ホーム → 文法 → 庭三郎
19.終助詞・間投助詞
19.1 終助詞
19.2 間投助詞
「補説§19」へ
19.1 終助詞
19.1.1 ネ(エ) 19.1.2 ヨ 19.1.3 ナ(ア)
19.1.4 ワ 19.1.5 サ 19.1.6 ゾ
19.1.7 ゼ 19.1.8 カ(イ) 19.1.9 イ
19.1.10 ノ
19.1.11 その他 (モノ、カシラ、ッテ、ッケ、ヤ、トモ)
19.2 間投助詞
19.2.1 ネ 19.2.2 ヨ
19.2.3 サ 19.2.4 ナ
[補説§19]
§19.1 「ネ」(文法書、国語辞典などから)
§19.2 「ヤ」
§19.3 「ワ」
§19.4 佐治圭三の論文から
§19.5 「カ」:岩波国語辞典/「か」のさまざま
§19.6 「ノ」:『現代日本語文法』『大辞泉』から
終助詞は、文のいちばん終わりについて、その文を言うときの話し手の、そ
の文を受け取る相手に対する「働きかけの気持ち」を示す助詞です。聞き手に
対して同意を求めたり、確認をしたり、強く主張したりします。「複合述語」
のところで扱う「ムード」の類に似たものですが、形が小さく、それ自体は変
化しないことが特徴です。学習者から見れば、特にはっきりした意味内容を持
たないようにも見え、日本人がしきりに使うので何となくまねて使ってみる、
というぐらいのものでしょう。しかし、日本人からすると、適確に使ってくれ
ないとどうも落ち着かないものですし、意外に、使わなければ変に感じられる
場合もあります。使い過ぎるのもうるさいものですし。なかなか、学習者にと
っても、日本語教師にとっても難しいものです。
さて、初級の段階でまず出されるのは、日常の会話で特によく使われる「ね
(え)」です。学習者が使えるようになるのは、「ね」のほかには「よ」ぐらい
でいいでしょう。その他の終助詞は普通体で使われ、乱暴な響きになりがちで
す。疑問を作る「か」も終助詞とされますが、これについては疑問文のところ
でも述べます。(「普通体」については「22.文体について」を見てください)
終助詞は、依頼・勧誘・命令・禁止(否定命令)など、さまざまな「ムード」
のある文にも付き、その付き方の制限を記述することが必要です。それぞれの
ムードについては後でくわしくとりあげますが、ここで終助詞の付き方だけま
とめておきます。
19.1 終助詞
19.1.1 ね(え):同意・確認
[同意]
話し手が聞き手とあることについて同じように考えている(感じる)ことを
示します。または、聞き手にそうであることを求める言い方です。この用法を
「同意」と呼んでおきます。
1「これはいいですよ」「本当にそうですね」
2「今日は寒いね」「寒いね」
3「疲れたねえ」「ああ、そうだねえ」
「よ」の主張(この用法は後で述べます)に対して、「ね」で同意したり、
同意を求める「ね」に対して「ね」で答えています。これらの「ね」を省略す
ると、どうも落ち着かない文になります。相手に対して語りかけているという感じ
がしません。
4「これはいいです」「本当にそうです」
5「今日は寒い」「寒い」
6「疲れた」「ああ、そうだ」
特に同意を求めず、一人で感心しているような場合にも使いますが、やはり
横に誰かいないと不自然です。例えば、展覧会で、
7 田中「これいいねえ」
山田「もう帰ろうよ」
田中(無視して)「ふうん。やっぱりいいねえ」
[確認]
また、聞き手に対して何かを確認する時、「ね」を付け、上昇調で言います。
「確認」というのは、話し手にとって不確実な事柄を、確実に知っていると
思われる聞き手に聞いて、その不確実さを埋めることです。
これに似ているのが「疑問」ですが、疑問の「か」は、話し手がその事柄に
ついて知識がない時の質問です。「ね」は、たぶんそうだと思っても確かでな
いので確かめる時に使います。これも、広い意味で言えば、相手に、自分の予
想に同意することを求めています。これは「ねえ」とはっきり伸ばすと変な感
じがします。
「これはあなたのカサですね↑」「はい、そうです」
「あなたも行きますね↑」「はい、行きます」
?あなたも行きますねえ。 cf.あんたもやるねえ。
この「ね」も、つけないと「確認」の意味になりません。聞き手のことにつ
いて断定的に言うことになり、別の意味になります。
