雨

小座頭の追つめられし時雨哉

小夜しぐれなくは子のない鹿に哉

三助が敲く木魚も時雨けり

時雨るや親碗たたく唖乞食

重箱の銭四五文や夕時雨

椋鳥の仲間に入や夕時雨

椋鳥と我をよぶ也村時雨

木がらしや折介帰る寒さ橋

木がらしやから呼されし按摩坊

こがらしや隣と云もえちご山

木がらしや二十四文の遊女小家

木がらしや人なき家の角大師

木がらしや埃にのりしせたら馬

はつ雪の降り捨てある家尻哉

初雪や今おろしたる上草り

初雪や今に煮らるる豚あそぶ

うら壁や貧乏雪のしつかりと

雪ちるやおどけも云へぬ信濃空

雪ふれや貧乏徳利のこけぬ内

霰ちれちれちれ孫が福耳に

さをしかやえひしてなめるけさの霜

張番に庵とられけり夜の霜

西方は極楽道よかれのはら

御十夜は巾着切も月夜也

辻堂の一人たたきの十夜哉J

菜畠を通してくれる十夜哉

塀間を通してくれる十夜哉

こんにやくもお十二日はつ時雨J

寒垢離にせなかの竜の披露哉

寒声と云もなむあみだ仏哉

雨の夜やしかも女の寒念仏

一文に一つづつかよ寒念仏

煤竹にころころ猫がざれにけり

煤払の世話がなき身の涙かな

猫連て松へ隠居やすすはらひ

子の真似を親もする也せつきぞろ

せき候やはるばる帰る寺の門

梅の木や御祓箱を負ながら

犬の餅烏が餅もつかれけり

餅搗が隣へ来たと云子哉

もちつくや棚の大黒にこにこと

我所へ来のではなし餅の音

我門へ来さうにしたり配り餅

妹が子のせおふたなりや配り餅

かまけるな柳の枝に餅がなる

一人の太平楽や年わすれ

うら山や十所ばかり年忘

御仲間に猫も坐とるや年わすれ

都哉橋の下にも年わすれ

我家やたつた一人も年わすれ

山里や藪の中にも年の市

おさな子やただ三ッでも年の豆

鬼よけの浪人よけのさし柊

けふからは正月分ぞ麦の色

其後は子供の声や鬼やらひ

一声に此世の鬼が逃るげな

我国は子供も鬼を追ひにけり

はづかしや罷出て取江戸の年

一文で厄払けり門の月

古反故を継合せつつ羽織哉

一番に猫が爪とぐ衾哉

百敷や都は猫もふとん哉

のふなしはつみも又なし冬ごもり

冬篭り悪物喰が上りけり

冬篭り悪物喰が上手なり

炭の火や旦の祝儀の咳ばらひ

子宝がきやらきやら笑ふほた火哉

大名の一番立のほた火哉

ほたの火にせなか向けり最明寺

初鰒のけぶり立けり丘の家

こつそりとしてかせぐ也みそさざい

雀等と仲間入せよみそさざい

三絃に鳴つく許り千鳥哉

村千鳥そつと申せばはつと立

忍草しのばぬ草も枯にけり

六道の辻に立けりかれ尾花

朝々に壱本づつや引大根

尼達や二人かかつて引大根

大根引拍子にころり小僧哉

藪原に引捨られし大根哉

一つかみ樽にかけたる紅葉哉

一つかみ塗樽拭ふ紅葉哉

冬枯にめらめら消るわら火哉

霜がれやおれを見かけて鉦たたく

霜がれや胡粉の剥し土団子

なまけるや翌も花あり月有と

人なつき鶴よどちらに矢があたる

もふ見まじ見まじとすれど我家哉

思ふまじ見まじとすれど我家哉


文政三年

ことしから丸もふけ也娑婆の空

北国や家に雪なきお正月

初雨や北国本のお正月

道ばたの土めづらしやお正月

弥陀仏をたのみに明て今朝の春

鶯のくる影ぼしも窓の春

春たちて磯菜も千代のためし哉

春立や二軒つなぎの片住居

心から大きく見ゆる初日哉

大雨や元日早々に降り給ふ

御降りの祝儀に雪もちらり哉

ござつてぞ正月早々春の雨

まんべんに御降り受る小家哉

梅咲や地獄の門も休み札

けふこそは地獄の衆もお正月

斎日もさばの地獄はいたりにけり

人の引小松の千代やさみすらん

お袋の福茶をくめる指南哉

深川や川向ふにて御慶いふ

美しき凧上りけり乞食小屋

乞食子や歩ながらの凧

はつ雪へさし出す獅子の天窓哉

まかり出花の三月大根哉

春めくや藪ありて雪ありて雪

長閑や鼠のなめる角田川

大口を明て烏も日永哉

闇がりの牛を引出す日永哉

永き日や牛の涎が一里程

念仏の申し賃とる日永哉

雇れて大念仏の日永哉

起々やおがむ手に降る春の雨

をく山もばくちの世也春の雨

桟を唄でわたるや春の雨

線香や平内堂の春の雨

春雨や妹が袂に銭の音

春雨や猫におどりをおしえる子

春雨やむだに渡りし二文橋

人の世や直には降らぬ春の雨

狗が鼠とる也はるの風

春風のそこ意地寒ししなの山

春風や侍二人犬の供

春風やとある垣根の赤草履

宿引に女も出たり春の風

東風吹や堤に乗たる犬のあご

後供はかすみ引けり加賀の守

雉の尾に引ずりて行かすみ哉

身の上の鐘としりつつ夕がすみ

陽炎の内からも立つ在郷哉

さほ姫の染損なひや斑山

浅ましや一寸のがれに残る雪

鷺烏雀が水もぬるみけり

代かくやふり返りつつ子もち馬

死花をぱつと咲せる仏哉

相伴に我らもごろり涅槃哉

彼岸とて袖に這する虱かな

開帳に逢ふや雀もおや子連れ

咲花をあてに持出す仏かな

桜木や花の小隅に隠居雛

子ありてや蓬が門の蓬餅

晴天のとつぱづれ也汐干がた

人まねに鳩も雀も汐干かな

深川や御庭の中の汐干狩

茶もつみぬ松もつくりぬ丘の家

石の上に蝋燭立てつぎ穂かな

歯ももたぬ口に加へてつぎ穂哉

かりの世のかり家の門にさし木哉

おどされて引返す也うかれ猫

門の山猫の通ぢ付にけり

こがれ猫恋気ちがいと見ゆる也

縛れて鼾かく也猫の恋

関守が叱り通すや猫の恋

門番が明てやりけり猫の恋

汚れ猫それでも妻は持ちにけり

大鹿のおとした角を枕哉

おとし角腹にさしけり山法師

角おちて恥しげなり山の鹿

西山の月と一度やおとし角

人鬼の見よ々鹿は角おちる

鳥の巣に明渡したる庵哉

又むだに口明く鳥のまま子哉

門雀兄弟喧嘩始めけり

雀子や女の中の豆いりに

鶯や弥陀の浄土の東門

雉鳴や是より西は庵の領

さをしかのせなかをかりて雉の鳴

野仏の袖にかくれてきじの鳴

親と子の三人連や帰る雁

辛崎を三遍舞て帰る雁

すつぽんも羽ほしげ也帰る雁

闇の夜も道ある国や帰る雁

産みさうな腹をかかえて鳴蛙

江戸川にかはづもきくやさし出口

江戸川にさし出て鳴く蛙かな

榎迄春めかせけりなく蛙

蛙らや火縄ふる手の上を飛ぶ

元の座について月見る蛙哉

江戸川に差出口きく蛙哉

夕暮に蛙は何を思案橋

後になり先になる蝶や一里程

黄色組しろぐみてふの出立哉

黄色組白組蝶の地どりけり

気の毒やおれをしたふて来る小てふ

来る蝶に鼻を明するかきね哉

白黄色蝶も組合したりけり

菅筵それそれ蝶が汚んぞ

草庵の棚捜しする小てふ哉

はつ蝶よこんな筵に汚るるな

引うける大盃に小てふ哉

枕する腕に蝶の寝たりけり

蚕医者蚕医者はやる娘かな

蚕医者蚕医者する娘かな

此方が庵の道とや虻がとぶ

道連れの虻一ッ我も一人哉

山道の案内顔や虻がとぶ

山道や斯う来い来いと虻が飛

熊蜂も軒端を知つて帰りけり

我国は草も桜を咲にけり

臭水の井戸の際より梅の花

此壁にむだ書無用梅の花

ひらひらとつむりにしみる梅の花

赤髪にきせるをさして花見哉

あれ花が花がと笑ひ仏哉

今迄は罰もあたらず花の雨

親と子がぶんぶんに行花見哉

髪髭も白い仲間や花の陰

髪結も白い仲間や花の陰

小むしろや花くたびれがどたどた寝

先繰に花咲山や一日づつ

草庵に来てはこそこそ花見哉

草庵に来てはくつろぐ花見哉

挑灯は花の雲間に入にけり

遠山の花に明るし東窓

花ちるや日傘の陰の野酒盛

若い衆に先越れしよ花の陰

石仏風よけにして桜哉

江戸桜花も銭だけ光る哉

開帳の目当に立し桜哉

けふもまたさくらさくらの噂かな

寝むしろや桜にさます足のうら

一雫天窓なでけり桜から

夜ざくらや美人天から下るとも

川は又山吹咲ぬよしの山

庵の錠いらぬ事とや柳吹く

馬の子が柳潜りをしたりけり

皮剥が腰かけ柳青みけり

蛍とぶ夕をあてやさし柳

頬杖は観音顔や柳かげ

夏の夜や二軒して見る草の花

桟を知らずに来たり涼しさに

拵へた露も涼しや門の月

涼風も一升入のふくべ哉

涼しさの家や浄土の西の門

涼しさや四門を一ッ潜つては

涼しさや土橋の上のたばこ盆

涼しさや糊のかわかぬ小行灯

正直に入梅雷の一ッかな

夕立のそれから直に五月雨

湯のたきも同おと也五月雨

向ふから別て来るや小夕立

言訳に一夕立の通りけり

今の間に二夕立やあちら村

風計りでも夕立の夕かな

湖へずり出しけり雲の峰

観音の足の下より清水哉

小わらはもかぶりたがるやつくま鍋

ちとの間の名所也けり夕祓

蟾どのの這出給ふ御祓哉

昔からこんな風かよ夕はらひ

母の分ンも一ッ潜るちのわ哉

江戸住や二階の窓の初のぼり

御地蔵のお首にかけるちまき哉

御袋が手本に投るちまき哉

折釘に掛た所が粽哉

笹粽手本通りに出来ぬ也

若へ衆は浴衣ぞいざやころもがへ

京人や日傘の陰の野酒盛り

田の水をかすりに行も日傘哉

母親にさしかけさせる日傘哉

新しき蚊屋に寝る也江戸の馬

えどの水呑々馬も蚊屋に寝る

蚊屋つりて喰に出る也夕茶漬

田の人よ御免候らへ昼寝蚊屋

鉢の蘭蚊屋の中にてよよぎけり

笠をきた形でごろりと昼寝哉

鐘の下たたきの上に昼寝哉

田のくろや菰一枚の昼寝小屋

一枝の榎かざして昼寝哉

人並に昼寝したふりする子哉

ていねいに鼠の喰し扇かな

ばかにして鼠の喰ぬ扇かな

えどの水呑とて左り団扇かな

座頭坊の天窓に足らぬ団扇哉

ていねいに鼠の喰しうちわ哉

ままつ子が一ッ団扇の修復哉

線香の一本ですむ蚊やり哉

ぎりの有親子むつまじ夕涼

さすとても都の蚊也夕涼

夜々や同じつらでも門涼

夜々や我身となりて門涼み

あさら井や小魚と遊ぶ心太

川ほりや鳥なき里の飯時分

ばか鳥よ羽ぬけてから何しあん

歩ながらに傘ほせばほととぎす

この闇に鼻つままれなほととぎす

其通石も鳴也ほととぎす

一降や待兼山のほととぎす

時鳥吉原駕のちうをとぶ

閑古鳥泣き坊主に相違なく候

鶯も老をうつるなおれが家

蕗の葉に引つつんでもほたるかな

入相のかねにつき出す蛍哉

蚊いぶしの中ともしらぬ蛍哉

京を出て一息つくかはつ忖

初蛍なぜ引返スおれだぞよ

煩悩の都出よ出よはつ蛍

孤の我は光らぬ蛍かな

呼声をはり合に飛蛍哉

我袖を草と思ふかはふ蛍

夏の虫恋する隙はありにけり

庵の火は虫さへとりに来ざりけり

入相のかね撞かねて火とり虫

木がくれや火のない庵へ火とり虫

どれ程に面白いのか火とり虫

薮蟻の地獄を逃て火とり虫

壁に生る一本草や蚊のこもる

草の葉に蚊のそら死をしたりけり

御仏にかじり付たる薮蚊哉

長生の蝿よ蚤蚊よ貧乏村

親猫が蚤をも噛んでくれにけり

寝筵や鼠の蚤の降り所

蚤かんで寝せて行也猫の親

えど末や一切も売はつ松魚

大将の前やどつさり初松魚

初鰹只一切もうればこそ

雨の夜や鉢のぼたんの品定

江戸ありて花なでしこも売れけり

浮草の鍋の中にも咲にけり

浮草や遊びがてらに花のさく

浮草や浮世の風のいふなりに

苔はあれ花の咲けり埋れ塚

雀らも何かよむぞよことし竹

竹の子が世は山笹も子を育けり

竹の子や女のほじる犬のまね

夜談義の仕方も見へて夏木立

梨坂の神の御前や木下闇

役馬の立眠りする柿の花

蟷螂のわにたつら也茨の花

痩梅のなり年さへもなかりけり

狗がこかして来たり赤李

葉がくれの赤い李をなく小犬

けさ秋としらぬ狗が仏哉

けさ秋と云計りでも老にけり

うそ寒や仏の留主の善光寺

朝寒や垣の茶笊の影法師

朝寒や菊も少々素湯土瓶

朝寒や隙人達のねまる程

鶏の小首を曲げる夜寒哉

姥に似た石の寝やうや秋の夕

おれのみは舟を出す也秋の暮

隠家や呑手を雇ふ秋の暮

桟や盲もわたる秋のくれ

それがしも宿なしに候秋の暮

松の木も老の仲間ぞ秋の暮

三日月や江どの苫やも秋の暮

我松も腰がかがみぬ秋の暮

古郷に流入けり天の川

冷水にすすり込だる天の川

ぼんの凹から冷しけり天の川

三ケ月をにらみ付たる蝉の殻

八月や雨待宵の信濃山

名月や山の奥には山の月

金下戸や蝕名月の目利哉

盗めとの庇の餅や十三夜

仏さへ御留主しにけり秋日和

二軒やは二軒餅つく秋の雨

秋風や如来の留主の善光寺

乳放れの馬の顔より秋の風

朝露の流れ出けり山の町

甘からばさぞおれが露人の露

腕にも露がおく也御茶売

けさの露顔洗ふにはありあまる

茶土瓶やああああ一杯秋の露

露ちるや五十以上の旅人衆

露の世の露の並ぶやばくち小屋

野の馬の天窓干也秋の露

花うりのかざりにちるや今朝の露

夕露やいつもの所に灯の見ゆる

行秋や畠の稲も秋の露

稲妻に並ぶやどれも五十顔

稲妻に実を孕む也葎迄

稲妻や狗ばかり無欲顔

豊年の大稲妻よいなづまよ

穂すすきにあをり出さるる踊哉

京入の声を上けりしなのごま

草くれてさらばさらばよ駒の主

駒引くよそばの世並はどの位

餞別に草花添て馬むかへ

一袋そばも添けり駒迎

八朔や犬の椀にも小豆飯

八朔や盆に乗たる福俵

菊の日や呑手を雇ふ貰ひ酒

かくれやや呑手を雇ふ菊の酒

若松も一ッ歌へや鳴子引

庵の夜やどちへ向いても下手砧

子宝の多い在所や夕ぎぬた

子宝の寝顔見へ見へ砧哉

二番寝や心でおがむ小夜ぎぬた

よわ声は母の砧と知れけり

有明や十ばかり対に鳴く

うら窓や鹿のきどりに犬の声

うら窓や鹿のきどりに犬の寝る

さをしかも親子三人ぐらし哉

さをしかや片膝立つて山の月

さをしかやすすきの陰のいく夫婦

鹿鳴や犬なき里の大月夜

鹿鳴や虫も寝まりはせざりけり

吼る鹿おれをうさんと思ふかよ

むつまじやしかの手枕足枕

薮並やとし寄鹿のぎりに鳴

夜あらしや窓に吹込鹿の声

我形をうさんと見てや鹿の鳴

穀留の関所を越る鶉かな

あれ月が月がと雁のさわぎ哉

開帳の跡をかりてや雁の鳴

大蛇も首尾よく穴へ入にけり

蛇の穴阿房鼠が入にけり

鳴虫も節を付たり世の中は

むしどももなき事いふなこんな秋

