補説§38
§38.1 「ようだ」「らしい」 『日本語文法ハンドブック』(初級) 寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味供 『現代日本語文法 モダリティ』 §38.2 「(し)そうだ」:『現代日本語文法 モダリティ』など 「ようだ」「らしい」「(し)そうだ」について、いくつかの文法書を見てみます。§38.1 「ようだ」「らしい」
『日本語文法ハンドブック』(初級)(2000)
「ようだ・みたいだ」はその場の状況からの判断を表す表現 電気がついています。王さんはまだ勉強しているようです。 対象の様子を他のものに例える比喩の用法もある 「ような+名詞」「ように+動詞/形容詞」の形でもよく使われる 二つの意味に解釈できる場合 あの人は日本人のようだ。 「あの人」の国籍を知らない場合は状況からの判断の意味 どうやら/どうも〜 「あの人」が中国人であることを知っている場合は比喩の意味になる まるで〜 「らしい」は状況からの判断を表す場合と伝聞を表す場合の両方にまたがっ た表現 王さんはせきをしている。風邪をひいているらしい。(ようだ) ただし、「らしい」は伝聞にもつながる意味を持つことから無責任なニュア ンスを帯びやすいので、責任を持って発言しなければいけない場合や論文な どでは不適切になることがある。 (医者が患者に) ×胃が弱っているらしいです。この薬を飲んでください。 ようです。 「そうだ」と同じ意味を表す場合 田中さんは来月神戸へ引っ越すらしいですよ。 うわさなど情報源が不明確な場合によく使われるという傾向がある うわさによると田中さんは来月神戸へ引っ越すらしいですよ。 本人に聞いたんですが、田中さんは来月神戸へ引っ越すそうですよ。寺村秀夫『日本語のシンタクスと意味供(1984)
p.243 ヨウダは、ふつう推量と比況の二通りの使いかたがあるといわれるが、その中心的な 意味は、「真実に近い」ということだといえる。「真実かどうか確言はできないが、自 分の観察したところから推しはかって、これが真相に近いだろう」ということが言いた いときは、「推量」になり、「真実でないことは分かっているが、ある対象が真実と似 た様相をもっている」ということが言いたいときはいわゆる比況の表現になる。本章の 対象はその推量的用法であるが、この二つの使い方は、必ずしも截然と区別できない場 合がある。文脈、特に副詞や、前接する述語の意味特徴とか形とか、あるいは状況から 推量か比況かが判別されることが多いけれども、その文だけからはどちらかわからぬこ とも少なくない。たとえば、 あの学生は男のようだ 国に帰ったようです 雨が降っているようだ などは、文脈、状況がなければどちらの意味かわからない。「ドウヤラ」のような副詞 を添えると推量であることがはっきりし、「マルデ」などを添えると比況であることが はっきりする。また、「あの学生」が女性であることがわかっておれば比況の意味にな る。これらの文は、このままではあいまいであるということになる。 先の予想のソウダと、推量のヨウダを比べると、まずソウダのほうは視覚的、直感的 に見たままをいうのに対し、ヨウダのほうは、視覚、聴覚、その他の感覚により得た情 報、あるいは周囲の状況も考慮に入れて推量した結果をいうという違いがある。 ▽「真実に近い」というのはちょっと違うのでは。 「真実に近いと判断される様子だ」ぐらい? 表面的に、あるいは、観察さ れる限りでは「真実に近い」 結局同じ? あとは、それが本当かどうかを知っているかどうか。知らなければ「推量」 そうでないことを知っていれば「比況」 そうであることを知っていれば? ぼかし、または婉曲 皆様お集まりのようですので、〜 「らしい」 寺村『供p.249-252 推量のラシイは、推量のヨウダと共通する部分が大きい。客観的な事実を拠りどころ にして、概ねこうであろうと推量できるということを相手に言おうとするときに使われ る。推量の根拠としている客観的事実は、自分が直接観察して得た情報であることもあ るが、他から聞いた情報である可能性もある。この後で見る伝聞のソウダは、100パーセ ント他から得た情報ということがはっきりしているが、ラシイは、ヨウダと同様、その 点があいまいである。 (中略) ヨウダとラシイの違いは、その自分の推量の比重が大きいか、他から得た情報により かかる比重が大きいかの違いだと思う。ラシイのほうが、ヨウダより、やや、他から得 た情報をもとに推量するとこうなるという感じが強い。