これはあなたのカサです。
あなたも行きます。
「あなた」つまり聞き手のことに関しては、話し手より聞き手のほうが知っ
ているのがふつうです。上の二つの例はその原則に反して、話し手が聞き手に
教えていることになります。もちろん、聞き手が知らない、聞き手に関するこ
とを教えてあげるような場合はこれでいいのですが。それにしても、「あなた
も行きます」という例では、聞き手が行くかどうかの決定を話し手がしている
ような感じがするので、かなり特別な状況になります。
それに対して「確認」の「ね」をつけると、話し手が自分の不確かな判断を、
よりよく知っている聞き手に対してもう一度確かに認めさせることになり、上
の例のように自然な応答になります。
ですから、自分の意志的動作や自分の判断について「ね」をつけると変です。
「あなたも行きますね?」「?はい、行きますね」
「これでいいですね?」「?はい、いいですね」
学習者は、相手の考えに「同意」するつもりでこう言ってしまいがちです。こ
の辺が「ね」の使い方の難しいところです。
[主張とともに]
もう一つ、自分の考えを相手にはっきり示す「ね(え)」があります。次で見
る「よ」に近いものです。質問に対する答えのことが多いです。
それは違いますね(え)。(相手の考えに反対して)
私は、そうは思いませんねえ。
「これでいいですか」「これではだめですね」
これは「同意」でもなく、「確認」でもありません。
それは違います(よ)。
これではだめです(よ)。
と言ってもいいところです。もちろん、受ける印象は違いますが。
「ね(え)」をつけることによって、「だめです」と言い切った場合の強さを
和らげ、厳しい内容を相手に納得させるような効果を持ちます。しいて言えば、
相手を自分の主張に同意させようというわけです。「よ」だと、意見の対立を
はっきりさせて相手を突き放してしまいます。
もう少し軽い例。
「3時になりましたか」「えーと、まだですね」
「R−52というのはどれですか」「この小さいのですね」
これらも「よ」が使えるところですが、それほど強くなく、ちょっと迷った
あとの答えだったり、相手に優しく教える風だったりします。
[依頼・命令と]
依頼の「V−てください」、「〜なさい」の形の命令にも付きます。依頼や
命令をしたあとで、さらに相手に念を押す気持ち(確認)です。命令形を使った
強い命令にはつきません。(→「31.依頼」「34.命令」)
きっと来てくださいね。
明日の朝は早く起きなさいね。
×早く来いね。
勧誘にも付きます。やはり「確認」の意味合いです。(→「32.勧誘」)
いっしょに行きましょうね。
あしたも遊ぼうね。
これから私の家へ来ないかね。
[疑問文と]
上の例のように、疑問文の「か」の後に「ね」をつける場合があります。
あした、君も行くかね?
この件はどうなったのかね?
年配の男性が、立場が下の人に対して言っているようです。確認ではありま
せんが、それに近い「ね」です。「ねえ」とのばしません。
質問でなく、迷っている気持をそのまま相手に投げかけるような場合は、同
意を求める「ね」に近く、「ねえ」とも言えます。また、聞き手が目上でもよ
くなりますし、丁寧体の「です/ます かね」の形もあります。
(質問でない「疑問文」については「42.疑問文」を見てください)
先生、これでいいですかねえ。
そろそろ始まりますかね。
どう(です)かねえ。
願望を表す場合もあります。
雨が降らない(です)かねえ。
雨が降らないかなあ。(「です」を入れるのは不自然)
「なあ」と比べると、やはり聞き手の存在と、それに対する配慮を感じます。
[男女の使い方の差]
終助詞は男女の言葉の差がはっきり出るところです。丁寧体ではそれほどで
もありませんが、普通体で、特に「だ」(名詞述語・ナ形容詞)を使うときの
違いが大きかったのですが、今では差がなくなっているようです。
男: きれいだね。 これだね。 見るんだね。
女: きれいね。 これね。 見るのね。
これは、ある世代(どこまでかわかりませんが)までの使い方で、若い女性
同士ではこの「男」のほうを使うそうです。
日本語学習者に対して教師(少し古い世代)がしたしげに普通体でしゃべる
ようになると、教師と学習者の性別の違いが問題になります。教師の言い方を