虫どもが泣事いふが手がら哉

虫どもが泣事云ぞともすれば

世の中や鳴虫にさへ上づ下手

わやわやと虫の上にも夜なべ哉

おれよりははるか上手ぞ屁ひり虫

御仏の鼻の先にて屁ひり虫

仰のけに落ちて鳴けり秋の蝉

朝露に食傷したう蜻蛉哉

大組の赤蜻蛉や神ぢ山

けふもけふも糸引ずつてとんぼ哉

遠山が目玉にうつるとんぼ哉

とんぼうの上より出たる天窓哉

とんぼうの滑り落たる天窓哉

蜻蛉も人もきよろきよろきよろ目哉

蜻蛉も紅葉の真ねや竜田川

はたをへる箸と同じく蜻蛉哉

百尺の竿の頭にとんぼ哉

三ケ月をにらめつめたるとんぼ哉

こほろぎのうけ泊て鳴竈かな

こほろぎのころころ一人笑ひ哉

いなむしがとぶぞ世がよいよいと

きりぎりす三疋よれば喧嘩哉

きりぎりす身を売れても鳴にけり

銭箱の穴より出たりきりぎりす

歯ぎしりの拍子とる也きりぎりす

ほつけよむ天窓の上やきりぎりす

入相の聞処なり草の華

人の世や先繰にちる草の花

縁の猫勿体顔や菊の花

大きさよ去年は勝た菊ながら

去年勝た勝たと菊を披露哉

はづかしや勝気のぬけた菊の庵

京都では菊もかむるや綿えぼし

山菊の生れたままや真直に

山菊の直なりけらしおのづから

山の菊曲るなんどはしらぬ也

綿きせて十程若し菊の花

人里に植れば曲る野菊哉

萩寺や鹿のきどりに犬が寝る

我萩や鹿のかわりに犬が寝る

いくばくの人の油よ稲の花

稲の花大の男のかくれけり

狗も腹鼓うて稲の花

常留主の堂の小溝に稲穂哉

十筋程犬に負せる稲穂哉

人は武士也小つぶでもたうがらし

子どもらが狐のまねもすすき哉

故郷や近よる人を切るすすき

穂すすきに下手念仏のかくれけり

幽霊と人は見るらんすすき原

渋柿をこらへてくうや京の児

渋い所母が喰けり山の柿

渋柿と烏も知つて通りけり

京の児柿の渋さをかくしけり

山柿も仏の目には甘からん

我味の柘榴に這す虱かな

はづかしやとられぬ栗の目にかかる

大茸馬糞も時を得たりけり

人をとる茸はたしてうつくしき

うしろから寒が入也壁の穴

馬人の渡り馴たる氷哉

すいすいと渡れば渡る氷哉

寒の月真正面也寒山寺

遠山に野火が付たぞ初時雨

裸虫さし出て時雨時雨けり

身一ッに嵐こがらしすべり道

重荷負ふ牛や頭につもる雪

しなのぢや意地にかかつて雪の降

真直な小便穴や門の雪

雪ちるや御駕へはこぶ二八蕎麦

居酒屋で馬足のとまる吹雪哉

えり形に吹込雪や枕元

窓の穴壁の割より吹雪哉

さ筵や猫がきて来た太平雪

朝霜やしかも子どものお花売

こほろぎの霜夜の声を自慢哉

乞食子や膝の上迄けさの霜

五六疋馬干ておく枯野哉

我宿の貧乏神も御供せよ

十月の御十二日ぞはつ時雨

はいかいの報恩講やはつしぐれ

芭蕉忌やえぞにもこんな松の月

ほけ経と鳥もばせうの法事哉

えた村の御講幟やお霜月

木母寺や常念仏も寒の声

庵の煤風が払つてくれにけり

煤竹の高砂めくや爺が舞

煤はくもあく日なんどのむづかしや

山里は四五年ぶりの煤払

天窓から湯けむり立つて節季候

大藪の入もせき候せき候よ

せき候に負ぬや門のむら雀

せき候も三弦にのる都哉

せき候やささらでなでる梅の花

引風のせきから直に節き候

かくれ家や猫が三疋もちのばん

神の餅秤にかかるうき世哉

のし餅の中や一すじ猫の道

君が代や馬屋の馬へも衣配

烏さへ年とる森は持にけり

年とりのあてもないぞよ旅烏

橇をなりに習つてはきにけり

橇や庵の前をふみ序

橇や人の真似して犬およぐ

里の子や杓子で作る雪の山

里の子や手でつくねたる雪の山

我宿は丸めた雪のうしろ哉

かりそめの雪も仏となりにけり

づぶ濡れの大名を見る炬燵哉

炭の火や齢のへるもあの通り

思ひ草思はぬ草も枯にけり

作らるる菊から先へ枯れにけり

たがたがと枯恥かくな乱れ菊

我門や只六本の大根蔵

今打し畠のさまやちる木の葉

猫の子のくるくる舞やちる木の葉

猫の子のちよいと押へる木の葉かな

冬枯や在所の雨が横に降る

掃溜に鶴の下りけり和歌の浦

掃溜も鶴だらけ也和歌の浦

巌にはとくなれさざれ石太郎


文政四年

元日も立のままなる屑家哉

元日も別条のなき屑屋哉

元日やどちらむいても花の娑婆

あら玉の春早々の悪日哉

ことしから手左り笠に小風呂敷

ことしから丸儲ぞよ娑婆遊び

ことしからまふけ遊びぞ花の娑婆

正月が二つありとや浮寝鳥

正月の二ッもなまけ始かな

けさの春別な村でもなかりけり

家根々の窓や一度に明の春

こけるなよ土こんにやくも玉の春

門口や自然生なる松の春

初春のけ形りは我と雀かな

春立や庵の鬼門の一り塚

春立や切口上の門雀

すすけても年徳神の御宿哉

年神に御任せ申す五体哉

とぶ工夫猫のしてけり恵方棚

呑連の常恵方也上かん屋

御忌参りするも足品手品哉

斎日は踏るる臼も休み哉

小松引人とて人のおがむ也

主ありや野雪隠にも門の松

御年初を申し入れけり狐穴

御年初の返事をするや二階から

堅人や一山越てから御慶

門礼や片側づつは草履道

門礼や猫にとし玉打つける

米値段許り見る也年初状

武士やいひわけ云てから御慶

年玉を貰ひに出る御慶かな

年礼や下駄道あちは草履道

途中にて取替にする御慶哉

武士村やからたち垣の年始状

坊主天窓をふり立て御慶哉

も一ッ狐の穴へ御慶かな

一番のとし玉ぞ其豆な顔

江戸衆や庵の犬にも御年玉

年玉を配る世わなき庵哉

とし玉を二人前とる小僧哉

とし玉に見せ申す也豆な顔

とし玉の上にも猫のぐる寝哉

とし玉や留主の窓からほふりこみ

子宝が棒を引ても吉書哉

何のその上初夢もなく烏

小順礼もらひながらや凧

万歳のかはりにしやべる雀哉

御座敷や菓子を見い見い猿が舞

親猿がをしへる舞の手品かな

舞猿や餅いただきて子にくれる

捨人もけさは四角にざうに哉

もう一度せめて目を明け雑煮膳

我庵もけさは四角な雑煮哉

かざり餅仏の膝をちよとかりる

台所の爺に歯固勝れけり

皺面にとそぬり付るわらひ哉

七草やだまつて打も古実顔

大原や人留のある若菜つみ

かすむ程たばこ吹つつ若菜つみ

小坊主に行灯もたせて若なつみ

鶏に一葉ふるまふわかな哉

一引はたばこかすみやわかなつみ

杜の陰しかも出がけのはつ烏

在合の鳥も初声上にけり

春めくやこがね花咲山の月

春めくやのらはのらとて藪虱

永き日は只湯に入が仕事哉

日永とて犬と烏の喧嘩哉

狗が鼠とる也春の雨

春風や犬にとらるる薮鼠

春風や袴羽織のいせ乞食

春風や袴羽織の江戸乞食

灸すんで馬も立也春の風

かすむ日や宗判押しに三里程

灯火やかすみながらに夜が明る

御仏と一所に霞む天窓かな

陽炎や目につきまとふ笑い顔

本堂の上に鶏なく雪げ哉

足もとに鳥が立也はるの山

散る花に順礼帳も開帳哉

御影供にも御覧に入るさくら哉

褒美の画先へ掴んで二日灸

一鍬に雪迄返す山田哉

松を友鶴を友なる田打哉

朝顔の畠起して朝茶哉

恋猫や恐れ入たる這入口

のら猫の妻乞声は細々と

のら猫の妻のござるはなかりけり

小奇麗にしてくらす也やもめ鳥

鳶の巣も鬼門に持や日枝の山

鶯がふみ落しけり家の苔

鶯も人ずれてなく上野哉

鶯もほぼ風声ぞ梅の花

鶯やあきらめのよい籠の声

日本に来て紅つけし乙鳥哉

紅紛付てずらり並ぶや朝乙鳥

蟻程に人のつづくや夕雲雀

関守の口真似するや雉の声

なくな雁いつも別は同じ事

山吹に差出口きく蛙哉

梅の花笠にかぶつて鳴蛙

つめびらきする顔付の蛙哉

一理屈いふ気で居る蛙哉

浅黄てふあれば浅黄の桜哉

生れでて蝶は遊ぶを仕事哉

おとなしや蝶も浅黄の出立は

狂ふのも少じみ也浅黄蝶

こつそりとしてあそぶ也浅黄蝶

参詣のつむりかぞへる小蝶哉

蝶まふや馬の下腹ともしらで

蝶見よや親子三人寝てくらす

寝仲間に我も這入るぞ野辺の蝶

寝並んで小蝶と猫と和尚哉

野ばくちの銭の中より小蝶哉

風ろ水の小川へ出たり飛小蝶

湯の中のつむりや蝶の一休

世の中を浅き心や浅黄蝶

草の葉に虻の空死したりけり

親蜂や蜜盗まれてひたと鳴

子もち蜂あくせく蜜をかせぐ也

蜂の巣の隣をかりる雀哉

小坊主が転げくらする菫哉

痩我慢して咲にけり門椿

我門に痩我慢して咲く椿

若雀椿ころがして遊ぶ也

一本の梅でもちたる出茶屋哉

梅咲や信農のおくも草履道

梅しんとしておのづから頭が下る

おのづから頭が下る也梅の花

片袖は月夜也けり梅の花

黒塗の馬もいさむや梅の花

こなたにも安置して有梅の花

在郷や雪隠神も梅の花

つんとして白梅咲の不二派寺

亭坊が空上戸でも梅の花

百程の鳥井潜れり梅の花

風の神ちくらへござれ花が咲

風はやり仕廻へば花も仕舞哉

さく花や祖引雨がけふも降

三絃で親やしなふや花の陰

高井のや只一本の花の雲

団子など商ひながら花見哉

手をかざす鼬よどこだ花の雲

年寄の腰や花見の迷子札

花咲や牛は牛連馬は馬

花寒し犬ものがれぬくさめ哉

花の山東西南北の人

花ふぶき泥わらんじで通りけり

菩薩達御出現あれ花の雲

一尺に足らぬも花の桜哉

馬は馬連とて歩く桜哉

こつそりとあれは浅黄の桜哉

それそこは犬の雪隠ぞ山桜

田楽のみそにくつつく桜哉

未練なく散も桜はさくら哉

山吹に手をかざしたる鼬哉

山吹や出湯のけぶりに馴れて咲

短夜を橋で揃ふや京参り

暑いぞよけふも一日遊び雲

涼風の窓が極楽浄土哉

涼しさや一畳敷もおれが家

涼しさは小銭をすくふ杓子哉

夕涼に笠忘れけり後の宿

五月雨又後からも越後女盲

五月雨に金魚銀魚のきげん哉

五月雨や沈香も焚かず屁もひらず

五月雨やたばこの度に火打箱

なぐさみに風呂に入也五月雨

何の其蛙の面や五月雨

豆煎を鳩にも分て五月雨

今の間にいく夕立ぞ跡の山

葎にも夕立配り給ふ哉

夕立を見せびらかすや山の神

夕立に迄にくまれし門田哉

夕立のうらに鳴なり家根の鶏

夕立の取つて返すやひいき村

夕立のひいきめさるる外山かな

夕立の真中に立座頭かな

夕立や赤い寝蓙に赤い花

夕立や髪結所の鉢の松

夕立や芝から芝へ小盃

夕立や寝蓙の上の草の花

着ながらにせんだくしたり夏の雨

雨雲やまごまごしては峰と成る

小さいのも数に並ぶや雲の峰

山国やあるが上にも雲の峰

けふからは乾さるる番ぞ青田原

念仏も三絃に引く祭り哉

赤々と旭長者や花御堂

虻蜂の大吉日や花御堂

蟻の道はや付にけり花御堂

蛙にもちとなめさせよ甘茶水

灌仏をなめて見たがるわらべ哉

灌仏の御指の先や暮の月

白妙の花の卯月の八日哉

むだにして蜘が下るや花御堂

山寺や蝶が受取甘茶水

ものしりの真似して籠る夏心

神の代や不二の峰にも泊り宿

斯々と虻の案内や不二詣で

明ぬ間に不二十ばかり上りけり

涼しさや一またぎでも不二の山

口がるな蛙也けり夕はらひ

子を連て猫もそろそろ御祓哉

笹舟を流して遊ぶ御祓哉

早速に虫も鈴ふる御祓哉

しかつべに蛙も並んで夕はらひ

正直に風そよぐ也御祓川

痩蚤を振ふや猫も夕祓

髪のない頭も撫る茅の輪哉

茅の輪哉手引て潜る子があらば

蝶々の夫婦連してちの輪哉

形代も肩身すぼめて流れけり

形代も吹ばとぶ也軽い身は

形代や乗て流て笹葉舟

草花にくくり添たる粽かな

小坊主の首にかけたる粽かな

猫の子のほどく手つきや笹粽

御祭や鵜も寝並んで骨休

はなれ鵜や子の鳴門へ鳴もどる

けふの日やけぶり立る鵜のかせぎ

子の鳴をかへり見い見い行鵜哉

雨ごひのあげくの果の出水哉

今日も今日も今日も今日もやだまし雲

さをしかに書物負せて更衣

手八丁口八丁やころもがへ

むだ人や隙にあぐんでころもがい

一丁に三人計りあはせ哉

忽に寝じはだらけの袷哉

目出度さの浅ぎ袷や朝参り

十露盤にあごつつ張つて昼寝哉

わんぱくの相伴したる昼寝哉

うんうんと坂を上りて扇かな

子宝よも一ッ力め武者扇

灸点の背中をあをぐ団扇哉

蚊いぶしをまたぎて這入る庵哉

蚊いぶしの中から出たる茶の子哉

尻べたに筵の形や一涼み

あきらめて涼ずに寝る小僧哉

江戸で見た山は是也一涼み

鍬鍛冶が涼む真似して夜なべ哉

捨人やよなべさわぎを門涼

大切の涼相手も草の露

手八丁口八丁や門涼

山陰や涼みがてらのわらぢ茶屋

山々の講釈するや門涼み

両国やちと涼むにも迷子札

虻一ッ馬の腹にて涼みけり

温泉のけぶる際より田植哉

しなのぢや山の上にも田植笠

人の世や山の上でも田植うた

俗人に抱れながらもかのこ哉

母親と同じ枕の手負哉

垣外へ必らず出るな羽抜鳥

子は親をつくづく見るや羽ぬけ鳥

有明のすてつぺん也ほととぎす

今の間やえど見てもどる時鳥

大降や業腹まぎれのほととぎす

猿はなぜ耳をふさぐぞ時鳥

三介が蛇の目の傘やほととぎす

挑灯にすり違ひけりほととぎす

ばか喧嘩はやして行やほととぎす

初声は江戸へ江戸へと時鳥

人々をまた寝せ付てほととぎす

本丸を尻目にかけてほととぎす

やあれまて声が高いぞ時鳥

山人に鼻つままれなほととぎす

我先へ浅間巡りやほととぎす

金の花咲た山より閑古鳥

閑古鳥でも来てくれようしろ窓

閑古鳥鳴やねまればねまるとて

此おくに山湯ありとやかんこ鳥

古郷は雲の下なり閑古鳥

山寺や炭つく臼もかんこ鳥

鶯や年が寄つてもあんな声

年は寄つても鶯はうぐいすぞ

行々し口から先へ生れたか

頭巾きた阿房阿房とや夕水鶏

蛇も一皮むけて涼しいか

馬の背を掃おろしたる蛍哉

かくれ家は蛍の休所哉

初蛍仏の花にいく夜寝る

枕にも足のうらにもほたる哉

ぼうふりの念仏おどりや墓の水

蚊柱や犬の尻から天窓から

隙人や蚊が出た出たと触歩く

群蠅を口で追いけり門の犬

老牛も蠅はらふ尾は持にけり

老の手や蝿を打さへ逃た跡

口明て蝿を追ふ也門の犬

そり立のつぶりを蠅に踏れけり

堂の蝿数珠する人の手をまねる

群蠅の逃げた跡打皺手哉

