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0.はじめに
0.1 品詞
0.2 いくつかの用語 [文・単語][述語・補語][修飾][基本形][句・節][分析の対象]
0.3 「補語−述語」と「主題−解説」
0.4 文の種類
0.5 この本の構成
記号・略号の説明
[補説§0]
§0-1 言語・記号・意味
§0-2 文法・文
§0-3「単語」について [助詞][助動詞][接辞]
(参考:『基礎日本語文法』の「助動詞」)
§0-4 品詞分類表
§0-5 助詞の分類
§0-6 仁田義雄の単語論:論文「格」から
§0-7 「形態素」について
§0-10 文の類型について
§0-10-1 佐久間鼎(1941)
§0-10-2 三尾砂(1948)
§0-10-3 三上章(1953)
§0-10-4 益岡隆志(2000)
§0-10-5 工藤真由美「述語の意味類型」
この本は日本語教育のために、現代日本語の文法を考える本です。
この本では「単語」よりも「文」を重視します。ですから、初めから「文」
を扱います。現実に日本語を使う場合、「文」が基本の単位になりますし、日
本語教育でも、教科書の第一課から「文」の形で入っていくことが多いからで
す。日本語にはどんな「文」の型、「文型」があるのかを考えます。
「単語」をその形の特徴・文の中での働きによって分類したものを「品詞」
と言います。文法の本は、この品詞の意味用法の解説(「第一章 名詞」という
ように)から始めることが多いのですが、この本ではそうしません。
とはいっても、「文」を説明する時には、どうしても品詞名を使わなければ
なりませんし、その品詞名がわからないと、説明もわからなくなります。それ
で、ここでほんの少しだけ品詞についての紹介をしておきます。
0.1 品詞
この本で使う主な品詞名は次のようなものです。かんたんな説明と、語例を
つけておきます。(下線を引いた文法用語は、すぐ後で説明をします。)
名詞・・・・後に「が」「を」「に」などがついて、補語になる。
述語になる場合は「だ」がつく。「代名詞」も含む。
例 日本 佐藤 木 愛 動き 重さ もの こと 私 あれ
ナ形容詞・・・・述語になり、基本形が「−だ」で終わる。
また、名詞の前に来る場合は「−な」の形になる。
例 きれいだ 親切だ ひまだ かんたんだ / 親切な人
イ形容詞・・・・述語になり、基本形が「−い」で終わる。
基本形のままで名詞の前にも置ける。
例 大きい やさしい 悲しい ない / 大きい本
(単に「形容詞」と言った場合は、ナ形容詞・イ形容詞の両方を
指します)
動詞・・・・述語になり、基本形が「−u」で終わる。
例 書く 壊す 悲しむ できる いる ある
副詞・・・・述語を修飾する。
例 ゆっくり とても ずっと まだ たぶん なるべく
連体詞・・・・名詞を修飾する。
例 その こんな あらゆる ある ろくな たいした
接続詞・・・・文と文、名詞と名詞などをつなぐ。
例 そして けれども さて なぜならば および または
助動詞・・・・述語の後につき、さまざまな意味を加える。
例 らしい そうだ だろう まい
(助動詞の範囲については、「補説§0-5」を見てください)
助詞・・・・名詞について、述語との関係を示したり、語と語をつないだ
り、述語の後につけて意味を加えたりする。
例 が を に の と から より ので は も ね
感動詞・・・・呼び掛けや応答・あいさつのことばなど、文の他の部分か
ら独立したことば。
例 ねえ はい いいえ こんにちは さようなら じゃ
[文・単語][述語・補語][修飾][基本形][詞・句・節][分析の対象]
品詞の説明の中に、他の専門用語が出てしまいました。基本的な術語の説明に
他の術語が出てしまうと、結局堂々めぐりになってしまうのですが、うまく避け
ることは難しいことです。
ここで、それらを含めて、文の成分(全体を構成する部分)と、成分同士の関
係についてのいくつかの用語をかんたんに説明しておきます。
[文・単語]
「文」「単語」という概念は、文法全体の基礎になるもので、多くの議論があ
るところです。(基本的な概念ほど、実は根本的な問題を多く含むものだという
ことは、他の学問分野にも共通してみられることです。)
ここでは、そういう議論には踏み込みません。常識的な共通理解があるものと
して、話を先に進めます。(なお、どんな問題があるのかに興味のある方は「補
説§0-4」を見てください。)
さて、上に出て来た専門用語の中でまず説明をしておきたいものは、「補語」