学生がまねる恐れがあるからです。日本人女性と結婚した外国人男性のことば
が、妙におかしく感じられることがあります。
19.1.2 よ:主張・明示
自分のことばを聞き手に対して強く示します。この言葉は今聞いているあな
たに向けられているのだ、という意味合いです。その内容によっては聞き手と
対立する場合もあります。言わなくてもそれほど不自然ではありませんが、相
手に対する訴えかけがなくなります。上昇調では特に相手に対して知らせると
いう面が強くなります。
1 「この本は面白いですか」「ええ、面白いですよ↑」
2 それはおいしくないですよ。やめたほうがいいですよ。
3 「これ、おいしいですね」「いやあ、まずいですよ↓」
例1は、上昇調で、相手が知らないことを教えています。「よ」はつけなく
てもいいのですが、つけると、単に質問に答えるだけでなく、相手にそのこと
をはっきり伝えようという気持ちが示されます。例3は、下降調で相手の考え
とは違うことを強く主張しています。例2はどちらでも言えるでしょう。
相手の知らない、新しい事柄を伝える場合も、どちらでも言えます。
4 さっき、田中さんが来ましたよ。↑/↓
相手に注意を促すような場合は、上昇調になります。
5 あ、カサを忘れていますよ! ↑
命令、依頼にも付きます。さらに確認し、押し付ける感じです。
明日来てくださいよ。
行きなさいよ。
早く来いよ。
行くなよ。
それぞれ、上昇調と下降調で言えます。下降調の場合は、相手が自分の言葉
に対して否定的な態度をとっている場合に、さらにうながす場合があります。
今日のことはもういいから、明日は早く来いよ。↑
ぐずぐずするなよ、早く来いよ。↓
上昇調のほうがやさしい感じがします。下降調は、言い方によってはいらだ
ちを感じます。
命令形と否定命令「−な」についた場合は、逆に乱暴さが弱まり、親しみの
ある感じがします。「さらに確認する」という意味合いが、直接さを弱めるの
でしょうか。
疑問文の「か」の後に「よ」をつけることがありますが、男の乱暴な?言い
方です。丁寧な「×ですかよ」という形はありません。質問というより、疑い
の表明で、「本当はそうじゃないだろう」という気持ちが含まれることがあり
ます。
やめるのかよ。いいのかよ。大丈夫かよ。
さらには、反語の場合にも使われます。
あいつがこんなところへ来るかよ。(絶対来ないさ)
疑問語のある疑問文では「か」が削除されます。
こんなこと書いたの、誰だよ。誰が書いたんだよ。
電話した? いつよ。いつかけたのよ。
見合いの相手って、どんな人よ。
×誰が書いたのかよ。
[よね]
「よ」と「ね」を合わせた言い方もあります。「よね」だけで、「×ねよ」
という形はありません。「自分の主張」+「相手への配慮」という順です。
「よ」で主張し、かつ「ね」で聞き手に同意・確認を求めるという言い方です。
これでいいよね(え)。
会は3時からだったよね。
田中さん、明日は休みですよね。
ただし、もともと「よ」が付いているところに「ね」がつけ加わったわけで
はありません。最後の例で、「明日は(あなたは)休みですよね」という意味
だとすると、
明日は(あなたは)休みですよ。
というのは、聞き手に聞き手の知らないことを教えるという違った意味になっ
てしまいますから、これに「ね」が付いたとは言えません。むしろ、
明日は(あなたは)休みですね。
のほうが近い意味になります。しかし、これに「よ」が割り込んだとも言えま
せん。「よね」で一つの終助詞と見なしたほうがいいのかもしれません。
[男女の使い方の差]
「よ」も「ね」と同じように、特に「だ」(名詞述語・ナ形容詞)との関係
が難しいです。
男 きれいだよ。 これだよ。 いいよ。
女 きれいよ。 これよ。 いい(わ)よ。
男ことばは「だ」を残しますが、女ことばは「だ」を省略します。イ形容詞
では、昔は「わ」を入れましたが、ある世代から入れなくなり、今の若い女性
では「男」のほうがふつうになってきているようです。
19.1.3 な(あ)
いくつかの違った用法があるので注意が必要です。
a.禁止
まず、動詞の基本形について強い禁止を表す用法があります。表記法と
して、「!」がよく使われます。そうしないと、他の用法とまぎれやすい
からです。
行くな! そんなことをするな。 眠るな!