やれ打な蝿が手をすり足をする

でくでくと蚤まけせぬや田舎猫

湖や山を目当に蚤およぐ

我宿は蚤捨薮のとなり哉

狗の夢見て鳴か夜のせみ

鳴ながら蝉の登るやぬり柱

もろ蝉やもろ雨垂や大御堂

薮寺や夜もおりおり蝉の声

鳴明す蓼くふ虫も好々に

縁はなや上手に曲るかたつむり

かたつぶり気がむいたやらごろり寝る

元政の垣に昼寝やかたつむり

でで虫の其身其まま寝起哉

わら垣や上手に落るかたつむり

暑い世へ出るが蚯蚓の栄よう哉

あばらやに痩がまんせぬぼたん哉

痩庭にやせぼたんではなかりけり

なでしこのなぜ折たぞよおれたぞよ

物陰にこつそり咲や小なでしこ

浮草にふはり蛙の遊山かな

浮草や桶に咲ても風そよぐ

御鼠ちよろちよろ浮草渡り哉

麦つくや大道中の大月夜

御地蔵の膝も眼鼻も苔の花

猫の寝た跡もつかぬぞ苔の花

屋根の苔花迄咲いて落にけり

家の棟や烏が落す苔の花

夕陰や下手が植ても苔の花

老僧が塵拾ひけり苔の花

うら窓の明り先なりことし竹

若竹のわかい盛りも直過る

筍の面かく猫の影法師

筍の番してござる地蔵哉

桶の尻並べ立たるわか葉かな

けし炭の庇にかわくわか葉哉

隙人やだらつきあきてわか葉陰

塀の猫庇の桶やむら若葉

若葉して猫と烏と喧嘩哉

若葉して福々しさよ無縁寺

上人が昼寝つかふや夏木立

むら雨や墓のしきみも夏木立

作りながらわらぢ売なり木下闇

卯の花に布子の膝の光哉

卯の花の四角に暮る在所哉

卯の花の四角に暮名主哉

卯の花や子供の作る土だんご

大江戸にまぢりて赤き李哉

もまれてや江戸の李は赤くなる

小盥の魚どものいふけさの秋

門の月暑がへれば友もへる

朝寒に拭ふや石の天窓迄

朝寒や雑巾あてる門の石

朝寒や茶ふくで巡る七大寺

御地蔵も人をばかすぞ秋の暮

秋の夜や木を割にさへ小夜ぎぬた

秋の夜や乞食村へも祭り客

おのが田へ夜水を引て天の川

かしましき寝ぼけ烏や天の川

深川や蠣がら山の秋の月

片里は盆の月夜の日延かな

戸しようじの洗濯したり盆の月

もろこしをあぶり焦すや盆の月

翌の夜の月を請合ふ爺かな

虻もとらぬ蜂をもとらぬ月見哉

在合の山ですますやけふの月

二番小便から直に月見哉

松が枝の上に座どりて月見哉

松の木のてつぺんにざす月見哉

名月や梅もさくらも帰り花

名月や出家士諸商人

名月や茶碗に入れる酒の銭

名月や八文酒を売あるく

名月や横に寝る人おがむ人

積薪の一ッ二ッや後の月

朝顔の再び咲や後の月

月の顔としは十三そこら哉

口重の烏飛也秋の雨

秋風にふいとむせたる峠かな

角力取が立て呉けり秋の風

葬礼の見物人や秋の風

朝やけに染るでもなし露の玉

芋の葉や我作りたる露の玉

白露もちんぷんかんのころり哉

白露やどつと流るる山の町

葉から葉に転びうつるや秋の露

人鬼の天窓くだしや露時雨

一丸メ一升づつや蓮の露

一丸メいくらが物ぞ蓮の露

むだ草は露もむだ置したりけり

村雨が露のにせ玉作りけり

山の町とつとと露の流れけり

梁上の君子も見やれ草の露

翌も翌も翌も天気ぞ浅間霧

灯ろ見の朝からさわぐ都かな

いざおどれ我よりましの門雀

石太郎此世にあらば盆踊

踊から直に朝草かりにけり

踊から直に草刈さはぎ哉

おわかいぞ若いぞ夫婦星

神国や天てる星も夫婦連

にこにこと御若い顔や夫婦星

すは山の風のなぐれか尾花吹く

へし折しすすきのはしも祭り哉

ほすすきもそよそよ神もきげん哉

みさ山の馬にも祝ふすすき哉

御射山やけふ一日のはなすすき

みさ山やこんな在所も女郎花

みさ山やほ屋もてなしの女郎花

みさ山や見ても涼しきすすき箸

八朔や徳りの口の草の花

八朔や秤にかける粟一穂

あさぢふの素人花火に勝れけり

川舟や花火の夜も花火売

手枕に花火のどうんどうん哉

どをんどんどんとしくじり花火哉

朝寒の祝ひに坊主角力哉

乞食の角力にさへも贔屓かな

月かげや素人角力もひいきもつ

女房も見て居りにけり負角力

板行にして売れけり負角力

松の木に馬を縛つて角力哉

芥火にかがしもつひのけぶり哉

風形に杖を月夜のかがし哉

去年から立道しなるかがし哉

国土安穏とのん気にかがし哉

子供らに開眼されしかがし哉

里犬のさつととがめるかがし哉

爺おやや仕舞かがしに礼を云

名所の月見てくらすかがし哉

我よりは若しかがしの影法師

田の水やさらばさらばと井にもどる

囲炉裏には茶の子並んで小夜砧

京人やわら叩さへ小夜ぎぬた

晴天の真昼中のきぬた哉

其家やら其隣やら小夜砧

つり棚に茶の子のおどるきぬた哉

ねんぶつを申しながらにきぬた哉

我家や前もうしろも下手ぎぬた

さをしかはおれをうさんと思ふ哉

あきらめて子のない鹿は鳴ぬなり

子をもたぬ鹿も寝かねて鳴夜哉

恋風や山の太山の鹿に迄

しほらしやおく山鹿も色好み

ぞつとして逃げば鹿も追にけり

日の本や深山の鹿も色好む

穴に入蛇も三人ぐらし哉

親蛇の穴から穴へ這入のは

親蛇や烏さらばと穴に入

此世こそ蛇なれ西の穴に入

それ也になる仏いたせ穴の蛇

徳本の御杖の穴や蛇も入

古蛇やはや西方の穴に入

蛇入なぞこは邪見の人の穴

蛇も入るや上人様の杖の穴

蛇ははや穴から見るや欲の娑婆

蛇は又人嫌ふてや穴に入

又の世は蛇になるなと法の山

みだ頼め蛇もそろそろ穴に入

来年は蝶にでもなれ穴の蛇

一方は猫の喧嘩やむしの声

寒いとて虫が鳴事始るぞ

じれ虫が身をゆすぶつて鳴にけり

虫聞や二番小便から直ぐに

世が直る直るとむしもをどり哉

夜鳴虫汝母あり父ありや

蝶とんぼ吹とばされつ屁ひり虫

連立つて御盆御盆や赤蜻蛉

蜻蛉が鹿のあたまに昼寝哉

蜻蛉や犬の天窓を打つてとぶ

軒下に蜻蛉とるやひとり宿

一人宿こばやくとりしとんぼ哉

虫の屁に吹飛さるるとんぼ哉

したたかに人をけりとぶいなご哉

きりぎりす売られ行手で鳴にけり

きりぎりす夜昼小言ばかりかな

小便をするぞ退け退けきりぎりす

片陰に日向ぼこりや隠居菊

菊の日は過て揃ふた菊の酒

汁のみの足に咲けり菊の花

草の庵は菊迄杖を力哉

念入て尺とる虫や菊の花

赤くてもああ朝顔はあさ顔ぞ

朝顔を一ぱい浮す茶碗哉

朝顔の大花小花さはさはし

朝顔の花やさらさらさあらさら

朝顔や瘧のおちし花の顔

朝顔やそろりそろりと世を送り

朝顔や這入口まであはれ咲

おとなしや白朝顔のつんと咲

しめやかに浅黄朝顔おとなしや

猫の子に萩とられてはとられては

国がらや田にも咲するそばの花

蘭のかや異国のやうに三ケの月

一斉にそよぐ畠の稲穂哉

御祝儀を犬にも負す刈穂哉

老らくもことしたばこのかぶり哉

小けぶりも若ひ匂ひのたばこ哉

な畑のあいそに立や唐がらし

猫の子のまま事をするすすき哉

釣人は這入べからず芦の花

綿ちるや小藪小社小溝迄

大柿のつぶる迄も渋さ哉

大々渋と柿盗人の笑哉

柿の木の弓矢けおとす烏哉

それがしも其日暮しぞ花木槿

馬の沓尻にあてがふふくべ哉

猫又の頭にこつきり木の実哉

団栗とはねつくらする小猫哉

いがぐりやどさりと犬の枕元

今が世に爺打栗と呼れけり

大栗や我が仲間もいが天窓

おち栗や仏も笠をめして立

笠のおち栗とられけり後の人

爺打つた栗と末代言れけり

ばか猫や逃たいが栗見にもどる

ぱしぱちは栗としらるる雨夜哉

狼の穴の中より鼠茸

天狗茸立けり魔所の入口に

初茸を握りつぶして笑ふ子よ

初茸や一ッは吾子が持遊び

極楽が近くなる身の寒さ哉

寒さにも馴て歩くやしなの道

渡りたる後で気が付氷哉

下戸の立たる蔵もなし年の暮

屁もひらず沈香もたかず年の暮

座敷から湯に飛び入るや初時雨

門の木に時雨損じて帰りけり

門の木に時雨損じて通りけり

しぐるるや芭蕉翁の塚まはり

しぐれ捨てしぐれ捨てけり辻仏

度々にばか念入てしぐれ哉

一日の祝にさつとしぐれ哉

古郷は小意地の悪い時雨哉

南北東西よりしぐれ哉

み仏の身に引受て時雨哉

川向う隣と云もえちご山

木枯しにさて結構な月夜哉

木がらしや桟を這ふ琵琶法師

初雪と供に降たる布子哉

初雪や一二三四五六人

初雪やおれが前には布子降

はつ雪や雪駄ならして善光寺

小便所の油火にちる粉雪哉

雪ちらちら一天に雲なかりけり

東西南北より吹雪哉

あながちに雪にかまわぬ霰哉

三絃のばちで掃きやる霰哉

たまれ霰たんまれ霰手にたまれ

灯蓋に霰のたまる夜店哉

さぼてんは大合点か今朝の霜

霜をくや此夜はたして子を捨る

夜の霜しんしん耳は蝉の声

小猿ども神の御留主を狂ふ哉

住吉や御留主の庭も掃除番

なら山の神の御流主に鹿の恋

犬に迄みやげをくばる十夜哉

大犬がみやげをねだる十夜哉

霜花もばせう祭のもやう哉

芭蕉忌と申すも歩きながら哉

芭蕉忌や垣に雀も一並び

芭蕉忌や鳩も雀も客めかす

うら町や貧乏徳りの夷講

煤はきやねらひすまして来る行脚

隅の蜘案じな煤はとらぬぞよ

三弦でせきぞろするや今浮世

草の庵年取餅を買にけり

春待や子のない家ももちをつく

餅つきをせがむ子もなし然りながら

我餅や只一升も唄でつく

草の家も夜はものものし年忘

床の間へ安置しにけり歳暮酒

宵過の一村歩く歳暮哉

誂へてやるや扇の厄おとし

御庭や松迄雪の厄おとし

狼を一切提げし紙衣哉

皺足と同じ色なる紙衣哉

小頭巾や其身そのまま貧乏神

桟や凡人わざに雪車を引

そり引や屋根から投るとどけ状

寺道や老母を乗てそりを引

門先や雪降とはき降とはき

門先や童の作る雪の山

雪掃や地蔵菩薩のつもり迄

母親を霜よけにして寝た子哉

とうふ屋と酒屋の間を冬篭

冬篭あく物ぐいのつのりけり

冬篭る蛇の隣や鼠穴

煩悩の犬もつきそふ冬篭

居仏や炬燵で叱る立仏

同じ世やこたつ仏に立ぼとけ

炭の火に峰の松風通ひけり

あつものをものともせぬよ薬喰

納豆をわらの上から貰ひけり

わらづとにしてもけぶれる納豆哉

江戸店や初そばがきに袴客

草のとや初そばがきをねだる客

人鬼の里にもどるやぬくめ鳥

木兎の寝てくらしても一期哉

みそさざい西へ鼠は東へ

冬枯のほまちざかりや菊の花

霜がれや東海道の這入口

霜がれて猫なで声の烏哉

霜がれや鍋の炭かく小傾城

悪い夢のみ当りけり鳴く烏


文政五年

年立や雨おちの石凹む迄

年立やもとの愚が又愚にかへる

後の々は正月ぞともいはぬ也

正月も二ッは人のあきる也

二ッあれば又三ッほしやお正月

二つでもつかひではなしお正月

二つでも欲には足らずお正月

先以つて別条はなしけさの春

拙者儀も異議なく候君が春

引窓の一度にあくや江戸の春

家根の窓一度に引や江戸の春

鶯のぐな鳥さへも窓の春

一面にろくな春也門の雪

大雪のどこがどこ迄ろくな春

ろくな春立にけらしな門の雪

さればこそろくな春なれ門の雪

まんろくの春こそ来れ門の雪

まん六の春と成りけり門の雪

ろくな春とはなりけり門の雪

新桶は同じ水でもわかわかし

一桶をわか水わか湯わか茶哉

すすけ紙まま子の凧としられけり

凧の糸引とらまへて寝る子哉

凧の尾を咥て引や鬼瓦

日の暮に凧の揃ふや町の空

あそこらがえどの空かよ凧

転んでも目出度いふ也わかなつみ

爺が家のぐるりもけふはわかな哉

畠の門錠の明けりわかなつみ

髭どのに叱られにけりわかなつみ

脇差の柄にかけたるわかな哉

童に刀持たせてわかなつみ

歩行よい程に風吹く日永哉

永き日や風の寒もよい位

永き日やたばこ法度の小金原

のらくらや勿体なくも日の長き

淡雪にまぶれてさはぐがきら哉

市人の大肌ぬぐや春の雪

雷の光る中より春の雪

草山のこやしになるや春の雪

春の雪遊がてらに降りにけり

安房霜いつが仕廻ぞ仕廻ぞよ

是きりと見へてどつさり春の霜

山里や毎日日日わかれじも

片方は雪の降也春の雨

出た人を梓に寄る春の雨

春風に肩衣かけて御供かな

春風に猿もおや子の湯治哉

春風に吹出されたる道者かな

春風の女見に出る女かな

春風や越後下りの本願寺

春風や肩衣かけて長の供

夕東風に吹れ下るや女坂

夕東風や埒にもたする犬のあご

川霧の手伝ふ朧月夜かな

初虹もわかば盛りやしなの山

春もまた雪雷やしなの山

傘の雫ながらにかすみかな

傘の雫もかすむ都哉

誰それとしれてかすむや門の原

盗人のかすんでげけら笑ひかな

古郷やあれ霞あれ雪が降る

古郷や我を見る也うすがすみ

法談の手つきもかすむ御堂かな

真直にかすみ給ふや善光寺

我を見る姿も見へてうすがすみ

陽炎の立や垣根の茶ん袋

凍どけの盛りに果し談義哉

凍解や山の在家の昼談義

梅の木の連に残るや門の雪

嫌れた雪も一度に消へにけり

小便の穴だらけ也残り雪

菜畠やたばこ吹く間の雪げ川

のら猫の爪とぐ程や残る雪

みだ堂にすがりて雪の残りけり

寝ころぶや手まり程でも春の山

雪国や雪ちりながら春の山

ああ寒いあらあら寒いひがん哉

小筵にのさのさ彼岸虱かな

野原にも並ぶ乞食のひがん哉

門雀なくやいつ迄出代ると

出代つてなりし白髪やことし又

出代や江戸をも見ずにさらば笠

出代や江戸の見物もしなの笠

出代や両方ともに空涙

としよりもあれ出代るぞことし又

鳩鳴や爺いつ迄出代ると

居並んで達磨も雛の仲間哉

雛達に咄しかける子ども哉

人形の口へつけるや草の餅

むさしのの草をつむとてはれ着哉

ぬり笠へばらりばらりと扱き茶哉

婆どのの目がねをかけて茶つみ哉

ざくざくと雪切交る山田哉

雪ともに引くり返す山田かな

大猫が恋草臥の鼾かな

大猫や呼出しに来て作り声

恋猫の鳴かぬ顔してもどりけり

恋猫や互に天窓はりながら

恋猫や竪横むらを鳴歩行

さし足やぬき足や猫も忍ぶ恋

四五尺の雪かき分て猫の恋

不精猫きき耳立て又眠る

山猫も作り声して忍びけり

親雀子を返せとや猫を追ふ

鶯の気張て鳴くやたびら雪