「述語」「修飾」と「基本形」の四つです。
[述語・補語]
おそらく、世界のどの言語にも、動詞のようなものと、名詞のようなものがある
と思われます。そして、その動詞と名詞とを組み合わせて文を作り、外界の事象
や自分の意思・感情などを表現していると考えられます。その、文の中心になる
動詞を、文の成分としては「述語」と言い、動詞と一緒になって事柄を表現する
名詞を「補語」と言います。
この「述語」になれる品詞は、言語によって違います。日本語の場合は、形容
詞や「名詞+だ/です」も述語になることができますが、英語では名詞や形容詞
も「be動詞」という動詞が必要ですから、述語は全部動詞だと言えます。また、
朝鮮語の文法は日本語と似たところが多いのですが、形容詞が動詞の中の下位分
類として見なせる点が違います。
日本語では文の終わりに述語があり、その前に補語がいくつか並びます。つま
り、大まかに表せば次のようになります。
補語(+補語)+述語
日本語で補語になるのは「名詞+助詞」の形が普通です。
例1 昨日、駅前で火事があった。
この例では、動詞「あった」が述語、「昨日・駅前で・火事が」はすべて補語
です。補語には必須のものと副次的なものがあります。述語「あった」に対して
「火事が」は必須です。「あった」だけでは(文脈・場面で補われない限り)一
つの文としてある事柄を表しているとは言えませんが、「火事があった」とすれ
ば、一つの事柄の描写として成り立ちます。
それに対して「昨日・駅前で」は付加的な情報で、補語として副次的なもので
す。よりくわしく事柄を説明していますが、それがないと文が成立しないという
ものではありません。(これは、文の構造についての話であって、実際にその文
が使われる場面で、何が重要な情報か、という話とは別です。くわしくは「4.3.1
補語の型」や「4.5.1 所デ」を見てください。)
必須補語は「Nが」だけではありません。「行く」では「Nが・Nへ/に」、
「食べる」では「Nが・Nを」が必須補語です。補語については「4.動詞文」と
「6.補語のまとめ」でくわしく取り扱います。
単語の分類である「品詞」と、「文の成分」の呼び名である「述語」や「補語」
との関係がわかりにくいかもしれません。建物でたとえれば、「材木」という材
料が、家の成分(部分)としては「柱」になったり、「床板」になったりするよ
うなものです。また逆に、「床」という成分は、場合によって「材木」だったり
「タイル」という材料だったりするわけです。文の場合は、「補語」や「述語」
が「成分」の呼び名で、それを形作る材料が「名詞」や「動詞」という「品詞」
です。例を下にあげます。
私の 辞書は ここに あります。
名詞+助詞 名詞+助詞 名詞+助詞 動詞+接辞 [品詞]
修飾語 補語 補語 述語 [文の成分]
(「ます」のところの「接辞」については「補説§0-5」を見てください。)
[修飾]
「修飾」というのは、ある言葉が他の言葉をくわしく説明したり、限定したり
することを言います。例えば、次の例では「その」が「火事」を、「やって来た」
が「消防車」を、「すぐに」が「消し止められた」を、それぞれ修飾しています。
そして、「修飾語」という文の成分になっています。
例2 その火事は、やって来た消防車によってすぐに消し止められた。
修飾についてのくわしい話は「10.修飾」でします。
[基本形]
それから、「基本形」という用語について。これは、動詞や形容詞のように文
の中での使われ方によって形が変化する言葉の、他の形の用法と対立する、最も
機能の多い形を呼ぶ名前です。
動詞や形容詞の形の変化と(これを「活用」と呼びます)その使われ方につい
ては、「21.活用・活用形」で述べます。動詞とイ形容詞の基本形は、辞書に使
われているので「辞書形」と呼ばれることも多いです。ただし、ナ形容詞だけは
基本形から「だ」をとった形が辞書に載せられています。
[句・節]
次に、文の分析の単位についての用語を二つ。
「句」とはいくつかの単語がまとまってある品詞と同じような働きをする
ものに使われます。名詞句・副詞句の例を下にあげます。
本 名詞
私の本 名詞+助詞+名詞 名詞句
ゆっくり 副詞
とてもゆっくり 副詞+副詞 副詞句
「節」は、「補語+(修飾語)+述語」のまとまり、つまり文に相当するような
まとまりが文の一部となったものを呼びます。くわしくは「45.複文について」
以下を見てください。
[分析の対象]
なお、分析の対象とするのは、現代日本語(東京方言)の話し言葉(ただし、