b.くだけた命令
動詞の中立形(「−ます」をとった形)につきます。
ここはいいから、早く行きな。
それはだめだよ。こっちにしな。
「V−なさい」の省略形と考えられます。
以上の二つは「34.命令」で、他の命令表現とともにまた取り上げます。ど
ちらも「なあ」にはなりません。
c.感嘆
驚き、感心などの強い感情を示します。聞き手がいない場合の独り言で
も使えます。「なあ」と長く伸ばすのがふつうです。丁寧体にはふつう使
いません。基本的には、男ことばです。
きれいだなあ。
疲れたなあ。
よくそんなに早くできるなあ。
いいですなあ。(聞き手を意識しながら、自分の感情を表す。年輩
の男の人の感じ)
d.確認
独り言で、ポツリと言う感じです。自分自身に確認する場合と、聞き手を
意識して、自分の考えを相手の前に示す場合があります。後の場合は「ね」
に近いですが、丁寧体には使えません。基本的に、男ことばです。
これはだめだな。
君のやり方のほうがいいな。
君に来て欲しいんだがな。
おや、雨が降りそうだな(あ)。
たぶんつまらないだろうな。
質問調のイントネーションにすれば、もちろん聞き手に対する確認になり
ます。確認の「ね」に近いですが、かなりぞんざいな言い方です。
君も行ってくれる(だろう)な?
これで十分だな?間違いないな?
一緒に行こうな?
「か」をつけた疑問文の後にもつけられます。積極的な質問ではなく、疑
問を持っていることを相手に伝えるだけです。子供に対して柔らかく質問す
るときに、語尾を高く上げてこの形を使います。「なあ」のほうが答えを待
っている感じがします。
明日も晴れるかな。
あの飛行機はどこへ行くのかな。
ちゃんとはみがきできるかな?
これでいいかなあ。
いつ行くかなあ。
「よ」の後につけることもできます。「よね」に似ています。
まあ、こんなもんだよな。
しっかりやってくれよな。
いい加減にしろよな。
依頼・勧誘の文型と共に使われます。
これを下さいな。
頼むからそんなこと言わないで下さいな。
少し年配の女性という感じがします。
いっしょに行こうな。
こちらは男性です。
19.1.4 わ
女性のことばですが、どんどん少なくなっているようです。丁寧体で使われ
ることはほとんどなくなり、若い世代では普通体でもほとんど使われません。
小説の会話文で使われるのは、ことさら男女差を出すためのものでしょう。
いいわ。/いいですわ。
行くわ。/行きますわ。
意味は軽い主張で、「よ」に近く、最近は「よ」に取って代わられていると
考えればいいでしょうか。もともと、「わよ」という形もあったのですが。
そう、そうだわ。 → そう、そう(だ)よ。
いい?いくわよ! → いい?いくよ!
19.1.5 さ
軽い主張を表す、かなりそっけない言い方です。男言葉ですが、女も乱暴さ
を示すためにわざと使うことがあります。丁寧体とは使えません。肯否疑問文
には付きませんが、疑問詞疑問文にはつけられます。「だ」は省略されます。
まあ、いいさ。
やってもむださ。(×むだださ。)
勝つに決まっているさ。
え?、アメリカ行くって?いつさ。誰と行くのさ。
これ、何のつもりさ。
19.1.6 ぞ
男のかなり乱暴な言い方です。強い主張を表します。聞き手がなくても(独
り言でも)使えます。
俺はあきらめないぞ。絶対に行くぞ。
いいぞ。やれやれ。
絶対にだめだぞ。おまえはまだ中学生だぞ。
そんな事いうと、殴るぞ。
よーし、やるぞー。(自分自身に)
19.1.7 ぜ
男言葉で、かなり乱暴です。「ぞ」に近いのですが、相手の反応を見ている
ところがあります。そのため、独り言ではふつう使わず、勧誘の「V−よう」
とともに使えます。
おい、やつが来るぜ。どうなっても知らないぜ。
いいぜ。なかなかきれいだぜ。
あいつはまだ中学生だぜ。
ああ言ってんだから、何とかしてやろうぜ。(×やろうぞ)
19.1.8 か(い)
疑問文に付ける「か」です。普通体の親しげな話しことばで「かい」となる
ことがあります。
一緒に行くかい?
もういいかい。
「か」と他の終助詞との重なりについてはそれぞれのところで触れました。
普通体での「だ」との関係については「42.疑問文」を見てください。
19.1.9 い
「〜か」の後に「い」が付いて「〜かい」となる外に、「〜だ」が「〜だい」
となることがあります。平叙文ではかなりくだけた話しことばで、断定的な調
子を帯びます。男の子がよく使います。
どうだい、こんなもんだい。
うそだーい。
平叙文よりも、疑問語を使った疑問文では、もっと広く使われます。男性が
多く使います。
誰だい?