鶯の高ぶり顔はせざりけり

鶯の名代になく雀かな

鶯も素通りせぬや窓の前

鶯やざぶざぶ雨を浴びて鳴く

鶯や少し勿体つけてから

大仏の鼻から出たる乙鳥哉

田を打によしといふ日や来る乙鳥

乙鳥来る日を吉日の味そ煮哉

どれもどれもどれも口まめ乙鳥哉

おりおりに子を見廻つては雲雀哉

来よ雲雀子のいる藪が今もゆる

漣や雲雀の際の釣小舟

吹れ行く舟や雲雀のすれ違ひ

湖におちぬ自慢や夕雲雀

山猫のあつけとられし雲雀哉

夕雉の寝にもどるとや大声に

大組の後やだまつて帰る雁

此国のものに成る気か行ぬ雁

なくな雁とても一度は別れねば

何事ぞ此大雨に帰る雁

満月の図を抜しとや帰る雁

雪の降る拍子に雁の帰りけり

行雁の下るや恋の軽井沢

雨降と槍が降とも鳴かわづ

入相の尻馬にのる蛙哉

かり橋にそりの合ふてや鳴く蛙

散花をはつたとにらむ蛙哉

なむなむと蛙も石に並びけり

なむなむと田にも並んでなく蛙

負さつて蝶もぜん光寺参かな

笠取つて見ても寝ている小てふ哉

菓子盆を滑りおちたる小てふ哉

蝶とぶや石の上なる笠着物

野談義をついととりまく小蝶哉

末の子も別にねだりて蚕かな

馬の虻喰くたびれて寝たりけり

馬の尾にそら死したり草の虻

神風や虻が教へる山の道

斯来いと虻がとぶ也草の道

蜂の巣に借しておいたる柱哉

蜂の巣のぶらり仁王の手首哉

巣の蜂やぶんともいはぬ御法だん

山蜂もしたふて住や人の里

のさのさとさし出て花見虱かな

草蔓や向ふの竹へつひつひは

わか草にべたりと寝たる袴哉

わかくてもでも葎とはしられけり

泥道やここを歩めと草青む

うすくともはやいが勝と菫哉

あながちに丸くならでも梅の月

鶯も親子づとめや梅の花

梅がかに穴のおく迄浮世哉

梅咲や天神経をなく雀

なむ自在神経や梅の花

梅咲くや門跡を待つ青畳

梅咲けど湯桁は水で流れけり

梅見るや梅干爺と呼れつつ

幼子や目を皿にして梅の花

小坊主や筆を加へて梅の花

正札を体にさげけり梅の花

雪隠にさへ神ありてうめの花

雪隠の錠も明く也梅の花

羽織きた女も出たり梅の花

水桶も大名の紋や梅の花

痩がまんして咲にけり門の梅

雨降りて地のかたまりて花盛り

今の世や花見がてらの小盗人

京迄は一筋道ぞ花見笠

国中は惣びいき也花の雲

下戸衆はさもいんき也花の陰

ちる花は鬼の目にさへ涙かな

妻や子が我を占ふか花もちる

寺の花はり合もなく散りにけり

長旅や花も痩せたるよしの山

花さくや今廿念前ならば

花咲や大権現の風定

花の木の持つて生たあいそ哉

花の世に西の望はなかりけり

花の世や出家士諸商人

花は雲人はかぶりと成にけり

人声や西もひがしも花吹雪

迷子札爺もさげて花見笠

みよしのや寝起も花の雲の上

焼飯をてんでにかじる花見哉

菅笠に日傘に散しさくら哉

寺々や拍子抜してちる桜

西へちるさくらやみだの本願寺

婆々どのも牛に引かれて桜かな

拍子抜して散りかかる桜哉

灯や柳がくれのわかい声

目ざはりになれど隣の柳哉

柳は縁花は紅のうき世かな

大柳村の印と成りにけり

短夜や草もばか花利口花

手に足におきどころなき暑哉

身一ツをひたと苦になる暑哉

涼風や何喰はせても二人前

涼しさや里はへぬきの夫婦松

笠の下吹てくれけり土用東風

白菊のつんと立たる土用哉

人声や夜も両国の土用照り

満月もさらに無きずの土用哉

今の代や入梅雷のだまし雨

気に入らぬ里もあらんをとらが雨

誠なき里は降ぬか虎が雨

見るうちに二夕立やむかふむら

夕立のとりおとしたる小村哉

夕立の二度は人のそしる也

夕立や追かけ追かけ又も又

あの中に鬼やこもらん雲のみね

雲切や何の苦もなく峰作る

米国や夜もつつ立雲の峰

造作なく作り直すや雲の峰

手ばしこく畳み仕舞ふや雲のみね

松の木で穴をふさぐや雲のみね

湖水から出現したり雲の峰

田の人の日除になるや雲の峰

てつぺんは雪や降らん山清水

人里へ出れば清水でなかりけり

山清水人のゆききに濁りけり

夕風や病もなく田の青む

天人の気どりの蝶や花御堂

としどしに生れ給へる仏かな

二三文銭もけしきや花御堂

雪隠の歌も夏書の一ッ哉

猫の子が玉にとる也夏書石

目出度さはつぎだらけなる幟哉

笹粽猫が上手にほどく也

福耳にかけてくれたる粽かな

神国は天から薬降りにけり

けふの日に降れ降れ皺の延薬

薬降日や毒虫も木から降る

正直の首に薬降る日かな

上見なといふ人が先ころもがえ

がきどもも下見て暮せころもがへ

着ながらに値ぶみすむ也更衣

草の家や子は人並に衣替え

更衣世にはあきたと云ながら

一日や仕様事なしの更衣

姫のりの丸看板やころもがえ

昼過の出来心也ころもがえ

虫も髪さげても出たりころもがえ

やがて焼く身とは思へど更衣

帷子の青空色や朝参り

上人や草をむしるも日傘持

老僧の草引むしる日傘かな

門前の草むしるにも日傘哉

よい猫が爪かくす也夏座敷

ことしこそ小言相手も夏座敷

蚊屋釣て夕飯買に出たりけり

小にくしや蚊屋のうちなる小盃

酒一升かりと書たる紙帳哉

俵引く牛の上にて昼寝哉

くつさめの蓋にしておく団扇哉

昼ごろの机の上の蚊やり哉

武士町や四角四面に水を蒔く

井戸替へて石の上なる御神酒哉

井の底もすつぱりかはく月よ哉

かけ声を井戸の底からこたへけり

さらし井に魚ももどるや暮の月

さらし井や草の上にてなく蛙

はやし唄井戸の底から付にけり

一休み井戸のそこから咄かな

旅人や歩ながらの土用干

夜涼みや大僧正のおどけ口

今の世や見へ半分の田植唄

大蟾ものさのさ出たり田植酒

笠とれば坊主也けり田植唄

むだな身も呼び出されけり田植酒

若い衆は見へ半分や田植笠

一文が水を馬にも呑せけり

月かげや夜も水売る日本橋

冷水や桶にし汲ば只の水

逢坂や牛の上からところてん

心太牛の上からとりにけり

狩人の矢先としらぬかの子哉

鹿の子や矢先もしらでどち狂ふ

上人の声を聞しるかのこ哉

鶏にまぶれて育つ鹿の子哉

一貫目過たぞ引なほととぎす

一寸も引かぬけぶりやほととぎす

一寸も引なお江戸の時鳥

重き荷を引かせとやほととぎす

気まぐれを起した声や時鳥

其やうに喰らひそべるなほととぎす

何喰て其音ぼねぞ時鳥

時鳥鳴けり酒に火が入ると

鶯は籠で聞かよ閑古鳥

木の門や朝から晩迄かん子鳥

鶯の云合せてや鳴仕廻ふ

鶯もとしのよらぬ山出湯の山

行々し大河しんと流れけり

行々し何に追われて夜なべ鳴

行々し一村うまく寝たりけり

月かげやよしきり一ッ夜なべ鳴

ゆたかさようらの苫屋の行々し

よし切も月をかけての夜なべ哉

よし切や一本竹のてつぺんに

よし切や水盗人が来た来たと

御仏の膝の上也蛇の衣

寝た人の尻の先なる蛍かな

ぼうふりが天上するぞ門の月

寝た人を昼飯くひに来た蚊哉

青畳音して蠅のとびにけり

打つて打つてと逃て笑ふ蝿の声

とく逃げよにげよ打たれなそこの蠅

なぐさみに猫がとる也窓の蠅

坐頭坊と知つて逃ぬか蓙の蚤

としよりも蚤を追ふ目はかすまぬか

新畳蚤の飛ぶ音さはさはし

人の世や山松陰も蚤がすむ

夜の庵や蚤の飛ぶ音騒々し

門柱羽蟻と化して仕廻ふかよ

きのふには一ばいましの羽蟻哉

けふ替た庵の柱を羽蟻哉

蝉鳴や山から見ゆる大座敷

そよ風は蝉の声より起る哉

むら雨の雫ながらや蝉の声

もろ蝉の鳴こぼれけり笠の上

炎天に蓼くふ虫のきげん哉

蓼あれば蓼喰ふ虫ありにけり

蓼くふや火に入虫も好々に

蜘の子はみなちりじりの身すぎ哉

かたつぶりこちら向く間にどちへやら

出るやいな蚯蚓は蟻に引れけり

おぼたんや刀預る仮番屋

錠明て人通しけりぼたん畠

池の蓮金色に咲く欲はなし

いつの時在家には咲く蓮の花

えつ太らが家の尻より蓮の花

大きさよしかも在家の蓮の花

さく蓮下水下水のおち所

泥中の蓮と力んで咲にけり

沼の蓮葉さへ花さへ売られけり

人喰た虻が乗る也蓮の花

なでしこや人が作れば直ほそる

旅人や野にさして行流れ苗

くりくりと月のさしけり坊主麦

黒いのは烏が蒔た穂麦かな

麦秋や土台の石も汗をかく

藪竹や親の真似してつん曲る

笹の子も竹の替りに出たりけり

笹の子も一はばするやおく信濃

竹の子も育つ度んびに痩にけり

竹の子や竹に成るのはまんがまれ

筍やともども育つ雀の子

若竹の子さへのがれぬうき世哉

みたらしや冷し捨たる真桑瓜

一不二の晴れて立けり初茄子

扇から扇にとるやはつ茄子

けふもけふももがずに見るやはつ茄子

芝門や貰ふたる日がはつ茄子

前栽に立や茄子の守り札

手のひらや見て居るうちが初茄子

鉢植や見るばかりなる初茄子

守り札かけて育つやはつ茄子

御仏に見せたばかりやはつ茄子

伴僧が手習す也わか葉陰

卯の花にけ上げの泥も盛り哉

卯の花や垣のこちらの俄道

泥道を出れば卯の花なかりけり

茨垣犬の上手に潜りけり

鬼茨もなびくやみだの本願寺

花茨ちよつけいを出す小猫哉

茨垣や上手に明し犬の道

見らるるや垣の茨も花盛り

秋立といふばかりでも寒かな

科もない風な憎みそけさの秋

朝寒のうちに参るや善光寺

足で追ふ鼠が笑ふ夜寒哉

草の家は秋も昼寒夜寒哉

さをしかのきげんの直ル夜寒哉

窓際や虫も夜寒の小寄合

知つた名のらく書見へて秋の暮

近づきのらく書見へて秋の暮

秋もはや西へ行く也角田川

山陰も寄つて祭るや天の川

我星はひとりかも寝ん天の川

盆の月参る墓さへなかりけり

大雨や此十五夜も只の山

大井戸も小井戸もかへて月見哉

御の字の月と成りけり草の雨

十五夜の萩にすすきに雨見哉

十五夜月にもまさる山の雨

曙ワ夜や月のかはりに雨がもる

名月に来て名月を鼾かな

名月や生れたままの庭の松

名月や角の小すみの小松島

名月や山有川有寝ながらに

秋風によわみを見せぬ藪蚊哉

草の葉の釘のとがるや秋の風

草の葉も人をさす也秋の風

墨染の蝶もとぶ也秋の風

西方をさした指より秋の風

でで虫の捨家いくつ秋の風

うら窓に露の玉ちるひびき哉

しら露としらぬ子どもが仏かな

田かせぎや人の上にも露のおく

花売の花におくや露の玉

我庵が玉にきずかよ草の露

稲妻やかくれかねたる人の皺

稲妻や畠の中の風呂の人

稲妻や浦のおとこの供養塚

霧晴て足の際なる仏かな

雲霧が袂の下を通りけり

人の吹く霧もかすむやえぞが島

人の吹く霧も寒いぞえぞが島

吹かける霧にむせけり馬の上

山寺や仏の膝に霧の立

秋山や雨のない日はあらし吹

月かげにうかれ序や墓参り

ある時は履見せる灯籠哉

うら住の二軒もやひの灯ろ哉

来て見れば在家也けり高灯籠

草蔓もわざとさらざる灯ろ哉

灯籠の火で夜なべする都かな

履の用心がてら灯籠かな

泣虫が母とおどるや門の月

六十年踊る夜もなく過しけり

涼しさは七夕竹の夜露かな

七夕や野も女郎花男へし

星の歌腕に書てはなめる也

川中に涼み給ふや夫婦星

御馳走に涼風吹や星の閨

鳴な虫別るる恋はほしにさへ

月かげや山のすすきも祭らるる

古き神古きすすきの名所哉

穂すすき諏訪の湖から来る風か

昼顔のもやうにからむかがし哉

狗の通るたんびに鳴子かな

極楽に行かぬ果報やことし酒

さをしかの角に結びし手紙哉

鹿鳴や川をへだてて忍ぶ恋

ほたへるや犬なき里の鹿の声

鵙鳴て柿盗人をおどす也

鵙鳴や是より殺生禁断と

大組の空見おくるや小田の雁

用心は雁もおき番寝ばん哉

叱らるることも馴てや渡り鳥

雀らも真似してとぶや渡り鳥

何用に後へもどるぞ渡り鳥

渡り鳥の真似が下手ぞむら雀

今迄に穴にも入らで流れ蛇

石となる楠さへ虫に喰れけり

声々に虫も夜なべのさわぎ哉

泰平の世にそばへてや虫の鳴く

鳴ながら虫の乗行浮木かな

鳴な虫だまつて居ても一期也

虫の外にも泣事や藪の家

日ぐらしの涼しくしたる家陰哉

馬の耳ちよこちよこなぶるとんぼ哉

立馬の鼻であしらふとんぼかな

とんぼうや人と同じくはたをへる

町中や列を正して赤蜻蛉

草の花菌のゆへに踏れけり

草花や露の底なる鐘の声

大菊や杖の陰にて花もさく

隠家の糧にもなるやきくの花

菊園や下向は左へ左へと

斯来よと菊の立けり這入口

斯う通れ通れとや門の菊

此おくへ斯う通れとや門の菊

斯う通れとや門に立菊の花

酒呑まぬ者入べからず菊の門

侍にてうし持たせて菊の花

白妙の山も候きくの花

其門に天窓うつなよ菊畠

負菊をじつと見直す独かな

山里は小便所さへきくの花

鬼ばらに添ふて咲けり女郎花

松の木に少かくれて女郎花

くふ飯に蔦ぶら下る山家哉

我垣やうき世の葛の花盛り

草花と握り添へたるいな穂哉

子どもらが犬に負せる稲穂哉

旅人が薮にはさみし稲穂哉

半分は汗の玉かよ稲の露

庵をふくたしに一株すすき哉

折々に小滝をなぶる紅葉哉

欠椀も同じ流れや立田川

谷川の背に冷つくや夕紅葉

掃溜も又一入の紅葉かな

狗が敷いてねまりし一葉哉

桐の木や散らぬ一葉は虫の穴

きり一葉数珠の置所と成りにけり

幸に数珠のせておく一葉哉

洪水の泥の一花木槿かな

今の世や山の栗にも夜番小屋

まけぬきに栗の皮むく入歯哉

海見ゆる芝に座とるや焼茸

えんま王笑ひ菌をちと進れ

茸狩やおのがおちたるおとし穴

鶏のかき出したる茸かな

極楽の道が近よる寒さかな

しんしんとしんそこ寒し小行灯

猫の穴から物をかふ寒さ哉

云訳に出すや硯の厚氷

云訳の手がたに氷る硯かな

山寺は鋸引の氷柱かな

うら町や大三十日の猫の恋

背たけの箕をかぶる子やはつ時雨

木がらしや数万の鳥のへちまくる

はつ雪に一の宝尿瓶かな

はつ雪や御きげんのよい御烏

はつ雪や酒屋幸つひとなり

初雪やとは云ながら寝る思案

はつ雪やとはいふものの寝相だん

はつ雪やなどと世にある人のいふ

犬どもがよけて居る也雪の道

子どもらが雪喰ながら湯治かな