比較的整った形の、つまり初中級の日本語教科書の会話のような)、及び話し言
葉に近い書き言葉(初中級の日本語教科書の読解のための文のような)とします。
本当の、録音された会話や、複雑な、かなり凝った書き言葉の文章などを分析す
る場合の問題は、この『概説』が扱える範囲を超えています。
また、「話し手」という言葉で、文章の「書き手」も含めて言うことにします。
また、「聞き手」という言葉で「読み手」も含めて言います。
上で、「補語」と「述語」という用語を紹介しました。この「補語−述語」の
関係が、基本的な文の骨組みとなります。
文というものは何かを述べているものです。その文を形作るさまざまな成分の
中で、述語が何かを「述」べる中心になる語で、補語はそれを「補」う語です。
そのほかのもの、例えば「修飾語」は、文の骨組みという点では、副次的なも
のです(補語の中にも副次的なものがあります)。先ほどの例、
その火事は、やって来た消防車によってすぐに消し止められた。
で言えば、「消し止められた」がなければそもそも文になりませんが、「すぐに」
はなくてもいいものです。
×その火事は消防車によってすぐに。
その火事は消防車によって消し止められた。
また、必須補語がなければ、(文脈などからわからない限り)そもそもどうい
う事柄なのかわかりません。
?消防車によってすぐに消し止められた。
このように、文が表すある「事柄」の中心となるのが「補語−述語」の構造で
す。
しかし、「補語−述語」以外に、文の構造に関するもう一つの重要な見方があ
ります。でき上がった文の、いわば静止した状態の骨組みではなく、その文が文
脈(話の流れ)の中でどのように使われているか、という点に注目することから
見えてくる構造です。
上で使った例をもう一度出します。
1 昨日、駅前で火事があった。
2 その火事は、やって来た消防車によってすぐ消し止められた。
初めの文では「火事があった」と起こった事がらをそのまま述べています。2
の文では、その「火事」を取り上げて、それについて説明を加えています。その
ことは、2の文を次の3の文と比べるとはっきりします。
3 消防車がやって来て、すぐその火事を消し止めた。
この文は、2の文とは違い、1の文と同じように、起こった事がらをそのまま
述べています。この3の文を1の文に続けると、
(何が起こった?)
「火事があった」
(次に何が起こった?)
「消防車が火事を消した」
というつながりになります。
2の文は違います。「火事」を話の中心にして、それに対する疑問に答えてい
ます。2の文は、1の文を受けて、
(何が起こった?)
「火事があった」
(火事はどうなった?)
「火事は消防車によって消された」
というつながりを作ります。
この例の「火事は〜」のように、ある語を取り上げて、それについて何かを
述べるような形の文を「主題−解説」型の文、略して「主題文」と呼びます。
そしてこの「火事は」のような「名詞+は」を「主題」と呼びます。
この考え方によると、日本語の文は、2のような主題文と、1や3のような
主題のない文、「無題文」の二つに大きく分けられることになります。
以上のように、「補語−述語」という文の骨組み以外に「主題−解説」とい
うとらえ方で日本語の文について考えることは、非常に重要なことです。そう
することによって、上の例2と例3の違いを知り、それらをうまく使い分ける
ための規則、つまり主題文と無題文を適切に使うための文法を記述することが
できるのです。
上の例2では、「火事は」はこの文の主題であると同時に、「消された」と
いう述語の補語になっています。二つの機能を果たしているのです。この二つ
の機能の重なりを理解することが、日本語の文の構造を理解する上で必要なこ
とになります。
たぶん、英語などの文法では、このような考え方をあまりしなかったと思い
ます。それは、英語などではこの「主題−解説」という構造がはっきりした形
で表されないからです。日本語では、「名詞+は」という、非常によく使われ
る形がこの「主題」を示す役割を持っています。日本語の文法を考えるには、
そのことに特に注目する必要があります。
文の種類についても少し考えておかなければなりません。上で、「主題文」
「無題文」という聞き慣れない用語を使いましたが、もっと一般的な文の分類
があります。
外国語を勉強すると、「疑問文・命令文・否定文」などという呼び方が出て
くると思います。それらの他にもいくつかの「〜文」があり、整理すると、次
のようになります。
文の(聞き手に対する)機能によって
平叙文 例 私は行きます
疑問文 あなたは行きますか