逆にいうと、ヨウダのほうが、 やや、自分の客観的な推量ではこうだ、という感じが強い。 (中略) 上に見てきたように、その差は微妙ながら、ラシイは、その話し手の推量が、自らの 主観的判断よりも他から得た情報に基づくものである可能性のほうが高いという印象を 受けるのに対し、ヨウダは逆に自らの主観を前面に出す傾きがあるという違いがある。 このことは、話しての側で、その推量的判断にどれだけ自分が責任を持つ意識があるか ということと表裏をなしている。(中略)同じく何らかの客観的事実をもとにした推量で あっても、その結論が自分の考えであることを言おうとするような文章や会話では、ヨ ウダのほうが適当である。 ▽「概説」の本文を書くときにまず参考にしたのが、この寺村の説明です。話し手の「責 任を持つ意識」というのは比較的わかりやすいとらえ方だと思いました。日本語記述文法研究会『現代日本語文法4 第8部モダリティ』2003
p.165-ようだ:話し手が観察によってその事態をとらえているということを表す
1 観察したことそのものを述べる用法 個別的な事柄・全体的な状況や傾向 ・少し疲れたようだ。 ・(部屋の窓から外を見て)まだ雨はやんでいないようだ。 ・最近の子供たちには、野球よりもサッカーのほうが人気があ るようだ。 2 観察したことに基づいて、あることを推定する用法 ・道路が濡れている。どうやら、昨夜雨が降ったようだ。 ・佐藤が机の上を片づけ始めた。そろそろ帰るようだ。 (派生的用法) 3 婉曲用法 ・どうも、あなたのおっしゃっていることは、私には理解でき ないようです。 ・今日はもうお帰りになったほうがいいようです。 「そのような感じがする」というような婉曲的な述べ方 4 比況を表す用法 (比況:他のものにたとえて表すこと) ・このステレオは音質がいい。まるで目の前で演奏しているようだ。 ・幸子さんとデートできるなんて、まるで夢のようだ。 連用形「ように」連体形「ような」の形がある。 ・会場は、水を打ったように静かになった。 ・芸能人が着るような服が欲しい。 cf.「みたいだ」(接続などは省略) 「〜みたい。」で言い切ることができる。 連体形の比況用法が許容されないことがある。 ・×芸能人が着るみたいな服が欲しい。 ◇「らしい」との比較 用法の1・3・4、つまり「観察そのもの」「婉曲」「比況」では「よう だ」を「らしい」に置き換えることはできない。 用法の2、「観察に基づく推定」に限って、置き換えられる。 ×少し疲れたらしい。 ×どうも、あなたのおっしゃっていることは、私には理解できない らしいです。 ×このステレオは音質がいい。まるで目の前で演奏しているらしい。 道路が濡れている。どうやら、昨夜雨が降ったらしい。 推定用法における両者の違いは微妙である。 ようだ:観察から直接的に判断を導いているように感じられる らしい:観察と判断の間に距離があるように感じられる (医者の言葉として) ・検査の結果を見ますと、かなり回復している[ようです/?らし いです]。 「らしい」は専門家の発言としては無責任な感じがして不適切らしい:観察されたことを証拠として、未知の事柄を推定する形式
・パソコンの電源が入らない。壊れてしまったらしい。 ・田中の部屋の電灯が消えている。どうやら寝ているらしい。 推定される事柄は、観察された事柄の原因・理由であるのが普通 壊れたから電源が入らない 寝ているから電灯が消えている 伝聞用法 他者から得た情報を証拠として、未知の事柄を推定する場合 ・知人の話では、あの店は経営者が変わったらしい。 ・専門家の判断によると、景気は徐々に回復していくらしい。 ・新聞によれば、失業率が過去最高を記録したらしい。 ◇「ようだ」との比較 推定用法の「らしい」は「ようだ」に置き換えることができる。 パソコンの電源が入らない。壊れてしまったようだ。 田中の部屋の電灯が消えている。どうやら寝ているようだ。 伝聞用法も、一応、置き換えることができる。 知人の話では、あの店は経営者が変わったようだ。 専門家の判断によると、景気は徐々に回復していくようだ。 ただし、「ようだ」を用いると、単なる伝聞ではなく、入手した情報を 話し手がどのようにとらえたかということを述べているニュアンスが強 くなる。 伝聞用法の「らしい」は、「ようだ」よりも「(する)そうだ」に近い。 知人の話では、あの店は経営者が変わったそうだ。 ▽「観察そのもの」と「観察に基づく推定」との区別は常に可能か。 この冷蔵庫はたくさん入りそうですね。 入るようですね。 入るらしいですね。 (懐中電灯がつかないとき) つきませんね。電池が切れているようですね。 らしいですね。 電池が切れているでしょう。 ? 切れているのでしょう。 切れているのかもしれません。 ノが必要§38.2 「(し)そうだ」:『現代日本語文法 モダリティ』など