橋下の乞食がいふや乞食雪

山里や風呂にうめたる門の雪

霜の夜や横丁曲る迷子鉦

けふからは薬利くべし神迎

ちえ粥をなめ過したる雀哉

ちえ粥をなめて口利く雀哉

寒声につかはれ給ふ念仏かな

寒声に念仏をつかふ寝覚哉

寒声や乞食小屋の娘の子

跡供に犬の鳴く也寒念仏

つぐらから猫が面出すいろり哉

としよりやいろり明りに賃仕事

煤竹や仏の顔も一なぐり

煤はきや我は人形につかはるる

節き候のとりおとさぬや藪の家

木がくれやとしとりもちもひとりつく

古ばばが丸める餅の口伝哉

老松と二人で年を忘れけり

跡の子はわざと転ぶやとしの豆

今夜から正月分ンぞ子ども衆

鬼の出た跡はき出してあぐら哉

うき旅も炬燵でとしをとりにけり

膳先の猫にも年をとらせけり

紙衣きる世にさへのぞみ好哉

負けぬ気も紙子似合ふと云れけり

南天に一ッかぶせる頭巾哉

赤足袋を手におつぱめる子ども哉

拇の出てから足袋の長さ哉

老たりな衾かぶるもどつこいな

小衾やつづらの中に寝る僧都

病つかうてかぶる衾かな

身代の地蔵菩薩や雪礫

雪隠とうしろ合せや冬籠

雪隠と背合せや冬籠

猫の穴から物買つて冬篭り

人誹る会が立なり冬籠

親達は斯抱かれたるたんぽ哉

一廻りまはりて戻るたんぽ哉

負くじの僧がはなさぬ湯婆哉

我恋は夜ごとごとの湯婆哉

童が天窓へのせるたんぽかな

炭の火に月落烏啼にけり

炭迄も鋸引や京住居

はかり炭一升買の安気哉

むづかしやわずみ点ずみ白いすみ

老僧が炭の打つたを手がら哉

ひよ鳥のちよこちよこ見廻ふかけ菜哉

蛇の鮨も喰かねぬ也薬なら

相ばんに猫も並ぶや薬喰

ひとり身や薬喰にも都迄

うす壁や鼠穴よりみそさざい

雪国や土間の小すみのねぶか畠

霜がれや引つくり返る鹿の椀

江戸風を吹かせて行くや蝦夷が島

おのづから頭が下る也神ぢ山


文政六年

あら玉や江戸はへぬきの男松

梅さくや先あら玉の御制札

正月の二日ふたつとなまけけり

正月や店をかざれる番太郎

小便もうかとはならずけさの春

散る雪も行儀正しやけさの春

武士町やしんかんとして明の春

春立や愚の上に又愚にかへる

正月は青葉のかゆも祝かな

三寸の胸ですむ也店おろし

不士山もかぞへ込けり店おろし

物陰に笑ふ鼠や店おろし

とし玉を天窓におくやちいさい子

とし玉のさいそくに来る孫子哉

すりこ木と並べて張るはつ暦

どち向て酒を呑ぞよはつ暦

片乳を握りながらやはつ笑ひ

乞食やもらひながらのはつ笑ひ

一はなに猫がいねつむ座敷哉

膝の子も口を明く也はつうたひ

わか水やわらが浮ても福といふ

ままつ子やつぎだらけなる凧

もともとの一人前ぞ雑煮膳

人真似に歯茎がための豆腐哉

七草は隣のおとで置にけり

初声はあはう烏でなかりけり

鶯はきかぬ気でなく余寒かな

彼岸迄とは申せども寒哉

長の日や沈香も焚かず屁もひらず

鶏の座敷を歩く日永哉

淡雪や連出して行く薮の雪

紅皿にうはうけにけり春の雪

薮の雪を連出すや春の雪

白妙の雪の上也春の雨

山里も銭湯わいて春の雨

春風や武士も吹るる女坂

錦着て夜行く人やおぼろ月

しなの路やそれ霞それ雪が降る

空色の傘もかすむや女坂

大仏は赤いかすみの衣かな

陽炎や庵の庭のつくば山

陽炎やそば屋が前の箸の山

米の字にきへ残りけり門の雪

一押は紅葉也けり雪げ川

苗代のむら直りけり夜の雨

花の所へ雪が降る涅槃哉

寺町は犬も団子のひがん哉

出代や山越て見る京の空

男なればぞ出代るやちいさい子

五十里の江戸を出代る子ども哉

旅笠や唄で出代るぞえど見坂

出代や十ばかりでもおとこ山

雛棚に糞をして行く雀哉

人通る道を残して田打哉

菜の畠打や談義を聞ながら

畠打や通してくれる寺参

山人や畠打に出る二里三里

雨の夜や勘当されし猫の恋

浄破利のかがみは見ぬか猫の恋

女猫子ゆゑの盗とく逃よ

人中を猫も子故のぬすみ哉

君が家雀も家はもちにけり

猫の飯相伴するや雀の子

牢屋から出たり入つたり雀の子

鶯のこそと掃溜栄やう哉

鶯の若い声なり苔清水

金の蔓でも見つけたか雉の声

引明や鶏なき里の雉の声

江戸の水呑みおふせてやかへる雁

浅黄蝶浅黄頭巾の世也けり

御座敷の隅からすみへ小てふ哉

籠の鳥蝶をうらやむ目つき哉

菓子盆やはしの先よりとぶ小てふ

草の蝶何をすねるぞ小一日

蝶とぶや児這ひつけばつけば又

蝶一ッ仲間ぬけしてすねるかよ

ちりひじの山より上へ小てふかな

湯の中や首から首へとぶ小蝶

古郷は家根のわか草つみにけり

木々の芽の春さめざめと小鳥鳴く也

梅さくや手垢に光るなで仏

ここらから江戸のうちかよ梅の花

はこするも暦見る也梅の花

遠山の花に明るしうしろ窓

産声に降りつもりけり花と金

えどを見に上る人哉花の山

さく花の雲の上にて寝起哉

空色の傘つづく也花の雲

花さくや京の美人の頬かぶり

花咲くやそこらは野屎野小便

花踏んだわらぢながらやどたどた寝

人々や笠きて花の雲に入

こちとらも目の正月ぞさくら花

山猿と呼ばるる里のさくら哉

よい所の片膝瘤や垂れ柳

夜に入れば遊女袖引く柳哉

六月もそぞろに寒し時の声

六月はよりとし達の月よ哉

炎天のとつぱづれ也炭を焼

草葉より暑い風吹く座敷哉

洪水の川から帰るあつさ哉

涼風も身に添ぬ也鳴烏

涼風や仏のかたより吹給ふ

涼しさやどこに住んでもふじの山

涼しさや夜水のかかる井戸の音

朝顔の花から土用入りにけり

鶯に土用休はなかりけり

此雨は天から土用見廻かな

吹風も土用休みか草の原

降る雨もけふより土用休哉

湯も浴て土用しらずの座敷哉

夕立やたたいて諷ふ貧乏樽

夕立や登城の名主組がしら

夕立や枕にしたる貧乏樽

夕立や蓑きてごろり大鼾

梢から蛙はやせり雲の峰

羽団扇で招き出したか雲の峰

子は鼾親はわらうつ夏の月

寝せつけし子のせんたくや夏の月

夏山や鶯雉ほととぎす

山里は米をつかする清水かな

青い田の露を肴やひとり酒

晴天と一ッ色也日傘

山水に米を搗かせて昼寝哉

白扇風のおとさへ新らしき

大将が馬をあをぐや白扇

松に腰かけて土民も扇哉

皺顔にかざされにけり江戸団扇

吹風のさらさら団扇団扇哉

孤が手本にするや反故うちは

我手には同じ団扇も重き哉

身の上の鐘と知りつつ夕涼み

門口に湯を蒔ちらす夕涼み

祟りなす木ともしらでやかんこ鳥

まがきなど優に見へてもかんこ鳥

赤馬の鼻で吹たる蛍かな

馬の屁に吹とばされし蛍哉

薮寺やみだの膝よりとぶ蛍

又来たぞ手の盃を火とり虫

大毛虫蟻の地獄におちにけり

あばれ蚊のそれでも都そだち哉

から紙のもようになるや蠅の屎

人有れば蝿あり仏ありにけり

むれる蠅皺手に何の味がある

野らの人の連に昼寝やかたつむり

烏メにしてやられけり冷し瓜

卯の花や本まの雪もさかり降る

下々国の茨も正覚とりにけり

風冷りひひやり秋や辰のとし

おさな子や笑ふにつけて秋の暮

小言いふ相手のほしや秋の暮

小言いふ相手は壁ぞ秋の暮

翌はなき月の名所を夜の雨

小言いふ相手もあらばけふの月

十五夜のよい御しめりよよい月夜

十五夜や雨見のすすき女郎花

名月やつい指先の名所山

夕立やしかも八月曙ワ日

秋風や団扇もよはる手もよはる

秋風や角力の果の道心坊

唐紙の引手の穴を秋の風

山犬や鳴口からも霧の立

山寺や破風口からも霧の立

翌は玉棚になるとも祭り哉

瓜の馬御仏並にをがまるる

稲葉見て罪つくりけり墓参り

古犬が先に立也はか参り

摂待のあいそに笑ひ仏かな

摂待の茶にさへ笑ひむすめ哉

摂待やけふも八十八どころ

摂待や猫がうけとる茶釜番

見物に地蔵も並ぶおどり哉

七夕に明渡す也留主の庵

七夕や乞食村でも迎ひ舟

星の御身にさへ別れ別れ哉

目出度さはどれが彦星孫ぼしか

わかわかし星はことしも妻迎

小言いふ相手もあらば菊の酒

勝角力虫も踏ずにもどりけり

松の木に蛙も見るや宮角力

宮角力蛙も木から声上る

身の秋や月は無きずの月ながら

おく山の鹿も恋路に迷ふ哉

春日野や神もゆるしの鹿の恋

左右へぱつと散るや数万の渡り鳥

行灯に鳴くつもりかよ青い虫

俳人を済度に入れるか赤とんぼ

きりぎりす鳴やつづいて赤子なく

家むねや鳥が蒔たる草の花

今の世や菊一本も小ばん金

大菊のてつぺんに寝る毛虫哉

草庵に金をかす也菊の花

大名と肩並べけりきくの花

朝顔や人の顔にはそつがある

大雨をくねり返すや女郎花

小便も玉と成りけり芋畠

神風や畠の稲の五六尺

神風や畠の稲穂そよぐ也

唐辛子終に青くて仕廻けり

山陰や山伏むらの唐がらし

宵過や柱みりみり寒が入

風鈴やちんぷんかんのとしの暮れ

待つものはさらになけれどとしの暮

素湯を煮る伝授する也はつ時雨

いざこざを雀もいふや村しぐれ

大時雨小時雨大名小名かな

神木は釘を打れて時雨けり

雀らが仲間割する時雨哉

道心坊や草履ひたひたむら時雨

豆腐煮る伝授する也小夜時雨

一時雨人追つめてもどりけり

舟の家根より人出たり一時雨

山寺の豆入日也むら時雨

嫁入の謡盛りや小夜時雨

木がらしやいわしをくるむ柏の葉

初雪や手引を頼む門の橋

はつ雪やなどとて内に居る安房

湯の中へ降るやはつ雪たびら雪

あばら家や雪の旦の虱狩

大雪やせつぱつまりし人の声

雪ちらりちらり見事な月夜哉

雪ちるや雪駄の音のさわがしき

雪の戸や押せば開くと寝てていふ

雪の日やおりおり蝿の出てあそぶ

雪払ふ拍子に都めぐり哉

朝市の火入にたまる霰かな

霜の夜や窓かいて鳴く勘当猫

さをしかや神の留主事寝て遊ぶ

田から田へ真一文字や十夜道

ばせを翁の塚と二人やはつ時雨

大江戸や辻の番犬も夷講

大黒も連に居るや夷講

飯の陰より顔を出る夷哉

煤過やぞろりととぼる朱蝋燭

煤はきや東は赤い日の出空

掃煤のはく程黒き畳哉

人並や庵も夜なべのすす払

今の世や乞食むらの衣配

小隅から猫の返しや衣配

としの夜や猫にかぶせる鬼の面

山里は子どもも御免帽子哉

御仏前でも御めん頭巾哉

頭巾きて見てもかくれぬ白髪哉

御坐敷や烏がおとす雪礫

かんざしでふはと留たり雪礫

飛のいて烏笑ふや雪礫

ふり向ば大どしま也雪礫

雪打や地蔵菩薩の横面へ

大名を眺ながらに炬燵哉

借り髪を木兎も笑ふや神ぢ山

雪国やいろりの隅のねぶか畠

末世でも数珠のなる木や道明寺


文政七年

元日や目出度さ尽し旅の宿

世の中をゆり直すらん日の始

正月や目につく下司の一寸戸

日の本や金も子をうむ御代の春

青空にきず一つなし玉の春

春立や米の山なるひとつ松

紙張りの狗も口を明の方

下駄はいて畠歩くや兄方詣

線香を雪につつさす兄方哉

かげ法師に御慶を申すわらじ哉

むく起の小便ながら御慶哉

年玉を犬にも投げる御寺哉

年玉をおくやいなりの穴の口

年玉を落して行くや留主の家

年玉やかたり猫にぞ打つける

年玉や懐の子も手々をして

ばか猫や年玉入れの箕に眠る

巡り々ととる年玉扇哉

古壁や炬燵むかふのはつ暦

初夢に猫も不二見る寝やう哉

初夢の不二の山売る都哉

小さい子やわか水汲も何番目

目覚しにわか水見るや角田川

わか水や土瓶一ッに角田川

赤い凧引ずり歩くきげん哉

江戸凧の朝からかぶりかぶり哉

江戸凧もこもごも上る山家哉

順礼や貰ひながらの凧

大名のかすみが関や凧

まま子凧つぎのいろいろ見へにけり

二葉三葉たばこの上に若な哉

三葉程つみ切つて来る若な哉

脇差の柄にぶら下る若な哉

挑灯もちらりほらりやはつ烏

大雪をかぶつて立や福寿草

二月に元日草の咲にけり

大寺のたばこ法度や春の雨

乞食小屋富のおちけり春の雨

水仙は花と成りけり春の雨

春風や三人乗りのもどり馬

一馬に三人乗りや春の風

初虹や左り麦西雪の山

昼寝るによしといふ日や虹はじめ

福来る門や野山の笑顔

辻堂や苗代一枚菜一枚

寝心や苗代に降る夜の雨

今の世やどの出代の涙雨

越後衆や唄で出代る中仙道

大連や唄で出代る本通り

うら店も江戸はえど也雛祭り

大猫も同坐して寝る雛哉

吉日の御顔也けり雛達

後家雛も直にありつくお江戸哉

雛棚や隣づからの屁のひびき

古雛やがらくた店の日向ぼこ

草餅や片手は犬を撫ながら

草餅や地蔵の膝においてくふ

草餅や芝に居つて犬を友

ふらんどや桜の花をもちながら

今の世は草をつむにも晴着哉

御仏の茶も一莚ひろげけり

菊畠や一打ごとに酒五盃

立板の岨や畠に拵へる

畠打や鍬でをしへる寺の松

畠打や寝聳て見る加賀の守

恋猫やきき耳立て又眠る

浄破利のかがみそれ見よ猫の恋

垣の梅猫の通ひ路咲とじよ

通路も花の上也やまと猫

恋猫が犬の鼻先通りけり

恋猫や口なめづりをして逃る

恋猫や答へる声は川むかう

猫鳴や塀をへだててあはぬ恋

夜すがらや猫も人目を忍ぶ恋

なりふりも親そつくりの子猫哉

猫の子の十が十色の毛なみ哉

今落た角を枕に寝じか哉

さをしかや社壇に角を奉る

御仏の山に落すや鹿の角

鳥の巣に明渡すぞよ留守の庵

切る木ともしらでや鳥の巣を作る

鳥の巣や寺建立はいつが果

鳥の巣や弓矢間にあふ柿の木に

小日和やよし野へ人を呼子鳥

好き好きや此としよりを呼子鳥

としよりも来いとぞ鳥の鳴にけり

鳥鳴くやとしより迄も来い来いと

山に住め山に住めとや呼子鳥

米搗は杵を枕や雀の子

慈悲すれば糞をする也雀の子

雀子に膝の飯つぶつませけり

念仏者や足にからまる雀の子

むだ鳴になくは雀のまま子哉

いかな日も鶯一人我ひとり哉

鶯の弟子披露する都哉

鶯も弟子を持たる座敷哉

鶯や悪たれ犬も恋を鳴

鶯や御前へ出ても同じ声

鶯の子に鳴せては折々に

鶯や而後弟子の声

鶯や雀は竹にまけぬ声

鶯や猫は縛られながらなく

鶯や糞まで紙につつまるる

鶯や山育でもあんな声

大名の鶯弟子に持にけり

今参りましたぞ夫婦乙鳥哉