問題って、いったい何だい?
19.1.10 の
もともと終助詞である「の」と、説明の「〜のだ」の「だ」を省略した形の
ものがあるようですが、国語辞典ではほとんど終助詞として扱われているよう
です。平叙文で、ふつうの下降調のイントネーションで使うと女性的ですが、
強く言ったりする場合と、疑問・納得の場合は男も使います。
「風邪、どう?」「うん、もういいの」(女)
「これ、大丈夫なの?」「これでいいの!」(男/女)
「ふーん、会社辞めるの。で、これからどうするの?」(男/女)
疑問の場合は「〜のか(い)」の省略した形と考えられます。
「〜のだ」の持つさまざまな意味合いを付け加えます。
丁寧体に付けると、古風な女性の言い方になります。これは「〜のだ」の省
略ではなく、終助詞だとされます。「〜のだ」の意味合いはなく、文末の断定
・質問の調子を和らげる、ということです。
いいんですの。
なさいますの?
19.1.11 その他
終助詞、あるいは終助詞的に使われる形式は意外に多くあります。それらの
意味、微妙な使い分けと、その全体の体系の解明は大きな問題です。日本語で
の伝達行動の中で終助詞の果たす微妙な役割は、述語や補語が文の骨組みを作
るのとはまた別に、非常に大きなものであると思われます。まあ、そういう大
きな話はともかくとして、その他の終助詞をざっと眺めてみます。
[もの]
もともとは形式名詞の「もの」でしょうが、「ものだ」(→ 40.2)のような複
合述語とは違います。「もの」の形は女性の話しことばに響きますが、「もん」
の形ではより広く使われます。理由づけ、いいわけなどをする場合に多く見ら
れます。
そのぐらい分かりますよ。いちおう、大学生ですもの。
だって、きらいなんだもの/もん。
絶対安いよ。何たってものがいいもの。
困っちゃったよ。誰も来ないんだもん。
[かしら]
軽い疑問を表します。多く女性が使いますが、男性も使う場合があります。
雨が降るかしら。
これでいいかしら。
[って]
引用の助詞「と」の代わりに話しことばで使われる形ですが、「〜というこ
とだ/そうだ」の意味で、文末に付けられます。
彼、辞めたって。(辞めたそうだ)
あの人、まだ高校生だって。
[っけ]
すでに知っているはずのことを思い出しながら、聞き手に確認する場合の表
現です。かなりくだけた話しことばです。「〜だ/だった」または「〜んだ/
んだった」に接続します。
君の車、何だっけ。
きょうは木曜日だったっけ。
彼女は、今日は来ないんだ(った)っけ。
「テンス」のところで、過去形の「想起」(→ 23.1)の用法というのをとりあ
げますが、それに関係する用法です。
[や]
「よ」に近く、相手に軽く主張する気持ちを表します。意志形や命令形にも
付けられます。
「どれにする?」「そうだなあ。これでいいや」
これは無理だよ。やめとこうや。
もういい加減にやめろや。
[とも]
相手のことばを受けて、もちろんだ、という気持ちを表す男ことばです。
「来てくれるよな」「もちろん行くとも」
「大丈夫かなあ」「大丈夫だとも」
19.2 間投助詞
以上の終助詞の中で、いくつかのものは「間投助詞」として、文の途中にも
使われます。間投助詞というのは、文の途中にはさんで、間をもたせたり、相
手の反応を見たりするときに使うものです。それぞれ「ね/ねえ」「よ/よお」
のように長く延ばすことができますが、用法の違いはありません。
その意味は、終助詞としての意味に関連はありますが、それほどはっきりし
たものではありません。
学校文法では、この間投助詞が入れられることが「文節」という文の成分の
切れ目を判定する基準になります。補語(+副助詞)や「述語の活用形+接続助
詞」、複合述語などが「文節」となります。
19.2.1 ね
会話の中で、「ね」がよく使われます。丁寧な形「ですね」があることが特
徴です。日本人と普通体で話すことの多い学習者は、この「ね」をよく使うよ
うになりますが、「ですね」を使いこなすことは難しいようで、注意が必要で
す。もちろん、「ですね」にしても下の例のように使いすぎてはいけません。
あのね、これはね、きのうね、新宿でね、・・・
あのですね、これはですね、わたくしがですね、・・・
×あのだね、 これはだね、わたしがだね、 ×きのうだね
注意すべきことは、すでに述べたように、「ね」が付く要素は、いわゆる