命令文 (君が)行け
話し手の判断の肯否
肯定文 私は行きます
否定文 私は行きません
述語の品詞によって
名詞文 私は日本人です
形容詞文 私は頭が悪いです
動詞文 私は行きます
文の複雑さ(述語の数)
単文 私は行きます
複文 私は食事をしてから行きます
1の「疑問文・命令文」は、「ムード」(第2部)の中でとりあげます。
「平叙文」というのは、「疑問文・命令文」に対して、聞き手への働きかけのな
い「ふつうの文」を指すことばです。
2の「肯定文・否定文」は、他の言葉で説明しにくい用語です。述語が「−な
い」や「−ません」の形になるのが「否定文」、そうでない文が肯定文、としま
す。「否定」も「ムード」の中でとりあげます。
4の「単文・複文」は、述語が一つの文が単文、述語が二つ以上ある複雑な文
が複文、です。複文は第3部でとりあげます。
3の「名詞文」などは、さきほどの「述語」の品詞によって文を分類したもの
です。これは英語教育では使われない言葉かもしれませんが、日本語教育では必
要な考え方です。(英語の「五文型」とは違います。)
日本語のさまざまな文法事項(時の表現や副詞の用法やムードの表現、特に主
題を表す「名詞+は」の使われ方など)が、この「名詞文/形容詞文/動詞文」
という分類と密接な関係があります。
この本も、まずこの分類によって文を分け、それぞれの説明から話を始めるこ
とにします。
ここで、この本全体の組み立てをかんたんに述べておきます。用語がわからな
くても気にしないでください。
文型を大きく三つに分けました。いわゆる「単文」・「複文」と、そして文を
越える文法事項を「連文」として扱うことにしました。さらに「単文」を「基本
述語型」と「複合述語」の二つに分けて、それぞれを「第1部」「第2部」とし
ました。第3部が「複文」、第4部が「連文」です。
はじめに
単文
1 基本述語型と修飾語(第1部)
a 名詞文・形容詞文・動詞文
b 修飾語など
2 複合述語(第2部)
a テンス・アスペクト・ボイスなど
b ムード
複文(第3部)
a 連用節
b 連体節・名詞節・引用
連文(第4部)
a 主題のつながり
b 接続詞
おわりに
各品詞の説明など、文型の説明の中で取り上げにくい事項は、別にまとめて説
明しました。「第1部」の「基本述語型」の後のほうの「修飾語」から「副助詞」
までがそれです。
文の複雑さの違い、つまり単文と複文の違いを重要視して、大きく分けて取り
扱いました。そのため、「形式名詞」「副助詞」「格助詞相当句」などが単文と
複文の2か所で扱われています。
例文はできるだけやさしいものにしました。第1部の基本述語型の例文は丁寧
体(デス・マス体)にしましたが、第2部の初めで活用の説明をしたあとは普通
体の例文にしました。
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1. 文の「文法性」を示す記号の使い方
「×」は、その文が「非文法的」であること、言い換えれば、ほとんどの日
本語使用者が「日本語として間違っている」と感じるような文であることを示
します。
それは、その文だけの問題ではなく、設定された文脈にあっていない場合も含
みます。
×私はこれが本です。
×「あなたはどなたですか」「田中は私です」
「?」は、「×」とするほどではありませんが、不自然に感じられるものです。
?この辞書は日本語のです。(「日本語の辞書です」の意味で)
?「どれがあなたの本ですか」「これは私の本です」
2. 品詞などの略号
N 名詞(Noun)
V 動詞(Verb)
A 形容詞(Adjective)
Na ナ形容詞(Nominal adjective, na-adjective, Adjectival noun)
Ai イ形容詞(i-adjective)
〜 文型表示の中では、すべての述語(動詞・形容詞・名詞述語)
(例文中では、「以下省略」の場合もあります)
例: NのN
V−たい(です)
A−そうだ
Na−かもしれない
Ai−かった
〜と思う
(それぞれの記号がどのような活用形になるかは、その環境によります)
/ 置き換えられる語句の間に使用
例: 私は/が 行きます。(「私は」または「私が」)
大きいの/こと はいいことだ。(「大きいの」「大きいこと」)
( ) 省略可能な語句、補足説明
例: この人(だけ)が来てくれた。(限定)
[参考文献]
→主要参考文献
[補説§0]へ
01日本語文型の概観へ
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