鶏の隣をかりるつばめ哉

鼠とは隣ずからの乙鳥哉

店かりて夫婦かせぎの乙鳥哉

鶏にさらばさらばと雲雀哉

雉なくや藪の小脇のけんどん屋

寝た牛の腹の上にて雉の声

我庵にだつまて泊れ夜の雉

江戸の水呑んで声してかへる雁

朝雨や雁も首尾よく帰る声

痩雁や友の帰るを見てはなく

穴を出る蛇の頭や猫がはる

大蛇やおそれながらと穴を出る

苦の娑婆や蛇なのりて穴を出る

けつこうな御世とや蛇も穴を出る

人鬼や蛇より先に穴を出る

五百崎や庇の上になく蛙

大形をしてとび下手の蛙哉

親蛙ついと横座に通りけり

仙人の膝と思ふか来る蛙

散花に首を下る蛙哉

掌に蛙を居るらかん哉

天文を考へ顔の蛙哉

鳥井からえどを詠る蛙哉

野仏の手に居へ給ふ蛙哉

昼過や地蔵の膝になく蛙

蕗の葉にとんで引くりかへる哉

名々に鳴場を座とる蛙哉

吉原やさはぎに過て鳴かはづ

かんざしの蝶を誘ふやとぶ小蝶

さをしかや蝶を振つて又眠る

さらにとしとらぬは蝶の夫婦哉

塵の身のちりより軽き小てふ哉

鳥さしの竿の邪魔する小てふ哉

ほつとして壁にすがるや夕小てふ

山盛りに蝶たかりけり犬の椀

門々に青し蚕の屎の山

正直の門に蜜蜂やどりけり

蜂逃て猿はきよろきよろ眼哉

蜂の巣にかしておくぞよ留主の庵

みつ蜂や隣に借せばあばれ蜂

首出して身寄虫見るらん巣なし鳥

捨家に大あんどする身寄虫哉

住みづらい里はないとや身寄虫どの

一寸寝てするべつたりの身寄虫哉

一寸寝るふりをしている身寄虫哉

世にそまばこくも薄くも菫哉

梅折るや盗みますぞと大声に

梅さくやごまめちらばふ猫の墓

梅さくや雪隠の外の刀持

梅さくや羽織を着せる小人形

野仏のぼんのくぼより梅の花

花の木の持つて生た果報哉

馬乗や花見の中を一文字

江戸声や花見の果のけん嘩かひ

大猫が尿かくす也花の雪

上下の酔倒あり花の陰

小言いふ相手もあらば花莚ュ

十人の目利はづれて花の雨

散花の降りつもりけり馬屎塚

名をしらぬ古ちかづきや花の山

花咲や道の曲りに立地蔵

花見るも銭をとらるる都哉

飴ン棒にべつたり付し桜哉

神風や魔所も和らぐ山ざくら

小筵や銭と小蝶とちる桜

大名を馬からおろす桜哉

人足のほこりを浴るさくら哉

山猿と呼ばるる宿のさくら哉

御花の代りをつとむ柳哉

切れても切れてもさて柳哉

ずん切際より一すじ柳哉

田のくろや馬除柳馬がくふ

流れ来て門の柳と成にけり

あつき日や終り初ものほととぎす

暑き日や棚の蚕の食休

暑き日やにらみくらする鬼瓦

暑き日や火の見櫓の人の顔

大菊の立やあつさの真中に

満月に暑さのさめぬ畳哉

涼しさの下駄いただくやずいがん寺

涼しさは直に神代の木立哉

門川に足を浸して夏の雨

鍬枕かまをまくらや夏の雨

海見ゆる程穴ありて雲の峰

てつぺんに炭をやく也雲のみね

走り帆の追ひ々出るや雲の峰

小乞食の唄三絃や夏の月

山門の大雨だれや夏の月

捨ておいても田に成にけり夏の月

どの門もめで田めで田や夏の月

白妙の土蔵ぽつちり青田哉

御祭りや鬼ゆり姫ゆりはかたゆり

踏んまたぐ程でも江戸の不二の山

浅草や朝飯前の不二詣

浅草や犬も供して不二詣

ただの鵜も相伴に来るかがり哉

天窓用心と張りけり更衣

親の親の其のおやのの[を]更衣

草餅の又めづらしやころもがへ

皺顔やしかも立派なころもがへ

でも坊主でも入道のころもがえ

塗盆に猫の寝にけり夏座敷

蚊屋のない家はうまうまいびき哉

蚊屋のない家はごうごううまく寝る

蠅一ッ二ッ寝蓙の見事也

枝折の日陰作りて昼寝哉

あれあんな山里にさへ江戸うちは

後にさす団扇を老の印哉

茶の水の蓋にしておく団扇哉

杖ほくほく団扇はさむや尻の先

庭竹もさらりさらさら団扇哉

寝咄の切間切間を団扇哉

虫干や下駄の並びの仏達

鶯に水を浴せて夕涼

内へ来て涼み直すや窓の月

親と子が屁くらべす也門涼み

山の湯に米を搗せて涼み哉

早乙女におぶさつて寝る小てふ哉

かはほりに夜ほちもそろりそろり哉

かはとりも土蔵住居のお江戸哉

かはほりや仁王の腕にぶら下り

かはとりや人の天窓につきあたり

かはほりや夜ほちの耳の辺りより

かはほりや夜たかがぼんのくぼみより

あたり八軒が起るやほととぎす

大勢がむだ待したり時鳥

来な来なしこ時鳥しこ烏

とり辺野やしこ時鳥しこ烏

時鳥江戸三界を夜もすがら

時鳥待もあはうの一ッかな

皆いぬぞしこ時鳥時鳥

山烏邪魔ひろぐなよほととぎす

やれ起よそれ時鳥時鳥

夜る夜中おしかけ鳴やほととぎす

大酒の諫言らしや閑古鳥

大酒の諫言するか閑古鳥

爺茶屋や右に左に閑古鳥

我友に相応したりかんこ鳥

我々も亡者の分ンか閑古鳥

筏士の飯にべつたり蛍かな

大家を上手に越へし蛍哉

大家根を越へそこなひし蛍哉

木がくれの家真昼にとぶ蛍

猿も子を負ふて指すほたる哉

はつ蛍つひに都をかけぬける

はつ蛍人の天窓につきあたり

町を出てほつと息する蛍哉

飯櫃の蛍追ひ出す夜舟哉

行当る家に泊るや大ぼたる

行な行なみなうそよびぞはつ蛍

あさぢふの痩蚊やせのみやせ子哉

江戸の蚊の気が強いぞよ強いぞよ

ごちやごちやと痩蚊やせ蚤やせ子哉

酒くさい膝もきらはぬ藪蚊哉

隣から叩き出れて来る蚊哉

仏のかたより蚊の出る御堂哉

痩脛は蚊も嫌ふやらつい通り

打れても打れても来るや膝の蠅

座頭坊や赤椀で蠅追ひながら

草庵にもどれば蠅ももどりけり

点一つ蠅が打たる手紙かな

鶏が下手につむ也もちの蠅

塗盆を蝿が雪隠にしたりけり

豊年の声を上けり草の蝿

まめ人の人の頭の蠅を追ふ

我家へもどりて居るや門の蠅

木の猿や蚤をとばせる犬の上

道哲の仏の膝や蝉の声

大天狗の鼻やちよつぽりかたつむり

木の雫天窓張りけりかたつむり

此雨の降にどつちへでいろ哉

笹の葉やなるや小粒のかたつむり

戸を〆てづんづと寝たりかたつむり

練塀や廻りくらするかたつむり

鉢の子の中より出たりかたつむり

天窓に箍かけ走る也はつ松魚

大家や犬もありつくはつ松魚

芝浦や初松魚より夜が明る

貰ふたよ只一切のはつ松魚

白露に福ややどらんぼたん畠

せいたけの麦の中よりぼたん哉

草庵にふつり合也さくぼたん

草庵にほぼつり合ぬぼたん哉

鐘と挑灯の中をぼたん哉

てもさてもても福相のぼたん哉

猫の狂ひが相応のぼたん哉

貧乏蔓にとり巻かれてもぼたん哉

福来ると聞てほしがるぼたん哉

山寺や赤い牡丹の花の雲

菜畠や四五本そよぐ蓮の花

鶺鴒は神の使かかきつばた

草家根やささぬ菖蒲は花がさく

法の世や在家のばせを花が咲く

麦秋や畠を歩く小酒うり

麦秋や本の秋より寒い雨

あつぱれの大わか竹よわか竹よ

蟻塚の中やついついことし竹

さあらさら野竹もわかいげんき哉

さわがしや門のわか竹わか雀

さわがしや役なし竹もわか盛り

杖になる小竹もわか葉盛り哉

なぐさめに窓へ出たのかことし竹

むつましや男竹女竹のわか盛り

わか竹やとしより竹もともいさみ

竹の子の木に交りて曲りけり

いそいそと老木もわか葉仲間哉

桐の木の悠々然とわか葉哉

古壁も分ン相応にわか葉哉

真丸に四角に柘のわか葉哉

山寺は留主の体也夏木立

闇がりやこそり立つても冷い秋

えいやつと来て姨捨の雨見哉

十五夜に姨捨山の雨見哉

屁くらべや芋名月の草の庵

藪の家や鍋つき餅の十三夜

青紙の梶の葉形を手向哉

幼子の手に書せけり星の歌

御射山やけふ一日の名所哉

大名の花火そしるや江戸の口

妹が顔見ぬふりしたりまけ角力

風除に立てくれるや角力取

角力取に手をすらせたる女哉

角力になると祝ふ親のこころ哉

大名にかはゆがらるる角力哉

ふんどしに御酒を上けり角力取

脇向て不二を見る也勝角力

今の世や役なし川も鳴子哉

降雨やつい隣でも小夜ぎぬた

行秋を輿でおくるや新酒屋

もどかしや雁は自由に友よばる

渡り鳥一芸なきはなかりけり

杖の穴蛇もきらふかいらぬ也

蛇どもや生れ故郷の穴に入

しやべるぞよ野づらの虫に至る迄

目のさやをはづしてさわぐとんぼ哉

目のさやをずつとはづしてとんぼ哉

柴戸や蝿取に来るきりぎりす

菜畠やひよいひよいひよいや菊の花

朝顔に涼しくくふやひとり飯

ひつぢ田や青みにうつる薄氷

江戸へ出る迄はまだまだわかたばこ

おく山や子どももかぢるたうがらし

小粒でも見よ見よえどのたうがらし

さたなしに咲て居る也木槿哉

長咲の恥もかかぬぞ花木槿

団栗や三べん巡つて池に入

栗とんで惣鶏のさはぎ哉

此おくは魔所とや立る天狗茸

あばら家や寒ある上に寒が入

薄壁や月もろともに寒が入

薄壁や鼠穴より寒が入

おさな子の文庫に仕廻ふ氷かな

氷る夜はどんすの上の尿瓶哉

猫の目や氷の下に狂ふ魚

本馬のしやんしやん渡る氷哉

本堂や手本のおしの欠氷

神の猿蚤見てくれる小春哉

小春とて出歩くに蠅連にけり

寝酒いざとしが行うと行まいと

仏土にも獄入有りけりとしの暮

行としはどこで爺を置去に

庵迄送りとどけて行時雨

うら窓や毎日日日北しぐれ

大草履ひたりひたり村時雨

さいさいに時雨直して大時雨

寺へ人を送りとどけて行く時雨

独寝の足しにふりけり小夜時雨

山柴の秤にかかる時雨哉

寒空のどこでとしよる旅乞食

木がらしに鼾盛りの屑家哉

木がらしに野守が鼾盛り哉

木がらしの掃てくれけり門の芥

木がらしや門の榎の力瘤

木がらしや椿は花の身づくろひ

はつ雪を乞食呼り駅場哉

はつ雪を見かけて張るやせうじ穴

はつ雪や降りもかくれぬ犬の糞

風陰に雪がつむ也門畠

腹の虫なるぞよ雪は翌あたり

あばら家にとんで火に入る霰哉

広小路に人打散る霰哉

広小路に人ちらかつて玉霰

霜の夜や七貧人の小寄合

暁立の人の通りもかれの哉

雉立て人おどろかすかれの哉

吹風に声も枯野の烏かな

門違してくださるな福の神

神々の留主せんたくやけふも雨

苦のさばや神の御立も雨嵐

じやじや雨の降に御帰り貧乏神

まめな妻忘れ給ふな神送

水浴びて並ぶ烏や神迎え

十夜から直に吉原参り哉

念仏の十夜が十夜月夜哉

法の世は犬さへ十夜参哉

旅の皺御覧候へばせを仏

古郷や四五年ぶりの煤払

煤さわぎすむや御堂の朱蝋燭

煤はきや和尚は居間にひとり釜

馬の屁の真風下やせつき候

門の犬じやらしながら小せき候

子仏や指さして居るせつき候

せき候や長大門の暮の月

一人前つくとて餅のさわぎ哉

こちへ来る餅の音ぞよ遠隣

一丸メするとて餅のさわぎ哉

かくれ家や尿瓶も添て衣配

手軽さや紙拵への衣配

かくれ家や毎日日日とし忘

一人居や一徳利のとし忘

大御代や小村小村もとしの市

皮羽織見せに行也としの市

古札と一ッにくくる暦哉

山人は薬といふや古ごよみ

わづらはぬ日をかぞへけり古暦

日本にとしをとるのがらくだかな

みだ仏のみやげに年を給ふ哉

浅草や一厄おとす寺参り

おとし厄馬につけたりいせ参り

四辻や厄おとす人拾ふ人

老鳥の追れぬ先に覚悟哉

追鳥の不足の所へ狐哉

追鳥や狐とてしも用捨なく

追鳥や鳥より先につかれ寝る

追鳥を烏笑ふや堂の屋根

けふでいく日咽もぬらさで鳥逃る

逃込だ寺が生捕る雉子哉

逃鳥やどちへ向ても人の声

逃鳥よやれやれそちはおとし罠

骨折つて鳥追込やきつね穴

達者なは口ばかりなる紙衣哉

焼穴を反故でこそぐる紙衣哉

門先や雪の仏も苦い顔

荒馬とうしろ合せや冬篭

こほろぎもついて来にけり冬篭り

冬篭るも一日二日哉

御仏は柱の穴や冬ごもり

遠山の講釈をする炬燵哉

納豆や一人前にはるばると

わらづとのみやげもけぶる納豆哉

わらづとや田舎納豆いなか菊

鰒汁に人呼込むや広小路

宵々や眠り薬の鰒汁

猪くはぬ顔で子供の師匠哉

店先の木兎まじりまじりかな

木兎や上手に眠る竿の先

五百崎や鍋の中でも鳴千鳥

声々や子どもの交じる浜千鳥

誂たやうに染分大根哉

四五本の大根洗ふも人手哉

大根を丸ごとかぢる爺哉

引時ももれぬや藪の大根迄

明がたや葱明りの流し元

野仏の頭をもかく木の葉哉

冬枯や柳の瘤の売わらじ


文政八年

元日や庵の玄関の仕拵へ

元日や闇いうちから猫の恋

元朝に十念仏のゆきき哉

苦にやんだ元日するや人並に

行灯のかたつぴらより明の春

善光寺やかけ念仏で明の春

爺が世や枯木も雪の花の春

むさしのや大名衆も旅の春

小ばくちは蚊の呪や里の春

とし棚やこんな家にも式作法

薮入や連に別れて櫛仕廻ふ

あばら家や曲つた形に門飾

吹ばとぶ家の世並や〆かざり

正月のくせに成つたる福茶哉

外からは梅がとび込福茶哉

親里の山へ向つて御慶哉

供部屋がさはぎ勝也年始酒

百旦那ころりころころ御慶哉

両方に小便しながら御慶哉

百福の始るふいご始哉

脇差の柄にぶらぶら若菜哉

神国や草も元日きつと咲

永き日や嬉し涙がほろほろと

湯に入るも仕事となれば日永哉

春永と延した春も仕廻哉

芝居日と家内は出たり春の雨

春雨や腹をへらしに湯につかる

めぐり日と俳諧日也春の雨

春の風子どもも一箕二み哉

陽炎や薪の山の雪なだれ

吉日に老の頭の雪解哉

鶏のつつきとかすや門の雪

改て吹かける也ひがん雪

つみ草を母は駕から目利哉

蝶々を尻尾でなぶる小猫哉

雀子や牛にも馬にも踏れずに

鶯や家半分はまだ月夜

鶯や雀はせせる報謝米

鶯やりん打ば鳴うてばなく

ほけ経を鳴ば鳴也辻ばくち

じつとして馬に嗅るる蛙哉

どつさりと居り込だる蛙哉

棒杭に江戸を詠る蛙哉

山吹へ片手で下る蛙哉

過去のやくそくかよ袖に寝小てふ

木の陰や蝶と休むも他生の縁

つぐら子をこそぐり起す小てふ哉

つぐら子の鼻くそせせる小てふ哉

湯の滝を上手に廻る小てふ哉

若草をむざむざふむや泥わらじ

わか草のさてもわかいわかいぞよ

真丸に草青む也御堂前

百両の石にもまけぬつつじ哉

貝殻をはいて歩くや里の梅

あつさりとあさぎ頭巾の花見哉