「文節」という単位で、名詞ではなく「名詞+助詞」につくことです。
×これね、新宿ね、・・・
「これね」は、「これだね」という名詞述語の「だ」の省略された形なら使
えます。つまり、間投助詞ではありません。
「え?どれのこと?ああ、これね。これはね、・・・」
前の「これね」の「ね」は確認を表す終助詞で、あとのほうの「これはね」
の「ね」は間投助詞です。
その意味合いは、「確認」に近いのですが、内容の確認というより、聞き手
に対して、「私はこのことを言いたい、あなたはこれを聞いているか?」とい
うような、伝達行為の成立のための確認、とでもいったところでしょう。
19.2.2 よ
この「よ」はずいぶん評判の悪いものです。
あのよお、俺よお、きのうよお、・・・
いつもよ、俺が言ってるじゃんかよ、たまにはよ、・・・
「話し方を知らない」若い男の使うもので、学校教育などでは「よくない」
話し方とされますが、実際にはけっこう使われています。もちろん、日本語学
習者には勧められない言い方です。相手に対して自分のことばの一つ一つを軽
く強める、相手に聞かせようとしているという気持ちを伝える、という効果が
あります。
19.2.3 さ
「よ」と同じく、好ましくない言い方とされますが、こちらはずっと軽い感
じがします。用件を切り出したり、言いたいことを言うのを引き延ばしている、
という感じもします。男女とも使います。
あのさあ、きのうさあ、買物に行ったんだけどさあ、・・・
それでさ、ちょっと気の毒に思ってさ、席をゆずってやったんだけ
どさあ、お礼言われちゃってさあ、恥ずかしくなっちゃってさあ、
19.2.4 な
これは男ことばです。年下の相手に言い聞かせているような感じがします。
あのな、おれはな、これでもな、かまわないけどな、・・・
これ見せてな、「あほ!」ってな、言ってやりな。
最後の「な」は終助詞です。
「補説§19」へ
参考文献
森山卓郎・安達隆一199『セルフマスターシリーズ6 文の述べ方』くろしお出版
高橋太郎 1993『日本語の文法』(講義テキスト)
グループ・ジャマシイ編著 1998『日本語文型辞典』くろしお出版
北川千里他 1988『助詞』荒竹出版
益岡隆志 1991『モダリティの文法』くろしお出版
除愛紅1999「「イイ」と「イイヨ」の意味機能−談話における応答を中心に−」
『日本語教育』101
伊豆原英子1993「「ね」と「よ」再考−「ね」と「よ」のコミュニケーション機
能の考察から−」『日本語教育』80
伊豆原英子1994「感動詞・間投助詞・終助詞「ね・ねえ」のイントネーション−
談話進行との関わりから−」『日本語教育』83
井上優1997「「もしもし、切符を落とされましたよ−終助詞「よ」を使うことの
意味」『言語』1997.2大修館
金水敏1993「終助詞ヨ・ネ」『言語』1993.4大修館
楠本徹也1995「終助詞「よ」の待遇性に関する一考察」『東京外国語大学留学生
日本語教育センター論集』21
白川博之1992「終助詞「よ」の機能」『日本語教育』77
鈴木英夫,1976「現代日本語における終助詞のはたらきとその相互承接について」
『国語と国文学』53巻11号
田中俊子1989「モダリティから見た終助詞」『東北大学日本語教育研究論集』4
銅直信子1996「談話参加者の情報量と談話標識−応答文を中心に−」『言語科学
研究』第2号 神田外語大学
蓮沼昭子(1995)「対話における確認行為「だろう」「じゃないか「よね」の確認
用法」『複文の研究(下)』
蓮沼昭子1988「続・日本語ワンポイントレッスン 第2回」『言語』1988.6
大修館
蓮沼昭子「終助詞「よ」の談話機能」小泉古稀記念『言語探求の領域』
服部匡1999,「終助詞ネの音調に関する森山説への疑問」『国語学』199集
マグロイン・花岡直美「終助詞」
林大1986「「なわさよね」のこと」『日本語学』1986.5明治書院
宮崎和人2002「終助辞「ネ」と「ナ」」『阪大日本語研究』14大阪大学
三宅知宏1996「日本語の確認要求的表現の諸相」『日本語教育』89号
山田准1991「終助詞の情報論的機能−「ワ」・「ヨ」・「ネ」とその複合形に
ついて−」『日本語・日本文化』17大阪外国語大学
『新明解国語辞典 第五版』1996 三省堂
目次へ
主要目次へ