様子(様態)を表す「そうだ」についての解説を紹介します。コメントをつけたい のですが、それはまた後日。寺村秀夫「日本語のシンタクスと意味供(1984)
ある対象が、近くある動的事象が起こることを予想させるような様相を呈しているこ と、あるいはある性質、内情が表面に現れていることをいう表現である。そのどちらで あるかは、主としてそれがどの種の動詞、形容詞につくかによって、そして付随的に文 脈、状況によってきまる。 先のダロウの類、このあと見るヨウダ、ラシイに比べると、話し手が感覚でとらえた 外界の様相、典型的には資格に映じた様相を直感的に描写的にいう色彩が強く、頭の中 で推量するという色彩が最もうすい。ふつう「様態」を表す助動詞といわれるゆえんであ ろう。 p.239 ソウダに前接するのが動的事象を表す動詞ならば、近く起こることが予想される様相、 状態的述語であれば、内面についての推測、あるいはある内面をうかがわせる様相をい うということが、原則的にはいえるだろう。 p.240『日本語文法ハンドブック(初級)』(2000)
形容詞に付くと、ある対象の概観の印象からそれの性質を推察して述べる意味になり ます。 一見してわかる性質には用いることができません。(きれい・背が高い) 動きや変化を表す動詞に付くと、そのような動き・変化を起こす兆候を表します。 話し手の意志的な行為には普通使えません。 ×私は今夜早くうちへ帰りそうだ。 私は今夜早くうちへ帰れそうだ。 p.128『現代日本語文法4 第8部モダリティ』2003
p.172- ・動詞に接続した場合 1直後にあることが起こる、その徴候が存在することを表す あ、雨が降り出しそうだ。 おい、シャツのボタンがとれそうだよ。 この用法は、その状況をあくまでも徴候としてとらえるものである。次に 起こることが決まっていて、その直前の段階をとらえる場合には、「そう だ」ではなく、「ところだ」を用いる。 申し訳ございません。社長はこれから{*出かけそうです/出かける ところです}。 2現状をふまえて、今後の見通しを述べる 空が暗くなってきた。午後は雨になりそうだ。 この調子なら、この仕事は今週中に片づきそうだ。 3純粋に話し手の予想を表す 今日は祭日だから、電車が混みそうだ。 来年はいい年になりそうだ。 4状態動詞に接続する場合は、そうであると思わせるような性質を主体が供 えているということを表す。 鈴木さんはジーンズが似合いそうだ。 田中君は留学してたから、英語ができそうだ。 5動作や変化を表す動詞でも、それを引き起こすような性質を主体が供えて いるということを表す場合がある。 あの人なら、そういうことを言いそうだ。 このコップは、熱いものを入れると割れそうだ。 6「しそうになった」は、実現寸前であったが、実際は実現しなかったとい うことを意味する。 危うく秘密をばらしそうになった。 7「(し)そうで〜ない」は、実現寸前での停止状態を表す定型的な表現である。 名前を思い出せそうでなかなか思い出せない。 8程度の強さを大げさに表現するもの 腹がへって死にそうだ。 この料理はあまりにおいしくて、ほっぺたが落ちそうだ。 ・形容詞に接続した場合 主体の持つ性質や内的状態が外観として観察されることを表す。 このカバンは見るからに重そうだ。 佐藤さんは最近どこか寂しそうだ。 「そうに」という連用形があり、形容詞と組み合わさって様態副詞のよう に用いられることがある。 君は何でもおいしそうに食べるね。 見通しや予想を表す用法がないわけではない。 鈴木を説得するのは、難しそうだ。 今日は祭日だから、映画館は人が多そうだ。 「(し)そうだ」と「ようだ」 現状を踏まえて見通しを述べる用法では似てくることがある。 空が暗くなってきた。午後は雨に なりそうだ/なるようだ。 いい結果が出ている。この方法でやれば、うまく いきそうだ/いく ようだ。 徴候の存在を表す用法では、「(し)そうだ」は「ようだ」には置き換えら れない。 あの人、シャツのボタンが とれそうだ/*とれるようだ。 今にも雨が 降りそうだ/*降るようだ。 「38.推量・様子・伝聞」へ
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