花咲て娑婆則寂光浄土哉

花の木に鶏寝るや浅草寺

人来ればひとりの連や花の山

あれあれといふ口へちるさくら哉

天狗衆の留主のうち咲く山ざくら

門の犬なぐさみ吼や桃の花

立午の尻こする也桃の花

短夜の畠に亀のあそび哉

短夜も寝余りにけりあまりけり

あつき日も子につかはるる乙鳥哉

涼しさや汁の椀にも不二の山

涼しさや青いつりがね赤い花

涼しさや切紙の雪はらはらと

釣鐘の青いばかりも涼しさよ

うつくしや雲一ッなき土用空

正直の国や来世も虎が雨

としよりのおれが袖へも虎が雨

人鬼の里ももらさず虎が雨

日の本や天長地久虎が雨

末世でも神の国ぞよ虎が雨

図に乗つて夕立来るやけふも又

始まるやつくば夕立不二に又

夕立にこねかへされし畠哉

夕立や象潟畠甘満時

夕立やしやんと立てる菊の花

夕立や裸で乗しはだか馬

夕立や藪の社の十二灯

御仏や生るるまねに銭が降

御仏や生るるまねも鉦太鼓

御仏や銭の中より御誕生

夏籠や毎晩見舞ふ引がへる

よそ目には夏書と見ゆる小窓哉

捨た身を十程くぐるちのわ哉

形代におぶせて流す虱哉

形代にさらばさらばをする子哉

川狩にのがれし魚の見すぼらし

夕立のいよいよ始る太鼓哉

夕立の蓑をきたまま酒宴哉

乙鳥が口しやべる也更衣

おもしろう汗のしとるや旅浴衣

馬の子の目をあぶながるひがさ哉

下駄はいて細縄渡る日傘哉

先立の念仏乞食や日傘

白笠や浅黄の傘や東山

飯櫃の簾は青き屑家哉

両国や小さい舟の青簾

夕がやの中にそよぐや草の花

団扇の柄なめるを乳のかはり哉

天狗はどこにて団扇づかひ哉

負ふた子も拍子を泣や田植唄

小さい子も内から来るや田植飯

どつしりと藤も咲也田植唄

軒下の拵へ滝や心太

かはほりの袖下通る月夜哉

かはほりの代々土蔵住居哉

かはほりの人に交る夕薬師

洪水やかはほり下る渡し綱

我宿に一夜たのむぞ蚊喰鳥

大江戸の隅からすみ迄時鳥

大とびや逃盗人と時鳥

小山田の昼寝起すや時鳥

猪牙舟もついついついぞ時鳥

天狗衆は留守ぞせい出せ時鳥

とびくらをするや夜盗と時鳥

一声であいそづかしや時鳥

時鳥小舟もつういつうい哉

待人にあいそづかしや時鳥

祭垣の米粒つむや閑古鳥

一村の鼾盛りや行々し

昼飯を犬がとるとや行々し

満月に夜かせぎするや行々し

満月に夜なべ鳴や行々し

待て居る妻子もないか通し鴨

今の世や蛇の衣も銭になる

行当る家に寝る也大ぼたる

戦をのがれて庵の蛍哉

又一ッ川を越せとやよぶ蛍

湯上りの腕こそぐる蛍哉

食逃や蚊蚤もちえの文珠堂

僧正の頭の上や蝿つるむ

無常鐘蝿虫めらもよつくきけ

老ぼれと見くびつて蚤も逃ぬ也

としよりと見くびつて蚤逃ぬぞよ

蚤焼て日和占ふ山家哉

よい月や内へ這入れば蚤地獄

刀禰川や只一ッの水馬

蝉鳴や盲法師が扇笠

小粒なは安心げぞかたつむり

笹の葉や小とり廻しのかたつむり

大江戸や犬もありつくはつ松魚

鰹一本に長家のさわぎ哉

柴の戸へ見せて行也初松魚

けし提てけん嘩の中を通いけり

金まうけ上手な寺のぼたん哉

唐びいきめさるる寺のぼたん哉

立石の穴をふさげるぼたん哉

つくづくとぼたんの上の蛙哉

乙鳥の泥口ぬぐふぼたん哉

日に日に麦ぬか浴るぼたん哉

揉ぬかやぼたん畠の通り道

山雲や赤は牡丹の花の雲

麦搗の大道中の茶釜哉

麦搗や行灯釣す門榎

家の峰や鳥が仕わざの麦いく穂

家の峰や鳥が仕わざの麦一穂

子どもらが反閉するやわか葉陰

殊勝さよ貧乏垣も初わか葉

人声に蛭の落る也夏木立

うら窓や只一本の木下闇

笠程の花が咲けり木下闇

権禰宜が一人祭りや木下闇

白妙に草花さくや木下闇

卯の花の垣根に犬の産屋哉

卯の花や子らが蛙の墓参

名所や壁の穴より秋の月

古壁の穴や名所の秋の月

壁穴で名月をする寝楽哉

壁穴の御名月を寝坊哉

なむなむと名月おがむ子ども哉

名月を一ッうけとる小部屋哉

けかちでも餅になる也十三夜

秋の風一茶心に思ふやう

秋風や西方極楽浄土より

親里は見えなくなりて秋の風

淋しさに飯をくふ也秋の風

常に打鈴なりながら秋の風

野仏に線香けぶるやけさの露

客人の草履におくや門の露

稲妻やぞろり寝ころぶ六十顔

川縁の夜茶屋は引て小稲妻

笹の葉に稲妻さらりさらり哉

我宿は朝霧昼霧夜霧哉

いとし子や母が来るとて這ひ笑ふ

精霊の御覧に入る門の田哉

抱た子や母が来るとて鉦たたく

玉棚にどさりとねたりどろぼ猫

孤や手を引れつつ墓灯篭

踊る声母そつくりそつくりぞ

涼しさよどれが彦星やしやご星

につこにこ上きげん也二ッ星

昔から花嫁星よむこぼしよ

一文の花火も玉や玉や哉

それがしも千両花火の人数哉

おのが家にこごんで這入る角力哉

角力取が詫して逃す雀かな

まけ角力直に千里を走る也

寺山やかがし立ても犬ほゆる

小言いひいひ底たたく新酒哉

さをしかや片膝立つて月見哉

神の鹿じつとして人になでらるる

大磯や早朝飯で鴫の立

門の雁我帰つてもねめつける

雁がねの気どきに並ぶ烏かな

雁鴨や鳴立られて馬逃る

くつろいで寝たり起たり門の雁

鬼虫も妻を乞ふやら夜の声

草原や提灯行に虫すだく

なかなかに捨られにけりだまり虫

泣事や虫の外には藪の家

鳴な虫直る時には世が直る

よわ虫もばかにはならずあんな声

黒塀にかくれたふりの蜻蛉哉

蜻蛉やはつたとにらむふじの山

こほろぎが顔こそぐつて通りけり

こほろぎにふみつぶされし庇哉

石川をりつぱにおよぐいなご哉

大水に命冥加のいなご哉

洪水に運の強さよとぶいなご

草庵の家根の峰迄いなご哉

猫のとり残しや人のくふいなご

放ちやる手をかじりけりきりぎりす

里の子や蚯蚓の唄に笛を吹

其声のさつても若い蚯蚓哉

細る也蚯蚓の唄も一夜づつ

海中や鰯貰ひに犬も来る

菜畠のもやうにひよいひよい菊の花

真直や人のかまはぬ菊の花

朝顔とおつつかつつや開帳がね

朝顔や貧乏蔓も連に這ふ

明がたや吹くたびれし女郎花

女郎花一夜の風におとろふる

存の外俗な茶屋有萩の花

さをしかにせ負する紅葉俵哉

竃の下へはき込む紅葉哉

山寺のみな堂下へ紅葉哉

きり一葉蝿よけにして寝たりけり

老僧が団扇につかふ一葉哉

からたちの不足な所へ木槿哉

崩れ家の花々しさや花木槿

こちやはさむあちやうらむ也木槿垣

子どもらや烏も交る栗拾ひ

ああままよ年が暮よとくれまいと

うつくしきや年暮きりし夜の空

二時雨並んで来るや門の原

初雪を鳴出しけりせんき虫

ちいびちいび天の雪迄ききん哉

隣から連小便や夜の雪

雪と泥半分交の通り哉

雪の日や堂にぎつしり鳩雀

庵の犬送つてくれる叙骰ニ

ばせを忌と申すも只一人哉

ばせを忌の入相に入しわらぢ哉

ばせを忌や昼から錠の明く庵

酒時をかいで戻るや煤払

江戸状や親の外へも衣配

傾城や在所のみだへ衣配

身拵へして待犬や雪礫

世話好や不性不性に冬籠

ふぐ汁やもやひ世帯の惣鼾

芦の家は千鳥の寝ぐそだらけ哉

浦千鳥鳴立られて犬逃る

京入も仏頂面のふくと哉

大根で鹿追まくる畠哉

わんぱくも一本かつぐ大根哉

鶯の口すぎに来るおち葉かな

霜がれや貧乏村のばか長さ

むさし野や水溜りのふじの山


文政九年

春風や野道につづく浅黄傘

死時も至極上手な仏かな

華の世を見すまして死ぬ仏かな

鶯の野にして鳴くや留主御殿

乙鳥子のけいこにとぶや馬の尻

じくなんで茨をくぐる蛙哉

湯けぶりのふはふは蝶もふはり哉

人つきの有や草ばもわか盛

花の陰寝まじ未来がおそろしき

今の世や猫も杓子も花見笠

おどされた犬のまねして花見哉

山寺や寝聳べる下の花の雲

穀値段どかどか下るあつさ哉

門畠やあつらへむきの一夕立

湖見ゆる穴もありけり雲の峰

雲に山作らせて鳴烏かな

野畠や芥を焚く火の雲の峰

人のなす罪より低し雲の峰

峰をなす分別もなし走り雲

さらしいや石の上なる神酒徳り

涼にもはりあひのなし門の月

つつがなく湯治しにけり腕の蚤

立給へ秋の夕をいざさらば

盃に呑んで仕廻ふや天の川

古壁やどの穴からも秋の月

子ども衆は餅待宵の月見哉

隠れ家は気のむいた夜が月見哉

名月や蟹も平を名乗り出る

名月やなどとは上べ稲見かな

世直しの大十五夜の月見かな

門川やすみ捨てある後の月

置露や我は草木にいつならん

灯篭の火で飯をくふ裸かな

七夕やよい子持てる乞食村

星の歌よむつらつきの蛙かな

薮村や灯ろうの中にきりぎりす

狗がかぶつて歩く一葉かな

雪ちるやおどけも云へぬ信濃山

近付のさくらも炭に焼れけり


文政十年

元日や我らぐるめに花の娑婆

馬士も烏帽子着にけり梅の花

心の字に水も流れて梅の花

夕飯の膳の際より青田哉

田廻りの尻に敷たる団扇哉

古き日を吃とやれやれ時鳥

朝顔のうしろは蚤の地獄かな

かまふなよやれかまふなよ子もち蚤

大道に蚤はき捨る月夜かな

人の世や小石原より蚤うつる

人の世や砂歩行ても蚤うつる

やけ土のほかりほかりや蚤さわぐ

焼跡やほかりほかりと蚤さわぐ

有明や晦日に近き軒行灯

古郷は雲の先也秋の暮

神前に子供角力や秋の風

吹たばこたばこの味へ秋の風

青菰の上に並ぶや盆仏

送り火や今に我等もあの通り

有明や晦日に近き軒灯籠

一つきへ二つきへつつ灯籠哉

七夕や涼しく上に湯につかる

馬の子の踏潰しけり野良の栗

せま庭の横打栗やどろぼ猫

降る雪を払ふ気もなきかがし哉

犬が来てもどなたぞと申す襖哉


未知


元日にかわいや遍路門に立

元日や日本ばかりの花の娑婆

元日の日向ぼこする屑家かな

昼頃に元日になる庵かな

人並の正月もせぬしだら哉

正月が二日有ても皺手哉

正月や現金酒の通ひ帳

猫塚に正月させるごまめ哉

行灯のかたぴらよりけさの春

草の戸やいづち支舞の今朝の春

けさ春と掃まねしたりひとり坊

ふしぎ也生れた家でけさの春

ふしぎ也生れた家でけふの春

塵の身も拾ふ神あり花の春

とてもならみろくの御代を松の春

庵の春寝そべる程は霞なり

初春や千代のためしに立給ふ

我国はけぶりも千代のためし哉

はる立や門の雀もまめなかほ

神とおもふかたより三輪の日の出哉

よその蔵からすじかひに初日哉

初空のもやうに立や茶の煙

雨のない日が初空ぞ翌も旅

はつ空を拵へる也茶のけぶり

御降りをたんといただく屑屋哉

大原や恵方に出し杖の穴

とし神やことしも御世話下さるる

梅の花まけにこぼすや畚下し

三日月や畚引上る木末から

斎日やぞめき出されて上野迄

やぶ入やきのふ過たる山祭り

やぶ入の顔にもつけよ桃の花

薮入りや二人並んで思案橋

小松引人とて人をながむかな

袴着て芝にころりと子の日哉

かま獅子があごではらひぬ門の松

ひよいひよいと藪にかけるや余り注連

外ならば梅がとび込福茶哉

影法師もまめ息災で御慶かな

つぶれ家の其身其まま御慶哉

いく廻り目だぞとし玉扇又もどる

草の戸やけさのとし玉とりに来る

とし玉茶どこを廻つて又もどる

わんぱくや先試みに筆はじめ

子宝や棒をひくのも吉書始

人の世は此山陰も若湯哉

浴みして旅のしらみを罪始め

若水やそうとつき込む梅の花

鳴く猫に赤ン目をして手まり哉

切凧のくるくる舞やお茶の水

凧抱て直ぐにすやすや寝る子哉

門獅子やししが口から梅の花

かたむべき歯は一本もなかりけり

歯固は猫に勝れて笑ひけり

長閑さや垣間を覗く山の僧

草麦のひよろひよろのびる日ざし哉

舞々や翌なき春を笑ひ顔

行春や我を見たをす古着買

淡雪や犬の土ほる通のはた

小烏や巧者にすべる春の雨

安堵して鼠も寝るよ春の雨

たびら雪半分交ぜや春の雨

入道が綻ぬふや春の雨

春雨や相に相生の松の声

春雨や夜も愛するまつち山

夜談義やばくちくづれや春の雨

ぼた餅や辻の仏も春の風

春風や供の女の小脇差

鬼の面狐の面や春の風

笠うらの大神宮や春の風

春風に吹れた形や女坂

春風に吹れ序の湯治哉

春風や芦の丸屋の一つ口

春風や歩行ながらの御法談

一つ葉の中より吹や春の風

おぼろ月松出ぬけても出ぬけても

福狐啼たまふぞよおぼろ月

ほくほくと霞んで来るはどなた哉

けふもけふもかすんで暮らす小家哉

かすむ日に古くもならぬ卒塔婆哉

霞とや朝からさはぐ馬鹿烏

かすむ日や大旅籠屋のうらの松

さらばさらばの手にかかる霞かな

たつぷりと霞と隠れぬ卒塔婆哉

湖のとろりとかすむ夜也けり

陽炎や子をかくされし親の顔

陽炎や犬に追るるのら鼠

陽炎や草の上行くぬれ鼠

我雪も連て流れよ千曲川

門前や杖でつくりし雪げ川

大雪を杓子でとかす子ども哉

親犬が瀬踏してけり雪げ川

門畑や米の字なりの雪解水

門畠や棒でほじくる雪解川

我門のかざりに青む苗代田

御彼岸のぎりに青みしかきね哉

袖あたり遊ぶ虱の彼岸哉

出代や六十顔をさげながら

青の葉は汐干なぐれの烏哉

鶴亀の遊ぶ程ずつやくの哉

風雲ややけ野の火より日の暮るる

松苗の花咲くころは誰かある

恋猫のぬからぬ顔でもどりけり

恋猫や口なめづりをしてもどる

髭前に飯そよぐ也猫の恋

ちる桜鹿はぽつきり角もげる

雀子や人が立ても口を明く

鳥の巣も鬼門に立つや日枝の山

雀子が中で鳴く也米瓢

鶯の苦にもせぬ也茶のけぶり

鶯の苦にもせぬ也辻ばくち

鶯のぬからぬ顔や東山

鶯や尿しながらもほつけ経

鶯も上鶯の垣根かな

鶯のまてにまはるや組屋敷

鶯の幾世顔也おく信濃

鶯のはねかへさるるつるべ哉

鶯も水を浴せてみそぎ哉

鶯や隅からすみへ目を配り

夕雲雀どの松島が寝よいぞよ

野大根も花となりにけり鳴雲雀

漣や雲雀に交る釣小舟

湖におちぬ自慢やなくひばり

臼からも松の木からも雲雀哉

墓からも花桶からも雲雀哉

おれを見るや雉伸上り伸上り

雉鳴くやころり焼野の千代の松

草原を覗れてなく雉子哉

雨だれは月よなりけりかへる雁

連もたぬ雁もさつさと帰りけり

けふ迄のしんぼ強さよ帰る雁

けふ迄はよく辛抱した雁よ雁よ

雁鳴や今日本を放るると

みちのくの田植見てから帰る雁

行たいか雁伸上り伸上り

古池や先御先へととぶ蛙

今の間に一喧嘩して啼かはづ

薄緑やどさり居て鳴く蛙

大榎小楯に取つて啼かはづ

御地蔵の膝にすわつてなく蛙

御社へじくなんで入るかはづ哉

けふ明し窓の月よやなく蛙

供部屋にさはぎ勝なり蛙酒

寝た牛の頭にすはるかはづかな

花桶に蝶も聞かよ一大事

一人茶や蝶は毎日来てくれる

蝶とぶやしんらん松も知つた顔

木の陰やてふと宿るも他生の縁

つぐら子の口ばたなめる小てふ哉

田の人の内股くぐるこてふかな

庭のてふ子が這へばとびはへばとぶ

門の蝶子が這へばとびはへばとぶ

はつ蝶や会釈もなしに床の間へ

夕暮にがつくりしたと草のてふ

世の中は蝶も朝からかせぐ也

内中にきげんとらるる蚕哉

惣々にきげんとらるる蚕哉

それ虻に世話をやかすな明り窓

夕月や鍋の中にて鳴田にし

蛤や在鎌倉の雁鴎

萩の芽や人がしらねば鹿が喰

人つきや野原の草も若盛り

若草で足拭ふなり這入口

若草や今の小町が尻の跡

我国は草さへさきぬさくら花

なの花にだらだら下りの日暮哉

菜畠の花見の客や下屋敷

菜の花や西へむかへば善光寺

野大根酒呑どのに引れけり

木々もめを開らくやみだの本願寺

北浜の砂よけ椿咲にけり

春の日の入所なり藤の花

梅さくや子供の声の穴かしこ

梅さくや犬にまたがる金太郎

紅梅や縁にほしたる洗ひ猫

家内安全と咲けり門の梅

黒塗の馬もぴかぴか梅の花

ちりめんの猿がいさむや梅の花

梅がかや狐の穴に赤の飯

梅の木や庵の鬼門に咲給ふ

梅満り酒なき家はなき世也

片隅の天神さまもうめの花

門口やつつぱり廻る梅一枝

下谷一番の顔して梅の花

捨扇梅盗人にもどしけり

ちる梅を屁とも思はぬ御顔哉

鳥の音に咲うともせず梅の花

薮梅の散もべんべんだらり哉

比もよし五十三次華見笠

似た声の径は聞也華雲り

正直はおれも花より団子哉

花さくやとある木陰も開帳仏

花の世は石の仏も親子哉

花の世は地蔵ぼさつも親子哉

花さくや爺が腰の迷子札

空色の傘のつづくや花盛り

御印文の頭に花のちりにけり

声々に花の木蔭のばくち哉

さすが花ちるにみれんはなかりけり

寝ころぶや御本丸御用の花の陰

花衣よごれ去来と見ゆる也

花見笠一日わらぢのぐはひ哉

蕗の葉に煮〆配りて花の陰

ほくほくと花見に来るはどなた哉

親負て子の手を引いてさくら哉

軍勢甲乙入べからずとさくら哉

花桜是にさへ人の倦日哉

見かぎりし古郷の桜咲にけり

ばばが餅ととが桜も咲にけり

待々し桜と成れど田舎哉

桜花ちれちれ腹にたまる程

百尋の雨だれかぶる桜哉

としよりも目の正月ぞさくら花

門桜ちらちら散るが仕事哉

君が代の大飯喰ふてさくら哉

君なくて誠に多太の桜哉

さくらさく哉と炬燵で花見哉

里の子の袂からちる桜かな

先生なくなりてはただの桜哉

散る桜心の鬼も出て遊べ

散る桜心の鬼も角を折る

散桜称名うなる寺の犬

隣から気の毒がるや遅ざくら

寝並んで遠見ざくらの評議哉

畠中にのさばり立る桜哉

末世末代でもさくらさくら哉

深山木のしなの五月も桜哉

欲面へ浴せかけたる桜哉

桃咲や犬にまたがる悪太郎

けろりくわんとして烏と柳哉

犬の子の踏まへて眠る柳哉

門柳しだるる世事はなかりけり

洗たくの婆々へ柳の夕なびき

眠り覚て柳の雫聞夜哉

墓手水御門の柳浴てけり

右は月左は水や夕柳

水まして蝦這のぼる柳哉

柳からまねまね出たり狐面

夏の寝覚月の堤へ出たりけり

夏の夜や河辺の月も今三日

夏の夜や枕にしたる筑波山

短夜をさつさと開く桜かな

暑き夜や藪にも馴てひぢ枕

けふもけふも翌もあついか薮の家

じつとして白い飯くふ暑かな

稗の葉の門より高き暑哉

萱庇やはり涼しき鳥の声

涼風を真向に居へる湖水哉

涼しさは三月も過る鳥の声

涼風も隣の竹のあまり哉

朝涼や汁の実を釣るせどの海

涼しさは蚊を追ふ妹が杓子哉

涼しさや扇でまねく千両雨

雨三粒天から土用見舞かな

五月雨夜の山田の人の声

五月雨の竹にはさまる在所哉

朝顔に翌なる蔓や五月雨

ちさい子が草背負けり五月雨

夕立や乞食どのの鉢の松

夕立を見せびらかすや山の水

翌ははや只の河原か夏の月

夏の月河原の人も翌引る

家陰行人の白さや夏の月

ツあらしかいだるげなる人の顔

草刈の馬に寝て来ル青あらし

夏山ののしかかつたる入江哉

姫ゆりの心ありげの清水哉

わらぢ売る木陰の爺が清水哉

青田原箸とりながら見たりけり

箸持つてぢつと見渡る青田哉

下手植の稲もそろそろ青みけり

かたつぶりそろそろ登れ富士の山

大川へはらはら蚤を御祓哉

御鴉も鶯も潜る茅の輪哉

それでこそ古き夕べぞ葺菖蒲

鳴さうな虫のあれあれ葺あやめ

君が代は乞食の家ものぼり哉

つかれ鵜の節句やすみもなかりけり

汗拭て墓に物がたる別哉

小娘も菩薩気どりよ更衣

小短き旅して見たや更衣

更衣松風聞に出たりけり

杉の香に鶯ききぬ衣がへ

朝湯から直に着ならふ袷哉

白妙の帷子揃ふ川辺哉

寺の児赤かたびらはいつ迄ぞ

夕ぐれの古帷子を我世かな

我門や蓙一枚のなつ座敷

かくれ家や死ば簾の青いうち

むら雨やほろがやの子に風とどく

翌日も翌同じ夕べや独り蚊屋

鹿の背にくすくす鳥の昼寝哉

人並に猿もごろりと昼寝哉

松影や扇でまねく千両雨

団扇張つて先そよがする浮草哉

結構にかやりの上の朝日哉

蚊いぶしや赤く咲けるは何の花

畠々や蚊やりはそよぐ虫の鳴

浦風に旅忘レけり夕涼

松陰に人入替る涼み哉

草履ぬいで人をゆるして涼み台

皆草履ぬがずに通れ夕涼

身の上の鐘ともしらで夕涼み

夜涼や足でかぞへるしなの山

煤けたる家向きあふて夕涼み

夜に入ば下水の側も涼み哉

雨の日やひとりまじめに田を植る

道とふも遠慮がましき田植哉

もたいなや昼寝して聞田うへ唄

しなのぢや上の上にも田うえ唄

鶯も笠きて出よ田植唄

しかの子にわるぢえ付けななく烏

萩の葉にかくれくらする鹿の子哉

こんな夜は庵にもあろか時鳥

うの花も馳走にさくかほととぎす

どこを押せばそんな音が出ル時鳥

江戸庭へ片足入れば時鳥

そつと鳴け隣は武士ぞ時鳥

柳から明て鳴きけりほととぎす

それそこの朝顔つむな閑古鳥

百両の鶯老を鳴にけり

鶯も老をうつるな草の家

鶯も老をうつるな藪の家

よい風を鼻にかけてや行々し

笠程な花が咲たぞとべ蛍

蚊いぶしにやがて蛍も行にけり

茶の水も筧で来る也蛍来る

一握草も売也ほたるかご

蛍こよ蛍こよとよひとり酒

宵越しの豆腐明りの薮蚊哉

夕暮や蚊が鳴出してうつくしき

昼の蚊を後ろにかくす仏かな

豊年の声を上けり門の蝿

川中へ蚤を飛ばする旦哉

うら山を遊び歩行や寺の蚤

羽蟻出る迄に目出度庵哉

ねがはくば念仏を鳴け夏の蝉

我宿のおくれ鰹も月よ哉

昼顔にふんどし晒す小僧かな

けし提て群集の中を通いけり

善尽し美を尽してもけしの花

扇にて尺をとらせるぼたん哉

掃人の尻で散たる牡丹かな

蓮の香や昼寝の上を吹巡る

犬の声ぱつたり止て蓮の花

なでしこや地蔵菩薩の跡先に

浮草や魚すくふたる小菅笠

朝富士の天窓へ投る早苗哉

象潟や蛍まぶれの早苗舟

麦秋の小隅に咲る椿かな

ことし竹真直に旭登りけり

藪竹もわかいうちとてそよぐ也

竹の子の影の川こす旭哉

一番の大竹の子を病かな

葉がくれの瓜を枕に子猫哉

草の戸や一月ばかり冷し瓜

門口にわか葉かぶさる雨日哉

存分に藤ぶら下るわか葉哉

芝でした腰掛茶屋や夏木立

法談のてまねも見へて夏木立

大寺は留主の体也夏木立

門脇や栗つくだけの木下闇

柿の花おちてぞ人の目に留る

卯の花の垣はわらぢの名代哉

花うばら垣ね曲る山家哉

もまれてや江戸のきのこは赤くなる

御地蔵の玉にもち添ふ李哉

門の月暑がへれば人もへる

次の間の行灯で寝る夜寒哉

庵の夜の遊かげんの夜寒哉

我庵や夜寒昼寒さて是は

山見ても海見ても秋の夕哉

御旅宿の秋の夕を忘れたり

芦の穂を蟹がはさんで秋の夕

島々や一こぶしづつ秋の暮

夜は長し徳利はむなし放れ家

夕蝉の翌ない秋をひたと鳴く

霜おくやふとんの上の天の川

ゆかしさよ田舎の竹も天の川

出る月のかたは古郷の入江哉

さぞ今よひ古郷の川も月見哉

月今よひ古郷に似ざる山もなし

月今よひ古郷に似たる山はいくつ

月今よひ山は古郷に似たる哉

月やこよひ舟連ねしを平家蟹

古郷に似たる山をかぞへて月見哉

よ所からはさぞ此島を月見哉

数珠かけて名月拝む山家哉

御の字の月夜也けり草の雨

御の字の月夜なりけり草の花

十五夜もただの山也秋の雨

名月や羽織でかくす欲と尿

名月や仏のやうに膝をくみ

住吉の灯また消ル秋の風

秋風や藻に鳴虫のいくそばく

鳥飛や人は藻に鳴秋の風

芦の穂の波に屯ス野分哉

内に居ばおどり盛りの野分哉

ざぶざぶと暖き雨ふる野分哉

ぬくき雨のざぶりざぶりと野分哉

野分して又したたかのわか葉哉

山は虹いまだに湖水は野分哉

寝むしろや野分に吹かす足のうら

いつぞやがいとまごひ哉墓の露

白露に片袖寒き朝日哉

人問わば露と答へよ合点か

身の上の露ともしらでさはぎけり

白露の身にも大玉小玉から

稲妻やすすきがくれの五十顔

稲妻に泣もありけり門すずみ

朝霧にあはただし木の雫哉

秋霧や河原なでしこぱつと咲く

かたみ子や母が来るとて手をたたく

末の子や御墓参りの箒持

かき立つて履見せる灯籠哉

御揃ひや孫星彦星やしやご星

川上にしばし里ある花火哉

しずかさや外山の花火水をとぶ

しばらくは湖も一つぱいの玉火哉

しばらくは闇のともしを花火哉

縁はなや二文花火も夜の体

負角力親も定めて見ていべき

楠に汝も仕へしかがし哉

人はいさ直な案山子もなかりけり

老の身やかがしの前も恥しき

姨捨しあたりをとへばきぬた哉

飯けむり賑ひにけり夕ぎぬた

近砧遠砧さて雨夜かな

神前の草にこぼして新酒哉

うかれ舟や山には鹿の妻をよぶ

おれがふく笛と合すや鹿の声

淋しさに鵙がそら鳴したりけり

鵙なくやむら雨かはくうしろ道

雁おりて畠も名所のひとつ哉

天津雁おれが松にはおりぬ也

門の雁袖引雨がけふも降

雁おりよ昔の芦の名所也

雁鳴やあはれ今年も片月見

山雀も左右へ別るる八島哉

満汐や月頭には虫の声

虫の声しばし障子を離れざる

鳴ながら虫の流るる浮木かな

蓑虫や鳴ながら枝にぶら下る

蓑虫が餅恋しいと鳴くにけり

日ぐらしや我影法師のあみだ笠

夕日影町いつぱいのとんぼ哉

蜻蛉の百度参りやあたご山

ぬぎ捨し笠に一ぱいいなご哉

ばらばらと臑に飛つくいなご哉

水鉢にちよつと泳ぎしいなご哉

きりぎりす野の牛も聞風情哉

小便の身ぶるひ笑へきりぎりす

我死なば墓守となれきりぎりす

赤い花頬ばつて鳴きりぎりす

きりぎりす声をからすな翌も秋

古犬や蚯蚓の唄にかんじ顔

片隅に日向ぼこして隠居菊

酒臭き黄昏ごろや菊の花

猫の鈴夜永の菊の咲にけり

痩菊もよろよろ花となりにけり

大菊の秋もずんずとくれにけり

朝顔をふはりと浮す茶碗哉

鈴がらりがらり朝顔ひとつさく

夕立をくねり返すや女郎花

鹿垣にむすび込るる萩の花

山畠やそばの白さもぞつとする

寒いぞよ軒の蜩唐がらし

穂すすきや細き心のさわがしき

夕紅葉谷残虹の消へかかる

涼しさのたらぬ所へ一葉哉

幸にやきもちくるむ一葉かな

あつぱれに咲揃ふ昼の槿哉

あつぱれの山家と見ゆる木槿哉

朝ばかり日のとどく渓のむくげ哉

てふてふのいまだにあかぬ木槿哉

花木槿家不相応の垣ね哉

花木槿里留守がちに見ゆる哉

木槿しばし家不相応のさかり哉

影法師の畳にうごくふくべ哉

へちまづる切つて支舞ば他人哉

栃の実やいく日転げて麓迄

団栗と転げくらする小猫哉

雨上り柱見事にきのこ哉

我好て我する旅の寒さ哉

門垣にほしておく也丸氷

さわぐ雁そこらもとしが暮るかよ

手枕や年が暮よとくれまいと

初時雨夕飯買に出たりけり

洛陽やちとも曲らぬ初時雨

山鳩が泣事をいふしぐれ哉

しぐれ捨てしぐれ捨てけり野の仏

山寺の豆入日也初時雨

かけがねの真赤に錆びて時雨哉

鶏頭の立往生や村時雨

しぐるるや逃る足さへちんば鶏

山人の火を焚立る時雨哉

こがらしや壁のうしろはえちご山

木がらしや天井張らぬ大御堂

木がらしや塒に迷ふ夕烏

じつとして雪をふらすや牧の駒

雪散るやきのふは見へぬ借家札

うまさふな雪やふふはりふふはりと

念仏に拍子付たる霰哉

箕の中の箸御祓や散霰

逃水のにげかくれてもかれの哉

ばせを忌やことしもまめで旅虱

寒垢離や首のあたりの水の月

煤掃て松も洗て三ケの月

おく小野や藪もせき候節季候

傾城がかはいがりけり小せき候

跡臼は烏のもちか西方寺

餅つきや大黒さまもてつくつく

江戸の子の在所の親へ衣くばり

両国や舟も一組とし忘

小十年跡暦や庵の壁

親と子と別れ別れや追れ鳥

逃鳥や子をふり返りふり返り

芭蕉塚先拝む也はつ紙子

ぶつぶつと衾のうちの小言哉

鼠らよ小便無用古衾

舟が着いて候とはぐふとん哉

橇を子等に習つてはきにけり

そり引や犬が上荷乗て行

大犬が尻でこぢるや雪筵

おとろへやほた折かねる膝頭

大名もほた火によるや大井川

旅人にほた火をゆづる夜明哉

わらづとの納豆煙るほた火哉

ひとり身や両国へ出て薬喰

鰒くふてしばらく扇づかひ哉

鰒喰ぬ顔で子どもの指南哉

みそさざい九月三十日も合点か

村千鳥そつと申せばかつと立

寒けしや枯ても針のある草は

我門や只四五本の大根倉

今見れば皆欲目也枯木立

楢の葉の朝からちるや豆腐桶

水仙の笠かりて寝る雀哉

水仙や垣にゆひ込むつくば山

元日や上々吉の浅黄空